第27話 メリュジーヌ
城下町は、意外なことに、巨大なドラゴンの闊歩する巣穴――という感じではない。
人間の街と変わらず、人間サイズの家や建物が立ち並び、広場には噴水がある。
そして、人間型に変身したドラゴンたちが道を歩いていた。
「……なんか、思ってたのと違うね」
「お前は『竜の国』を何だと思っていたのだ?」
カッツの呟きに、レヴィは不思議そうに首を傾げている。
「人間型のサイズのほうが色々と便利なのだ。スペースも取らないし、ドラゴン型に戻りたければ街を出て、草原で思いっきり暴れればいい。ドラゴンは匂いで個人を識別できるしな」
「ふーん。……匂いで?」
カッツが疑問を呈した瞬間、周りを歩いていたドラゴンたちが鼻をスン、と動かした。
「なんか、嗅ぎ慣れない匂いがするな……」
「これって、人間の匂いじゃない?」
「え? 『竜の国』に人間?」
周囲のドラゴンに気付かれる前に、2人は慌てて路地の裏に入る。
「ど、どうしよう。これじゃ表立って動けないよ」
「? なぜ今、俺達は逃げたのだ?」
「だ、だって、人間が『竜の国』にいたら変じゃない?」
「オリバー・ジャバウォックもここに来ているのだろう? 人間が珍しいだけで、別に排斥されているわけではない」
よく考えてみれば、そうだ。
『竜の国』が雷雲に覆われていて、通常の手段で人間が入り込むのが難しいだけで、別に鎖国しているわけではない。
現に、オリバーを代表としたドラゴンライダーが入国して貿易や交渉なども行っている。
カッツが恐る恐る路地裏から街に顔を覗かせようとすると、
「あの……」
と声をかけられて、カッツは飛び上がるほど驚いた。
レヴィは「何だ、お前は」と声をかけてきた主を警戒する。
「あ……ごめんなさい。人間の匂いがしたから来てみたのだけど……あなた、もしかしてオリバーの……」
声の主は女性であった。
その口ぶりからすると、彼女もドラゴンなのだろう。
カッツは「オリバー」という単語に食いつく。
「父さんを知ってるの!?」
「待て、カッツ。まだコイツの名前も聞いてない」
女性に近寄ろうとするカッツを、レヴィが腕で押し留めた。
女性は「ごめんなさい……」と恥ずかしそうに顔を伏せる。
どうにも、話の順番を考えるのが苦手らしい。
「私は、メリュジーヌ。オリバー・ジャバウォックの相棒です」
「父さんの騎乗してた竜、女の人だったんだ」
喫茶店も兼ねている酒場に入った3人は、紅茶を飲みながらそれぞれの事情を話し合った。
「それで、メリュジーヌさん。父さんのことは……?」
「私たち、竜王様の城に入ったんです。その日は『竜の国』にだけ自生しているハーブの輸入についてだったと思います」
メリュジーヌは顔を曇らせている。
「……でも、おかしいんです。私はなぜか、先に城を出るように言われて……城門前で待ってたけど、オリバーはいつまでも出てこなくて……」
「城から、出てこなかった?」
「お城の門番さんに聞いても、竜王様のお許しがないと城には戻れないと言われて……それからずっとオリバーを待っています」
「どのくらい?」
「……5年くらい?」
「5年!?」
たしかに、オリバー・ジャバウォックが行方不明になった時期と、一致はしているのだが……。
「お前、今まで何もせず5年間ずっと待ちぼうけしていたのか?」
レヴィが呆れたような目をメリュジーヌに向けていた。
メリュジーヌは申し訳なさそうに目を伏せている。
「……ごめんなさい。何度か城に侵入しようと思っていたけれど、隙がなくて……」
ドラゴンは総じて時間の概念に疎い。
長寿のために、そこまで時間を細かく気にする種族でもないのだろう。
「それにしても流石におかしいよ。父さんが城から5年間も出てこないなんて」
「ああ。竜王ファフニールは確実に何かを知っている」
「私も、待っている間に情報はある程度集めていました」
メリュジーヌから「ある情報」を聞かされた2人。
カッツは明らかに顔色が変わった。
「――父さんを、助けなくちゃ」
「ああ。……まずは、城に向かう」
こうして、カッツとレヴィによる、オリバー救出作戦が幕を開けるのだ。




