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魔族の揺りかご  作者: 広峰
二章 幼体期間

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43/46

偽りの喪に服す 七 (秋)


 翌日、お忍びで領内の店を歩いてみた。

 ルフェイ男爵家の本邸に近い町なので、遠出ではないし、少し歩くくらいなら喪中でも許されるだろう。


 あまり町中で目立ちたくないから、護衛も威圧感が無いような感じに、とクリスに頼んだら、護衛を兼ねられる女性型魔族の侍女を複数連れて行くことになった。


 皆の格好は、良くあるお下げ髪か緩い垂らし髪で、厚手のチュニックと胴着に重ねスカート、肩掛けか羽織り物をして足は短靴、と町娘のようだ。

 連れているのが若い見た目の女性型魔族ばかりなので、まるで友達と買い物か町歩きに来ているみたいだ。一応名目は視察なので、気を引き締めなくては。


 ルフェイ領の町は、地味というか、素朴な雰囲気がある。ここは領主屋敷近くの町だからそれなりに活気があるけれど、王都やエレガーティス領のような華やかさは無い。でも、素朴で飾らない真面目な感じが、私は好きだ。


 通りを行くと、布製の小物を扱う店は存外多かった。確かに流行っているらしい。


 基本的に服は高価だ。平民は衣類を大切にする。穴やほつれを繕(つくろ)い裾や縁を継ぎ足し、工夫して長持ちさせるのが普通だ。わざわざ新調するのは、本当に着られなくなった時か、何かの節目とかお祝いで晴れ着が必要な時がほとんど。

 けれど、服と違ってちょっとした小物だったら、それほど気負わずに買える。


 道具屋でも布製の袋物を売っていたが、平民が利用する古着屋や小間物屋の店先の方が品数が多く並んでいた。

 こういうのは、手先が器用な人が内職で作り溜めたのを、店に置かせてもらっていたりするやつだ。

 私もトロッフィのお養母(かあ)様のお陰で、女性の常識として繕い物やら何やらは一通り教わっているが、数段上の裁縫の腕を持つ人達の手仕事だ。


 どちらかと言えば、ベルトや下げ袋等は実用的で丈夫な革や粗布の物の方が多いようだ。防寒用手袋も親指以外は一緒の筒状になっているものが多い。

 生地は毛織りか亜麻が主流で、次に革製だ。流石に高価な帝国産の絹使用の品物は無いか。


 ふと、とりわけ綺麗な布小物が店先に並んでいるのを見つけた。見本なのか、目立つところに一揃い並べて客の目を引いている。どうやら古着屋兼仕立屋らしい。


 私が足を止めて店に寄ると、侍女達もぞろぞろ付いて来て、私を囲むように立ち、品物をのぞき込んだ。


「まあ。この手袋、甲に猫が。五本指のを見慣れてしまうと、鍋つかみ型の手袋は丸くて可愛いですわね。あらっ、お揃いの下げ袋があるわ」

「こっちのは、同じ生地と同じ花の刺繍で揃えていますのね。手袋、首巻き、小袋、頭巾、まぁ、リボンまで。上品に見えますわね。楽しいこと」

「そちらのも素敵。縁取りの毛皮がふわふわ。みんな揃えて着けたいわ。ふわふわが並んでいるのって、可愛いじゃありませんか?」

「……あら、まとめ買いは値引きします、ですって! 良いですわねぇ」


 魔族の侍女達が、品の良さを失わないようにしながらも、若い女性らしくきゃあきゃあ言う。

 それを少し離れたところで、微笑ましそうに店の主人と思われる中年女性が見守っている。その緩んだ表情から、少し良いとこのお嬢さん達だと思われていそう。


 私は商品の群れを見渡した。

 意匠を統一した品物を一揃いのようにして並べている。なるほど。小物の種類毎に分けて並べるより、見栄えがして良い方法だ。

 小物でも一式揃った格好は整って品良く見えるし、小さなおしゃれを楽しめそうだ。懐事情に合わせて、その都度買い足すのもありだろう。家族や友達とお揃いなんかも楽しい。何より収集欲を刺激する。


 私も、店で扱っていた生活周りの小物はそれなりに見てきた。その中でも、ここにある物は他の店の物より立派な品に見える。

 そっと一つ、裏側を返して見ると、細かく均等な縫い目が見えた。これは良い品だ。


 それにしても、思ったより値段が安い。王都の布小物は、もっと質が悪くても大銅貨一枚くらいはしたような。少なくとも中銅貨五枚より高かった気がする。

 王都は田舎より物価が高めではあるが、この縫いの丁寧さでこの値段は破格だ。

 ……あ、近隣にある他店の価格より高いと売れなくなるのか。ならば、ぎりぎりの値段かな。

 しかし、更にまとめ買いの値引きなんかしたら赤字になるのでは? この品質で安く売るなんて、とても勿体ない。

 余所で売れば……王都に近いエレガーティス領辺りで売れば、多少高くてもいけそう。

 小さいから数があっても軽いし、輸送費を差し引いても利益が出るかな。


 あら……?

 ちょっと、これを逃す手は無いのでは?


 じっと、店先で商品棚から目を離さない私に、フォスアンティピナがたずねてくる。

(ティシア、何するの? 仕入れの時みたいにとても楽しそう)


 うん。楽しい。

 ここにある布小物は、余所でもっと高く売れると思う。

 私が真剣に検討し始めると、フォスアンティピナも別のことを考え出した。


(……人間が欲しがる物を差し出して、お金を得る。多い所から少ない所へ持って行って、売る。釣り合いが大事。高くても安くてもだめ。

 売買の取引、契約……。相手の欲しがるものを差し出して、その対価を得る。我々の契約と同じやり方。対価(いのち)に釣り合うくらい、人間の欲望を満たすもの、とは? 人間は欲深く、欲には終わりがない。それでも対価(いのち)を渡すくらい人間の欲しがる物って何だろう……)

 フォスアンティピナが私の中で、思考を漏らしている。


 私はごちゃごちゃと考える幼体を放置して、店の主人らしきおばさんに笑みかけた。


「あの、少し良いかしら? こちらの小物はどなたが作ってらっしゃるのですか? 凄く素敵ですね」

「あらまあ、ありがとうよ。可愛いでしょ? うちと付き合いのあるお針子が、手慰(てなぐさ)みで作ったのよ」

「まあ、手慰み? 本職かと思ったわ」 


 ちょっと驚くと、おばさんは肩をすくめた。


「それがねぇ、ご領主様が喪中になっちまって、みんな派手な事を遠慮するようになったもんだから、なかなか晴れ着も作らなくなってねえ。それで仕事が減ったんで仕方なくさ。こういう小物なら皆も買いやすいでしょ? そこにあるのとか、可愛いって人気なんだよ」


 にこにこ勧めつつも、店のおばさんは少し寂しそうだ。

 なるほど、素人内職の委託ではなく、仕立屋のお針子か。道理で意匠と見た目の良さに力が入っているわけだ。元々の腕も良いのだろう。


「これ、沢山あったりするのかしら?」

「あぁ、まだあるよ。暇にまかせて作ってたら、うっかり増えちまったんだってさ」

「もし、その方にお願いしたら、似たようなのを作ってくれるかしら?」

「そりゃあ、もちろんやるだろうさ。今なら時間があるからね」

「それは良かったわ」


 もっと良い素材を用意して、華やかな意匠を凝らして、支店のお金持ちな客向けにしたら、きっと売れる。


 気分がぐっと高揚してきたのを感じ取ったのか、フォスアンティピナが我に返ったように内側から聞いた。

(それ、どうするの?)


 仕入れるのだ、もちろん。

 隣に立っていた侍女が、弾んだような声で聞く。


「まあ、ティー様、お買いになるのですか?」

「えぇ。あの、私が皆の分を買ったら、まとめてお安くしてくれるのかしら?」


 うなずいて店のおばさんにたずねると、侍女達が、わあっ、と嬉しそうにする。

 すると、フォスアンティピナが問う。

(皆って、同胞にあげるの?)


 うん。折角だから、付き添ってくれたお礼に贈ろうかなと思う。

 皆にはいつもお世話になっているし、沢山まとめ買いしよう。多かったら屋敷の皆にあげても良いかな。

(それは良い考え。皆喜ぶよ)


「おやまあ、太っ腹なお姉さんだね! いいですよ、どれにします?」

「取りあえず、ここにあるのを全部いただくとして……うーん、どれくらいかしら?」


 はて、手持ちはいくらだったか。

 頬に指を当てて考えながら言うと、店のおばさんが、は? と声を漏らした。

 喜んだ侍女達が手を叩く。


「まあ、流石ですわ、若奥様。お土産だなんて嬉しいですわ!」

「お待ちになって、若奥様。それを私達が全部持って歩くと、嵩張(かさば)って動き辛いですわ。後で取りに来させませんか?」

「でしたら、代金は商品と引き換えがよろしいのではございません? 余所も回るのですよね? ここで時間を取られるのは勿体ないですわ」


 はしゃいでみせる侍女達に微笑んでから、店のおばさんに聞いた。


「それで良いかしら? エクディキシ商店が、在庫も含めて買い取らせて下さいませ。後で、注文も受けていただける?」

「エクディキシ商店……って、まさか……? は、はい!」


 御領主夫人様、と騒がれる前に、人差し指を一本口の前で立てると、おばさんは焦ったように高速でうなずいた。


 その後、皆で町の中を一巡りしたが、この店よりも優れた布小物は見つからなかったので、あれは良い決断だった。


 次の日、私は使いをやり、あの店に魔族の商隊から購入した帝国産の絹や糸等を渡して、小物類を作って欲しいと注文した。

 材料持ち込みだから、その分を差し引いた仕立て代のみになるが、出来具合によっては通常よりも高く払うと約束し、時間をかけても良いからしっかり作って下さいとお願いした。

 想定する顧客は、目の肥えた富裕層だ。良品でなければならない。

 納品は出来上がり次第で。来年店頭を飾れるなら良しとした。


 高価な素材を手にして、店主のおばさんは卒倒しかけたそうだが、お針子は大興奮で舞い上がっていたという。


 それと、まとめ買いした商品はかなりの量があった。店側が恐縮してしまったのか、棚から在庫から、丸ごと渡してきたせいだ。

 屋敷の皆を集めて各自好きなものを持って行ってもらった。

 女性型魔族達は、突然の贈り物をとても喜んでくれた。男性型魔族達は少し面白そうに笑って、お気持ちだけで大丈夫です、とか、知り合いに贈ってもいいですか、と断りを入れてから選んでいた。

 あ、全体的に女性向けの品が多かったか、と後から気がついた。


 恐る恐る、クリスに

「好みじゃないかも知れないけれど、良かったらクリスも何かもらって行って」と言ったら、

「私は既に君から沢山のものを得ているのだから、気にしないで」と、優しく微笑んで断られてしまった。


 クリスに何かをあげた記憶など無いのだが。

 というか、むしろ私の方が礼を言うべきなのでは。色々と助けてもらっているし、頼ってばかりで彼に甘えていると思う。

 戸惑っていると、彼はくすくすと笑った。


「ティーがすることは、私と一族の利益に繋がっている。君の店が繁盛することで我が領も潤いつつある。同胞達も居場所が増えた。ありがとう」

「えっ、そう? なら、その……、良かったわ」


 お礼を言われてしまい、つっかえながら返事した。

 確かに店は順調で年々利益が増えているから、領へ税として納める額も増えている。先頃は用心棒を雇ったから、仕事場を与えたとも言える。

 そんなことを喜ばれているなら、まあ、嬉しいが。


 すると、フォスアンティピナが言う。

(私のティシアは良い『揺りかご』。凄く皆の為になってる)


 幼体は自慢気な気持ちを伝えてきた。良く分からなくて、私の方は首を傾げたい気持ちなのだけど、そうなの?

 では、このまま好きな仕事をしていて構わないと?

(うん。店、頑張って)


 それを聞き、私は少し頬を緩めた。今でも婚姻前の約束通り、余程のことが無ければ私は好きなように行動させてもらっている。


「でもやっぱり、お礼を言うのは私の方だと思うわ。いつもありがとう、クリス」


 そう言うと、クリスは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「どういたしまして。……ふふふ。ティーは可愛いね」


 私の中で、クリスの言葉にフォスアンティピナが喜んでいるのを感じた。




 数日後、まだ余っていたお土産を持って、森の館へ行った。

 森の館では、建物と敷地を管理するため、数名の魔族が住み込みで働いている。彼等にもお土産をお裾分けした。

 ここでもお土産は女性型魔族達に喜ばれ、男性型魔族には、野花を摘んできた子供を微笑ましく見るような目で礼を言われたが、遠慮された。

 ……次は男性向けのお土産を多めに探そう。


 帰る前になって、館の管理をしていた魔族の執事が、

「折角こちらにおいでになったのですから」と、私を引き止めた。


「実は、ルルディア様が私物をかなり置いていかれました。旅に不要なので処分して良い、と仰っていましたが、もし、新しい領主夫人のティー様がお好みになる物があれば、お取り置き下さって欲しいのです」

「まぁ。本当に? 後でルルディア様が取りに来たりしませんか」

「まさか来ないでしょう。ルルディア様はティー様をお気に召していましたので、拾い上げて下さればお喜びになると思います。

 ……その、衣裳等も非常に良い物が多いので、そのまま捨てるに忍びなく。ティー様が不要でしたら、一度お受け取りになってから誰かに下げ渡しても構いませんので、ともかく、是非ご確認になって下さい」


 苦笑いで言う執事に促されるままに、ルルディア様の使っていた衣装部屋へ入った。


 一歩入って、造り付けの衣装棚に吊され、ずらりと並んだ豪華な服に驚く。多くは、ルルディア様に似合いそうな淡い色を基調としたチュニックドレスで、他にも絹の羽織り物や白貂(しろてん)毛皮の外套らしき物があった。もしそうなら、とんでもなくお高い逸品だ。


 私とルルディア様は、そこまで寸法がかけ離れていないと思うから、何となく着られそうではある。

 聞けば、王宮へ領主代行として行った時の物だという。その都度一着か二着、新しく作っていたらしい。

 もっと前の領主夫人の頃の服は、まだルフェイ家が貧乏男爵だったせいで、質も悪く古過ぎたため、解(ほど)いて別物に再利用してしまったそうだ。

 しかし、美しいが、びっしり施された刺繍や、多めに寄せた優雅な襞が凄く重たそう。

 これを捨てるのは確かに惜しいが、大荷物になるから旅に持って行くのを断念したのだと思う。


 私の後ろで控えていた、森の館の侍女がおっとり微笑みながら言った。


「まずは大まかな把握だけなさって、細かい寸法等は後でご確認してはどうですか? 他にも、衣装と合わせた宝飾品類もございますし、芸術品や楽器等も残っております」

「えっ、楽器? 私、何も演奏出来ませんが」

「では、高価な細工物と思ってご覧下さいませ。金と宝石で装飾してありますので美しいですわ」

「金……、何故そんなものが?」

「古い物もありますが、多くは王侯貴族からの頂き物です。贈り主がルルディア様の気を引きたかったのですわ。音楽をお好みでしたから。ほら、覚えておいででしょう? エレガーティス侯爵様もリュートをお渡ししていました。そちらに並べてありますわ」


 指差された方を見ると、奥の壁に棚が有り、その上二段分に、花の彫り模様や虹色の貝で彩られたリュートが五つくらい飾ってあるのが目に入った。下の段にも、象牙や色石などで飾った竪琴とか金銀の笛の類や、鈴やら太鼓やらがいくつも並んでいる。

 それだけでなく、楽器と楽器の隙間を埋めるように、宝石が柄に埋まった短剣や、金の女神像や天の御使い像が置いてあった。棚下の床には鍵付きの大きな宝物箱が三つ。見るからに頑丈な箱だ。きっと服に合わせたという宝飾品が入っているのだろう。


 えっ、これ全部を捨てて良いとか、嘘でしょう? ……いや、確かに、持ち歩くには重くて邪魔そうだけれど。

 ほぼ女性用の品だから私へ回って来たのだろうが、家の財産じゃなくて私物なのか。こんなに貢がれていたとは。


 驚く私の中で、フォスアンティピナがつぶやく。

(わあ、ピカピカした物ばかり。これをくれた人間は、オミヒリルルディオンの気を引きたかった、って、どういうこと? 贈った対価に何を得ようとしたの?)


 それは多分、魅力的な女性とお近付きになりたかったんだと思う。あわよくば未亡人を愛人にとか、後腐れなく遊ぶ相手にしたかったんじゃないかな。


 未亡人のルルディア様は、『恋愛遊戯にもってこい』の相手だと思われていた、とクリスが言っていた。貴族夫人は、義務を果たして家を継ぐ子をもうけた後なら、暗黙の了解で遊びの恋が許されるから。

 しかしそれは、ルルディア様が『逆に獲物を誘う手でもあった』とも言っていた。彼女は相手の気を持たせるため、あえて贈られた物を素直に受け取っていたのかも知れない。


(あ、なるほど。気に入った雌から好意を得たかったんだね。高価な贈り物の方が歓心を得やすいと考えたから、ピカピカな物を渡したのかな。相手が魔族と知らずに。人間は愚かで面白いね)

 納得した、と幼体が私の中でうなずいている。


 下心の詰まった芸術品か。

 つい、売ればいくらになるかと考えかけて、計算を放棄した。きっと値段なんか付けられない物ばかりだ。


 棚の品物を眺め、引きつった顔をした私をうかがうように、執事がたずねた。


「やはり捨てますか、若奥様?」

「あっ……ちょっと。待って、待って。……と、とりあえず、捨てるのは保留に。よく考えてから決めます」


 そういう訳で、ルルディア様が置いて行った衣装部屋の中身が、私の物になった。






 今年の冬は、始まりが少し遅かった。


 たまたま、残ったお土産の布小物の中に、子供用と大人用に同じ意匠で揃えた、手袋と小袋と頭巾とリボンがあった。その明るい若草色を見て、ふとロフィーダが好んで使っていた色だ、と思い、彼女とアピリーへ贈った。

 ついでに、すっかり遅くなったが、魔除けの香も「オストアルゴに渡して下さい」と同封して頼んだ。


 数日して、「ちょうど防寒具が欲しかったところでした。ありがとうございます」と、彼女からお礼の手紙が来た。それには、持ち家の管理報告と最近の様子も書いてあった。


 現状、私は喪中にカシィコン支店へ行くことも出来ず、葡萄酒の仕入れは支店長任せ、持ち家の方はロフィーダ任せだ。

 同様に、エレガーティス支店はオラニオに頼り切りで、どちらの支店も手紙の報告が様子を知る手段となっている。


 ロフィーダの手紙には、「オストアルゴさんが魔除けの香のお礼を言っていました。『馬の骨』は夏の間中、新製品の異国風調味塩を使った肉料理の匂いと、彼の魔除けの香の匂いのせいで大変でした」とあった。


 すると、フォスアンティピナの何かが刺激されたらしく、

(あはは。臭くて美味しそうな匂い! よりによって、反対の匂いが混ざっちゃった。あは、可笑し……)と、私の中でずっと笑っていた。


 それから、オストアルゴの母親エラスティは、カシィコン前伯爵に回収された後、前伯爵と仲直りした様子だが、今度は息子のオストアルゴと上手くいっておらず、めっきり食事処『馬の骨』に顔を出さなくなったそうだ。察するに、やっと息子の食事処の家主が私だと気付いたらしい。


 また、オラニオがエラスティを『揺りかご』の候補から外したそうだ。

 詳しい理由はロフィーダも知らないようだが、オラニオが見限るような事があったのだろう。

 うん、やめて正解だと思う。あの人が『揺りかご』になったら、どんな図々しい魔族が生まれることになるか。


(じゃあ、あの美味しそうだけど食べたら面倒臭い雌、もう、私が狩っても良くなったね。今度見つけたら間引こう?)

 フォスアンティピナが舌なめずりをするように言った。


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