警告
偽りの誓いが踏み迷う地に、影は蠢き、
聖なる約束を護りしは、黄金の刃。
軽率な足取りが、畏怖の途へと足を踏み入れぬよう、
目覚めし心は今こそ、自らの未来を切り拓く。
カフェ『花道』の店内に灯る、温かく蜜色のペンダントライトの光が、唐突に息苦しく思えた。
深雪は椅子に座ったまま凍りつき、スカートの裾を握りしめる手の指関節が白く変色していた。
テーブルのすぐ脇、茶室の暗い窓ガラスを背に立っていたのは葛城凛だった。畳まれた紺色のセーターを両手で抱え、長くて美しい金髪がカフェの琥珀色の光をまるで本物の日光のように反射している。
深雪は息を呑んだ。まさにこのカフェの店内に凛が立っている光景は、覚醒した現実と、彼女の眠りを苛んできた悪夢のような幻視との間の薄い境界線を打ち砕いた。
(このカフェ……)
恐ろしい記憶が、反吐が出るほどの鮮明さで脳裏に閃いた。夢の中の薄暗い夕暮れ、冷たいコンクリートの歩道に立ち、まさにこのガラス窓越しに、自分自身が自己嫌悪の海に溺れる一方で、拓海がこの金髪の少女とテーブルに向かい合い、穏やかに微笑み合っているのを見つめていたあの光景。そして一瞬にして、視界は激しい風が吹き荒れる学校の屋上へと切り替わり、凛の射るような青い瞳が鋭い正義感に満ちた軽蔑を込めて見下ろし、その声が裁きの鐘のように響き渡る。――『これ以上、拓海くんを苦しめないで』
深雪の背中に冷や汗が噴き出した。足元の床が傾いていくような錯覚に襲われる。
「朝日奈先輩?」
澄んだ上品な声が、彼女の麻痺した思考を打ち砕いた。
深雪はハッと顔を上げた。胸の奥で心臓が激しく肋骨を打ち叩く。
凛は見下ろしていた。その強いアイスブルーの瞳が、深雪の震える姿をまっすぐに見つめている。顔に敵意はなかった。そこにあるのは、静かで礼儀正しい好奇心だけだった。
「は、はい……?」深雪はどうにか声を出したが、喉がきゅっと縮こまっていた。
凛は小さくエレガントな笑みを浮かべ、寸分の狂いもない綺麗な姿勢を保っていた。「今日のグループ課題の最中、天道先輩がお付き合いされている方がいるとおっしゃっていたんです。先輩がどれほど献身的で素晴らしい方かをお話しされているのを聞いて、2年生の優秀な生徒である朝日奈深雪さんのことなのだと分かりました」
凛は席の間のわずかな距離を越え、細くしなやかな美しい手を深雪へと差し出した。「正式にお会いできて光栄です」
深雪は差し出された手を一瞬見つめた。頭が高速で回転し、胸の奥で静かなパニックが渦巻く。だが、無垢で輝くような期待の眼差しで自分を見つめる拓海の姿を見て、彼女は喉の塊を呑み込んだ。唇に自然で礼儀正しい笑みを無理やり浮かべると、深雪は手を伸ばして凛の手を握り、優しく丁寧にし返した。
「こちらこそ光栄です、葛城さん」深雪は声を静かに保ちながら言った。「葛城さんのご活躍、よく伺っています」
「どうぞ、凛とお呼びください」金髪の少女はそう滑らかに返し、手を引いた。
拓海は凛を見上げ、自分とお母さんが座っている広々としたボックス席を指さした。「せっかくだし、葛城さんも一緒にご飯食べていかない?」
「そうよ! ぜひ座ってちょうだい!」天道葵も脇から温かく口を挟み、第一印象の素晴らしい1年生の少女に笑いかけた。「拓海のノート整理を手伝ってくれたお礼くらいさせてちょうだい!」
凛はそっと胸に手を当て、真摯な感謝を込めて小さく頭を下げた。「温かいお申し出、本当にありがとうございます、天道さん、先輩。ですが、今夜は謹んでご遠慮させていただきます。間もなく家で家族と夕食の予定がありますし、本日は先輩にセーターをお返しするために『花道』に立ち寄っただけですので」
彼女は拓海の方に向き直り、最後にもう一度優雅にお辞儀をした。「改めまして、セーターを貸していただきありがとうございました、先輩。おかげで風邪をひかずに済みました。それでは、ご家族との素敵な時間をお過ごしください」
一連の隙のない所作で、凛は踵を返してカフェを後にした。重厚な木製の入口のドアの上にある小さな真鍮の鈴がカランと心地よい音を立て、彼女は外の冷たい夕暮れの中へと消えていった。
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「まあ。なんて礼儀正しくて素敵な子なのかしら」葵はドアの方を見つめながら、感心した溜息を漏らした。「それに、息を呑むほど綺麗ね。まるで美術館にある絵画みたいだわ」
「うん、すごくしっかりしてるんだ」拓海はお茶のカップに手を伸ばしながら同意した。「昨日も博物館で、僕たちのクラスの歴史のまとめをリードしてくれたしね」
そうして拓海と母親は賑やかな会話を再開し、間近に迫った文化祭や近所の話題で楽しそうにしゃべり始めた。
深雪は黙々と小さな一口ずつ料理を口に運んだ。葵のジョークに頷き、拓海が視線を向けてくるたびに愛くるしい笑みを返したが、その心の中は嵐が吹き荒れていた。温かい料理やカフェの居心地の良い雰囲気に集中しようとどれほど努力しても、葛城凛の姿を思考から追い出すことができなかった。
凛の話し方、立ち振る舞い、そしてあのアイスブルーの瞳の奥に潜む静かで圧倒的な強さ……その少女のすべてが、到底及ばないほど果てしなく、清らかで、そして恐ろしかった。
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1時間後、夕食が終わり、深雪は拓海と葵に別れを告げた。埼玉からの長旅で疲れている拓海に配慮し、家まで送っていくという彼の一目散な申し出を断り、深雪は閑静な住宅街を一人で静かに歩いて帰り始めた。
夜の空気は澄んで冷たく、街灯が静かな石垣や庭のフェンスに長く揺らめく影を落としていた。
深雪はカーディガンのポケットに両手を深く突っ込んで歩いた。拓海からもらった銀と青の腕飾りが、一歩踏み出すごとにチリンと優しく鳴る。
静まり返った道が前に伸びる中、繰り返し見る悪夢のもう一つの暗い断片が浮上し、恐ろしいほどの鮮明さで彼女の思考を苛んだ。
それは、彼女が必死で忘れようとしていた悪夢だった。蓮雅人の毒を含んだ甘言に惑わされ、自らを堕落させてしまった夢。街の郊外にある、安っぽく歓楽街の気配に満ちたラブホテル街の眩しいネオンサイン。蹴り破られたドアの突如として轟く衝撃音、雨に濡れた路地裏を照らし出すパトカーの容赦ない赤い回転灯、そして雅人と共に連行される中で、手首にカチリとはめられた屈辱的で冷たい金属の手錠。取調室での追及、近所の人々の囁き声、そしてこの惨状全体をただ他人事のように嘲笑う雅人の隣で、己の評判が完全に崩壊していく絶望。
(どうして……?)胸が締め付けられ、背筋を寒気が走り抜けながら深雪は考えた。(どうしてあの夢は、日を追うごとに鮮明になっていくんだろう? 夢というより……まだ生きていない人生の、生々しい記憶みたいだ……)
暗い沈思に没頭しながら、深雪は自宅から数ブロック離れた静かな街路樹の続く住宅街の路地へと曲がった。
突然、低く忍びやかな笑い声が通りに響いた。
深雪はピタリと足を止めた。
わずか20メートルほど先、高い街灯の薄暗くチラつく光の下で、金属製の庭の門扉が開いた。舗装路へと足を踏み出したのは、見覚えのある背の高い少年――乱れた金髪にボタンを外した制服のシャツを着た、他ならぬ蓮雅人だった。
彼のすぐ隣を、腕に重く寄りかかるように歩いていたのは、あの栗色のショートボブの少女――今日、学校で見かけた恭一郎由美子だった。
深雪は息を呑んだ。今日の午後、木の下でユリが口にした鮮明な警告が、強烈な真実味を帯びて脳裏に蘇る。――『雅人が望む歪んだ型にはまるためだけに、昔の友達も評判も全部投げ捨てたんだよ……雅人にとって、彼女はただの戦利品に過ぎない』
純粋な本能に従い、深雪は近くの邸宅の背の高い石垣に背中をぴったりと押し付け、垂れ下がるツタの茂みが落とす暗い影の奥深くへと身を隠した。息を殺し、石造りの壁の端から慎重に覗き込む。
チラつく黄色の街灯の下、雅人は由美子の腰を引き寄せて抱きしめた。由美子は大きく切実な瞳で彼を見上げ、濃いメイクを施した顔には不健康で息苦しいほどの崇拝が浮かんでいた。雅人はかがみ込み、彼女の唇に深く長いキスを重ねた。
だが、彼がキスをしている最中でさえ、深雪の鋭い眼光は恐ろしい真実を捉えていた。
雅人の目は閉じられていなかった。由美子の肩越しに暗い通りを見つめる彼の表情は、完全に冷め切り、冷淡で、心底退屈し切っていた。彼の態度には、心からの愛情や温もりなど一滴たりとも存在しなかった。彼はただ機械的に所作をこなし、彼のために尊厳を完全に捨て去った少女を操っているに過ぎなかった。
強烈な嫌悪感の波が深雪を襲い、胃が引きちぎられるような吐き気を催した。
(あいつはあの子のことなんて、これっぽっちも大切に思ってない!)深雪の心臓は恐怖で激しく打った。(他の人から奪った女の子のことなんて気にしてないんだ。あんな怪物にとって、女の子は征服し、壊し、新鮮味が失われたら投げ捨てるためのターゲットでしかない……!)
彼女は目をきつく閉じ、口元を手で覆って震える息を殺した。
魂の奥底で、激しく揺るぎない誓いが燃え上がった。
(あんな男のために、自分の人生を台無しになんて絶対にいさせない。私を人間として見てもくれないようなやつのために、拓海くんの愛も、お母さんの希望も、自分の未来も投げ捨てたりなんて絶対にしない)
雅人と由美子が反対側の通りへ曲がり、足音が静かな夜に消えていくのを待ってから、深雪は石垣の後ろから慎重に足を踏み出した。大きく深呼吸をして心を落ち着かせると、踵を返し、足が許す限りの速さで裏道を通り抜け、その場から逃げ出した。
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10分後、深雪は自宅へと続く見慣れた通りに辿り着いた。不気味な遭遇によって心臓はまだ高鳴っていたが、遠くに見える我が家の温かい玄関灯の光が、心強い安らぎの道標となっていた。
だが、鉄製の門扉に近づいたとき、街灯の柔らかい光が照らす歩道の上に、静かに立つすらりとした影に気づいた。
深雪は歩みを緩め、目を丸くした。
自宅のすぐ外、洗練された革の通学バッグを手にして立っていたのは、葛城凛だった。
凛が歩道を歩いてくる深雪に気づいた瞬間、その鋭いアイスブルーの瞳が和らいだ。完璧な顔立ちに明るく楽しげな笑みが広がり、彼女は細い手を挙げて、まるでもう何年も前からの友人に挨拶するように嬉しそうに手を振った。
「朝日奈先輩!」凛は静かに呼びかけ、出迎えるように一歩踏み出した。
深雪は数歩手前で足を止め、完全に不意を突かれた。「葛城さん……? どうしてここに? 何かあったの?」
凛は彼女の前で立ち止まり、両手を後ろにまわした。長くて美しい金髪が、冷たい夜風に吹かれて肩の上でそっと揺れる。その表情には、心からの申し訳なさそうな照れくささが浮かんでいた。
「こんな風に突然お宅にお邪魔してしまって、本当に申し訳ありません」凛は小さく頭を下げて言った。「先ほど『花道』を後にした後、私の突然の訪問が無神経だったのではないかと気づいたのです。天道先輩のお付き合いされている方がそこにおられる中で、私が直接セーターをお返ししたことで、お二人の間に気まずい誤解を生んでしまったのではないかと心配になりまして」
深雪は目を瞬かせ、少女の思いやりの深さに驚いた。彼女は急いで首を振り、切実に応えた。「ううん、滅相もありません! 全然気にしないでください、葛城さん! 葛城さんは何も悪いことなんてしていません。拓海くんから旅行中すごく助けてもらったって聞いていましたし、ちゃんと分かっていますから」
凛はほっと安堵の息を漏らし、笑みを戻した。「良かったです」
彼女は深雪の家の静かな佇まいを見上げ、その青い瞳に静かな感嘆の光を宿らせた。「あの、朝日奈さん……本当に幸運な方ですね。天道先輩は、滅多にいない素晴らしい方です。埼玉での調査課題中も、グループの他のメンバーが疲れたりストレスを感じたりしたとき、先輩はいつも真っ先にみんなを励まし、誰も置いていかれないように気を配ってくださいました。先輩は朝日奈さんのことを、本当に温かい眼差しでお話しされるんです。あのような方を見つけるのは、まさにダイヤモンドを探すようなものですね」
「ありがとうございます……」深雪は胸が静かな誇りで満たされるのを感じながら、腕の編み込み腕輪にそっと触れて呟いた。「本当に、その通りなんです」
突然、凛の顔から明るく温かい笑みが完全に消え去った。
金髪の少女の周囲の雰囲気が、一瞬にして一変した。親しみやすかった1年生の雰囲気は消え、代わりに圧倒的な存在感が立ち現れる。アイスブルーの瞳がわずかに細められ、射るような分析的な視線で深雪を直視したため、二人の間の空気が一瞬で重くなった。
「ですから……」凛の声は静かで真剣なトーンに落ち、静寂な夜を切り裂いた。「……今日の昼間、学校の文芸部の部室であなたをお見かけした時は、少々驚きました」
深雪は凍りついた。
背筋を鋭い電撃が駆け抜けた。瞳が信じられないという驚愕に大きく見開かれる。
「え……え?」深雪は声を震わせながら言葉を詰まらせた。「ぶ、部室……? でも……葛城さんは今日、埼玉への公式な校外学習に行っていたんじゃ……!?」
「他のみなさんより早く戻っていたのです」凛は悪意の欠片もない、ただ平然とした客観的な事実だけを込めたトーンで説明した。「早い時間に学校へ戻らなければならない緊急の用件がありまして。3階の廊下を歩いているとき、あなたが部室に入っていくのを見かけました」
深雪の血液が冷たい氷へと変わった。狂おしいほどの圧倒的なパニックが胸を突き上げる。
もし凛が自分をあの部屋で見かけていたのなら……拓海に隠れて蓮雅人と会っていたのだと誤解されているとしたら――
「葛城さん、お願いです!」深雪は必死で訴え、一歩前に踏み出した。説明しようと手は震えていた。「違うんです、誓ってもいいです! 私は橘先輩から助けてほしいってメールをもらったからあの部屋に行っただけで! 雅人が中にいるなんて夢にも思っていなくて! 私は決して――」
「落ち着いてください、朝日奈さん」
凛の静かで透き通った制止が、深雪のパニックになった口走りを即座に遮った。
凛は首を小さく傾げ、その冷ややかな青い瞳で深雪の狼狽する姿を見つめていた。そこには一切の非難も疑惑の念もなかった。
「やましいことがないのは分かっています」凛は静かに言い、その表情を穏やかで安心させるものへと緩めた。「不適切なことが起きたなどとは思っていません。実際、私は廊下の窓の近くに立ち、やり取りのすべてを見ていました。あなたが彼がいることに気づいた瞬間も、後ずさりした瞬間も、そして全力で部屋から逃げ出した瞬間も」
深雪は小さく息を呑み、激しく上下していた胸がパニックの波の引くとともにゆっくりと落ち着いていくのを感じた。「逃げ出すところを……見ていたんですか?」
「ええ」凛はきっぱりと頷いた。「それに、私は蓮雅人がどのような人間であるかをよく知っています」
凛は小さく静かに息を吐き、視線を一瞬だけ暗い空へと漂わせた後、再び深雪へと戻した。
「転校生としてこの学校に来た初日のことです」凛は声に冷たい軽蔑の響きを淡々と忍ばせて明かした。「雅人は私を待ち伏せし、交際を申し込もうとしてきました。自分には名声があるのだから、どんな女子生徒も自然と自分に夢中になると思い込んでいたのでしょう。私はその場で断りましたが、それ以来、彼の行動を注視してきました。彼には、女性を惑わしてパートナーを裏切らせ、関係を破壊することへの執着があります」
凛は言葉を切り、深雪へ一歩近づいた。
「ほんの20分前も、私はすぐ近くにいました」凛は滑らかに付け加えた。「雅人があの恭一郎さんという女の子と一緒にいた時、あなたが壁の後ろに隠れているのを見ました。あなたの顔に浮かんでいた強い嫌悪感も」
「言っておきますが、蓮雅人が奪った女の子は恭一郎由美子だけではありません。少し前にも別の女の子を奪うことに成功しています。さらにタチの悪いことに、その女の子はあなたにそっくりでした……優しい彼氏がいる、優秀な生徒です」
深雪は完全に絶句して立っていた。この金髪の少女が、悪意からではなく、あまりにも鋭く警戒に満ちた明晰さですべてを静かに観察していたという事実に、圧倒されるばかりだった。
「ありがとう……」深雪は心の底から囁き、安堵の涙が目尻に浮かんだ。「私を誤解しないでいてくれて、本当にありがとうございます、葛城さん……」
「お礼には及びません」凛は淡々と返した。
だが、深雪が安心の息を漏らす前に、凛の表情が再び引き締まった。そのアイスブルーの瞳が、全神経を集中させるような妥協のない激しい真剣さで深雪に固定される。
「ですが、そう簡単に油断しないでください、朝日奈先輩」凛は鋭く、容赦のないトーンで警告した。
深雪は唐突な変化に驚き、目を瞬かせた。「え……?」
「あなたは天道先輩の恋人です」凛はまるで厳粛な布告であるかのような重みを声に込めて言った。「先輩は全幅の信頼をあなたに寄せています。しかし、関係を壊すことを趣味にしている蓮雅人のような人間は、ほんのわずかな隙や躊躇、不注意を餌にするのです。偶然であったとしても、誰もいない部屋で二人きりになるような状況に陥ってしまったこと自体、危険な脆さを示しています」
凛は半歩下がり、肩にかけた革バッグのストラップを整えた。
「本当に先輩を愛しているのなら、今後はもっと慎重にならなければいけません」凛は静かに言ったが、その瞳には気高く激しい情熱が燃えていた。「強くなってください。この学校の影に、先輩を傷つけたり、お二人の関係を切り裂いたりする隙を、一ミリたりとも与えないでください。それがパートナーとしてのあなたの義務です」
返事を待つことなく、凛は深雪に最後のかっちりとしたお辞儀をし、踵を返して月光に照らされた通りを歩き始めた。美しい金髪が街灯の下で煌めいている。
深雪はその場に立ち尽くし、金髪の少女の背中が静かな夜の中へゆっくりと遠ざかっていくのを見つめていた。
魂の奥底で、圧倒的で息を呑むような確信が芽生えた。
葛城凛は悪者ではない。誰かの関係を切り裂く機会を伺うような、画策者でも泥棒猫でもないのだ。
彼女は気高く完璧な心を持つ少女なのだ。自分自身にも周囲にも最高水準を求める、絶対的な誠実さを備えた人物。彼女は壊すことを望んでいるのではなく、本物で尊いものを守ろうとしているのだ。
深雪は目を閉じた。屋上の悪夢の中で吹いていた激しい風の音が、再び耳元でこだまする。
(分かったよ……)
冷たく厳かな明晰さが全身を包み込み、深雪は思った。
もし自分がつまづいてしまったら……弱さに屈し、不安に目を眩まされ、雅人のような怪物に人生を狂わされてしまったら……凛は手を出さずに傍観したりはしないだろう。凛は誰よりも先に前に踏み出し、痛ましい失意から拓海を救い出し、打ち砕かれた彼の人生の破片を拾い上げるはずだ。
そしてもしそうなれば……凛こそがカフェ『花道』で拓海の隣に立つ女性になる。凛こそが拓海の手を握り、夢を分かち合い、本当なら自分――朝日奈深雪――のものであるはずだった輝かしく美しい未来を彼と共に築いていく存在になるのだ。
もちろん悪意からではなく、深雪自身が与えられたかけがえのない賜物に値しない人間だと証明してしまったから。
深雪は目を開け、我が家の玄関の上に灯る温かく迎え入れる光へと視線を向けた。
彼女は左腕を上げ、肌に触れる銀と青の編み込み腕輪を見つめた。小さな真鍮の桜の鈴が、静かな夜の空気の中にチリンと澄んだ心地よい音色を響かせる。悪を払い、彼女を真実へと呼び戻す音。
あの夢は、決して自分を打ち砕くための悪夢でも呪いでもなかったのだ。
あれは救いだった。目を覚まし、現在の静かな温もりを大切にし、10年間雨の中でも隣を歩いてくれた男の子を守り抜けと叫ぶ、世界からの大いなる警告だったのだ。
深雪は深く息を吸い込み、家の鍵を手に固く握り締めると、絶対の決意を胸に門をくぐり抜けた。




