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零&ユラ編 3

「ちゃんと狙って !焦らなくていいから !」

「わ、分かっている !………………一センチ下…………一センチ…………下…………」

スコープを覗きながら、焦らないように自分に言い聞かせる。

「今 !」

零の声に反応して、グッと引き金を引く。その瞬間、反動と共に、鉛の弾丸が飛んでいき、ゴブリンの眉間を撃ち抜く。それと同時に、クエストクリアのファンファーレが聞こえた。

「うーん…………なんか、ユラって、ホントに前衛向きだね。一発撃ったあとの弾の再充填が遅すぎる。それに、狙いをつけるのも遅い。あの状態で1人になったら間違いなく殺られるよ。」

「すまない…………前から、遠距離武器の練習をしておけば良かった………………。」

報酬品を袋に詰め、クエストを後にする。今日は、ユラが後衛にまわり、スナイパーライフルの練習を行っていた。

初めてスコープを覗き、弾を装填し、引き金を引いた。

なんとか勝てたものの、思っていた通り、自分より圧倒的に後衛経験の多い零にけちょんけちょんに言われ、げんなりするユラを見て、零も困った顔で頬をポリポリとかく。

「…………まぁ、僕も悪いよ。ユラの意見聞かずにことを勧めちゃったし。どうする ?普通に前衛にする ?」

「……………………」

悩む。普段なら、即答で

「前衛に戻らせてもらう。」

と言えるのだが、そう言った瞬間に、自分が負けた気がして気に食わない。自分はそんな弱かったのかと、自分自身を責めたくなる。しかし、今日の様子からして、1ヶ月くらいでなんとかなるかと言われれば、無理だ。けれど、零の言葉通り、前衛ばっかりだと、零のようなスナイパーにボロ負けしてしまう。

そう思って、腹をくくり、零に言った。

「………………いや、また明日も、ライフルの練習をしたい。いつもお前に助けられてばかりだからな。今度は、絶対にわたしがお前を助けてやる。」

「お ?ユラ、やる気出てきたんだ。良かった、ここで、後衛やめるとか言われたらどうしようかなって思ってたんだ。OK。じゃあ、僕も全力で教えてあげる。」

いい雰囲気になってきて、辺りが真っ暗に染まったところで、零が驚きの事を口にした。

「ねぇユラ、今日、僕、まだ宿とってないんだけど、どうしよう。」

「………………は ?」

「は ?じゃなくて、僕宿とってないの。」

頭の回路がショートして、何を言っているのか分からなかったが、ようやく意味を把握できた。

つまり、自分達は今夜野宿せざるを得ない。急いで時計を見ると、午後20時14分。こんな時間まで受付を行っている宿はそうそうないだろう。あるとしても、部屋代が高い、高級ホテル。無論、自分達にそんな部屋に泊まれる金はない。

「おい !なんでそのことを早く言わなかった !私達、この街中で野宿するのか !?」

「そ。たまにはいいじゃん。」

「私は嫌だぞ !?一日のシメは風呂だろ !風呂に入らない日常なんて、考えたくもない !」

「そんなこと言っても……………」

肩を掴み、ブンブンと零を揺さぶる。白い髪をフヨフヨさせながら、零は口ごもっていたが、ユラの目の前で、チケットを2枚取り出す。

「なーんてね !ちゃんと宿はとってあるよ。けど、少し遅くなっちゃったなぁ。急いで戻らないと。急ご。」

「まったく…………次やったら、許さんからな。」

「分かってるよ。」

急ぎ足で宿へと向かい、用意された部屋のベッドに腰を下ろす。

「フゥ………………あ、夕食行こうよ。まだ食堂やってるらしいから。」

「そう…………だな。私たちの他には、もう客はいなさそうだしな。」

部屋に鍵をかけ、食堂へと向かう。夜の21時02分だが、食堂は酒を飲むプレイヤー達で賑わっていた。席につくと、すぐに店員がお冷を持ってやって来て、注文を聞く。

「ご注文は ?」

「カルボナーラで…………ユラは ?」

「ゴーフのステーキを所望する。デミグラスソースでな。」

「かしこまりました。では、少々お待ちください。」

店員が店の奥に引っ込んでいって、一息つくと、零が水を飲みながら尋ねる。

「そう言えば、ユラって現実リアルだとどうだった ?学校とか、日常生活とかさ。」

「そう言うお前はどうだったのだ ?リオと部屋を共にしていたのだろう ?」

零が話そうとすると、店員が熱々の料理を運んできて、ジュウジュウと音を立てながら、ユラの目の前にゴーフのステーキがドン。と置かれた。次に、零の前にクリームソースの匂いだけでも美味しいカルボナーラが置かれる。

「お待たせしました~。ゴーフのステーキと、カルボナーラになります。」

「スマン、“シアン”はあるか ?」

「ありますよ。追加で ?」

「あぁ、一つ頼む。」

「“シアン” ???」

首をかしげる零に、少し優越感を覚えて、ユラは得意げに説明を始める。

「“シアン”と言うのはな、アルコールがないのに、酔った気分を味わえるという飲料だ。《アルカディア》にいた時、フラムに勧められて飲んだことがある。」

「へぇー。そんなものがあったんだぁ…………知らなかった…………ん ?あ、ゴメン。知ってた。《アナザーヘヴン》の時に誰か飲んでた。」

「そうか………………」

やはり、やり込み具合には、自分と零では大きな差がある。零が知らないことより、自分が知らないことの方が多いだろう。そのことを実感させられながら、ソースのかかった肉を切り分け、口へと運ぶ。口の中で肉汁が舌に広がり、デミグラスソースがさらに追い打ちをかける。

「ふまい、うん、ふまい。」

「美味しーね~。」

お互い幸せそうに食べているところに、“シアン”が運ばれてきて、ユラは手馴れた手つきで蓋を開け、グラスに注ぐ。シュワシュワと炭酸を放ちながら、淡い水色の液体がグラスを満たしていく。

「これだ………………この色が私は好きなんだ。キレイだからな。」

「確かに。僕も好きだな。」

グラスを傾け、“シアン”を喉に通す。シュワシュワと炭酸が弾け、爽やかな後味が口に広がる。

「あ、そうだ。ユラ、現実だとどうだったの ?」

「ん…………まぁ、普通だ。顧問に勧められて、女子バスケ部のキャプテンを務めていた。それで、生徒会役員にも抜擢され、このまま行けば、志望校の綾泉りょうせん大学に、学校長推薦で行けるはずだったが、今はコレだ。勉強もできんし、元の世界へ帰る術も知らん。これは、現実に戻ってから取り戻すのに骨が折れるな………………私の話は終わりだ。零、お前はどうだった。」

「僕も普通かな。文芸部に入ったけど、部長は他のクラスのゲーム嫌いで、本の虫だからまぁなんとかなるでしょ。みたいな感じ。勉強とかは、至って平均より少し上くらいの点数はとれるから、それでいいかなって思ってる。大学は渓稜けいりょう芸術大学の、ノベル専攻学科にするつもり。」

「そうか…………小説家でも目指すのか ?」

「うん。ユラは ?」

「私は数学か科学の教師にでもなろうか。と考えている。綾泉なら、数学及び科学の高校教諭免許が取れるからな。」

「考えてるね。やっぱり、推薦を受けるなら、そういったことも調べなきゃダメだよね。」

「あぁ。そうしないと、面接で失敗するらしいからな。お前は大学の入学はどうするつもりだ。」

「僕は本来なら指定校推薦。けど、どうなるんだろうね。分かんないや。」

「そうだなぁ………………ふぁ、ぁぁ…………」

ステーキを食べて、“シアン”を飲みながら零と話しているうちに、頭がポーっとしてきた。それに、眠気が段々と近づいてくる。

「おーい。ユラ~。」

「んぁ ?」

(誰だ…………コイツ…………)

「ユラ、もしかして酔ってる ?」

「私はァ、酔ってにゃどいない !」

「酔ってるでしょ。顔赤いし、ろれつ回ってないし。部屋行こ。」

ステーキの一欠片を口に放り込み、零におぶられて、食堂を後にする。

(まさか、グラス一杯でここまで酔うとはねぇ………………)

部屋の鍵を開け、ユラをベッドに乗せる。その後、どうしようかと思って部屋を出ていこうとすると、ユラの苦しそうな声が耳に入る。

「……………………気持ち悪い…………。」

「ハァ…………ほら、胃薬。飲めば楽になるよ。」

アイテムメニューから素早く胃薬を取り出し、ユラに飲ませる。ユラは、少し苦しそうだったが、落ち着いたようで、またベッドに横たわる。

(明日は、一日安静だな、この様子じゃあ…………)

そう思って、立ち上がり、水を持ってこようとしたら、お腹の所に、ユラの両腕が回っていた。

「ユ、ユラ ?」

「…………………………」

「あ、あのさ、僕、水取りに行きたいんだけど………………」

「…………………………」

返事は帰ってこない。それどころか、両腕に力が入ってきているようで、少し息苦しい。

「ユラ ?ホントにどうしたの ?」

振り向いた瞬間、ユラの顔が目の前に現れ、自分の唇に、柔らかい何かが重なった。

「………………… !?!?!?」

少したって、それが接吻だと気づいた。平たく言うと、キスされた。

「ん !?んー !」

驚きの声を上げると、そのままベッドに押し倒されてしまう。両手首を押さえつけられ、口の中に暖かく、ヌルヌルしたものが入り込んで、口の中を這いずる。

「ふぁっ…………ん、んんっ…………」

(お、襲われてる…………襲われちゃってるよぉぉぉ………………)

手首の一つが自由になったと思ったら、また押さえつけられ、ユラの片手が、袴の帯を解く。

「ふぁ !?や、やめ…………」

「イヤだ…………」

「わああ !?」

袴を脱がされ、サラシ越しにユラの手が忍び寄ってくる。

「ちょ、ヤダ………………んひゃう !」

体をよじり抵抗すると、スルッと両手が自由になり、ユラがボフンと零の体に倒れてくる。

「 ???」

「フゥ……………フゥ……………」

少し苦しそうだったので、急いで帯を締め、ベッドに寝かせる。

「ハァ…………未遂で済んでよかった…………」

(でも、ちょっと惜しかったかも…………)

結果、いつユラが吐くか分からなかったため、零は寝れなかった。

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