虚飾の温
ひび割れた玉杯に注がれた甘美な蜜も、
黄昏の光に隠された毒に過ぎぬ。
愚者は操り糸を運命と見誤り、
夢の刃の上を、目も見えぬまま舞い踊る。
黄金は錆を覆い隠せど、刃を鈍らせることはできず、
奪われた温もりは、ただ骨に霜を残すのみ。
金色の灯火の下、空虚な影が誓いを立てるとき、
忠実なる者は顧みることもなく、一人深淵へと歩み入る。
コンクリートから吹きつける秋の風は鋭く、線路のかすかな鉄の匂いと遠くの排気ガスの匂いを運んでいた。
駅の出口近くにある影になった窪みから、有沢新はダークグレーのパーカーのポケットに両手を深く突っ込み、立ち去っていく群衆を見つめていた。通勤客のコートや制服のブレザーが交錯する人波の中で、二つの人影だけが、街の冷たい熱気から完全に切り離されたような独特のテンポで動いていた。
美雪と拓海だった。
新は30歩ほど離れた場所から二人を見ていた。拓海が美雪の歩幅に自然と合わせ、進行方向から来る自転車から言葉を途切れさせることなく反射的に身を挺して美雪を護る姿。美雪が彼を見上げる視線には、すべてがうまくいっているフリをする者が見せるような、計算されたパフォーマンスは一切なかった。作り笑いもなく、残酷な演技を悔いなく演じきっている自分を証明する必要もない。拓海が風から守るようにカーディガンの襟元を整えてあげると、彼女はその手を素直に受け入れた。ただその温もりに身を委ね、薄暗い駅前広場をぱっと明るくするような、柔らかく本物の笑みを唇に浮かべていた。
フードの布地の奥で、新の顎が強張った。冷たく苦い結び目が、胃の奥で固く絞り上げられる。
*これが……本物ってやつか。*
二人のかけがえのない背中が、下のホームへと続く階段の中に消えていくまで視線で追い続けながら、新は心の中で呟いた。
*本当の信頼。演技じゃない、本物の。*
それは、自分が2年間解読しようと苦しみ続けた、あの空虚な劇場とは残忍なまでの対比をなしていた。かつて由美子が自分の隣に立っていた姿が脳裏をよぎる。礼儀正しく、控えめな話し方で、学校での成績も優秀。誰もが理想のパートナーと崇めるような完璧な女性を演じ回っていたあの姿を。
そして、本物の刃が振り下ろされるずっと前から、自分が秤にかけられ、品定めされ、静かに捨てられていたという、吐き気を催すようなあの感覚を思い出していた。
蓮が仕掛けた全く同じ毒ある駆け引きに対して、拓海と美雪が揺るぎなく立ち向かう姿を目撃したことで、新の胸には奇妙で重い痛みが走った。確かにインスピレーションを与える素晴らしい光景だった。だが、すでに灰になるまで焼き尽くされた亡霊にとって、それは自分が自身の人生において守り抜くことに失敗したすべての出来事を突きつける残酷なリマインダーでもあった。
新は重心を移動させ、商業モールの上の階へと視線を戻した。
真人蓮と、ショートヘアの金髪の少女が、中央のガラスエレベーターから降りてきたところだった。
蓮は笑っていた。瞳の奥までは決して届かない、だるそうにしつつも大して労力も払っていない演技がかった笑い方だ。その手は少女の腰のくびれに無造作に添えられている。少女はまるで縁日の特賞でも当てたかのように満面の笑みを浮かべ、彼のブランド物の袖にしがみついていた。
新はフードを深く目元まで引き下げ、柱の影へと足を踏み入れさせた。胸の中の痛みが、冷たく鋭い、そして研ぎ澄まされた何かに変化していく。
*このヘビが、次にどこへ向かうのか見届けてやるとするか。*
---
傷の痛みが最も激しいのは、皮ふが裂けた瞬間とは限らない。何年も経ってから骨の奥で静かに疼く疼きこそが、二度と取り返しのつかない地点まで来てしまったのだと教えてくれるのだ。
新にとって、中学時代の記憶はまるで昨日のことのように鮮明だった。
屈辱の精巧で、クロノロジカルなコマ送り。
2年前、中学最後の年の厳しい冬、新は難関の進学高校の受験勉強に持てる意志のすべてを注ぎ込んでいた。自分は天才として生まれたわけではない。彼が勝ち取ったトップクラスの成績はすべて、血と汗と不眠不休の夜によって買い取ったものだった。彼の部屋には単語カードや蛍光ペン、冷めきった緑茶のカップが散乱していた。そして、その過酷な時間を乗り切るための彼の唯一のモチベーションは、由美子だった。
二人のために、確実で輝かしい未来を築きたかった。彼女に安定と誇り、そして誰にも脅かされない居場所を与えられる男になりたかったのだ。
明日など来ないかのように勉強に打ち込む新に対し、由美子が寂しいと不満を漏らした時、新は自分を責めた。彼女が冷たくよそよそしくなった時、新は乏しいおこづかいでは到底払えないようなささやかなプレゼントを買い、「つまらない男でごめん」と謝り、受験が終わったら世界中の時間を君に捧げると約束したのだった。
自分が未来を築くために健康を削っている間、由美子がすでに自分に代わる次の男を物色していたことなど、彼は露ほども知らなかった。
苛酷な裏切りは、迅速かつ無慈悲だった。全国統一模試の3週間前、学校の中庭の真ん中で、それはまるで処刑のように執り行われた。蓮がカスタムバイクに乗って門の前に現れると、由美子は一言の言い訳もなく新の脇を通り過ぎ、廊下で友達がクスクス笑う中、蓮のバイクのリアシートへと跨がった。
その夜、新の元に彼女から一通のテキストメッセージが届いた。
『【 お父さんがね、本当の男は口先だけの約束じゃなくて価値を証明するものだって言ってたよ。蓮くんは貴方には逆立ちしても見られない景色を見せてくれるの。これで終わりね。正直、一瞬でも貴方を好きだったなんて思うだけで吐き気がするわ。 】』
心理的なショックは壊滅的だった。受験のストレスと睡眠不足によってすでに限界まで引き絞られていた新の精神は、完全に破綻した。
ハイリスクな一発勝負の入試初日、新の手は激しく震え、鉛筆を握ることすらできなかった。そして由美子は、彼に向けた嘲笑の薄笑いさえ隠そうとしなかった。
彼は不合格となった。トップ校の枠を失い、勢いを失い、最終的には中学最後の1年を丸々やり直すことになった……壊れた機械の部品のように留年させられ、その間に由美子と蓮は高校へと進学し、街中で自分たちのキラキラした新しい生活をひけらかしていた。
彼はプレッシャーに耐えきれなかった「害悪で救いようのないオタク」という烙印を押され、泥の中に置き去りにされた。
さらに悪いことに、新は彼らと同じ高校に入学することになり、由美子が隣を女王のように歩く中、蓮が実質的に学校を自分の王国に変えていく様子を指をくわえて見ているしかなかった。
---
静かで高級な住宅街のどこかで、そのキラキラした新しい生活の現実は、寒々とした孤独な部屋の中で繰り広げられていた。
由美子はベッドの縁に腰掛け、スマホの淡い青い光に肌に残った濃いメイクを照らされていた。
彼女の寝室は、高価な服や半分しか出されていないショッピングバッグ、投げ捨てられたファッション誌で荒れ放題だった。だが、高級感という表面上の飾りの下で、家の中の空気は死んだように静まり返っていた。
両親は家の中のどこにもいない。もうめったに帰ってこなくなったのだ。
あの日の無慈悲な裏切り以降、家の中から温もりは完全に蒸発していた。両親の会話は、拙い台本による演技のように、ほとんど重みのない空虚で形骸化した会話へと成り果てていた。家族の温もりはなく、冷たく失望に満ちた目で由美子を無言で見つめ、彼女の成績低下や素行が一家の恥を上塗りしているのだと黙って責め立てていた。
毎朝、食事代として破れた5000円札がキッチンのカウンターに1枚だけ置かれ、彼女を娘としてではなく、何も期待できない厄介者として扱っていた。
由美子はスマホの画面をタップした。
『【 由美子:蓮くん! 今夜のディナーって予定通り? 街のステッキハウスに連れていってくれるって言ってたよね! 】』
テキストの下には、灰色の小さなアイコンが無慈悲な現実を示していた。—— *3時間前に既読*
返信はない。
由美子の親指がキーパッドの上で彷徨い、胸が馴染みのあるパニックで締め付けられる。
彼女はメッセージアプリを開き、連絡先リストをスクロールした。
中学時代のグループチャット。蓮と出会う前に一緒につるんでいた女子たちは、何ヶ月も静まり返っていた。というより、彼女たちは由美子抜きで新しいチャットを始めていたのだった。今週の初め、クレープ屋のスタンドで彼女たちが楽しそうに写真を撮り合い、ノートを貸し借りしながら、かつて自分たちを親友と呼んでいた派手な偽物の服を着た少女を完全に無視している姿を由美子自身が目撃していたからだ。
彼女はそれらすべてを売り払ってしまったのだ。友達も、評判も、そして自分のためなら死んでもいいと思ってくれていた一人の少年の静かな献身も。すべては蓮の内輪に入るための黄金のチケットと、あの男が与えてくれる金銭による表面的な快楽のために。
「関係ないわ」由美子は暗くなりゆく空っぽの部屋に向かって呟いた。殺風景な壁に響く彼女の声は細く、脆く、恐ろしいほどに空虚だった。
彼女は立ち上がり、ドレッサーの鏡へと歩み寄った。リップスティックのチューブを拾い上げる手がわずかに震え、ダーククリムゾンの新しい層を唇の上に乱暴に塗りたくった。
「私が選んだんじゃない」鏡の中の自分に向かって彼女は言い聞かせた。黒いカラーコンタクトレンズが、人工的な光を虚ろに反射して見り返してくる。「私の選択は正しかった。あの新は負け組だったのよ。私をあんな惨めな中流階級の生活に引きずり込もうとする、つまらない哀れなオタクだった。蓮くんは違う。彼には権力がある。お金もある。蓮くんはスターになるし、私は贅沢に暮らすの。負け組一人失うなんて、小さな代償に過ぎないわ」
彼女は散らかった洗濯物の下から、中間テストの成績表を引き抜いた。
赤インクが無慈悲に躍っている。—— *国語 D、数学 F、英語 F*。進路指導の教師による厳しいメモが下部に添えられていた。—— *来週火曜日、保護者同伴の学力面談を実施します。*
由美子は用紙を拳の中でくしゃくしゃに丸め、ベッドの下へと押し戻した。
「こんなの、バカバカしいテストに過ぎないわ」
こぼれ落ちそうになる苦い涙をこらえながら、彼女は吐き捨てた。
「意味のある人と一緒にいるなら、学校なんてどうでもいいの。蓮くんは私を愛してる。素敵な場所に連れていってくれたし、欲しいものは何でもくれた……私は彼の特別な女の子なの」
彼女は再びスマホを引っ張り出し、10秒ごとにチャットを更新しながら、溺れる者が鋭い草の刃にすがるように自分の「自由意志」という物語にしがみついていた。そう信じるしかなかった。もし蓮が自分をいつでも捨てられる使い捨ての道具としか見ていないのだと1秒でも認めてしまえば、自分が間違いを犯したのだと認めざるを得なくなるからだ。
そして、京一郎由美子は絶対に間違いなど犯さないのだ。
---
街の上の空は、街灯が一つ、また一つと点灯するにつれて、淡い琥珀色から紫色の黄昏へと移り変わっていった。
賑やかな商業通りを歩く蓮と金髪の少女の後ろを、新は10メートルの距離を保ちながら追っていた。
新は二人を注視していた。
蓮の姿勢は終始リラックスしており、少女が目を逸らすたびに視線はスマホへと向けられていた。少女が彼の手を握ろうとするたび、蓮はさりげなく重心をずらしたりジャケットを整えたりしてスキンシップを回避しつつ、彼女をくすくすと喜ばせ手懐けておくための滑らかなセリフを流れるように吐いていた。
それは心理的コントロールの極致だった。ターゲットを繋ぎ止めておくために必要最低限の関心の破片を与えつつ、真の親密さは徹底して拒絶する。
駅の路線から少し外れた第3地区の角付近で、蓮はようやく足を止めた。彼は財布を取り出すと、厚い札束を少女に握らせ、屈んで彼女の頬にキスをした。
雑誌の売店の陰から新が見守る中、金髪の少女は満面の笑みを浮かべ、お金をポケットに押し込むと、蓮の首に腕を回して軽い抱擁を交わした。蓮は彼女の背中をポンポンと軽く叩くと、くるりと踵を返し、そのまま待機していた黄色いタクシーに乗り込んで、一度も振り返ることなく夜の交通の波の中へと消えていった。
金髪の少女は歩道に立ち、タクシーが見えなくなるのを見送っていた。だが、車が角を曲がって消えた瞬間、彼女の顔から媚びるような可憐な表情が完全に蒸発した。
彼女は退屈そうに長いため息をつき、小さな手鏡を取り出すと、ティッシュで頬についた蓮のかすかな口紅の跡を無造作に拭き取った。鏡でメイクを確認し、短い金髪を整えると、彼女は踵を返して全く逆の方向へと歩き出した。
新の目が細められた。
*ふむ……あいつも家に帰るわけじゃないのか。*
黒いフードを深くかぶり、新は心臓の静かな鼓動のテンポに合わせて彼女の後を追った。
少女はメインのショッピング街の派手なネオンから離れ、狭く静かな裏通りを進んでいった。10分ほど歩いた後、彼女は温かい吊り下げ提灯が照らす、木々に囲まれた居心地の良い路地へと折れた。
前方には、ドアの上に真鍮のベルが下がり、舗道に看板が置かれた見覚えのある店舗が立っていた。
—— *花道カフェ*
新は通りの向かい側で足を止め、休業中の書店のアウニングの暗い影へと滑り込んだ。
結露で曇ったカフェの大きなガラス窓越しに見える店内は、柔らかく、黄金色で、温かく訪問者を迎え入れているようだった。焙煎されたコーヒー豆の香りと甘いシナモンの香りが、ドアの隙間から漏れ聞こえてくるかのようだった。
金髪の少女がドアを押し開け、真鍮のベルが清らかに鳴るのを新は見つめていた。
店内では、窓近くの静かな角のテーブルに一人の若者が座っていた。
彼はシンプルで清潔にアイロンがけされたネイビーのセーターを着ていた。黒と見紛うようなダークブルーの髪を綺麗に整え、優しく穏やかな顔立ちには純粋で忍耐強い温もりが宿っていた。目の前のテーブルには2つの白いマグカップが置かれ、湯気が温かい空気の中にゆらゆらと立ち上っていた。彼は長い時間、そこでじっくりと待ち続けていたのが見て取れた。
金髪の少女がドアをくぐった瞬間、その若者の表情が一変した。彼の暗い瞳に強烈で眩いほどの歓喜が灯り、それを見た新の胃の位置が底なしの深淵へと落ち込んでいく。
若者はすぐに立ち上がり、木製のテーブルを回って彼女を迎えに出た。
「まりな!」ドアが閉まり、静かな路地に若者の柔らかい声がかすかに漏れた。
『まりな』と判明した金髪の少女は眩しく微笑み、ギョッとするほど本物に見える熱量で若者の腰に抱きついた。「あかし! 遅くなって本当にごめんね! 勉強会が思ったより長引いちゃって、電車もすごく混んでて!」
その少年——野上あかし——は彼女を強く抱きしめ、引き剥がす前に一瞬だけ彼女の肩に顔をうずめ、深い愛おしさを込めて彼女を見つめた。
「無事に来てくれたなら、どれだけ待っても平気だよ」あかしは優しく囁き、その手が自然と伸びて彼女の頬を包み込んだ。切り立ての髪に柔らかく指を通し、彼の瞳は絶対的な賛美で輝いていた。「それにしても……ショートの金髪にしたんだね! 髪型を変えようと思ってたなんて全然知らなかったよ」
まりなはくすくす笑い、彼の掌に頭を傾けた。「似合ってるかな? 変だって思われたらどうしようってすごく緊張しちゃった!」
「似合ってるかって?」あかしの声は、胸を突くような切ない献身の温もりに満ちており、新の息を暗闇の中で凍りつかせた。「信じられないくらい可愛いよ、まりな。世界で一番綺麗な女の子だ」
暗い通りの向かい側から、冷たいガラス越しに見つめる新は、氷のような麻痺するほどの恐怖の波が全身を駆け巡るのを感じていた。
カフェの琥珀色の灯火の下、すべてが白日の下に晒されていた。
まりなは、蓮が学校で適当に声をかけた単なるフリーの女子などではなかった。
そう、まりなも彼らやあのあかしと同じ高校の生徒だった。
彼女は、野上あかしの健気で一途な長年の girlfriend だったのだ。
拓海と全く同じ誠実で優しい瞳をしたあかしは、あの居心地の良いカフェに座り、彼女の手を握り、顔を包み込み、3時間前まで暗い映画館で真人蓮に体を触れさせていた少女に、純粋な心を捧げていたのだ。
あかしが彼女のためにあの温かい飲み物を買ったのだ。まりなが蓮のサイドトロフィーとしてモールを連れ回されている間、あかしは何時間も待っていたのだ。あかしは今、一見無垢に見える彼女の新しいスタイルを心から称賛しているのだ。
まりなはあかしに甘く柔らかい笑みを向け、彼が注文してくれた温かい紅茶を一口すすり、無垢な愛の完璧に計算された演技で瞳を輝かせていた。
暗闇の屋外で、有沢新は身を切るような風の中で完全に微動だにせず立っていた。
あかしの輝くような幸せそうな顔を見つめ、それから自分自身の震える傷だらけの手を見下ろした。
彼は未来を見ていた。2年前、自身の人生を破壊したのと全く同じ地獄の深淵へと、もう一人の無垢で心優しい少年が引きずり降ろされようとしている、恐ろしい事故のような未来を。
拓海はその罠を危うく回避できた。美雪の信頼が絶対であり、蓮の精神的駆け引きを粉々に打ち砕くに足る強さを持っていたからだ。
だが、あかしは? あかしは自分の首元に刃が突きつけられていることすら気づいていない。テーブルの向かい側に甘い笑顔で座り、温かいココアを飲んでいる悪夢が、すでに彼の安全な世界へと侵入を果たしてしまっているのだ。
新の唇から低い吐息が漏れ、凍てつく夜の空気の中で白い霧となって消えていった。
連鎖は終わっていなかった。花道カフェの上に覆いかぶさる影は、より一層暗さを増していくばかりだった。




