第22話 額縁の絵。
賑やかな絵描きの老人がまた来ると言い残して帰っていった。
あの感じでは、本当にまた訪れるに違いない。完成した先生がモデルの絵も見てみたい。
押し入れを探して、少し大きめだったが額縁を見つけた。綺麗に磨いて老人からもらったマーガレットの絵を入れて、客間に飾った。元々ここにあったかのような存在感だ。アリシアは少し離れてその絵を眺めて、うんうんと頷いてドアを閉める。
***
しばらくしてやってきたゴードンさんが、客間に荷物を置きに行って、ものすごい勢いで戻ってきた。
「あ、あ、あ…アリシアちゃん??客間のあの絵、どうしたの?」
「え?ああ。お茶にいらした老人に頂いたんです」
晩御飯用に鶏肉とニンニクやハーブを煮込みながら答える。
「どうかしましたか?」
「あああああの……サイン見た?」
「見ましたけど、達筆過ぎて読めませんでした。ゴードンさんの知っている人でしたか?」
「……世紀の大巨匠も…ここではただの爺さん扱いかよ…」
夕食時にゴードンさんは興奮しながら先生に、あの絵描きの老人がいかに有名な画家であるかを説明していた。先生は…笑ってはいるが、あまり興味はなさそうだ。鶏の煮物をパンと一緒に美味しそうに黙々と食べている。
「あら、まあ。じゃあ近々、うちの先生がモデルの絵が画壇に出ますね?」
「え?」
「先生が1週間、モデルをなさったんです」
「ええ???…大スクープじゃん!!!」
ゴードンさんはスープに浸していたパンを咥えると、上着のポケットから小さいメモ帳を取り出して、何やら書き込んでいる。パンを咥えた妙に神妙な顔。そのアンバランスさにおもわずアリシアは笑ってしまった。声は何とか飲み込んだが。
***
次の日、客間で先生の原稿を読んでいたゴードンさんにお茶を出しに行った。
原稿を手にはしているが、壁に掛かった絵を眺めていた。
「お茶です、ゴードンさん」
そう声を掛けると、お、ありがとう、と言いながら
「しかし…いい絵だよな」
と壁に掛けられた一本だけ描かれたマーガレットの絵を眺めながらつぶやいた。
「今はアリシアちゃんもいるしな。良かったら…ずっとあいつの側にいてくれよな。あ、でも…アリシアちゃんもいい男がいたら嫁に行くかもか?」
なにか…ゴードンさんの思考の途中の経過が省略されて、話のつじつまが合わなかったが、アリシアは質問に答えた。
「行きませんよ。今更。私はもう行き遅れてますから」
「…え?だって、人を好きになるのに年齢制限なんてないだろう?」
「……」
驚いた顔で私を見たゴードンさんを、驚きの顔で見返してしまった。
そんなこと…考えたこともなかった。




