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あたしは身動きが取れなくなった。攻撃を棺に当てたくなかった。守りたかった。だが、ロウシールドの外で動く存在は、あたしたちにとって凶器でもあるのだ。挟み撃ちを受けているのと同じだった。
その迷いをモーリオンは見透かしていた。
「死者のために迷うのか。自分自身が風前の灯だという時にか」モーリオンがあたしを見下している。「そんなことは、生き延びてからすればいいことだ」
「あたしはもう死んでる」あたしは叫んだ。「勝手に生かしてんじゃねぇ!」些細な相違、巨大な相違がほんの刹那にぐるぐる頭を駆けめぐる。同じ人間なのに、なんでこうも理解が違う?
「愚かな!」
飽きもせず無数のミサイルが放たれる。シールドで防ぐあたし。防ぎきれると思った、だが、ミサイルを防いでも、棺を乗せた台車がゆっくり真後ろに迫る。
先に立って台車の舵取りをしていた男が前に差し出した手があたしに触れた。ロウシールドある限り、その動きを阻害できないし、彼らがあたしの存在を感知することもない。動作に抵抗を感じるのは、あたしの側だけ。
あたしは弾き飛ばされ、台車の行く手に倒れた。轢かれるッ……とっさに飛び退いたが、わずかに間に合わなかった。台車を支える参列者のひとりが、あたしの足首を踏みつけた。
声も出ないほどの激痛が走った。
踏む、というのは動作だけの話だ。踏んだ者はあたしを踏んだことに気づいてないし、彼の足も地面に完全に接地している。……あたしの足だけが完全に平面に変形していた。
あぁ、トム、ワイリーコヨーテ、君たちの痛みをあたしも今知ったよ。そしてカートゥーン同様、あたしの足も踏みつける足が移動するとしばらくして元に戻った。
サンフラワーによれば、ロウシールドは、そういう世界の重なりを感知すると、やはり地球人に認識させないことを優先して、ロウシールド内にある物質を強制的にキャッシュする───つまり、別の空間に一時的に放り出してしまう。世界の重なりがなくなれば元に戻されるが、その間は身動きが取れない。特に脳の残っているあたしたちの体には、副作用として、激痛さえも生まれるのだ。
体の形が戻っても、痛みでとうてい思考できなかった。動くこともままならない。戦え……ない。ここまでか……っ!
「ひゃーーーーははっははおーまーえーはバカだッ!」戦闘不能になったあたしを見て、モーリオンは狂ったように笑った。「信じられん。わざわざ轢かれてくれるとはッ」
モーリオンは勝利の祝砲だとでもいわんばかりに、再びミサイルをばらまいた。そのミサイルは、あたしを追い越して進んでいく棺とその周囲の人々がすべて盾となって受け止め、辺りは黒煙で充満した。
モーリオンの勝ち誇った笑いが煙の向こう側から聞こえてきた。「わかったろう、幼稚なヒューマニズムなど何の役にも立たん! 貴様ら全員、さっさとスクラップになれば……よ……い……」モーリオンの声が突然やんだ。
黒煙が少しずつ晴れていく。いよいよホールを出て行こうとする棺、それを囲む人々がの姿が見えてくる。
人、人、人がめぐみの死を悼んでさめざめと泣いている、黒煙の中で。
棺の上にめぐみがいた。うつむいたまま棺の上に膝を抱えて座り込むようにして浮かんでいためぐみが、ゆっくりと羽化するように背筋を伸ばす。
「何すんの……」ぼそりとつぶやく、声。「何すんのよ……」
めぐみの、いや、イエローローズのボディが薄黄色の光をまとい始める。それはあたしの拳のように。攻撃の衝動がわき起こったとき、自然と生まれ出たゆらめき。彼女自身もゆらめいて見えるほどの。
慌てて反撃に移ろうとするモーリオン。ミサイルを斉射し、攻性粒子を砲口に満たす。
だが、棺はもう彼の目の前まで来ていた。
「あたしに何すんのよぉぉぉおおおおぅっ!」
怒号とも慟哭ともつかない大声をあげながら、輝く光をまとい、めぐみはモーリオンに向かって突っ込んでいく。ミサイルも何もかも、自分の体に引き受けて、攻性粒子の光線すら切り裂いて。
───単純な体当たりだったが、それで十分だった。めぐみの光る体が、モーリオンのスカート状の腰部に食い込んだ。回転しながらぶっ飛ばされるモーリオン。ホールの入り口を突き抜け、玄関を突き抜け、めぐみの棺を迎え入れるべく後部の観音扉を開いた霊柩車の中へ。
ばりばりぐわらぐわらと音がした。
霊柩車の中から、光子が飛び散り、宙に消えていった。倒した……のか?




