2-19
何かこちらに有利な状況を作ることが必要だ。この狭い空間で、砲撃に狙われない安全地帯はないのか?
……ヤツは、例のスカート状の円盤の中に重心があるようだ。そして、ミサイルはその下から出る。光線は前方に出る。とすると、ミサイルの誘導能力にもよるが、真上は比較的安全か。
続けざまに放たれるミサイルをかいくぐり、あたしはすばやくモーリオンの頭上へと移動した。そこにはホールの明かり取りの窓があり、外の様子が見えた───おや、窓のすぐ外に、ゆきのとさおりがいる。
「みずきさん、大丈夫ですか?!」ゆきのも気づいてこちらを見つめた。窓越しでもある程度離れた場所でも、ふつうに話せば声が伝わってくるのはありがたい。「そのミサイルは質量弾です。この体の装甲は、質量弾の攻撃ならほとんどダメージにはなりませんから、攻性粒子の砲撃だけを注意してください」
「痛いって感じることには変わりねぇよ。あたしの心配はいい、そっちはどうなってる?」
「なんとかなってます! ───みずきさん、この武器、盾にもなりますよ!」
ゆきのの方を見ると、うまい具合に態勢を造っていた。建物の壁面を背にして、ひたすらローズウィップを振り回すさおりと、ローズアームズを盾状に変形させてアメジストコピーのショットを受け止めるゆきの。攻撃と防御を完全に分業している。なるほど、防御だけならゆきのにもできそうだし、さおりも鞭を振り回していればいいから楽だ。また、アメジストコピーは動きが緩慢で、距離が離れればショットで何発か撃ちまくり、その後接近してきて殴りかかるというような、初期のファミコン並みの行動パターンしか持ち合わせなかった。囲まれさえしなければ、後は個別撃破でなんとかなる。
近づいて斬りかかってくるアメジストコピーの一体に、さおりがウィップを振り下ろす。火花が散って、シトリンコピーと同様に、粒子が弾け飛ぶようにして消えていくのが見えた。やるじゃん、さおりも。残り三体、この調子ならじきに片づくだろう。
一方でゆきのの助言は、窮地にあるあたしにとって渡りに船だった。そうか、手に持つ盾があればいいんだ。そんなケンカしたことないから、思いつかなかった。
モーリオンは黙っていない。上にいるあたしを引きずり下ろしたいのだろう、なお大量のミサイルをぶっ放してくる。それは弧を描き、正確にあたしを狙ってくる。
あたしは肩からローズアームズを抜いて、ヒロガレと念じた。ブルーローズが素手でやったようにはいかないが、柄から溢れ出す青白い輝きは、水滴が波紋を描くように広がって、体の前面をほぼ覆う盾、ローズシールドとなった。盾といっても、あのビームを含め攻性粒子の攻撃に対しては攻性粒子同士になるから、散乱させるのがせいぜいで、攻撃を完全に無効にできるわけではないだろう。
しかし、ゆきのの言ったとおり、この白いエンピツが相手ならどうだ。あたしはそいつを前に突き出しながら、追尾してくるミサイルに向かって突っ込んでいった。思惑どおり、ミサイルは盾にぶつかるとわずかな衝撃を伝えるだけですべて爆発してしまった。痛みもない。
「ちょこざいな!」モーリオンは体を傾け、砲口をあたしに向けて光線をぶっ放した。だが、ミサイルに追われていない状態なら、直線でしか飛ばない光線をかわすことは容易だった。ミサイルの爆風を身に絡ませつつ、太い光条とすれ違いながら、あたしは体勢を立て直して拳を振り上げた。
「うっらぁぁっ!」
ヤツの斜め上方から、燃え立つ拳を顔面に叩き込む。
「ぐぉはぁっ!」
顔をダイズみたいな形に歪めながら、モーリオンは吹っ飛んだ。
完璧な一撃だった。だが、喜ぶには早かった。ダメージは与えたものの殴る角度がいかんせんよくなかったのだ。ヤツをホール入り口の床に叩きつける格好になり、外に追い出すには及ばない。だが、これは糸口だ。細いチャンスの糸をまんまたぐり寄せて、あたしはそのまま直線的にラッシュを仕掛けようとした。
「バカ女の分際で……ッ!」
モーリオンは体勢を立て直すと、そのあたしに再び砲塔を向けた。大丈夫、直線の攻撃ならさっきと同じように射線を読めばかわせる……そう思って突撃を続行したあたしの目に、その砲口の形状が変化していく様子が飛び込んできた。
次の瞬間放たれた光線は、ガーベラの花びらのように無数に分かたれ、拡散した。おそらく威力は下がるのだろうが、大幅に広範囲の攻撃だった。何かする気、ととっさに判断して、顔をシールドでかばいながら真横に急角度に折れ曲がったものの、それでも数発が襲いかかる。どうにかシールドで防いだが一部は透過してあたしの頬っぺたをかすめた。
そしてとっさに避けた方向は、まさしくいま運び出されようとしている棺の前だった!
ロウシールドのこちら側は、不死身同士のどつきあい、向こう側は───死体に向かって、最後の別れを涙とともに告げながら、出棺を見送る人々の姿。




