第29話 レヴィアタンの華麗なる復讐
「――わたくしは反対です」
レヴィを次期竜王に推す現竜王に、眉をひそめたのは、隣にいた竜王妃である。
竜王は意外そうな顔で、片眉を上げた。
「珍しいな、そなたが余に意見するなど」
「わたくしというものがありながら、目の前で妾の子を竜王にしようとしていれば、口出しくらいはいたしますわ」
「それは、そなたが世継ぎを産めなかったのが悪い」
「そもそも、離宮にこもってわたくしのもとに訪れなかったのが悪いのでは?」
竜王と竜王妃が揉め始め、周りの従者が「あわわ……」と慌てている。
その醜い争いを、レヴィは冷ややかな目で見ていた。
「いったい、離宮に何を隠していますの?」
「言いがかりだ! 余がそなたのもとを訪れないのは、そなたの魅力と努力が足りない」
「なんですって――!」
「……付き合っていられんな」
レヴィは腕を組み、厳しい目で竜王を睨む。
「だが、離宮にどんな『宝』を隠しているのかは、だいたい見当がつくぞ」
「レヴィアタン、貴様まで……!」
3人が揉めている、そのときだった。
「レヴィ!」
カッツが謁見の間に飛び込んできた。
その後ろに、男がいる。
それを見た瞬間、竜王の顔色が変わった。
「ば、バカな……!?」
「おお、カッツ。首尾よく見つかったか」
「うん。――オリバー・ジャバウォックは返してもらうよ」
カッツが連れていたのは、彼の父親、オリバー。
「離宮まで迷わずたどり着けたのか?」
「途中で、アジ・ダハーカさんが案内してくれた」
レヴィとカッツの会話に、竜王が激怒する。
「あ……アジ・ダハーカ! 貴様、余を裏切ったのか!」
「お言葉ですが、竜王様」
執事――アジ・ダハーカは、無感情に竜王に告げた。
「離宮に人間の愛人を監禁し、政務に身が入らなくなるのは困ります。わたくしは、このオリバーとかいう人間をカッツ・ジャバウォックに返還します」
「…………愛人?」
竜王妃の纏う雰囲気が変わる。
竜王を睨みつける目には、怒りがくすぶっていた。
「わたくしも、とことんバカにされたものですね……! 妾の子を竜王にするどころか、愛人を囲っていたと?」
これは、竜王の大醜聞である。
突然、最悪の事態に陥った竜王はおろおろとしていた。
「い、いや、これには理由が……」
「どんな理由で人間を監禁してたのですか?」
「えっとぉ……」
竜王妃に問い詰められてたじたじになる竜王に、もはや威厳は残っていない。
鼻で笑ったレヴィは、とどめを刺しに行く。
「ファフニール。俺を竜王にしたいという話であったな。離宮にこもりたいと?」
レヴィはその場で、巨大なドラゴン形態に変身した。
カッツとオリバーがその背に飛び乗る。
「――では、こんな城はもう不要であるな!?」
尻尾を振り回し、城を破壊していった。
従者たちは右往左往して、謁見の間から逃げ出す。
「れ、レヴィアタン――ッ!!」
「竜王の座など要らぬわ、たわけ! 俺はカッツと共に生きていく!」
翼を広げ、崩れた天井から空へと駆け上がっていった。
城の外にはメリュジーヌが待機しており、一緒に『竜の国』を脱出する。
「フハハハハハ! 壊れた壊れた! 俺が全部壊してやった!」
レヴィアタンは爽快な笑い声とともに、『竜の国』を覆っている雷雲を抜けた。
「父さん、これが僕の相棒のレヴィだよ」
レヴィの背では、父と息子が再会を喜んでいる。
「そうか。……カッツ、5年経って本当に立派に成長したな」
オリバーが撫でる手に、カッツはさらに頭を押し付けた。
その目には、涙が滲んでいた。




