第23話 ドラゴンレスキュー
中間試験はつつがなく終了した。
カッツとレヴィ、トールとニーズは問題なくテストを合格。
この頃になると、彼らの成績は学年トップレベルになってきており、もはやカッツを「父親の七光」「腰抜けカッツ」と呼ぶものはほとんどいない。いたとしても「そういうこと言ってるやつは逆張りか、カッツに嫉妬してるだけのダサいやつ」というレッテルを貼られるのがオチである。
さて、季節は11月に差し掛かっていた。
「今日の授業は、地域貢献活動として、皆さんにドラゴンレスキューの体験学習をしてもらいます~」
イゾルデは、学園を出発する前に、軽くドラゴンレスキューなるものの予習を行う。
「ドラゴンライダーを目指す小学生のなりたいもの第1位、皆さんの憧れの職業のひとつになるかと思いますが、ドラゴンと竜騎士が一体となって災害に立ち向かい、救助活動を行う仕事ですね~。被災者を助ける姿がとにかくかっこいい、合コンで職業を言えばモテモテ間違いなしの高収入でも有名です」
ドラゴンライダーと一口に言っても、その業態は様々である。
トールとニーズのように郵便事業を行うもの、カッツやその父、オリバーのように冒険者として未開の地の開拓や交渉などを行うもの、果てには芸能人めいた竜騎士養成学校の顔として宣伝を行うものや商品製造などの裏方まで。共通しているのは、ドラゴンライダーになれば高収入が約束されていることだろうか。国が推奨し、彼らに国家公務員の資格を与え、国家予算を割いてまで手厚く保護している。カッツが父を見失って母と二人暮らしでも困窮していないのは、父の年金のおかげであった。
セント・マタルの生徒たちは早速、ドラゴンレスキュー本部へと移動する。
「君たちには、演習に参加してもらう」
ドラゴンレスキューの本部長は演習に使われる訓練場まで案内してくれた。
訓練場には倒壊したビルを模したコンクリートの塊があり、燃えているビルの中には人影がある。
「被災者として人形が配置してある。だが、たかが訓練と侮らず、真剣に演習に参加するように。ドラゴンレスキューを花形の職業だと思って就職する軟弱な若者が多いが、この仕事の厳しさを全くわかっていない。命と向き合い、時には助けられないこともあるだろう。そんな過酷な任務が毎日のように続く。もし、君たちの中にドラゴンレスキューに入りたいものがいるのなら、この演習で現実を見てから決めてほしい」
「うんうん、本当にそうですよね~」
先程まで「合コンでモテモテ間違いなし」と言っていたイゾルデは、顔色ひとつ変えずに本部長に同調していた。その度胸を見習いたい、とカッツは思った。
ドラゴンとライダー、それぞれ2組ずつチームを組んで、レスキュー活動の演習に入ることになる。
カッツとレヴィはトールとニーズをパートナーとして選ぶことにした。
「まず、燃えているビルの中から被災者を助け出すのが大きな目的だよね」とカッツ。
「火災をなんとか沈静化したいですね。ドラゴンの力で火を消すことはできるのでしょうか?」とトール。
「翼で煽ったくらいでは余計に火が広がるだろう。水を吐けるドラゴンがいれば別だが、俺にはそんな能力はない」
首を横に振るレヴィ。トールの意見では、ニーズにも火を消す能力はないようだ。
つまり、火を消すのは諦めて、火災からいかに早く被災者を救助するか、ということが焦点になる。
「火災は、嫌だよね」
カッツは燃えるビルを見上げながら呟いた。
夏休み、帰省先の『雪の村』で燃える廃屋の中に拉致されたことを思い出しているのだろう。
「カッツ、俺の鱗を渡しておく。お前たち人間では火災の熱気に身体が耐えられまい」
「ありがとう、レヴィ」
あのときと同じく、ドラゴンの鱗を受け取る。
ニーズもトールに鱗を渡しているのが見えた。
制服の胸ポケットに鱗を入れ、カッツとトールはそれぞれドラゴンに騎乗する。
「訓練とは言え、炎は本物。油断すれば火傷では済みませんね」
「人形でも、全力で助けるよ!」
二組のドラゴンと竜騎士は、ビルの中に突っ込んでいった。
頭突きや尻尾での一撃で、ビルの窓を破壊して内部に突入する。
「誰かいませんか!?」
カッツは声を張り上げた。
本来、火災現場では喉が焼け付いて声も出せなくなるところだが、鱗の効果で煙からも守られている。
奥からピーッとホイッスルの音が聞こえた。
人形に設置された音声センサーが、救助者の声に反応して音を発しているのだ。
ホイッスルの高音は、人の声よりも遠くに届きやすく、奥に救助を待っている人間がいることが如実にわかる。
「ニーズ、音の発信源はわかるか?」
「ん……。こっち」
ニーズの耳が捉えた音を辿って、人形のもとへ着いた。
「あとはこの人形をレヴィの背中に乗せて、ビルから脱出だ!」
しかし、人形を救助している間にも、ビルの倒壊は始まっている。
火災により天井が抜けて、カッツの頭上に落ちようとしていた。
「フンッ!」
すかさずレヴィが己の巨体でカッツをかばい、尻尾で天井の瓦礫を弾き飛ばす。
「ありがとう、レヴィ!」
「礼はいい、早く乗れ! 脱出するぞ!」
カッツとレヴィ、トールとニーズは再びビルの壁を突き破って脱出。
無事に救助者――人形を回収した。
「見事な手並みだ。さすがオリバーの息子」
ドラゴンレスキューの本部長は拍手を送る。
「実は、私もオリバーの同級生なのだ。彼は優秀なドラゴンライダーだったが、息子も立派になって、さぞかし喜んでいるだろう」
「ありがとうございます」
カッツは内心複雑な心境だったが、ペコリと頭を下げた。
しかし、そこに異を唱えたのはレヴィである。
「カッツと父親は関係ない。同級生の息子としてではなく、カッツ個人の功績を見ろ」
「れ、レヴィ……! ダメだよ、そんな口答えは……」
「いや、これはレヴィアタン君の言うとおりだな。すまない、カッツ君。父親と比べるまでもなく、これは君自身の判断で成功した訓練だ」
本部長が頭を下げ返し、その場は丸く収まった。
その後もドラゴンレスキュー訓練は続き、セント・マタルの生徒たちは筋肉痛に苦しんだという。




