第25話 蒼空防衛局
――1月。
冬休みを終えて、年明けを迎えたセント・マタルの生徒たちは学校の講堂に集まっていた。
休みの間、堕落した生活を送ったものは、だらしない体型になっていたり、あくびが止まらなかったり。
一方、休暇中も訓練に勤しんでいたものはシャキッとしており、身体も引き締まっている。
そういった外見から将来有望な生徒がわかるのが面白い。
「は~い、今日は蒼空防衛局の偉い人がいらっしゃるので、講義中にあくびはしないでくださいね~」
イゾルデは相変わらず外見に変化はない。
食べすぎてお腹が出ることもないし、かといって筋肉がついたわけでもなかった。
クリカラとの契約の結果なのかは不明である。
「そーくー……? ってなに……?」
「ニーズ、お前授業聞いてたか?」
「こやつは聞いていないだろう。お前の消しゴムを食べることに夢中だからな」
首を傾げるニーズに、トールとレヴィはため息をついていた。
「蒼空防衛局……警察の組織のひとつ、だよね」
「ええ。特に竜攫いなど、ドラゴン絡みの事件を担当している局ですね」
カッツの言葉に、頷くトール。
「蒼空防衛局も、小学生がなりたい職業ランキング2位の人気職種ですね~。『制服がかっこいい』『ドラゴンに乗って空を駆ける警察官の姿に惚れる』など、こちらも合コンでモテモテ必至の高収入です~」
イゾルデは明らかに朝のニュースで得たような雑学を適当に喋っている。
やがて、講義をするために講壇に上がったのは、カッツもよく知る人物だった。
「――えっ!? あの人って……!」
「皆さん、おはようございます。蒼空防衛局、副局長のヒイロ・桜竜です」
あのドラゴンレースのスポンサーをしていた、学園祭で出会った男――ヒイロ。
彼の付き人、セイリュウも傍に控えていた。
しかし、カッツが驚いたのはそれだけではない。
「待って……桜竜、って……」
「桜帝の血筋を引いた名字……!」
セント・マタルの生徒たちは一斉にどよめき出す。
「は~い、皆さん静かにしてくださいね~。小学生じゃないんだから講義はちゃんと聞いてくださ~い」
「あはは……。皆さんお察しの通り、僕は桜帝の血族……いわば皇族なんですけど、遠縁なのであまり気にしないでもらえると……」
それで「はい、気にしません」とはいかない。
生徒たちはソワソワしたまま、ヒイロの講義に耳を傾ける。
……講義終了後、誰が彼にいの一番にサインをねだるか、そればかりを考えている顔だった。
「やあ、カッツくん」
「ヒイロさん!」
人混みをくぐり抜けたヒイロが、カッツに歩み寄る。
後ろではセイリュウが、色紙を持った生徒たちの行く手を、体を張って阻んでいた。
「ヒイロさんって蒼空防衛局の人だったんですね。知らなかった……」
「あのときは教えていなかったからね。実は親が局長なんだ」
「すごい!」
道理で、ドラゴンレースの協賛者になれるわけだ。
「それでね、カッツくんにレヴィくん。どこかでゆっくりお茶でもしないか?」
「む? カッツをデートに誘うのも解せんが、俺も同伴だと?」
「あはは、デートじゃなくて……」
ヒイロは、スッと真剣な顔つきになる。
「君たちに話しておきたいことがある。カッツくんの父親――オリバー・ジャバウォックについて」
カッツとレヴィは、思わず顔を見合わせた。
学内の喫茶店――『竜のしっぽ』。
そこで紅茶を飲みながら、ヒイロは語る。
「オリバー・ジャバウォックは、『竜の国』にいる」
「……なぜ、そんなことがわかる?」
レヴィは半信半疑なのか、怪訝な表情だ。
「蒼空防衛局の情報網を甘く見ないでほしい。うちはドラゴン絡みの事件を専門に扱っている」
「つまり……『竜の国』のドラゴンが、父さんの失踪に関係している?」
「そう見て間違いないだろうね」
「……その、生死については……」
「生きている、と我々は見ている」
カッツは、ほぅ……と安堵の息をついた。
紅茶の水面に波紋ができる。
「それで、レヴィくんにも話を聞いてほしいんだ。おそらく、君にも無関係の話ではない」
――ヒイロの言葉に、カッツとレヴィは驚愕の表情を浮かべた。
「そこで、僕たち蒼空防衛局は、君たちに『竜の国』への調査をお願いしたい」
「それって……」
「僕らが『竜の国』への渡航許可を出す」
「……ほう。よもや、竜騎士学校を卒業するまでもなく、『竜の国』へ渡れるとは」
「これは、君たちにしか頼めない任務だ。もちろん、事件を解決するまで休学で構わない」
紅茶を飲み終えたヒイロは、ゆっくり立ち上がる。
「全てが終わったら、学園に復帰して、今度こそドラゴンレースで優勝するところを見せて欲しいな」
そうして、ヒイロはセイリュウを伴って学園を去った。
カッツの手には、『竜の国』への渡航許可証が握られていた……。




