零&ユラ編 4
「ん………………」
(頭痛い…………昨日、私は…………“シアン”を飲んで…………零におぶられて…………)
眼を開け、体を起こすと同時に主張してくる頭の痛みを感じながら、ユラはベッドの電気スタンドの近くに置かれた水を飲む。そして、隣のベッドを見ると、大きく大の字にベッドに寝転がる零の姿を見つけた。朝の冷えた空気の中で、よく寝ることが出来たものだ。と思いつつ、体を軽くゆする。
「零、起きろ。もう朝だぞ。」
「んん~~…………っふぁ !?ユ、ユラ !?」
声をかけ、体を軽くゆすっただけで、ここまで驚かれるとは思わず、びっくりして手を引っ込める。
「ど、どうした………… ?」
「え…………いや、なんでも…………ない。」
零は、頭を抱えて、布団に潜り込む。どうしたのだろうか。
「どうした、具合でも悪いのか ?」
額に手を当てると、ものすごく熱い。
「お前、完全に風邪を引いたな !?と、とりあえず、冷やさなければ…………零 !今はどんな具合だ !」
「寒い…………頭痛い…………だるい………………。」
自分の頭痛は既に遠くへと吹き飛んでおり、ユラは急いで洗面器に水を満たし、零のベッドの電気スタンドに置く。手元にタオルがなかったので、ハンカチを広げ、濡らした後に折りたたんで、零の額にはりつける。
「フゥ…………ん~~…………」
「零、何が欲しい ?」
「…………水。」
「分かった。」
冷蔵庫からペットボトルを取り出し、キャップを開けて、零に手渡す。零は、ヨロヨロと起き上がり、水をコクコクと喉に通す。
「っぷァ…………ありがと…………少し楽に、なったかも…………。」
淫らな顔のように、顔を赤くし、目元がトロンとした顔で水を飲む零の唇がキャップから離れる様子を見て、ユラは昨日何があったのかを断片的に思い出し、宿の窓から飛び降りたくなる衝動に駆られたが、なんとか必死に押し止めた。
「そ、そうか…………まぁ、今日一日はお前はここで安静にするしかないようだな。ちょっと待っていろ、オーナーに話をつけてくる。」
「ん…………ゴメン…………。ありがと…………。」
モソモソとベッドに潜る零を背に、ユラは部屋のドアをゆっくり閉め、下へと降りていった。
「待たせた。オーナーが、治るまで居て良いそうだ。宿泊代も、払った分だけでいいらしい。」
「そっか…………良かった…………。」
ハンカチを冷やしなおし、はりつける前に額に手を当てると、さっきよりは良くなってきているようだ。その事に胸を撫で下ろし、話をつけてくれたオーナーが渡してくれたホカホカのお粥を、アイテムメニューから引っ張りだし、自分のベッドの近くの電気スタンドに置く。
(昨日、なんてことをしでかしたのだ……………………私は…………………)
酔って、介抱してくれた零に、接吻をし、交わろうとしてしまった。《アルカディア》時代は、フラムに襲われそうになった事があるが、自分がそうなるとは、夢にも思っていなかった。
「ユラ…………」
「ん ?」
「朝ごはん…………食べてないでしょ ?…………食べてきなよ、僕は、今だいぶ楽になったから…………」
「分かった。だが、すぐ戻るかもしれん。私も頭が痛くて、あまり食欲ないからな。」
細く返事をした零の口に、ユラはぬるくなったお粥を入れる。
「んぐ…………食べさせるなら、一言いってよ。」
「スマン、どう声をかけたら良いか、分からなくてな。」
「“はい、あーん。”でいいじ」
「断る。そこまでキラキラしたカップルではないだろう、私たちは。」
「というか、僕たちってカップルなの ?」
「知らん。」
「だよね。」
「うむ。」
「知ってた。」
「………………やめるか。」
「やめよう。また頭痛くなってきそう。」
ユラは、部屋を出た後、食堂でパンを焼き、すぐにたいらげると、すぐに部屋に戻り、ベッドに座り込む。
「熱は…………下がってきているようだな。水、いるか ?」
「うーん…………飲んどく。ちょうだい。」
まだ顔は赤いが、トロンとしていた目元はしっかりとし、少しづつだが、回復していることが見て取れた。
「まさか、昨日あんなユラが見れるとは思わなかったなぁ。」
「何の話だ ?」
「ありゃ、覚えてないか…………まぁ、それが一番幸せだろうね。」
「………………スマン、あの時は本当に酔っていて、何をしているのか、自分でもよく分かっていなかった。」
「なんだ、知ってたんじゃん。襲われちゃった。ファーストキスも持ってかれたし。フフ………………でも、ユラだったら、持っていってもいいかな。好きだし。」
「ッッ………………そうか……本当に、すまなかったな。当分、“シアン”は控えた方がいいな。」
「ユラ、絶対、現実でもお酒弱そう。実際、僕はお酒すっごい弱いからさ。匂いだけでフラフラした事があるもん。」
「お前、それをまだお茶が好きなのか ?」
ベッドに寝転がりながら尋ねると、零は体を起こし、水を1口飲んで、頷く。
「大好き。だって美味しいじゃん、緑茶、抹茶、ウーロン茶…………今どきの若者はね、ジュースとかじゃなくて、お茶を飲むべきだよ、お茶。いくら飲んでも体に悪い訳じゃないし。すごく美味しいし。」
「…………お前がそこまでお茶好きだとは、考えていなかった。」
「そう ?」
頷いて、頭痛に効くという粉薬を水に溶かして流し込む。思った以上に苦かったが、すぐに水を追加で流し込んで、味を薄めた。
「それはそうと、具合はどうだ ?」
「う~ん…………良くは、なってきたかも。」
額に手を当て、水がなくなったペットボトルを差し出しながら、零は言う。ユラが手を当てると、確かに熱は下がっている。これなら、明日には普通に動けているだろう。
「ほら、水だ。」
「ありがと。そういえば、お茶とかないかな ?」
「ない。コーヒーならあるぞ、飲むか ?」
「今はいらない。あ、そうだ、ユラって、コーヒー飲む時って無糖派 ?それとも微糖派 ?」
「私は断然、無糖派だ。お前は ?」
「僕も無糖派。砂糖入れると、なんか…………う~ん、不味くなるっていうか、味が変になっちゃうからね。」
「そうだな。リオはコーヒーにミルクを入れてよく飲んでいたがな。今は知らん。」
「あ、そうなんだ。」
あーだこーだ話しているうちに、日が傾き、夕食を食べたユラはお粥を零に渡した後、すぐにシャワーを浴びてベッドに入り、気持ちよく眠った。
零は、お粥を食べた後軽くシャワーを浴び、水を1口飲んだあと、ゆっくりと眠りに入っていった。
「昨日は、ありがとうございました。」
朝、すっかり風邪が治った零とユラは、宿の入口でオーナーにお礼の言葉を述べた。ふっくらとした顔の女性オーナーは、さっぱりした様子で答える。
「いいっていいって !それじゃ、また来てちょうだいね !待ってるわ !」
「それでは、失礼する。」
オーナーに見送られ、二人は(ウナム)の街の門を潜り、別の街を目指して、歩き始めた。




