第26話 『竜の国』へ
「行くんですね、おふたりとも」
トールが少し寂しそうな顔をしている。
「うん。父さんを見つけたら、また復学するよ」
カッツとレヴィは荷造りをしていた。
『竜の国』への旅。
カバンの中に、食料や懐中電灯、電池にサバイバル用のナイフなど、必要なものを詰め込んでいく。
「この部屋は残るのだろう? 思い出の品はとりあえずここに置いていけばいい」
「そうだね」
ひとまず、オリバー・ジャバウォックの写真は持っていくことにした。
父を思い返すのみならず、人探しのときに、これを見せれば手がかりになるはずだ。
「レヴィアタンさんがいれば大丈夫だと思いますけど……お気をつけて」
「うむ。お前はとりあえず俺達の部屋の家具を食べようとしてるドラゴンをなんとかしてくれ」
「えっ? ……あっ、こら、ニーズ! やめろ!」
トールは懸命に、カッツの机の脚を噛んでいるニーズを止めるのだった。
――やがて、旅立ちの日。
ドラゴン形態になったレヴィの背に、カッツが乗る。
「カッツくん、レヴィアタンくん。いってらっしゃい~。お土産期待してますね~」
最後まで気の抜けたようなイゾルデに見送られ、2人は空に躍り出した。
「レヴィ、『竜の国』の場所はわかるんだよね?」
「当然だ。ネックだった渡航許可も降りたことだし、これで堂々と里帰りできるというもの」
渡航許可証はカバンの中にしまってある。
――『竜の国』、どんな場所なんだろう。
カッツは、オリバー探しとは別の意味で、冒険に胸が高鳴っていた。
『竜の国』は、『桜の国』から南のほう、海にぽつりと浮かんだような島国である。
常に雷雲に覆われ、島の周りは断崖絶壁。
自然の要塞になったそこは、飛行機でも入れない。
雷雲に対抗できるドラゴンしか出入りができないのだ。
なので、カッツが『竜の国』に行き、オリバーを探すためには、ドラゴンの協力が必要だった。
同時に、『竜の国』を追放されたレヴィが戻るには、渡航許可証を持ったドラゴンライダーが不可欠になる。
つまりは、カッツとレヴィの目的、そして利害は一致していた。
レヴィが大きな翼を広げ、『桜の国』の領土から飛び出して3時間ほど。
途中で無人島に降りて食事や休憩を挟みながら、なんとか『竜の国』の上空まで来た。
噂通り、黒い雷雲が立ち込めていて、内部の島の様子はほとんど見えない。
「雲の中に突入するぞ。カッツ、準備はいいか?」
カッツは、感電しないように、絶縁体マントを羽織っている。
「うん、いつでもいいよ!」
「では、行くぞ!」
人間には雷雲の電気に長時間耐えられない。
レヴィはスピード勝負と言わんばかりに、全速力で雲の中を急降下した。
視界は暗雲で覆われ、ときどき稲妻が雲の中を走って明滅する。
カッツの耳は、雷撃の音で鼓膜が震えるのを感じた。
だが、それも数秒のことで、レヴィがあっという間に雲の中を駆け抜けてくれる。
雷雲を通ると、そこには――自然豊かな国が広がっていた。
「わぁ……! レヴィ、ここが『竜の国』?」
「そうだ。カッツ、お前と俺の……最終目的地だ」
上空から見ても、色とりどりの花が咲き乱れた草原が見える。
レヴィはカッツを乗せたまま、ゆっくりと上空を旋回した。
「カッツ、あそこに街があるのが見えるか?」
レヴィの言葉に、目を凝らすと、建物が密集している地域が見える。
城のような大きな建築物もあり、明らかにこの国の首都であるとわかった。
「あそこに、俺の父――竜王ファフニールがいる」
レヴィの口調は、噛みしめるようだった。
「その竜王に会いに行って、父さんを取り戻せばいいんだね」
ヒイロから聞いた言葉を、カッツは思い出す。
学園の喫茶店で、ヒイロとお茶した時、彼はこう言った。
「オリバー・ジャバウォックは、『竜の国』で消息を絶っている。つまり、竜王ファフニールは何かを知っている可能性が高い」――。
「――行こう、レヴィ。あの街で父さんの手がかりを探さなくちゃ」
「ああ。ファフニールがお前の父に関わっているならば、俺も見過ごすことはできん」
そうして、ふたりは『竜の国』の城下町に向かうのだった。




