第34話 ディーン。
「それから、しばらく自宅で今後のことを話しながら療養するはずだった。爵位はもう弟が継いでいるから私は騎士団に戻っても良かった。弟の結婚自体はもともと家同士の政略結婚だったので問題はないと思っていた。祖父が持っていた小さな子爵領を譲り受ける話をしていた頃……弟の妻が…私の元婚約者が…自死してしまった」
「……」
アリシアはお茶を出し直して、私の前に置く。自分の分も並べて置いて、隣に座った。
「父は泣き、母は倒れた。弟は小さな子を抱いて途方に暮れていた。……私はその騒動の中、家を出て…下町で浴びるほど酒を飲んだ。その酒場で、久しぶりに会ったゴードンのアパートに転がり込んだ。それで…そこに3年と少し暮らした。それから、旅に出た。家には一度も帰っていない」
「……」
「路銀が尽きる頃、この村にたどり着いて……今日の様に見晴らし台から海を見ていた。柵を乗り越えようとしたときに、ばあ様がなんてことないように私をお茶に誘ってくれた」
「……」
「何も聞かれなかった。どこから来たのかも、本名も。どうして柵に手をかけていたのかも」
「……」
「こんなふうに、お茶を出してくれて。二人で並んで海を眺めた」
「……」
しばらくの沈黙の後、アリシアはゆっくり立ち上がって、背中越しに私を抱きしめた。
「うん。先生、帰ってきてくれてありがとう。おかえり」
「……」
「私、先生が要らないって言うまでここにいるよ。先生がおじいちゃんになってもおかえりって言うよ」
私はアリシアの包帯を巻いた手をそっと握った。
本当に……長い長い一日だった。
本編 完です。番外編に続きます。




