第20話 セント・ジョージ学園との文化交流
「皆さ~ん、夏休みは楽しかったですか~? 宿題はきちんとやってきましたか~?」
9月、夏の終わり。
担任教師イゾルデの声を、久しぶりに聞いた気がする。
夏休みを終え、『雪の村』からセント・マタル学園に戻ってきたカッツとレヴィは、揃って宿題を提出した。
2人とも、真面目な性格だし、『雪の村』は田舎ゆえに、宿題以外にやることがないほど暇だったのだ。
ただ、カッツは母と久々に会話できて嬉しかったし、レヴィも将来義母になるかもしれない女性のために会話に花を咲かせるなど、帰省先での時間は楽しいものだった。
「トールとニーズに会うのも久方ぶりだな」
「2人は帰省したの?」
トールとニーズは心なしか、肌が少し日焼けしている気がする。
「はい、僕たちも田舎町に帰って、郵便屋さんのバイトをしていました。ドラゴンライディングの練習にもなりますから」
「トールのお母さんが作るオムライス、すごく美味しい」
2人とも満足そうにしていた。
「たしか、トールの町には郵便局ないんだっけ」
「ええ、ですからまずニーズに乗って近くの郵便局がある街まで飛んで、そこで受け取った手紙を僕らの町に届ける感じですね」
「バイト、すごく、お腹が空く。でも、お腹が空くと、オムライスがもっと美味しい」
その後、トールに帰省先での様子を聞かれたカッツは、正直に『雪の村』で起こった怪事件について語って聞かせた。
ドラゴンを装った放火事件。その犯人は、かつてドラゴンライダーであるカッツの父に憧れて上京し、しかし相棒のドラゴンに「ドラゴンライダーの資格なし」とされてセント・マタルを退学になった、村長の息子……。
「……それは、大変な目にあいましたね」
「まったくだ。危うくカッツが黒焦げになるところだった」
「それをレヴィが助けてくれたんだ」
ニコニコと笑うカッツの頭を、ぽんぽんと優しく叩くように撫でるレヴィ。
この2人の仲は、ずいぶん良くなったように見える。
「そういえば、9月は文化交流イベントがあるらしいですよ」
「他のドラゴンライダー養成学校との交流イベントだっけ」
当然ながら、ドラゴンライダーを養成する学校はセント・マタルのみに限らない。
この学園は『竜の国』と提携を結び、そこからやってくるドラゴンを優先的に確保してライダーと効率的なマッチングを実現させているが、『竜の国』のドラゴンはセント・マタルのみには収まらず、その場合は別の学校に通っているのである。
「今回はマタルの1年生がセント・ジョージ学園に招待される、ということだったな」
「ええ」とトールがレヴィの言葉に頷く。「セント・ジョージといえばドラゴンに乗って巨大な牛の怪物を倒したという逸話が残っている聖人ですね。その名を冠した学園に僕たちが招待されているというわけです」
「セント・マタル以外の学園かあ……どんなところなんだろう、楽しみだね」
「そんなに過度な期待をせずとも、マタルとそう変わらんだろう」
4人は久しぶりの再会と会話に花を咲かせながら、交流会の日を待ったのである。
――そして、交流イベント当日。
セント・マタルの1年生たちはセント・ジョージに向かってドラゴンで飛んだ。
交流先の学校は山の奥にあるらしい。
崖の上にあるその学園は、地震でもあればすぐに崖下の海に落ちてしまいそうだった。
「まるで、修行のための場所みたいだ……」
「みたい、ではなく、おそらくその通りなんだろうな」
カッツの呟きにドラゴン形態のレヴィが答え、「校舎の隣に修道院がある。あそこで生活をしているのだろう」と顎でクイッと指し示す。
セント・マタルとは全然雰囲気が違う。こちらのほうがもっと厳格な感じがする。
カッツは緊張しながら、レヴィを空いた土地に降ろした。
1年生たちの乗っていたドラゴンがすべて地上に降り、人間形態になると、セント・ジョージの校門がギィィ……と錆びた音を軋ませて開く。
「セント・マタルの皆さま、ようこそ我が学園にいらっしゃいました」
校長らしき長身痩躯のスーツ姿の男が、開いた校門の先に立っていた。
「これより、学園の中をご案内いたします。迷子にならぬよう、しっかりついてきてください」
校長が先導して、セント・ジョージ学園の中をひとしきり歩く。
玄関には学園の理念が額に入れて飾られ、廊下には、おそらくドラゴンライダー関連のトロフィーやメダルがガラスケースに入れて並べられている。理科室の近くを通ると、ドラゴンに関する研究の論文や研究結果などが貼り出され、保健室の近くにはドラゴンの手入れの方法などが書かれたポスターがある。
カッツが感心してそれらをじっくり見ようとすると、「迷子になるからあとにしろ」とレヴィが首根っこを引っ張った。
やがて、一同は体育館に案内される。
「セント・マタルの皆さん、ようこそいらっしゃいました。わたくし、生徒会長のコクリュウと申します」
黒髪の男子学生が、にこりと笑みを浮かべてカッツたちを迎えた。
……人間形態だが、頭に木の枝のような角が生えているのを見るに、ドラゴンなのだろう。
レヴィが「コクリュウ……」と口の中で呟く。
コクリュウは挨拶を続けた。
「本日は遠路はるばる我々の学園へおいでくださり、誠にありがとうございます。この交流会で、皆さんと新しい世界を知る第一歩となれば幸いです」
こうして、セント・ジョージ学園の生徒たちとの文化交流が始まるのである。




