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お見合い再び2



「先日は、あのような振る舞いをしてしまい申し訳ありませんでした。異母妹や弟のことになると黙っていられなくなってしまうもので……お許しになって下さいますか?」


サリアナの考えていた出だしはこうだった。

申し訳なさそうに眉を下げ視線を合わせずに微笑、か弱いご令嬢を前面に出した必殺技。

我が家では幼い頃からコレをすれば大概の使用人たちも、そして父と弟もコロっと許してくれるサリアナのとっておき。

異母妹の事があってからはしていなかったが、この技に絶対の自信がサリアナにはあった。

――だと言うのに。


「……これは?」


部屋中に入ったサリアナを出迎えてくれたのは先日もいた従者だった。

そしてその隣にいた標的ターゲットのグレイブ・ソルドバーレイは大きな、それはそれは大きなヌイグルミを片手に立っていた。

言おうとしていた言葉も忘れてそのヌイグルミに視線がいき固まる、サリアナの横でミラが困惑した表情で従者にコソコソと聞いていた。

是非、その問いの答えをサリアナにも教えて欲しい。

グレイブ・ソルドバーレイが何故、ヌイグルミを片手に待ち構えていたのか。

……それにしてもなんて不釣り合いな光景なのだろう。

ミラの質問に微妙な顔をして主であるグレイブの脇を肘で突っつき何かを促す仕草に思わず眉を寄る。

まるでさっさとしろと言わんばかりの行動だ。

顔を少し上げグレイブ・ソルドバーレイに話しかけようかと思った矢先に160㎝はあるクマのヌイグルミが目の前に差し出された。


「先日のお詫びに、気に入って下さると良いのですが」

「……」


愛嬌のあるつぶらな黒い瞳にまぁるいお耳、手触りの良さそうな生地に身を包んだふわふわの綿。

良く見れば首元にはサリアナが今付けているリボンが巻かれている。


(……ぬ、ヌイグルミには罪はないものね)


そのまま放置するわけにもいかずサリアナは引き攣りそうになる口元をしっかり引き上げて手を伸ばす。


「ありがとうございます……」

「後、こちらは妹君に。それからこれは弟君に」

「え?まっ!?おもっ、」

「ソルドバーレイ様!私が、私が代わりに受け取りますのでっ」


ヌイグルミを受け取りお礼の言葉を伝えようとしたら、どこに隠し持っていたのか今抱きしめているヌイグルミより二回り小さなヌイグルミが二つ加算され、その重みに耐えれずサリアナはヌイグルミに埋もれてしまいそうになる。

それを見たミラと彼の従者が慌てて間に入ってくれたが、あのままいけばサリアナはその場で倒れていただろう。

ミラ達の慌てっぷりに流石のグレイブもしまったと思ったのかヌイグルミ(160)をを片手に従者の小言を素直に受け入れていた。


「重ね重ね申し訳ない」

「い、いいえ。私も先日はソルドバーレイ様に失礼な態度を取ってしまいましたもの」


前回と同じようにテーブルとイスが二脚ではなく三脚用意されサリアナとグレイブ・ソルドバーレイ、そしてクマが席についていた。因みに小ぶりのクマはミラと従者が別れて持っている。

二人の前に紅茶の入ったカップと美味しそうなお菓子が並んでいるのがわかるのだが何故かクマの前にもカップが置いてある。

何故?っと疑問を浮かべたが当然のように用意した彼と彼の従者は特に気にした様子もなく普通にしている。

ここは深く突っ込まない方が良いのかもしれない。

視界に入るクマを無視する方向でサリアナはグレイブ・ソルドバーレイに向き直った。


「……」

「……」


向き直ったのはいいが、どちらも喋ろうとせず前の時のように沈黙が部屋を支配し始める。

このままでは前回の二の舞になるのは目に見えている。

サリアナはミラの教えを思い出してその通りにまずは微笑むと会話を試みた。


「こうしてもう一度お会いして下さってありがとうございます」

「いや、私の方こそ手紙を送らねばと思っていたのであの手紙は助かりました」

「そう、なのですか?でも、あのような失礼をして怒っていらっしゃるのではと思っていたのですけど」

「そんなことはない。あの後コーリエ、そこの従者にしこたま怒られましたので」

「え?」


何でもない事のように話す彼にサリアナは思わず従者の方を見てしまう。

コーリエと呼ばれた従者はサリアナの視線に気が付くと深く頭を下げ、壁際にピッタリと寄り添い静かに立っている。


「コーリエは優秀な従者ですが、昔馴染みなもので私に容赦がないんです」

「そうなのですか」


確かにあの日、コーリエはグレイブの言動に頭を抱えたり青ざめていたりと大変そうだった。


「私の発言はあなたの気分を害して当たり前だと、……だから嫌われたかと、思った」


最後の方はボソリと呟かれ聞こえなかったがどうやら彼は反省してるらしい。

こうもずっと謝罪されると元々あった戦意が下がると言うか、最初っから下げられていると言うか。


(な、なんでかしら。私の思い描いていた流れと全然違うわ。最初はスマートに謝罪してそこからこの方を籠絡せんと意気込んでいたのに……なんだか勢いが削がれると言うか、気が削がれる言うか、大型犬の犬が怒られてしゅんっとしているように見えるのだけど……)


敵意や戦意とはまた違う、お腹の底がソワソワするような、手がわきわきしてしまいそうな、何とも言い難い感情が湧き上がってくる。

気持ちを切り替えねば、そう判断したサリアナは紅茶を一口飲んで湧き上がってきていた感情も一緒に流してしまう。

気づかれないように深呼吸をすることも忘れない。


「ソルドバーレイ様のお気持ちはわかりました。あの日の事は、これ以上触れない事にしませんか?今日はもっと有意義に過ごしましょう」

「そう、ですね。今日はあの日出来なかった事をしないと……」


サリアナとグレイブ互いに頷き合い、コホンっとコーリエの咳払いを合図に二人の気持ちの準備が終わった。


(先手必勝!)


前回のように相手の出方を待ってからの怒って退出で終わるのだけは避けたい。

先程と同じく微笑みながらお見合いに相応しい質問をグレイブに問いかけた。


「あの、ソルドバーレイ様はお休みの日などは何を為さっておいでなのか聞いても?」

「……休みの日は、何もせず寝ているか報告書を読んでいるかですね」

「それは、とても仕事熱心なのですね」

「ロンブル嬢は普段何をされてお過ごしに?」


質問を返され無難に回答しかけてテーブルに並べられているお菓子に目が留まった。

次いで思い出す異母妹と弟の姿に無意識に微笑んでいた。


「私は刺繍をしたり読書をしたりでしょうか。後は異母妹や弟と過ごしております」

「仲が良いのですね」


落ち着いた、低めの声が和らいだ気がする。

サリアナはお菓子へと下げていた視線を上げ目の前に座る男の表情に目を瞠る。


(あ、笑った――)


初めて見るグレイブの笑顔に驚いてジッと見ていると直ぐに元に戻ってしまった。

少しもったいない気がしたがサリアナはにこっと笑って話を続ける。


「ソルドバーレイ様もお兄様と仲が宜しいと聞いておりますわ」

「ああ。あれは仲が良いと言うよりは鬱陶しいから無視しているだけです」

「まぁ、そうなのですか?」

「ええ。それに、今は騎士団の独身寮で過ごしています」

「独身寮に?」


この情報には驚いた。

資料には独身寮については何も記載されていなかったからだ。

てっきり自宅から通っているものだとばかり思っていたがそうではないらしい。

そうなると将来的に住む家はどうするつもりなのだろう、浮かんだ疑問が顔に出ていたのかグレイブが直ぐに答えてくれた。


「結婚することになったら自力で家を買いたいとは思うが、きっとあなたの父か私の父が用意するのだと思う。もちろん、あなたに不自由はさせないと約束する。屋敷の中はあなたの好きにしてくれて構わない。私は仕事で家を空けることもあるからずっとそこに住むあなたの気の休まるようにして欲しいと、思っていたんだが……先走り過ぎただろうか?」


未来を想定したグレイブの言葉にサリアナは首を横に振る。

彼はちゃんとサリアナのことを考えてくれている、その気づかいにほんの少し嬉しいと感じてしまった。


(もし、このお見合いが成功したら。この人は、私の夫になるんだわ)


わかっていたことなのにサリアナは軽く衝撃を受けたような気持ちになる。

ならば、異母妹は浮気相手にでも考えているのだろうか、そんな考えが過ぎり緩みかけた気持ちを持ち直した。

最初のラウンド、思わぬ拳を受けてよろめいたがサリアナは気合を再度入れて相手と対峙する。


「では、弟や異母妹が遊びに来た時の部屋も用意しても良いのですか?」

「ああ、構わない。子どもは嫌いじゃないからいつでも来てもらって良い」

「きっと二人も喜びますわ」

「私も早く会ってみたいな……そうだ妹君はヌイグルミなどは好きだったんだろうか?弟君もお揃いにしてしまったんだが」

「……そうですわね、ふわふわもこもこしたものは好きでしたから大丈夫ですわ」


やっぱり異母妹が気になるのか。

湧き上がった感情を誤魔化す為に紅茶で喉を潤す。

この人の気持ちを掴みとる事なんて出来るのだろうか、一瞬過ぎった不安は瞬きをしている間に消える。


「ロンブル嬢」

「はい、なんでしょう?」

「返事は急がなくても良い、ただ、またこうして会ってくれないか」

「……ソルドバーレイ様」

「ダメだろうか?」


眉を寄せサリアナを窺い見るグレイブの赤い眸の中に微かな不安を見た。

ここで断るつもりは元々サリアナの考えにはない。

微笑して小さく頷いて返すと恥ずかしそうに視線を逸らした。


(あの眸が、本当に私だけを見て不安に揺れたなら良いのに……)


お見合いが始まる前の勢いも敵意も萎れてしまったみたいに萎びてしまい己の決意の弱さに舌打ちしたくなった。


(何を考えてるの、私は姉としてあの子を守らないとそれに母の想いを叶えると決めたのだから。これからよこれから)


次に会う約束をしたサリアナは次こそ骨抜きにと拳を小さく作った。

こうしてサリアナとグレイブのお見合い(二度目)は終わった。




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