第12話 買い出しへ。
「さて」
朝ごはんに使った皿を洗い終わってから、アリシアは気合を入れて押し入れから買い出し用の大きなリュックを引っ張り出す。
持っていくものは、買い出しのメモと、ペンと、先生と自分の口座の証書。一日分の着替えはパンツぐらいで良い。この間冬物を出した中から軽めのコートを取り出して羽織る。それと、ショール。あ、スラックスにしようかな、とごそごそと冬用のスラックスを出して着替える。
今日から1泊2日で街まで下りる。夏場なら日帰りもできるが、日が短くなってきたこの時期はお泊りになる。実はちょっと楽しみだ。先生にクリスマスプレゼントにする予定のタイツ用の細めの毛糸も買いたいし、冬の間の紅茶も大きな缶で買い込みたい。村の何でも売っている雑貨屋にもあるが、せっかくならいろいろ見てみたい。調味料も見たい。帰りには村に寄って、薪代や小麦粉代の支払いもある。
いつもお世話になっている宿のばあ様の孫夫婦にも何か買ってきてあげよう。
アリシアはメモに、孫に何か、と書き加えた。
先生から預かったメモには、いつものインク、と書かれているだけだった。
アリシアの自室は台所の後ろの納戸だったところだ。棚を作り、ばあ様が使っていたベッドを入れ、小さなテーブルも自分で作った。それで部屋はもういっぱいいっぱいだ。狭い部屋ではあるが、暖炉が近いので、冬は暖かい。寒がりの先生に狙われたが、先生が住める広さではない。そもそも…先生の大きな机を入れたら寝るところさえない。
(ただしこの部屋は窓がないので夏は暑い。ドアを開けっぱなしになる)
アリシアが鼻歌交じりにリュックをダイニングに運び込むと、タートルネックのセーターにタイトスカートを履いた先生が、紅茶の準備をしていた。
食料は先生がお留守番できるくらい作りだめしておいたからいい。大きなパンも焼いて置いた。大きな鍋にスープも作っておいた。水瓶の水もいっぱいにした。
先生はお茶を入れるのは上手だが、料理と掃除洗濯は壊滅的にダメダメだ。いいところのご子息だったんだろうと想像できる。ばあ様と暮らしている時も、お茶出しと力仕事だけしていたらしい。
ティ―ポットから紅茶のいいにおいがする。
温めて置いたカップに、高いところから紅茶が注がれる。こんな仕草さえ絵になる。美人はお得である。綺麗な海のようなブルーの瞳。伏せたまつ毛も銀色で長い。
「先生…いつものインクのほかに、なにかいるものありますか?」
「…ないかな」
先生はカップを二つそっとテーブルに置いて、静かに椅子に座る。
「行きは上の道で歩きで行きますが、帰りは荷物があるから乗合馬車で帰りますから。それから村で支払いをして…明日の夕方には帰りますからね」
「うん」
自分の前に出されたお茶を頂く。
11月にしてはお天気が続く。牧場の横道を下って街まで2時間と少しの歩きになるが、乗合馬車で行くよりは早く着く。なにせ、この田舎の村に来る乗合馬車は一日1便しかないし、村々をめぐっていくので意外と時間がかかる。帰りは荷物があるので仕方がない。
「ちゃんと暖かくして寝て下さいよ?暖炉の火も気を付けて」
「うん」
「ご飯は作り置きしましたから、温めて食べて下さいね」
「うん」
「それから先生、寂しくなったらばあ様のとこに行きなさいよ?」
そう私が言うと、お茶を飲んでいた先生が、驚いた顔で私を見て、少し恥ずかしそうに笑った。




