第4話 娼館に売られた子供。
お昼過ぎ。
先生が自室にこもって執筆している間、私は裏の畑に出ていた。もうすっかり秋めいてきて、日差しが優しくなってきた。この時期は遅いナスやカボチャが収穫できる。来年の玉ねぎの準備を始めようと夏前に掘り上げたジャガイモ畑を鍬で耕していた。
腰を伸ばして流れた汗を手拭いで拭いていると、先生が見晴らし台に向かって歩いていくところだった。見晴らし台に置いてあるベンチに人影が見える。艶やかな赤いスカートがチラリと見えた。
私は鍬を置くと、よけて置いておいたナスとカボチャを抱えて勝手口から台所に入り、お茶の用意を始めた。
***
「…私は貧乏な小作の農家に生まれて、不作の年に娼館に売られました。6歳でした」
「……」
「幸いなことに顔が整っているという理由で教育を受けさせてもらえて礼儀作法も学びました。貴族や大商人相手のいわゆる、高級娼婦になりました」
先生が手を取って客間に連れて入ってきた老婦人。海が見えるように置かれた椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。
昔はさぞや美しかったであろう面影を残してはいるが、手にも顔にも年相応のしわが目立つその女性は、思い出すようにゆっくりと話し出した。
「35歳も過ぎると、上客が取れなくなるので…その頃に老貴族に身請けされました。家を与えられて、使用人までつけてもらって…穏やかに過ごしました。その人が死んだとき、その住んでいた家とまとまった財産が私名義で残されていました。今に至るまで、何不自由なく暮らしてきました」
「……」
私はそっとその老婦人と先生にお茶を置いた。
「私は…若い頃なんでもしました。客を取られそうになった女の顔に酸を掛けたり、使用人を手なずけて気に入らない女を足腰を立たないように痛めつけたり、30歳を過ぎて年端の行かない女に部屋を明け渡すときにもその女を階段から付き飛ばしたり…。もっともっともっと…人様に言えないことをしてきました。私は…こんなふうに余生をのんびり生きていい人間じゃない。不幸のどん底で、道端で野垂れ死にしなければ…いけなかったんです」
「……」
一気にそう言うと、老婦人は泣き崩れた。緩く結い上げた白い髪が、すこしほつれている。
私は客間をそっと出る。
いつの間にか空を覆っていた雲の隙間から、光の階段が海に伸びていた。




