3-5 このままでは・・・
その夜、食堂に私とケビンが残った。
ーこのままでは、ここにもいられない。
そんな空気を、お互いに感じていた。
「ミリー。お前に提案があるんだよ。」
おかみさんが、ため息をつきながら言いづらそうに話す。
私は、背筋を伸ばしてしっかりと聞く。
「最近、身分のある人たちが出入りしているだろう?
めあてはどうもミリーだ。
お前は、明るくて働き者でかわいいからね。」
おかみさんは、私の頭をなでてくれる。
私も、もう潮時かと考えていたので、黙って聞く。
「身分のある人たちがいるとね、
常連さんが遠慮しちまうんだよ。
・・・店としては、正直きつい。
それに、ミリー。
お前も最近疲れているんじゃないかい?
しばらくの間、身を隠したらどうだい。
他のお店に紹介してやってもいいよ。」
おかみさんは、私のことを心配して言ってくれている。
「実は、私も今日おかみさんに相談しようと思っていたんです。
お店に迷惑をかけていますし・・・」
私が下を向くとおかみさんはすぐ近くに寄ってきて手を握る。
「迷惑なんかじゃないよ。
ミリーは私の娘みたいなものなんだよ。
可愛い娘が心配だから泣く泣く手放すんだよ。」
その言葉にーー
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
なんて嬉しい言葉だろう。
一生懸命働いてきてよかった。
このお店で働けて良かった。
泣きそうになって、口をぎゅっと結んで耐える。
「私、本当はこのお店を辞めたくはないです。
でも、落ち着くまでは、新しい場所で、
しばらく身を置こうと思います。
いつの日かまた戻ってきてもいいですか?」
私もおかみさんの手を握る。
「ああ。いつでも戻っておいで。私のかわいい娘なんだから…」
そうして、私とケビンは食堂くららを誰にも告げずに辞めた。
もちろん、家族にだけはケビンに伝えに行ってもらった。
◇
1週間後。
家にこもっていた方が見つからなかっただろうけど、
おとなしくただいるなんて3日ともたなかった・・・
やっぱり私、働くのが好きなのね。
そこで、
私は、隣町の手芸店でお針子見習いを始めた。
店に出ないために、あの3人に見つかることもない。
私は、もともとコスプレ衣装を作るのも好きだった。
それを生かしてお針子見習いとなった。
「なんて素敵な図案なの?」
店主だけでなく、周りの職人たちまで手を止めて見入っていた。
私が描いた衣装の図案や刺繍の図案が新しいと採用されたからだ。
縫う方はまあまあできるけど、
刺繍に関しては、メグの方がずっと上手だった。
だから私は、素直に教えを請うことにした。
そうして、どうにか平穏な日々が戻ってきたのだった・・・・
それなのに
ーーー平穏は、長くは続かなかった。




