偽りの喪に服す 六 (夏、秋)
私は、カシィコン支店で魔族の用心棒を雇いたい、とクリスに相談した。
「それじゃあ、同胞達に何名か希望者を募ってみよう」
彼は喜んで応じてくれた。相変わらず私が頼ると嬉しそうにする。
「ありがとうクリス。でも、店内では獲物を狩らないこと、客と従業員に手を出さないことを守って欲しいのだけど」
これだけは譲れないので、つけ加えて言うと、私の中で幼体のフォスアンティピナがつぶやいた。
(その条件は、人間を油断させる為に必要なことだよね。でも、用心棒なんだから、お客じゃない悪い人間を、痛い目に遭わせて良いんだよね? 死なない程度に生気を摂っても良いよね?)
私は渋々それを認めた。
死なないなら、まあ……。目立った外傷も無く衰弱して意識を失うだけなので、効果的な撃退方法ではある。
「うん、言っておこう。カシィコン支店だけで良いのかい?」
クリスが目を細めて、探るように訊ねた。
すると、フォスアンティピナが私の内側で口出ししてくる。
(エレガーティス支店の方でも同じだよね? あっちのお客もお金持ちが多いんだし、用心棒が必要だよ。悪い人間をちゃんと追い払わないと、お店を守れないもの)
そう言われると何だか必要な気がする。あっちとそっちで差が付いたら、アミーナさんあたりが、また気にしそうだ。
「エレガーティス支店も、一応、必要かな……」
(ねえ、本店には置かないの? 支店だけって変じゃない? 強盗が来たのは本店なのに、何もしなかったら店の人間が不安になりそう)
すかさず幼体が突っ込んできた。
はいはい、分かった。店の全てに用心棒を置くことにしよう。
「……ルフェイ本店にも」
心の中で苦笑しつつ返事をすると、フォスアンティピナが満足そうな気持ちをぶわりと広げる。
「うん。探しておこうか」
機嫌良くクリスが私の頭を撫でて微笑む。まるで褒める機会を待っていたかのよう。
暖かな手の感触に、フォスアンティピナの誇らしげな感情が流れた。
……ちょっと魔族の親子に誘導されたような気がしないでもない。
かと言って、私の店を何の守りも無く放置することは出来ないし。
例によって、今年も森の館の『幼子達の家』で契約者の目覚めを待つ者が居るらしい。それを見守る魔族の同胞達が、別邸でしばらく滞在するそうだ。
今回の儀式で無事『揺りかご』になったのは一人だけ。二人が目覚めておらず、他は駄目だったと聞く。
毎年、夏の始めのこの時期は、森の館に魔族が増える。
儀式に参加したり、仲間の『揺りかご』の目覚めを待つ魔族が居る一方で、子育てをやめる魔族もいる。
彼等は今後は儀式に加わらなくなることを周囲に告げ、今後の落ち着き先や余生の過ごし方を魔族の長に伝えておこうと、拠点を訪れる。
魔族が繁殖活動をやめた後の過ごし方は様々だ。
ルフェイ男爵家で働いたり、塩の採掘地で監督者になったり。あるいは他家や市井へ入り込んで情報収集をしたり、魔族御用達の職人になったり。逆に人里を離れて森番をしたり、遠く離れて隣国の谷の館へ行ったり等々。
基本的に一族の繁栄に繋がるよう過ごすらしい。何かあれば長の意向に沿って動く。
そうして、素知らぬ顔で人間のように暮らしている。
クリスは、彼等がここに滞在している間、私の要望に合いそうな者に声をかけてみよう、と言った。
それから何日か後、いくらかの魔族が話に乗ってくれたという。
お店の用心棒なるものを、人間の真似が好きな魔族達は面白がったようだ。
それで私は、『揺りかご』が目覚めるまでの間、お試しで交代しながらルフェイ本店の用心棒を勤めてもらうことにした。
様子を見て、そのまま残って雇われても良いと思ってくれた魔族を採用するつもりだ。エレガーティス支店とカシィコン支店も、同じくお試しを行って何名か採用しよう。
……と、思っていたのだが。
お試しの後、最終的な判断をしたのはクリスで、私は了承するだけだった。
何というか、決定前に会って話を、と思った時にはもう決まっていて、「彼等に頼んでおいたよ」とまとめて紹介され、「あ、そうですか……。はい」と、うなずく感じだった。
別段、後から相手に不満を感じることは無かったのだけど。むしろ手練れと判明したのだが。
屋敷の皆は「心配しないで魔族のことは長に任せる方が良いのですよ」と、微笑んで言うのがまた、もやもやする。
……まあ良い。これで多分、私の店の守りは安心だ。魔族の上を行く泥棒は居ないはず。クリスが『揺りかご』の私に悪いようにすることも無いはず。
自分に言い聞かせるようにして、私はひとまず息をついた。
これから夏本番となる前、荷物の運搬を終えたリンティナ達の魔族商隊が、エレガーティス支店から戻って来た。
彼等は、賑やかで豊かなエレガーティス侯爵領を楽しんできたらしい。なかなか有意義だったので、また来年も荷運びの仕事を受けても良い、と言ってくれた。
彼等の仕事振りは優れていて、一つも商品の破損が無く、速さも丁寧さも文句なしだった。申し出は本当に有り難い。
私は喜んで、是非に、とお願いしておいた。
リンティナとの仕事話が終わった後、いそいそとスタヴローノを庭へ連れて行き、夏至前に植えた草木を見せた。
彼から購入した果樹、プロウムノンはまだ小さい。苗木の一部を私の店の脇にも植えたが、あちらもちょこんとした様子からあまり変わりがない。
それでもなんとなく根を張ってくれそうな気がするので、このまま見守るつもりでいる。
一方、雑穀のファゴピルムは早くも赤い茎に小さな白い花を揺らしていた。本当に成長が早くて驚く。
ただ、可憐な花の姿とは裏腹に独特の匂いを放っていて、ほんのり甘い中に少し生乾きの青草と鶏小屋の匂いが混じったような、今一つ妙な香りがする。
スタヴローノは感心した様子で、花の咲き具合を観察した。
「良い感じに咲いています。ここの土に適していましたね。花芽も多い。悪くなさそうです。あと少ししたら収穫です」
「でも、何というか、妙な匂いの花ですね、スタヴローノ先生」
そう私が言うと、苦笑した。
「虫が好む匂いです。蜜蜂や花虻などが結実を助けるので、そういった虫を呼ぶ匂いだと言われています。このまま上手く土地に広まれば、いずれ養蜂なども視野に入れて良いかも知れません」
そう説明してから彼は、そういえば、と続けた。
「カシィコン支店で、魔除けの香を使っている人に会いました。支店長さんと親しげな若い男性でしたが、リンティナのあれほど嫌そうな顔を見たのは初めてです。あれは独特な匂いでしたね」
彼の言葉で、オストアロゴに追加の魔除けの香を渡すつもりだったことを思い出した。うっかり忘れていた。
しかし今は直接渡しに行けそうにない。誰かに頼んで送っておこうか。
それからスタヴローノは、実の収穫方法や、その後の処理と保存方法、原産地での調理方法等をあれこれと教えてくれた。
実際に食べる頃までルフェイ領に居られないのが残念そうだった。
今回のお礼を言い、また何か良い物があったら持ってきて下さい、とお願いした。
程なく、彼等は本隊である魔族の商隊と合流して、隣国のバルニバ国へ渡って行った。
ここへ来る魔族商隊の往路は、隣国との国境を越えたら真っ直ぐルフェイ領を目指して来て、それから街道のあるカシィコン領へ至る道をわざと避け、あちこちの領の下町を巡るそうだ。道々で盗賊をいただけるので、ひっそり行くのが良いらしい。
悪目立ちしないよう、小さめの露店を開きつつ王都近くまで行ったら、王都には入らず戻る。復路は同じ道筋でルフェイ領に寄って、目覚めた『揺りかご』を拾い、長に挨拶すると隣国へ向かうのだとか。
今のところ彼等は決まった店と取引しておらず、長の居るルフェイ領と私の店だけが特別なんだそう。
特別扱いは、ちょっとこそばゆい。また来年の訪れを楽しみにしよう。
夏の盛りになる前に、ファゴピルムの実が黒くなった。
私はわくわくしながら庭師に頼んで、穂を刈り採ってもらった。刈ったら立て掛けて数日置き、草束を叩き揉んで実を脱穀し、塵を除けて実を天日干ししたら、尖った黒っぽい種子の殻を除く……と、スタヴローノの言っていた通りの処理をお願いする。
それにしても、種を蒔いてから八十日かそこらで収穫とは。間引いた芽も食べて良いというし、これほど早く実るなら食べる物がぐんと増える。心強い。領民も喜ぶだろう。
それから、本邸の料理人に粒を渡して料理を頼み、どきどきしながら味見してみた。
まずは、殻を除いた粒を水と塩で煮てお粥にしたもの。それと、石臼で引いて粉にしたのを水で溶き、平焼きにしたものの二種類だ。
どちらも特有のコクともっちりした弾力があり、お腹にたまる。力強い大地の実りの味だ。癖があるけれど美味しい。
私が食べている間、フォスアンティピナが考えていた。
(食料があれば人間が飢え死にしない。飢えなければ子供も大きく育つし、次代が殖える。栄養が行き渡ると健康に育つ。人間が生きるために食料の確保は大切なこと)
商人の仕事は、基本的に物が不足している土地へ、他の土地から必要な分を集めて持って行って、売り渡すことで成り立っている。時に、加工することで保存性を高めたり付加価値を足すこともある。そうして、お金を対価に売り手と買い手の橋渡しをする。
この実も私の店を通じて、いつかその流れに加われば良いと思う。
魔族の商隊は、その橋渡しを遠くまで手を伸ばして行う。そう言い換えれば、フォスアンティピナには分かりやすいかな。
(うん。分かるよ。ティシアの店は対価をもらうことで、人間が生きやすくしているんだね。それは良い仕事)
私は無言でただうなずく。
そうでしょう? しかも成果がお金として目に見える形で現れる。品物を手にした皆の喜ぶ顔が見られたら、張り合いが出て楽しい。
(もっと食べて。これは、好き)
急かされて、味見皿を片手に持ったまま鍋を覗いた私に、魔族の料理人が聞いた。
「どうですか若奥様?」
「食べ応えがあってとても良いです。味はこのままでもいいけれど、粥に蜂蜜とかの甘味を添えてみたいわ。ミルクかチーズも合いそう。平焼きは何か具を足しても良いかも。野菜とか肉はどうかしら?」
「はい。やってみましょう。工夫のしがいがありそうですね」
それから数日間、料理人による雑穀を使った創作料理が食卓に並んだ。
粥、平焼き、小麦と混ぜたパン、茹でて野菜と和えた物など、かなり頑張ってもらったが、やはり手軽で受け入れやすそうなのは、粒を柔らかく煮た粥で、一番美味しかったのは、薄い平焼きに塩漬け豚肉の燻製と卵を包んで香ばしく焼いたのだった。
私と一緒に食事をしたクリスが、これに関心を持たないわけがない。
ルフェイ領は麦畑に向いた平地が少なく、山と森と荒れ地が多い。
人々は狭い畑で麦を作り、次に豆類を育て、しまいに家畜の餌も兼ねて放牧し、糞を肥料にするという順番で土地を使い回している。
つけ加えるなら、山の一部が岩塩採掘地、森の多くは狩猟地で、建材や薪等の木材と野草等の採取や、家畜の豚等の放牧にも利用する。
荒れ地で育つのは、せいぜい生命力の強いハーブと家畜の餌くらい。
クリスは、荒れ地でも育つ雑穀を入手した私を大袈裟に褒めた。
「素晴らしいね。民が飢えない暮らしは代々のルフェイ領主の課題だったよ。無論、私の望むところでもある。ありがとう、ティー」
「いいえ、私は何も。リンティナの『揺りかご』の、スタヴローノ先生が探して来てくれたんです」
「しかし、欲しいと頼んだのは君だろう。次に会ったら彼等にも礼を言わねばならないね」
クリスは上品に燻製豚と卵入りの平焼きを頬張って、「これは良いな」と満足そうにうなずいた。
収穫した種子は、今後領内で栽培するため、試しに数ヵ所の村落へ配ってみることになった。
穀物の実りが少ないこの地で、根付いてくれたら良いと思う。
やがて今年の夏も終わろうとする頃、今度は別の問題がやって来た。
エレガーティス支店からオラニオが手紙で連絡をよこしたのだが、それによるとエレガーティス子爵家のご令嬢から呼び出されたと言う。
「どうにかして内緒であの薄い手袋をルフェイで作ってきて!」と命じられたそう。自分のお抱えのお針子に作らせたものの、気に入らないのだそうだ。
エレガーティス侯爵様が、姪の子爵令嬢に「ルフェイ男爵家は喪中ゆえ、煩わせてはならぬ」と言って、ずっと私への接触を止めていたのだけれど、「それならルフェイ男爵夫人ではなく、支店のオラニオを」と呼びつけて、「伯父様と店主には内密にして」と命じたのだ。
無理な要求に、オラニオは笑顔だけ返して何も言わずに下がってきたそうだ。
机の上に広げた、オラニオからの報告兼相談の手紙を前に、軽く眉間を揉む。
本当にしつこいご令嬢だ。
支店で高価な注文をしたら、本店へその報告が来るのは当然なのに、店主に内密にしろとか、酷い命令である。
しかし、魔族が雇用契約相手抜きで事を運ぶなんて有り得ないので、きちんと連絡が来ている。
私がしかめ面をしていると、クリスがおどけた様子で声をかけてきた。
「おやおや、悩み事かい?」
「ええ、ちょっとね」
私が手紙を見せると、彼はふっと口の端を上げた。
「実はつい先程、オラニオから提案があってね。君が贔屓にしている手袋作りの職人に、『揺りかご』が元革細工職人だった同胞と、元小物職人だった同胞を弟子入りさせてはどうかと言うんだ。
どちらも今エレガーティス支店に居て、売り子と裏方仕事をやっている。基礎はあるから、最新技術を覚えたら職人をやっても良いそうだ。前々から自分の店が欲しかったらしいよ。あちらでかなり貴族慣れしたので問題ないとオラニオも言っていた。そうしたら注文を受けられるだろう? どうかな。口利きしてもらえるかい?」
「まあ、弟子入りを?」
顎に手を当ててふむ、と考えてみた。
魔族が人間の職人に弟子入りして技術を覚え、ゆくゆくは貴族相手に商売する……か。
私がいつも手袋を頼んでいる職人の手業は素晴らしいが、田舎の身内だけの小さな工房だ。
私なら多少の無礼な振る舞いも気にしないが、他の貴族は粗野に思うだろうし、貴族風の上品で婉曲な表現は、平民には理解が難しく荷が重いはずだ。
けれど、エレガーティス支店で鍛えられている魔族達なら、貴族の相手も務まるだろう。
何より作り手が増えれば、工房ももっと仕事を受けられるし、儲かるはずだ。
楽しそうにフォスアンティピナがせっつく。
(ふうん、いいんじゃない? 貴族の対応が出来るようになれば、あの子爵令嬢っていう個体みたいな人間が注文してきても大丈夫。きっとティシアの店も儲かるよ。紹介してあげようよ)
うん、そうかも。
色々な利が多いと判断して、私はうなずいた。
「分かったわ」
クリスが良かった、と微笑んだ。
私が紹介した魔族二人の弟子入りを、手袋作りの職人達は何も知らずに喜んで受け入れた。彼等の容姿が魔族らしく若く美しく、真面目そうに見えたのが良かったようだ。
親方が工房に住み込む許可を出し、人間が魔族に技術を教えることになった。
弟子入りした魔族からは、定期的に私とクリス宛に報告が上がってきた。
弟子の二名は飛び抜けた才能を持っていたらしく、あっという間に工房の即戦力になったようだ。
まあ、『揺りかご』の持っていた技能を受け継いでいるだろうし、そうなるだろうな……。
それでどれくらいの技量になっただろうかと、試しに「白い手袋は使い勝手が良いが、汚れ易いのでもう少し欲しい」と、帝国産の布等の材料を渡してお願いしたら、早速作ってくれた。
普段使い出来そうな簡素な白手袋の他に、薄く繊細な帝国産生地を使った夏向きの品と、細かな刺繍入りで豪華な儀礼用、柔らかな仔羊の革手袋と、防寒用のしっかりと厚い毛皮の袋状のもの、恐らく乗馬用と思われる頑丈なものが納品された。
いずれも白色か白っぽく薄い色だ。少しの狂いも無く寸法ぴったりで、作成に気合いが入っているのを感じる。素晴らしい出来だっただけでなく、仕上げるのも早かった。
納品と同時に上がってきた報告にも、「物作りは楽しいです」とあり、彼等は職人ごっこが大層気に入ったようだ。
余談だが、彼等の弟子入り効果は凄まじく、更なる弟子入り希望者と顧客が増えたらしい。
これならば子爵令嬢の注文を受けても大丈夫と思ったので、すぐ支店のオラニオへその旨の連絡をした。
オラニオの動きは早く、早速魔族の職人を連れてエレガーティス子爵家へ出向いて行った。その頃には、もう秋も半ばを過ぎていた。
後日、子爵令嬢は、麗しい魔族の職人が恭しく手を取って採寸したり、我が侭な注文を笑顔で受け取るのに大層ご満悦で、気前良く大金を支払ってくれました、とオラニオが報告してきた。
彼女が作らせた五本指手袋は、薔薇色をした華やかな品だというから、派手な付け袖にも負けず、とても目立つに違いない。
しばらくすると、王都とその周辺で貴婦人の手袋が流行り始めたそうだ。
カシィコン伯爵夫人のアミーナさんから貰った手紙に、王都の流行り物について、そう書いてあった。
約束通り、伯爵対策の仲良し証明でもある手紙交換が、私達の間で続いている。
彼女の手紙で知った話では、私の店が宣伝せずとも、エレガーティス子爵令嬢が勝手に手袋を自慢してくれたらしい。
アミーナさんは文中で、「令嬢のお友達が、お付き合いで真似をしたせいかもしれないわ。私は流行る前の昨年からルフェイの手袋をしてますし、私の方がずうっと早かったんですけど」と、謎の張り合いを見せていた。
また、王都のとある服飾店が、続いて薄手の布製手袋を売り出したとかで、平民の富裕層にも広まってきているそうだ。
……そういえば王宮へ行った際に空いた時間で王都を散策していて、お喋りな仕立屋の主人につかまって、手袋を見られたことを思い出した。きっとやり手な人だったのだろう。
手紙から顔を上げて、王都の流行をそばに居た侍女に話すと、「領内でも服飾小物系の仕事は活気があるようですよ」と、返ってきた。
ルフェイ領では、私が職人に毎年手袋を作らせていたせいで、何となく手袋が人気になっていた。だが、最近ではそれも落ち着いてきて、今度は手袋以外の小物作りが増えているそうだ。
平民の手袋は、親指とその他の指の袋で構成された筒型が多い。それと一緒に、帽子や頭巾、靴下止め、飾り帯や腰に付ける下げ袋などが、盛んに作られているという。
お陰でここ数年、領内の布や糸、毛皮と革の値段がじわじわ上がっているし、地味に羊を飼う農家が増えたとか。
そんな話を聞いたら、ちょっと興味が出て来た。
思えばここしばらく屋敷に籠もりがちで、ルフェイ領の本店にしか顔を出していない。
今は領外の支店や仕入れ先へ行けないのだから、ここは逆に良い機会だと考えて、一度じっくり町の店先を見てこようか。




