騎士団訪問
ミリヤとのお茶会から数日、己の行いに何度恥じたかはわからない。
だがしかし――。
(言ってしまったものはしょうがないわ……)
開き直ったと言われればここは胸を張ってそうだと答えよう。
サリアナは先触れもなく訪れた騎士団の詰所の前に立っていた。
騎士団の詰所前には二人の警備兵が立っておりこの場に似つかわしくない令嬢の訪れに不躾にならない程度の視線が向けられる。
小振りのバスケットをしっかりと握り締め後ろに控えるミラと共に二人の騎士へと声をかけた。
「あの、ソルドバーレイ様にお会いしたいのだけど、取り次いでもらえるかしら?」
小柄な少女の言葉に二人の騎士は目を見合わせ何や無言で会話している。
左側に立つ、茶色い髪をした騎士が眉を下げ困った表情を作った。
「あー。悪いんですがうちはそう言うの受付禁止なんで、帰って下さい」
次いで右側に立つ蒼い髪の騎士が威圧感たっぷりに喋る。
「ここは神聖なる騎士団の詰所だ。余所でやれ」
取りつく島のない二人の様子にサリアナは押し黙りバスケットに視線を下ろした。
せっかく朝早く起きて渋るグースを説き伏せて作ったサリアナの初めての手料理が詰まっている。
前もって約束していたわけでもないから入れないのは仕方がない。ここは諦めるか。
この様子ではバスケットを渡してくれと頼んでもグレイブの元へすんなり通るとも思えない。
さすがに勿体ない気がしてバスケットをジッと見ていたら茶色い髪の騎士がまた話しかけてきた。
「ソルドバーレイ隊長に恋でもしちゃったの?止めときなってあの人女に興味ないから」
「おい、滅多なこと言うな」
「だってそうじゃん。悉く家から持って来たお見合い話蹴ってるし、仕事に生きてますって人だろあの人」
「それは、そうだが……」
茶色い髪の騎士の言葉に蒼い髪の騎士が難色を示すが気にせず手を軽く振って話を続ける。
二人の会話にサリアナは顔を上げ話しに割り込んだ。
「あの、何度もお見合いを断ってらっしゃるの?」
「ん?ああ、そうだよ。中にはすっごく美人もいたんだけどねぇ」
「すっごく美人」
「そう、グラマスな超いい女。俺なら泣いて喜んだね」
「おいっ」
意地の悪い言い方に蒼い髪の騎士が窘めるように声を上げた。
しかしサリアナの耳には騎士たちの会話は聞こえておらず、考え込むようにまたバスケットに視線を下す。
「そんな方に靡かないなんて、やぱっり小さい子が好きなのね……」
ボソッと呟いたサリアナの言葉に二人の騎士はん?と首を傾げた。
「でも、どうしましょう。せっかく作って来たのに」
「悪いけど受け渡しもしてないからね」
「ええ。それはなんとなく、……少しでもあの方の事を知れればと思ったのだけど無駄足だったわね」
顔を上げ騎士団の詰所を見上げたサリアナと丁度窓のそばを通るコーリエの視線がかち合った。
驚きに見開かれるコーリエの眸にどう返したらいいか悩んだのは一瞬だった。
手を軽く振って挨拶するとサリアナは身を翻し詰所から離れようと動き出す。
サリアナのその動作に騎士たちも上を見上げていたが窓の向こうのコーリエの慌てっぷりを見て訝しむ。
何をそんなに慌てるのか。
少女の方へ視線を戻せば既にそこには居なかった。
何処に行ったと辺りを見渡せば侍女と共に騎士団の敷地から出て行くところだ。
「なんだ?」
「さぁ?」
要領を得ない二人は不思議そうに少女を見送っていると詰所から駆け出していく背中にキョトンとした。
「ロンブル様!お待ちを、お待ちください!」
「コーリエ、そんなに急いで来なくても良かったのに。私ならもう帰るわ」
「せっかく来て頂いたのに帰したと主に知られれば私が怒られます」
「でも、あの方々がダメだと」
「それは、何も言ってないからでちゃんと許可を取れば通れますよ」
兎にかく帰すまいと微笑しサリアナの言葉を封じていくコーリエは腕を前に出し誘導してくる。
ミラを振り返れば笑顔で頷くので、これはコーリエに乗っかれと言う意味だろう。
来た道をもう一度進みあの騎士たちの前に来ると戸惑った様子が見受けられた。
「おい、何考えてんだ」
「そんな申請受けてないぞ」
「悪いねお二人さん、うちの主様の一大事何でここは目を瞑ってくれると助かる」
「は?」
「え?」
コーリエの言葉に今度は困惑と驚きが混ざった表情でサリアナの方を見る。
そんな目で見られてもこっちが困る。
騎士達の間を通り抜けコーリエの案内の元、サリアナは騎士団の詰所内部へと入ることに成功した。
廊下を歩いているとすれ違う騎士たちの好奇の目がサリアナに向けられるが声を掛けて来るモノは一人もいなかった。
三階の奥から二番目の部屋の前で止まるとコーリエが扉をノックする。
「グレイブ様、お客様です」
「誰だ。今日は忙しい帰せ」
何とも素っ気ない返答だ。
しばし沈黙が支配する。
サリアナはコーリエにバスケットだけ渡して帰ろうかと思案しているともう一度ノックする。
「グレイブ様、お客様だって言ってるんですけど?」
「俺はいま書類を読むのに忙しいって言ってるだろ」
「……コーリエ、やっぱり帰るわ」
「え!?そんなこと言わないで下さい、直ぐに開けさせますから!」
バスケットを預けようと持ち上げたるのと部屋の中で何かが凄いもの音を立てたのは同時だった。
その音に顔を扉の方へ向けるとガチャガチャと鍵が開けられる音が聞こえてくる。
コーリエはその音に一歩、サリアナから遠のき扉の視界から外れた位置に立った。
勢いよく開かれた扉から騎士服を着崩したグレイブが飛び出してきてサリアナと対面する。
「こ、こんにちわ」
「……ロンブル嬢?」
いつも襟元までキッチリと留めているのに、今は第二ボタン、いや第三ボタンまで開けてあってグレイブの鎖骨が見えた。
信じられないモノを見た表情のグレイブは黙ってサリアナを見下し言葉を探しているようにもみえる。
「あの、突然来てしまって申し訳ありません。ヌイグルミのお礼をと思って持ってきたんですが、実は初めて料理を作ってみたので不味いかも知れませんが宜しかったら食べて下さい」
「料理?俺に?」
グレイブの視線がバスケットへと下りた。
こくりと縦に頷くサリアナにハッとしてグレイブは乱れた服装を直しにかかる。
部屋の中も肩越しに確認しある程度綺麗だと判断するとサリアナを部屋の中へと招き入れた。
(ソルドバーレイ様が俺って言ったの初めて聞いたわ)
備え付けられている簡易のソファーに腰を下ろし座る場所が執務机の椅子か同じソファーしかないのでグレイブは拳一個分離してサリアナの隣に座った。
書類が置かれた机をコーリエが手早く直しお茶を淹れて来ると言い置いて部屋を出て行く。
ミラはさっきからずっと黙って部屋の隅に待機している。
「お仕事、お忙しのに時間を取らせてしまって」
「いえ。あれは厄介な書類を持ってこられないように立て籠もっていただけなので大丈夫です」
「え?」
首を横に振り否定するグレイブを見上げれば冗談を言ってるようには見えない。
意味がわからず黙り込んでいるとそこへお茶を手に戻って来たコーリエが話しに加わった。
「グレイブ様は隊長とは言え若いですから、大量の仕事を押し付けられたりするんです」
「まぁ、そうなのですか?」
「ええ。あのクソじじい共は俺を泣かせたくてしょうがないんですよ」
「グレイブ様口調」
「あっ」
口元を大きな手で覆い目を逸らすグレイブはしまったと顔に出ていた。
その様子をジッと見つめるサリアナの視線に居心地悪そうにしていたが無視である。
そんな二人の様子にコーリエは盛大なため息をついて肩を竦めた。
「もうヘタに繕うの止めたらどうです?」
「五月蠅いぞコーリエ。ちょっと黙ってろ」
険のある態度にも臆することなくコーリエは肩を竦めミラの隣に立った。
「……すみません。どうも騎士団にいると口調が荒くなってしまって。最初のお見合いの日、あの日にあなたを怒らせてしまったのでこれ以上不愉快な思いはさせまいと思っていたんですが……」
自分のテリトリー内だと気が緩んでしまってと言葉を濁すグレイブに何度も瞬きをして見つめる。
「あの、一つ聞いても?」
「なんですか?」
「あのクマを選んだのは何故なのですか?」
「……」
サリアナの質問にグッと黙り込んだグレイブは言いよどんだ後、顔を逸らして教えてくれた。
「店先にあのクマが置いてあって、あなたに似合うなと……」
「私、十五なのですけど?」
「可愛いものには年齢は関係ないです」
何故かそこだけ真顔で言い返されサリアナは何も言えなくなった。
グレイブ、ちょっとキャラ崩壊ですかね?




