偽りの喪に服す 八 (冬)
雪はまだだが、すっかり寒い季節になっていた。
帰宅したクリスを迎えるため、本邸の外へ出たところで、首筋を寒風が撫でて行く。思わず身をすくめた。
あれから、クリスに確認すると、ルルディア様が置いて行った物は私が好きにして良い、と鷹揚に許してくれたので、全ての衣類の寸法を私に合わせて少しお直しすることになった。それで、時々本邸と森の館を行き来している。
問題はやっぱり楽器類だ。私はほとんど楽器の演奏が出来ない。貴族教育の一環として詩歌を習った時、暗唱や朗読の方は合格を頂いた。
しかし弾くとなると、簡単な曲の一部をなぞる程度だ。専門職の吟遊詩人のように、歌いながら弾いたり踊りながら奏でるなど絶対に無理だが、全く駄目ではないのが微妙なところ。
すると、魔族の侍女から助言された。
「折角ですから、喪中の内に音楽の腕を磨いては如何ですか。手元に楽器があり、時間もあるのですから、逆に好機と考えるべきですわ。今後、何処かの貴族家で、お抱えの吟遊詩人の歌を聴く機会も多くございますし、他家に呼ばれて宴や詩歌に誘われたりもするでしょう。その時に備えて鍛え上げておけば安心です」
「暗唱や朗読だけではいけませんか……?」
「正直なところ、いま少し不足かと……」
(わあ。ティシア、頑張って)
これも貴族に必須の教養か。がくりと項垂れたら、フォスアンティピナが軽い調子で励してきた。
こんなことまで子供の頃から学んでいるであろうご令嬢方を、心底尊敬する。
侍女が励ますように言う。
「ティー様、同胞の吟遊詩人に頼めばいくらでも教えてくれますから、大丈夫ですわ。頑張ればすぐに見違えるようになります」
「うっ、そうね……。ちょっとクリスに相談してみようかしら」
「是非そうなさいませ」
吟遊詩人をやっている魔族は多そうだから、頼めば教えてくれる者はいるだろう。
けど、そんな暇があったら他のことをしたいな、という思いも虚しく、クリスと周囲は、嬉々として私に練習用のリュートと先生を手配してくれたのだった。
準備が整い次第、先生が来てくれるそうだ。
今回のクリスの外出は、岩塩坑の視察で、主として設備の確認が目的だ。
昨年、吹雪いたり大雪だったりしたせいで、通路が奥まで凍り付いたり、春先の雪解け水が多くて一部の通路が水に浸かったりした。
どちらも大事には至らなかったけれど、今後が不安なので、雪が降る前に新しい通路を別に作ったのだ。
ルフェイ領だけでなく採掘場ではよくあることだが、深い坑道の底には水が溜りがちだ。
染み出した地下水だったり山を伝ってきた雨水だったり、原因は色々だが、暗い坑道で濡れ湿った足元は危険だ。そのままにしておくと作業を阻む原因になる。だから、坑道に水路を作って排水したり、溜まってしまったら水の汲み上げ作業をする。
換気も大切で、通風孔を設けて淀みがちな内部へ風を送ったり、掘り進めて行くうちに崩落しないよう、坑道内を柱や梁で補強したりもする。
そんな鉱山関連の技術は、魔族達が隣国経由で帝国の最新のものを入手して来るのだそうだ。隣国と帝国には鉄や銅の鉱山があるから、ちょっと足を伸ばして見てきたり、魔族の契約者に技術者を取り込んで連れて来たりもしたらしい。
……いや、ちょっと、という距離ではないだろうに。やはり私には魔族のすることが推し量れない。
私は馬車から降りたクリスに声をかけた。
「お帰りなさい」
「ただいま。わざわざ迎えに出て来るなんて。身体が冷えてしまうよ。でも、ありがとう。嬉しいよ」
出迎えた私を、クリスは外套の中にくるむようにして、ぎゅっと抱き寄せた。暖かいが、少し照れくさい。
視察に付き添った護衛と執事の魔族達が、微笑ましそうに見守っている。
そのまま外套に包まれて、一緒に本邸へ歩き出した。
私はクリスを見上げた。
「それで、新しく作った通路はどうだったの?」
「問題無い。ただ、古い通路の一部を支える柱にやや劣化が見えた。まだ、しばらくは保つだろうが、あちらも念の為に補強しておこうと思う。もう少し使うだろうからね」
領主の顔でクリスが返す。
「そう。坑夫は?」
「大丈夫だ。人手は今のところ何とかなっているが、欲を言えば、もうちょっと生きの良い人間が欲しいな」
ここに居る坑夫の多くは、国や他領から受け入れた罪人と、身売りした貧民や借金奴隷達だ。時々、日雇いの賃金を目当てに臨時で働く人も居るけれど。
ほとんどが一時的に作業に従事しているだけで、専門職ではない。罪人以外は、決められた期間か稼いだ金が目標に達すれば、さっさと坑外へ出て行く。
その様な、事情があって仕方なく働いている者達は、何となく荒んだ雰囲気をまとっており、不健康に見える。
ルフェイ領はそういった訳有りな人達でも、なるべく安心して作業が行えるよう、気を配っている方だと思う。それでも採掘場は危険と隣り合わせで、あまり良い労働環境とは言えない。
が、作業が終われば食事を配給するし、寝泊まりする場所も用意して、体調を悪くしたら休んで治療を受けられる。それらの世話をする者も雇っている。
……ただし、魔族交じりで。
クリスは、岩塩坑の管理者側に魔族を置いている。現場の監督官にも何気なく魔族が配置されており、罪人の脱走等が無いよう、常に人間を監視している。
仕事と賃金、食事と住む場所を与え、人間の健康と生活を管理する。魔族達の贄となり餌となり、もしかしたら『揺りかご』となる人間を囲っているのだ。
「クリスが出掛けている間に、もうすぐ罪人の馬車が着くって、先触れがあったわ。これから凍える時期だというのに、関係なく罰を与えるなんて、容赦が無いわね。明日には到着する予定ですって」
私が外まで出て来た理由を告げると、彼はクスッと笑ってうなずいた。
「きっと元気が有り余っているんだろう。楽しみだ。それにしても随分と寒くなった。早く中で暖まろう。食事は何か暖かいものが食べたいね」
そう言って、 クリスは視線で護衛に扉を開けさせた。
翌日、食後のお茶をクリスと飲んでいると、岩塩坑へ送られて来た罪人について、魔族の執事が報告を差し出した。
罪人はアラゾニーア伯爵領の人間で、伯爵家に仕えていたが横領等の不正を働いたとか。護送の馬車には借金奴隷も含まれているそうだ。
……あれ、アラゾニーア伯爵領って、聞き覚えがあるような。
(うん。夏にお金を巻き上げて行った不味そうな人間が仕えていた領だよ。吟遊詩人達の同胞が、宿屋まで追いかけて行ったやつ)
こっそりフォスアンティピナが教えてくれた。
あぁ、あの偉そうなむかつくお使いの。……まさか?
驚いていると、クリスは何でも無いように執事に言った。
「書類はあるかい? 確認しよう」
彼は執事から受け取って読むと、最後あたりでふっと冷笑した。
「おや。結局、当主が変わったんだね。領主印は合っているようだから、受理しておこうか」
「はい。アラゾニーア伯爵家の新しい当主は御子息ではなく、親族の方のようです。当主家の皆様は揃ってご病気になったそうで」
「それはお気の毒だったね」
「そういえば、アラゾニーア伯爵家は一応、詐欺師の旅芸人を探しているそうですよ。しかし、大した情報も無くて見つからないそうですが」
「おやおや、大変そうだ」
私は執事とクリスの嘘臭いやり取りを黙って聞き、滋養液入りのハーブ茶を飲み込んだ。
そういう事になったのだ。お貴族様は怖い。
クリスが書類へ署名と承認印を押しながら冷徹に言う。
「万が一、罪人が昔の身分を振りかざそうとも、管理側が惑わされることなきよう徹底を。罪人には、更生と贖罪の場であると分からせるように」
「かしこまりました」
三日後、私とクリスは領内の教会を訪れて、女神様の祭壇とルルディア様の墓へ花を供えた。
対外的には、ルルディア様が亡くなってもうすぐ一年になる。雪を避けて早めの墓参りという訳だ。
こうして、ちゃんと喪に服している姿を見せることも大事なんだとか。
魔族の護衛と侍女達も連れて、皆で頭を垂れて静かに祈りを捧げた。
祈りの後、高位の巫女を呼び、領主家と教会の間で寄進の話が始まった。
ルフェイ家も他と同じく女神の信徒であるから、年ごとに穀物や塩を寄進しているのだが、服喪中その量をどうするかという話だ。また、服喪期間をどこまでにするかも。
クリスはあと一年は喪中とし、再来年の王宮へ行く前まで喪に服すると決めた。
寄進は、穀物に加えて毛織布と亜麻布を納め、塩は三割増し。多めなのは、誰かがルルディア様のお墓に花を供えに来たらお墓の前まで案内したり、ルフェイ家へ誰某が来ていると連絡したり等、面倒に対するお世話を想定してのこと。
常よりも寄進が増え、教会側はほくほく顔だ。
帰る間際、見送りのためずらりと並んだ教会の巫女達の横を通った時、ふと雨香に似た湿った森林の下生えのような香が漂った。魔族だ。
(んっ、同胞の匂い)
フォスアンティピナと一緒に私も気が付いた。
魔族の匂いがした巫女の顔を見るとばっちり目が合って、それは細く弧を描いた。
(あっ、先生だ。久しぶり)
えっ、本当だ。礼儀作法を指導してくれた魔族の先生だ。まさか巫女だったとは。
巫女達は普段、髪を隠すように頭を薄布で覆っており、巫女服は皆が同じ形で色染めの無い簡素な物だ。階級は縁取り刺繍で分かるようになっているが、装飾も変化に乏しく、清浄と慈悲と聖職者を示す女神の印を胸元にぶら下げただけなので、個々を意識しなければあまり印象に残らない。
ぱっと見ただけでは気が付かなかった。前から教会に居たのだろうか。
うっかり驚きを顔に出したら、目を細めて品良く微笑まれた。
ここで魔族の先生に話しかけるのはためらわれて、ちらりとクリスを見れば、素知らぬ様子で教会の一番位の高い巫女へ、辞去の挨拶をしていた。
年かさの巫女の顔色がほんのり赤くなって、丁寧な礼を返していたので、あ、この巫女もクリスの美貌にやられているな、と思った。
まあいいか。私と先生が顔見知りな理由を聞かれたら面倒だし、知らんぷりしよう。取りつくろって、軽く笑みを乗せるに止めた。
しかし、魔族が巫女をやっていると思うと、どうにも妙な気分になってしまう。
帰りの馬車の中で、クリスが言った。
「三日おきぐらいでいいかな?」
「は? 何のこと?」
「家庭教師だよ。さっき教会で、ティーに礼儀作法を教えてくれた先生に会っただろう? 音楽の指導を頼んであるよ」
「え。……えぇ? あの先生が教えて下さるの?」
「そうだよ。見知った顔に教わる方が安心かと思ったけれど、嫌かい?」
「いいえ。吟遊詩人の誰かが来るかと思っていたから、びっくりしただけ」
そう言って慌てて了承した。クリスは軽くうなずいた。
「吟遊詩人達は今、谷の館でのんびりしているだろうから、こちらへ呼ぶのも忍びなくてね」
「先生は、こんな近くに居たのね」
「うん、夏至からルフェイに配属になっていたよ」
クリスは意味深にフフッと口角を上げた。
配属と言うけれど、これは手を回してそうさせたのだろうか。谷の館から来たのかも知れない。
何にせよ、私の知っている先生が近くに居るのは心強い。
翌日、練習用のリュートが届いた。
早速その次の日、高位の巫女が付き添って先生が本邸へ来た。ルフェイ家が迎えにやった馬車から降りてきた巫女は、礼儀正しく挨拶した。
「お初にお目にかかります、男爵夫人。今日から音楽の教師を務めます、ヘロニアと申します」
「男爵家の奥方様が楽器の教師をお探しとのことで、ルフェイ男爵様より私共の教会へ打診がございまして、この度、こちらの巫女ヘロニアが適任かと、お連れ致しました」
おっとりと年配の巫女が口添えする。世間での先生の呼び名を初めて知った。
あ、初対面で通すのか。それはそうか。
私も膝を曲げて丁寧に挨拶した。
「初めまして。ルフェイ男爵の妻、ティピナと申します。よろしくお願い致します」
「男爵様と奥方様のお心に沿うよう精一杯務めましょう」
礼儀作法の先生改め巫女ヘロニアが、美しい所作で女神の印を結ぶ。
本当に巫女をやっているようだ。きっと魔族なことを隠しているのだろうが、堂に入った流れるような自然な動きに驚く。
「巫女ヘロニアは、貴族の教養に詳しく、優れておりますので、お役に立てるかと思います」
高位の巫女がそう勧めてくる。知っています、と心の中だけで答えて、こくりとうなずいた。
巫女ヘロニアが穏やかな声で告げた。
「必ず上達するようお教え致しますわ。お任せ下さいませ」
巫女ヘロニアの目がキラリと光った気がした。
幼体が明るく応援した。
(わ、先生は凄いやる気だね! 頑張ろう、ティシア)
「はい……」
これは大変だ。心なしか先生から有無を言わせぬ熱い雰囲気を感じる。ゴクリと息を飲んでうなずいた。
冬の間、毎日食事の後でリュートの練習をし、三日おきに訪れる先生からみっちり演奏の指導を受ける。
他の時間は店の事務仕事等をして、時々お直しの確認で森の館へ行く、という生活をした。
天気の悪い日は予定が変わったりもしたが、概ね家で過ごす静かな生活と言えた。
先生から、演奏を習う合間に色々な話を聞くことが出来た。
元々、ヘロニア先生の『揺りかご』は、帝国が隣国のバルニバ国を侵略していた頃の、バルニバ国のとある貴族夫人だったらしい。それまで高位貴族の家庭教師をしていたが、戦争で夫が亡くなり、仕えていた家も潰れるなど色々あって、戦火を逃れ魔族の『揺りかご』になったのだとか。先生の魔族名はブロへロスウラノスというのだそう。
我が国とバルニバ国は文化が似ている。同じ女神を信仰しており、言葉もそうだが、大体の礼儀作法が通用する。
そして、芸術というものは国や身分など関係なく人間の気を引くことが出来るから、技術を習得すると強みになるのだと言う。中でも音楽は効率が良い、と先生は言った。
「芸術と言いましても、画家や彫刻家となりますと、美術品は完成するまで時間がかかりますから、その間は同じ所に居たりしますでしょう? 数年なら良いですが、大作を手掛けますと、一つ所にずっと居座ることになりますので、どうしても不老の身を不審がられて、そこが良くないのですわ。
有名になったりお抱えの絵師になったりせず、面倒が少ない、目立たない流浪の絵師程度がちょうど良い位置です。
楽師もそうです。お金持ちな人間のお抱え楽師に収まるより、旅の吟遊詩人の方が都合良く移動出来て良いです」
(そうか。人間は早く老いるから、その中でいつまでも姿が変わらないと、変だと思う。だから皆は、長く同じ所に居ない。旅する仕事を選んでる)
先生の言葉に幼体が納得している。
「では、森の館や谷の館の皆は……」
私が質問を口にしかけると、先生は察してうなずいた。
「ええ。拠点に住む者は時々入れ替わっていますでしょう? 出入りの業者や御用聞きが不審に思う前に、働く場所を変えているのです。
こちらは、男爵家の本邸と別邸の森の館がありますし、それで足りなければ塩の採掘場もあります。領地内なら何処でも長の庇護下ですわ。
谷の館は教会です。巫女や男巫女は違う教会へ移動を希望することが出来ます。配属が叶えば転々と何処までも遠くへ行くことが可能です。何なら、配属先へ移動する途中で失踪することも出来ます。
教会は基本的に、世俗を捨てて女神に仕える誓いを立てた者を、分け隔て無く受け入れるものです。訳有りの人もいるので、あまり身元を詮索しません。
それに、信心深い人々は、教会の者を滅多に疑いません」
私の中で、フォスアンティピナが、またうなずいた。
(教会、とっても良いね)
薄々感じてはいたが、中へ潜り込んでしまえば、教会は魔族にとって非常に都合が良い場所だった。
……あぁ、女神様。
私はさておき、クリスの方は、領地とじっくり向き合う機会とばかりに、本邸へ人を呼んだり書き物をしたりと忙しくしていた。
この一年、クリスは採掘場の坑道の他にも、塩の運搬がしやすくなるよう、地味に採掘場周りの道を整備したり、領内の古くなった橋を架け替えたりしていた。
他にも、塩の保管庫を増やしたり、倉庫を作って災害時の備蓄を増やす計画を立てたりしている。
また、採掘地周辺を調査させて、塩の埋蔵量を試算させていた。
曰く、「塩は無尽蔵に有るわけでは無い。採ったら無くなるのだから、あとどのくらい有るのか知っておくべき」だそうだ。
確かにそうだ。種を蒔いて増やせる作物とは違う。
それで、それらの資金は足りているのかというと、「喪中ですから、社交に使っていた出費をそちらへ回せますので大丈夫ですし、ルルディア様からいくらか遺産として金子を頂いています」と魔族の執事が言った。
時間が有る今の内に色々やっておきたいのだそう。
この機会に、彼が領内のことに力を注ぐのは良いと思う。
でも、領地の発展を考えるなら、領内だけでなく他領との交流も良くしていかなければならない。
可能なら、喪明けに動き出す諸々が円滑に進むよう下準備をするべきだ。その為には、王都や他領への移動を考え、道の整備が必要だと思う。
(ティシアは、支店と行き来しやすくなるように、交易路の手入れをして欲しいんだね)
フォスアンティピナが聞いてきた。
そうだ。安心安全な馬車道があれば、もっと楽になると思う。
(でも、そうしたら同胞が盗賊を狩れなくなるよ? 商隊を襲うような、不要な個体を間引く好機なのに。狩場が減っちゃう)
狩り場。あぁ、そうだったか。
そういえば、スタヴローノが狩りをしたのも、魔族の商隊を襲ってきた盗賊が相手だった。
しかし、人が集まる所にこそ繁栄と発展が有る。交通の便は大事だ。
せめて、王都へ続く街道があるカシィコン領まで安全な道が出来れば良いのに。
(じゃあ、クリスにお願いしてみたら? 安心して移動が出来る広い道が欲しいって。契約者のお願いは、叶えると思うよ)
幼体の言った通り、私が頼むとクリスは微笑み一つで了承し、カシィコンまで新しい交易路を作る計画を予定に盛り込んでくれた。
……旧道には盗賊や山賊が出るだろうが、それで良いのだろう。魔族の商隊の狩場として残しておいたのだ。
喪が明けるまで、クリスは男爵領の充実に力を入れた。
採掘場とその周囲の整備を行い、保管庫や倉庫が増え、密かに更なる岩塩鉱脈が発見された。
新しい橋が架かり、街道までの広い道が整う。
荒れ地を少しずつ開墾させ、それは雑穀畑になっていく。
土木工事で雇い入れた大工や石工等の人足で、人が増える。人が多くなれば町が活気づく。
領主家が喪中であるのに、ルフェイ領はあまり辛気臭い雰囲気が無い。人と金と物が行き来する。
隣国からの商隊が、王都近辺への中継地点としてルフェイ領にやって来る。彼らは帝国やバルニバ国から珍しい品々を運び入れ、代わりに塩製品を運んで行く。
商隊と手を組んだエクディキシ商店のお陰で、男爵領で作られる質の良い布小物や、ハーブ等の乾物、高価な塩製品が他領で売れていく。支店が有るエレガーティス侯爵領からは、王都近辺の流行がもたらされ、カシィコン伯爵領からワインが運ばれる。
徐々に、密かに。田舎領地は賑やかになっていった。




