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第7話 ミルクティー。

「あなたがミセス・マーガレット?」

外で物音がした。台所にいた私が、エプロンで手を拭きながら玄関のドアを開けると、そこに立っていたご婦人が、私を見下ろすように眺めてそう言った。ご婦人のワンピースの艶やかな黄色と対照的に空は今にも降り出しそうな低い雲が紺色と黒を混ぜたような色だ。


「いいえ。先生は今、お出かけされておりまして、すぐ戻られます。お待ちになりますか?」


いいところの奥方のようなそのご婦人は60歳くらいだろうか。ヒールのある靴で宿からの坂道を登って来たらしく、エナメルの靴に昨夜の雨で緩んだ泥が付いている。玄関わきから室内履きを取り出してご婦人に勧めると、ためらいなく履き替えて入ってきた。

「こちらでしばらくお待ちください。お茶をお持ちいたします」

客間に通して、椅子を勧める。ご婦人が椅子に座ったのを確認して、玄関先で戸惑っている侍女にも声をかけて、やはり室内履きを勧めてから、ダイニングの椅子に座ってもらう。


お湯を沸かし直しながら、

「昨日雨が降っていましてね…道がぬかるんで歩きにくかったでしょう?」

と、侍女に話しかけた。

「ええ…うちの奥様は…言い出したら聞きませんので…」

彼女は困ったような諦めたような笑みを浮かべている。

「先月のお茶会でここの先生のお話を聞いてきたようで…馬車で4日もかけてやってきた次第で…」

「まあ、そうですか」


それにしてもここは王都から遠い。興味があると言っても実際にたどり着くまでには時間とお金がなければいけないし。


暖炉に火を入れるほどではないが、昨日の雨で気温が一気に下がった気がする。一雨ごとに秋が深まっていく。今夜あたりは暖炉がいるだろうか?そんなことを考えながらお茶の準備をする。


トレーにお茶のセットを乗せて客間に運ぶ。

ご婦人は足を組んで、ガラス窓の向こうの海を見ているようだ。お茶をお出しして、良かったらお使いください、と、ひざ掛けのブランケットを置いて部屋を出てきた。

ダイニングで待つ侍女にもお茶を出してから、ボロ布を引っ張り出してお客様の泥だらけの靴を磨く。


玄関でかがんで二人分の靴を磨いていたら、先生が帰ってきた。

「あ、おかえりなさい、先生」

編み上げブーツを履いて行ったが、やはり泥だらけだ。先生のスリッパを出して、履き替えてもらう。コートを預かって、先生のスカートの裾に付いた泥を払う。

「客か?」

「ええ、客間でお待ちです。先生の靴を拭いたらお茶を入れ替えに行きますね」

「うん」

牛乳の入った瓶を2本預かる。先生はどうも今日は筆が乗らなかったようで、気分転換がてらビクター牧場までお使いに出てくれた。


「ありがとうございます。じゃあ、ミルクティーにしましょうかね」







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