第18話 夕陽。
帰り際に、小一時間ほど泣いて鼻の先と目を真っ赤にしたその女性が、思い出したように、
「そう言えば、宿のおばあ様に聞いて、見晴らし台を見に来たんだったわ」
と言い出したので、アリシアも一緒に見晴らし台まで登る。
もう陽が随分と傾いてきた。
空も海も、彼女のワンピースのように薄い桃色に染まる。
「まあ!いいところね」
見晴らし台の手すりにもたれて、彼女はずい分と長いこと海を眺めていた。
彼女を宿に送って行きがてら、いろいろと話を聞いた。どうもこの漁港に缶詰工場を作ろうと視察に来ていた旦那さんに付いてきたらしい。
「ねえ、アリシアさん、私の友達になって下さる?」
宿の手前で振り返ってその女性が私に言った。私を真っすぐに見ている。
「いいえ。でも、いつでもお茶を飲みにいらしてください。私はあそこに居りますので」
私がそう言うと彼女は、ほんの少し驚いた顔をしてから、片頬だけで笑って、
「ありがとう」
そう言った。
***
彼女が宿に入ったのを見届けて、踵を返した。
沈みかけた夕陽が海に光の道を作る。
私は薄暗くなってきた景色の中、自分の靴の先を眺めながら坂道を上った。
なんだか自分は、とてもちっぽけな薄情な人間だと……。そんなことを思った。
「アリシア?」
すぐ後ろで先生に声を掛けられるまで、先生が来たことにも気が付かなかった。
驚いて顔をあげる。
「あ…先生、おかえりなさい。あ…晩御飯!」
「ああ、今日、手伝った謝礼におかずを貰って来た。大丈夫だよ」
先生はそう言うと、ぶら下げた小さな鍋をあげて見せた。
「すみません」
「なにが?」
「いや…なんか…役に立たなくて、私」
先生は少し首をかしげて、ほんの少し笑った。
「冬の間は凍えないように、生き延びれられるように、緊張して生きているじゃない?春になると暖かくなって外にも出れるようになって…人間て少し油断するんだと思うんだよね。だから、大丈夫だよ?」
そう先生が…よくわからないことをわかったように言うので、そんなものかと思う。
先生の後について歩き出す。
海に沈んだ太陽が、最後に海と空を分けるように水平線に金色の線を引いていた。




