お茶会
浅黄色を主体とした布地にレースをふんだんに使ったドレスを身に着けドレスの色に合わせて作った髪飾りを挿し、出来上がった二人の装いはサイズと胸元のデザインが少し違うだけの対のドレスだ。
隣に立つマリアは嬉しそうに顔を綻ばせドレスの裾を摘まみ足を軽く曲げる。
「今日は招待して頂きありがとうございます。ミリヤ様」
「ふふ、楽しんでいってねマリア様。ティーネもあなたが来るのを首を長くして待っていたのよ」
「マリア!会いたかったわ!」
緩やかな波をうつゴールデンブロンドの髪を持つミリヤ・デスタント伯爵令嬢の背中からひょっこりと顔を出した同じ髪を持ったマリアと同年代の少女が元気よく声を上げた。
少女の出現にマリアは瞳を輝かせ笑顔を向ける。
ミリヤは少女の行動に顔を顰めたが直ぐにしょうがないとため息をつき苦笑してサリアナに謝罪の視線を送った。
「ティーネっ、私も会いたかったわ。今日は宜しくね」
「見せたいものがいっぱいあるの!お姉さま、マリアを連れて行って良いでしょう?」
「あなたって子は、ごめんなさいねサリアナ」
「良いのよ。マリア、余り迷惑を掛けないようにね」
「はい、お姉さま」
サリアナの言葉に頷いて返すとマリアはティーネの手を取り仲良さ気に屋敷の中へと早足で入って行った。
一緒に来ていた侍女の一人をマリアと一緒に行くように目で伝え、サリアナはミリヤの案内で居間へと向かう。
「隣国から珍しい茶葉が手に入ったの。気に入っていくれると良いのだけど」
「まぁ、隣国から?貴重なものなのに良いの?」
「もちろんよ」
侍女たちが今日の為に整えたテーブルに腰を下ろし隣国の茶葉の説明を受けながら香りを楽しみ、他愛無い話でクスクスと笑いあっているとミリヤが思い出したかのように言った。
「そう言えば、リンディのお見合い今日らしいわ」
「リンディが?」
ミリヤの上げた名前はこのお茶会にもよく参加していたミリヤと同じ伯爵令嬢の名前だった。
もう一人、侯爵令嬢がいるのだが今日は欠席すると前もって聞いている。
名前が出たリンディは来ると思っていたのにいなかったのでどうしたのかと思っていたが、それが理由らしい。
「そう、なんでも昔馴染みらしいのだけど急に決まったとかで手紙に愚痴がいっぱい書かれてあったわ」
「ふふ、リンディらしいわね」
「笑い事じゃないわよ?愚痴っていてもただの惚気よ、の・ろ・け!読んでいて胸焼けするかと思ったわ」
舌をペロっと出して眉を寄せるミリヤにサリアナは笑いが止まらず肩を揺らし、手紙の内容とその時のミリヤを思い浮かべた。
「まぁ、惚気れるだけ良いわよねリンディは」
「ミリヤ?」
笑うサリアナを眺めて微笑してからふぅっと疲れた様子でため息をつくミリヤに小首を傾げる。
先程まで楽しそうだったのになんだかやさぐれたような空気を醸し出し「けっ」と貴族令嬢としては品位の欠ける態度に少しだけ戸惑う。
ミリヤがこのような態度になるのは珍しくない、妄想談義をしている時などに良くしていたので見慣れてはいる、しかしどうもいつもとは違う感じがした。
ミリヤはサリアナの心配する視線に苦笑し実はと喋り出す。
「私もお見合いしたの」
「ミリヤも?」
「そう!お父様がしろって五月蠅くて仕方なく……そしたら、来た相手がすっごく軽い感じの方でヘラヘラしてるし口が上手い男だったのよ」
「……それって、良くリンディたちと話した近寄っちゃいけない男性の項目に当て嵌まるわね」
「ええ、お父様を恨みそうになったわ」
ミリヤの目に殺気が籠った気がする。
「じゃあ、その方とはもう会わないの?」
「いいえ。そう言う訳にもいかないのよ、向こうが何故か乗り気らしいから」
「なにがあったの?」
嫌そうに話すミリヤの言葉にサリアナが疑問を持ち質問するとふっと意味深に笑った。
大人しそうな容姿に反しミリヤはこの集まりの中で一番行動力に溢れる人だ。
そして相手が男だろうがなんだろうが考えるより手が出るタイプの直情型、サリアナはひくりと口元が引き攣るのがわかる。
「無遠慮に肩を触って来たから鳩尾に一発食らわせてから、今度許可なく触ったら切り落とすぞって言ってやったわ」
「……」
ああ、やっぱりか。
ミリヤの肘を諸に受けたであろう相手の男性に合掌し痣になっていないことを祈る。
顎を上げ誇らしげに言い切ったミリヤにサリアナは何も言えなかった。
普段ならミリヤたちの暴走を止めたり窘めたりする役目をサリアナが担っている、けれど今回はサリアナも状況は少し違うが同じことをしているので口を閉ざすしかない。
「それがツボに入ったとかで今付き纏われているのよねぇ」
「そ、そうなの」
変な性癖持ち主に好かれたのではと心配になったが、他家のことで深く立ち入れる立場にないサリアナはティースタンドにあるお菓子を食べるミリヤに無難な言葉を返すことしか出来なかった。
それよりも、サリアナは気になることがあった。
今更聞くには恥ずかしいと思う気持ちと聞いておかなくていけないのではと言う気持ちがせめぎ合い、最終的に後者が勝った。
さり気なさを装い、自然な流れを意識してミリヤに問いかけた。
「あの、前から一度聞きたいと思っていたのだけど……」
「なにかしら?」
「切り落とすって男性の手首のことよね?」
「え゛?」
照れを押し隠して聞くサリアナに可愛いと思う気持ちより衝撃を受ける質問の内容にミリヤの表情が引き攣った。
「ち、違うの?」
ミリヤの反応にサリアナは最初のお見合いの時を思い出そうと記憶を探るが驚いた様子のグレイブと応援する侍女、そして怯えたコーリエの姿が浮かんだ。
あれは手首が斬られることに対する恐怖ではなかったのだろうか。
戸惑いを隠せずにミリヤの答えを待っていると言いにくそうに伝える言葉を選びながら教えてくれた。
「あのねサリアナ、この場合手首はどうでもいいのよ。私たちが危険な目にあったら言うべきねって言ったあの言葉の意味は男性の、その、大切な場所を指しているの」
「そう、大切な場所なのね……それってどこなのかしら?」
しかしサリアナは意味がわからず不思議そうにミリヤを見た。
「ぐ、さすが公爵家の銀の乙女と呼ばれるだけはあるわね」
レイルに聞いてみたほうが良いのかしら、そんなことを思っているとミリヤが手をちょいちょいと動かして今度はサリアナの耳元でわかりやすく丁寧に教えてくれた。
最初は真剣に聞いていたサリアナの顔が徐々に赤く染まって行き瞳がオロオロと彷徨い潤みだす。
全身真っ赤にしたサリアナを見たミリヤは苦笑気味に肩を叩いて宥める。
その瞳はどこまでも生暖かい。
(わっ、私っ!なんてっ――なんてはしたない事を言ってしまったの!?で、でも、あの時はマリアのことしか考えられなくて、ミリヤたちの言っていた言葉を思い出して言ったのに……ああ!今度会う時にどんな顔をして会えばいいの!)
次にグレイブに会う時が今から恐ろしい。
意味がわかっていなかっとはいえ、何度も念を押すように言ってしまった。
きっと品のない女だと思われたに違いない。
羞恥と後悔から半泣き状態になったサリアナの頭をミリヤがよしよしと撫でた。
「サリアナってば意味がわかってないのに聞き流す癖があるわよね。今度わからない時はちゃんと聞いてね?」
「え、ええ」
ありがたい友人の気づかいに頷きはしたが時すでに遅し。
(もう言った後なのよぉぉぉぉ!!)
感情に支配されていたからと言って言うべきではなかった。しかもこれからも会い、サリアナを好きになって貰わなくてはいけない相手に。
ミリヤ達が盛り上がっているなか水を差すのもあれだと遠慮して結局そのままになっていたと言う。
ただ、その言葉が効くのか程度の認識だった。(笑




