第26話 ローストビーフ。
お留守番5日目の夕方、ばあ様の孫がローストビーフを持ってきてくれた。お客様のリクエストで作ったらしい。こいつはラッキーである!!
アリシアはジャガイモを焼いて、食糧庫からとっておきのワインを引っ張り出した。
今日の晩御飯は思いもかけず贅沢になった。
先生とゴードンさんも王都でご馳走を食べているに違いない、と言い訳をして、ばあ様とワインを開けた。
「アリシアちゃんは貴族だったんだろう?婚約者とかいなかったのかい?」
3杯目のグラスあたりで、ほろ酔いになったばあ様に質問された。
「それがいなかったんですよね。父も病床にありましたから、もう、妹と弟を育てることしか頭になかったですね」
「それでも、あの人かっこいい!とか、素敵!とか…なんかあっただろう?」
「…うーーーん、寄合に出ても年寄ばっかりでしたしね。社交にも出なかったので知り合う機会そのものがなかったですね。この年になるまで仕事ばっかりしてました。村の集まりに出かけてもおじいさんかおじさんしかいませんでしたしね」
「……」
「だから…色恋の話を聞くと、それがどんな悲恋でも少しだけ羨ましいかな?あ、先生の短編集は読みましたし、今は先生の一番初めの読者で、ファンですから、紙面からは学びましたよ。切ない恋や、駆け引きとか?どんないけ好かない悪女でも…後悔がないわけでも悲しみがないわけでもないことも」
「おやおや…まだまだこれから恋だってできるだろうに…もったいない。アリシアちゃんまだ28くらいだろう?」
そう言ってばあ様がとっておきの恋バナを話してくれた。
政略結婚で、2人の子供のいる15も上の男に後妻で入った16歳の娘。
旦那の年よりも、娘になった長女の年の方が近い、貴族ではよくある話らしい。
旦那は仕事に忙しく家のことは若妻にまかせっきり。その家の執事見習の青年が陰に日向に彼女を支えてくれていた。愛のない結婚だと思った。ひっそりと心の中でその青年に恋をしていた。もちろん、どうこうする気はなかったけれど。
子供たちはケンカしながらも彼女に良くなついた。彼女は娘を立派に教育していいところに嫁に出し、その下の息子も立派に育て上げて嫁も貰った。孫も出来た。それでも彼女はまだ30歳になったばかりだった。執事になった青年も独身のまま寄り添ってくれている。
人生をやり直すとしたら、今しかないんじゃないか。
そう彼女が思いつめた時…旦那が倒れた。
幾週間も病床に就いた旦那が…彼女の手を取って言った。
「あなたのおかげで家のことを任せて安心して仕事ができた。任せきりですまなかった…ありがとう。愛している」
彼女は…怒った。
物凄く怒った。
こんな、死んでいくみたいなときにそんなこと言うのは卑怯だ、と寝込んでいた旦那に泣きながら大暴れしたらしい。
「だったらちゃんと愛してみろ!できもしないことを言うな!」
ってね。
それからどうしたと思う?
旦那はこりゃあしまった!って思ったのかね、みるみる元気になったらしい。でね、さっさと息子に家督を譲って、新婚旅行のやり直しだと国内一周旅行中にうちに泊まったのさ。もちろん、その旦那さんと奥さんと二人でね。
こっちが給仕するのが恥ずかしいほどイチャイチャしてたね。それに…どうも、孫より小さい自分たちの子供が出来たらしい。
あっはっは!とばあ様が笑う。
あははははっ、と、聞いていたアリシアも笑ってしまった。




