最終話 プロローグは越えたのにさァ!!(帝歴1001年、2月)
「なんっでだよォ……なんでだよォ……!」
『あらあら、まるでカタツムリさんですわ~? この世界のものはあんなに可愛らしくありませんけど』
『騎手院』内、格納庫。
ザインブルグのコクピットに座り、膝を抱え込んでいる俺にミュゼが楽しそうに話しかけている。
「俺は……『プロローグ』を生き残れればそれでよかったのに……」
『生き残れたんじゃありませんの。ロイドは立派にやり遂げましたわ? ただまあ、言わせてもらえれば……『立派にやり過ぎた』とも言えますわね~?』
「それを……言うなよ……」
ああ、何故こうなったのだ……まあ、わかってるけど!
ミュゼの言う通り、『頑張り過ぎて』しまったのが原因だろうさ!
あの後、皇帝陛下は俺達を見ながらこう言った。
『此度の国難は、其方らを始めとする西方辺境領の騎手たちの獅子奮迅の働きによって……辛くも、辺境領の全喪失という事態を回避することはできた』
『だが、この事態によって騎手の数が減り、また鎧騎兵の数も減ってしまったのも……事実である』
俺は、ここまで聞いた時点で猛烈に嫌な予感がしていた。
『そこで、此度……古式鎧騎兵を駆り、多大な貢献をもたらした騎手らを運用したツィガノフ統括騎手の功績を鑑み……』
『――ここに、其方らを『特殊即応部隊』として西方辺境領から独立させ、魔導院と連携して我が密命に当たってもらうことにした』
ここで、失神しなかった俺を褒めたい。
心から、褒めたい。
これは、これは……前提と細部は違うけど! 『原作1巻で』アリシア含む21番隊の面々が言われる言葉じゃねえかよォ!!
……と、叫ばなかったことも、褒めたい、俺を。
で、この上さらに皇帝陛下が頭真っ白状態の俺を見て言った。
『これより其方らはまず……そこの、ベルク二等騎手の古式鎧騎兵『ザインブルグ』の精霊と協力し……帝国領内全域にある『シグムントの遺産』の探索に出るのだ。それにより、新たな古式鎧騎兵を発見するとともに……魔導院による研究によって、帝国本来の鎧騎兵全体の技術革新を図るのだ』
……と。
その後の記憶は曖昧で、気が付けば俺はザインブルグのコクピットで膝を抱えていたというわけだ。
ミュゼの奴、本当にリクライニングにしてくれてんな……ああ、柔らかい。
『完全に『原作』さんはお亡くなりになりましたわね?』
「そうだよ……出発点からして違うもんよ……」
元々の原作はこうだ。
『プロローグ』によって、帝国の西方辺境領は壊滅。
魔物との最前線で戦っていた、多くの騎手と鎧騎兵を失った。
それから1年間、グランツ伯爵領での防衛線と城塞の建築が進み……本編開始。
このタイミングで主人公たちは皇帝陛下と謁見し、『特殊即応部隊』の名を与えられる。
そして、『ヨロイも騎手も足りねえから古式ヨロイとか古代兵器を発掘してこい(意訳)』ということになって……彼女たちは文献の情報を元に帝国各地へ赴く。
その過程で仲間と出会ったり、他国の陰謀であったり、謎の魔物であったり……そんな色々なイベントが起こっていく……って感じが、原作の乱暴なあらすじなわけだ。
――で、現状。
俺という存在が『サインブルグ』を見つけ、さらに『ウォードロン』2機や古代の武具まで見つけた。
その上で遠距離無双で魔物と戦い、『龍』まで退けた。
……ここで、恐らく皇帝陛下はこう考えたのだろう。
『あれ? 古式のヨロイ無茶苦茶強いやん? しかもロイドのヨロイ、古代遺跡の場所わかっとるやん! 元々魔導院の部隊を使う予定はあったけど……アイツも入れたろ!!(超意訳)』
……って、感じで。
『龍』を倒した後は、ユーリ経由でミュゼについての報告も上がってただろうし……
『まあ、『原作』よりも被害はかなり軽微ですし……この世界ではグランツ伯爵領までの撤退戦も起こらないでしょうしね。だから、ロイドや21番隊を早く呼んだということでしょう』
「ああ、元々南駐屯地に21番隊を派遣したって時点でな……魔導院が、いや陛下が古式にゾッコンだったってことか……」
しかも、俺の親父殿は皇帝陛下の顔見知り……ってことも原因の一つかね?
身元もハッキリしとるし。
『ああ、あのお方はロイドの前世で言われていた『親バカ皇帝陛下』ですものね?』
そうなんよな……
この『特殊即応部隊』に女性が多いのも……っていうか俺以外だと1人しか男がいないのも……あの陛下が、『娘に変な虫付いたらえらいことや!(意訳)』って考えたのが一因らしいしな。
作中で明言こそされてないが、皇帝陛下はかなりアリシアを気にしている。
アイツだけじゃなくって、あんな感じのカリスマ全開皇帝陛下なんだが……こと、子供達に対しては結構甘い所があるんよな……織田信長かよ。
そのせいで後々でっかい面倒ごとも起こるんだが……まあ、今はいい。
ともかく、俺が死ぬほど頑張ったのがでっけえバタフライエフェクトになっちまった……という、結論だ。
もはや〇スラエフェクトとでも名付けたいわ。
しっかし、まさか……主人公チームに組み込まれるとは思わなんだ!
ちくしょう! サインブルグもミュゼも有能すぎるせいだ!
『あらまあ~、熱烈な告白ですこと♪』
ありがとう! お前のお陰で生き残れたよ!
それだけは事実だ! 後悔はしていない!!
『では、現在の落ち込みようは何故でして?』
それとこれとは問題が違うからだよ!!
主人公チームだぞ! 主人公チーム!!
これから単行本にして20巻! アニメなら120話!
実際の年数に換算すると……20年以上! 俺は物語の最前線に縛り付けられ続けるんだぞ!!
解放されるとしたら、死ぬかヨロイに乗れなくなる大怪我をするくらいしかないんだぞ!!
それを考えるだけで胃がキリキリするんだよォ……
『んまあ、あなた『原作』の大ファンでしょう? ならばいいのではなくって?』
もう俺は『読者・視聴者』じゃないの!
『当事者』になっちゃうの!!
眺めてた時はテンション上がったけど、これからバンバン修羅場と修羅場、さらに修羅場の連続なんだぞ!!
魔物以外のヤベー連中も目白押しなんだぞ!
主人公チームでも大怪我、死人続出なんだぞ!!
おおおお……コワイ……先を知っているからこそコワイすぎる……!!
「うぐぐぐ……今回の功績で別の駐屯地に回されても、お前がいるから大丈夫だと思ってたが……まさか本筋に叩き込まれるとは思ってなかった……! 40過ぎまで騎手やって、円満除隊して帝都でラーメン屋でも始めようと思っていたのに……! この世界でラーメンを作る時に必要な材料とかもバッチリ原作知識でわかってたのに……」
『えぇえ……そんなことを考えていましたの……さすがに、それはわたくしにもわかりませんでしたわ……』
こうなっては到底無理だ……
畜生、さよなら……俺がいつか作るハズだった長浜系豚骨ラーメンよ……
替玉でも啜りながら原作を高みの見物して暮らしたかった……
『美味しいとは思いますが、帝都中枢で豚骨臭をばら撒くのは無理では?』
馬鹿野郎! 円満除隊した古式ヨロイ乗りの英雄がやる店だぞ!?
それくらい忖度で許されるに決まってんだろ!!
……まあ、今となっては考えても仕方ない。
『ですわねえ。それで、落ち着いた所で……今日はどうされまして? ご実家に帰りまして?』
なんか、今日は騎手院に泊まるんだとさ。
明日は辞令とかそこら辺があるから、しばらくはここに缶詰だろうなあ……
原作ほど逼迫した状況じゃねえから、それが終われば自由時間位くれると思うけど……
『ロイドのご実家は通信可能域ですし、たとえ帰っても大丈夫ですわね。まあ、この状況でわたくしをどうこうしようとするお馬鹿さんはいらっしゃらないと思いますけど?』
それはそう。
皇帝陛下のお墨付きを貰った『異名』持ちの騎手だからな、俺の立場。
しかも娘の同僚になる予定だし……このタイミングで何かしようって連中は……いないだろ、たぶん。
いても最悪皇帝陛下に泣き付けば大丈夫だろうし。
「ミュゼちゃーん! そこにロイドいる~!?」
外からリタの声がする。
リタ以外にも見たことない人たちがいるな……騎手院の方々かな?
『おりましてよ~?』
ざわわ、とどよめき。
まあ、喋るヨロイなんて本来この時間軸にはいねえもんな……
『今日の所はしっかり眠りなさいな、ロイド』
そう言って、腹部装甲板が開く。
「あーいた! こら~! いくらヨロイ好きだからってそこで眠ったら体を痛めるわよ!」
「あ、はい」
そうだな、そうするか……ジタバタしてもどうにもならんしなあ。
首を鳴らしつつ、格納庫へ出る。
俺に寄ってくるリタとは別に、後ろの連中はこちらに会釈しつつザインブルグへ。
あ、この服……騎手院じゃなくって魔導院の研究員か?
「すまない、ミュゼ……さん、少し内部を見せていただきたいのだが……」
『おっ断りでしてよ~! わたくしの中に入って眺めたいとは! なんっと破廉恥な殿方かしら~! わたくし! 身持ちは固い女ですのよ~!!』
一番年上っぽいの研究員の前で、腹部装甲板が残像が見えるくらいの勢いで閉まった。
言い方よ……言い方。
「そ、そこをなんとか……是非、魔導文明の粋をこの目で見たいのだ!」
『あら、わたくしの内部には機密保持に対する封印術式が現在255個展開されておりますわ? 貴方、『基礎魔導学における多重立体封印術式』についてお詳しい? そこを知らなければ、まず何もできませんわ?』
「た、多重……? 立体……?」
『あら~! この時代の魔導学はまさか、三次元転写魔導陣の知識すらなくって!? 無理無理無理カタツムリですわ~? 顔を洗って一昨日来なさって~?』
古代知識でボコボコにされとる……
「ほらほらロイド、こっち! 面倒なことになる前に部屋に行きましょ~」
「は、はい……」
たしかに、面倒ごとの気配がするな……ダッシュ!
後ろで何か聞こえるが、現役騎手の全力ダッシュに追いつけると思うなよ~!!
後でユーリ統括に苦情言っておこう!
・・☆・・
「お疲れロイド~! 皆も~!」
「かんぱーい!」「乾杯!」
がつん、とジョッキが打ち鳴らされる。
ここは、騎手院に用意された俺の部屋で……何故か、リタにアリシア、アナンタがいる。
休むつもりだったが……酒盛りになった。
「んぐ……ボク、今日は色々あってびっくりしちゃった」
「ね~? 皇帝陛下からお言葉を頂いただけじゃなくって、直属部隊に抜擢されるなんてさ!」
アリシアとアナンタはちょっと興奮してる。
この時間軸のアリシアは出自のこと知らんからなあ……俺からは勿論何も言わんが。
「んっふっふ……まさかロイドも抜擢されるなんてね……アタシの目は間違ってなかったわ! ミュゼちゃんもいるけど、元々ロイドはとっても凄い子だもの!」
上機嫌だなあリタ……
……あれ?
そういえば彼女はこの先どうなるんだ?
ロジンの代役で俺の上官役としてここへ来たけど……
「あの、リタ上等騎手はこの後ヨロイを受領したら西方辺境領に……ッヒ!?!?」
物凄い勢いで上着を掴まれた!!
もう酔っていらっしゃる!?
「馬鹿言ってんじゃないのよ~! アタシもロイドと一緒に新しい部隊で働くんだから~!!」
「ぐぅええ……だ、大丈夫、なんですか!?」
どういう人事になってんだ!?
「大丈夫よ! だぁってアタシは凄腕の騎手だし、ロイドの直属の上官だし! お姉さんなんだから!!」
最後のは関係ないし、そもそも血縁関係はないぞ!?
「そ、それとも何……? ロイドはアタシと一緒は……嫌なの?」
うわぁ! 急に泣きそうになるなよ……
『んまぁ~? 女の敵でしてよ~?』
人の視界をジャックすんな!!
「あの……俺個人としてはとてもとても嬉しいのですが、人事とかはどうなっているのかと……」
一瞬で満面の笑みエルフになった!!
「なーんだそんなこと! ここがどこだと思ってんのロイド! そんなもの、アンタを格納庫に拾いに行くまでに全部処理されてるわよ!」
「えぇえ……」
準騎手ならともかく、上等騎手の人事がそんな簡単に……?
「ロイドロイド、リタさんって皇帝陛下の遠い親戚になるんだって。だからね、元々あの部隊が発足するにあたって……内定済だったみたいだよ」
果実酒を飲むアリシアが、そう補足してくる。
ああ! そういえば謁見の時に皇帝陛下が母親のこと聞いてたな……!
ひょっとして、原作でもそういうルートに行くはずだったのか……?
でもその前に西方辺境領がガバガバになったからってこと……?
「ね! だから大丈夫! これからミュゼちゃんに古式ヨロイを見つけてもらって、ロイドと一緒にバンバン活躍するわよ~! アタシも!!」
「ぐぅえぇ~……」
嬉しいのはわかるけど、いちいち胸倉をつかむのはやめてくれよ!
いや……俺の存在の時点でそうなんだけど! リタも完全に原作ブレイクだなあ!!
それはよかったけど! こっからダウナー暗黒巨乳エルフにチェンジされる方が困るし!!
「……でも、それならこれからもよろしくお願いしますね、リタ上等騎手」
「んっふふ! はァい! ロイドは命の恩人だからね~! これからどんどん恩返しちゃうんだから!」
「ぎゅぶぅうぅ!?!?」
やめろ! 抱きしめるのは!!
巨乳に殺される! せっかく生き残ったのに~!!
畜生! いい匂いだなリタ!!
でも『おいたわしく』ならなくってよかったなあ! それはそれでよかったよ! 本当に!!
・・☆・・
とまあ、こうなって……
俺は、なんとか当初の目的である『プロローグを生き抜く』ことは無事に完了した。
完了、しすぎたとも言える。
まあしゃーない、いい感じの塩梅に気を付けながらそこそこ活躍……なんて、言っていられる状況じゃなかったからな。
で、これからは……『帝歴1002』の世界の本筋に巻き込まれることになったってわけだ。
……どうして、こうなった。
いや、全部俺の行いの結果ではあるんだが……! あるんだが……!!
『まあ、ご安心なさってロイド! わたくしがいましてよ! おーっほっほっほ!』
……だな!
俺の『原作知識』はこっから一番役に立つんだからな!
今までの手探り状態と違ってな!
こうなったら開き直るぞ!
こっから……『帝歴1002』の世界を至近距離で駆け抜けてやる!
原作にも存在していなかった……ロイド=ベルクの冒険は、これからだ!!
……なんか、盛り下がるなこの言い方……ちょっと……
ともかく……頑張るぞ! 色々と!!
「うぇへへ……ろいどぉ……えへへぇ……」
とりあえず、酔いつぶれて俺のベッドを占領しているリタに布団をかけておこう。
勿論、俺は床に寝る! 騎手院の絨毯は柔らかいなあ!
『おやすみなさいませ、ロイド』
おう、お休み相棒。
また明日もよろしく……
『こほん……燃える 地平が 行く手を 照らす』
おっ!
『いざ立て 騎手よ 握る剣に 使命を賭して』
おおっ!
『闇孕む風に しろがねのヨロイと 朽ちぬ魂で』
おおお~!
『いざ征け 騎手よ 地に臥し 半ばで道 途切れるとも』
これは……!
『かばねの山 その先に 光差す 未来を 夢見て』
ヒュー!
お前これ、『帝歴1002』のアニメ版エンディングテーマじゃないかよ!
後年の映画でも何度もリメイクして使われる名曲!
ははーん、俺の記憶から読んだな!
オープニングはBGMと口笛だからなあ!
『うふふ、お気に召しまして?』
召した召した! お前歌うまいな~!
また歌ってくれよ!
本当の歌姫みたいだぜ、ミュゼ!
『まあ、それほどおっしゃるのでしたら……よろしくってよ?』
やったぜ!
他の人気アニメの曲とか歌謡曲も覚えてくれ!
これで素敵な音楽ライフが約束されたぜ!
『ふふふ、それじゃあお眠りになりまして?』
馬ッ鹿野郎! こんなもん興奮して眠れねえぞ!
アンコール! アンコール!!
『あらまあ、ロイドったら……ふふふ』
・・☆・・
帝歴1001年、2月10日。
ロイド=ベルク、16歳。
本編開始時間軸まで、あと1年。
・・☆・・
「むぅ……まーた、ロイドったら床で寝てるぅ……」
「強情な子なんだから、もう……そっちがその気ならアタシから潜っちゃうんだから……」
「んふふ~……やっぱりいい匂い……おやすみ、ロイドぉ……」
『あらあら、まあまあ……明日の目覚めは悲鳴を上げなければいいんですけど』




