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愛の代償  作者: 若狭巴


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新しい専属騎士

「そこのあなた」


エリカは訓練している騎士の一人に声をかける。


「はい。殿下」


いきなり第二皇女であるエリカに話しかけられた男は目を見開き固まるが、すぐに我に返り返事をし、頭を下げた。


「ここで一番強い者は誰?」


何故そんなことを聞くのだ、と、思っていることを全部顔に出してしまう男は不思議に思いながら、きちんと答えた、


「あそこにいるユーリッヒ卿でございます」


エリカは指さされた男を見るが、ことらに背中を向けているので顔しか見えない。


「そう。もう、戻っていいわよ」


エリカは教えられた男の元へと向かう。


「はい」


男は怪物と恐れられているエリカを間近でみて、あまりの美しさに目を泳がせるも、最後まで騎士らしく皇族に仕えるものとしてふさわしい態度で接した。


「ねぇ。そこのあなた」


エリカは後ろからユーリッヒに声をかける。


ユーリッヒは騎士の訓練所で女性に声をかけられたことを不思議に思いながら振り向くと、そこに第二皇女がいて慌てて頭を下げた。


「失礼いたしました。殿下にご挨拶申し上げます」


「気にしなくていいわ。顔をあげて頂戴」


「はい」


ユーリッヒは言われた通りに顔をあげる。


第二皇女は美しい顔立ちだと有名だったが、間近でみたユーリッヒは「女神」の生まれ変わりではないかと感じるほどの圧倒的な美の暴力に委縮してしまう。


「あなたがここで一番強いと聞いたのだけれど、それは本当かしら?」


訓練所の中でユーリッヒは他の騎士と比べて線が細い。


背はあるが、強そうには見えない。


マルベリーもここにいる屈強な騎士たちと比べると線は細いが、それでも筋肉はしっかりとついている。


ユーリッヒを近くで見れば見るほど、本当に強いのかと疑ってしまう。


「はい。その通りでございます」


はっきりと自信をもってユーリッヒは答える。


嘘はついていないように思うが、どうしてもその腕を確かめたくなった。


「そう。あなたの剣の実力がどれくらいのものか見てみたいわ」


エリカの発言に、周囲で聞き耳たてていた騎士たちがざわめく。


「畏まりました。対戦相手は誰でもよろしいでしょうか」


「ええ。構わないわ」


エリカは周囲を見渡す限り、他の騎士たちは強そうだった。


それに皇室近衛隊に所属している以上、剣の腕には全員自信があるはずだ。


「では、俺と戦いたいものはいるか」


ユーリッヒが尋ねると三分の一が手をあげた。


彼らの目の奥にはしっかりと、この機会に自分の強さをアピールしておこうという野心が見えた。


「結構少ないな」


ユーリッヒの発言にエリカは首を傾げる。


言っている意味がわからず怪訝な表情でユーリッヒを見ていると、彼はさらに驚くような発言をした。


「どこからでも好きにかかってきていいぞ」


まるで全員を相手にするかのような発言にエリカは目を見開いた。


いくら何でもそれは無謀だろう、と思っていると、騎士たちはさも当然のように手をあげた全員が剣を抜き、ユーリッヒに襲い掛かった。


勝負は圧倒に間に決着がついた。


ユーリッヒは一撃も食らうことなく全員を倒した。


「……あなた、強いのね」


エリカはユーリッヒの強さに圧倒されながら感心したように呟いた。


「身に余る言葉でございます」


エリカは知らなかった。


ユーリッヒは平民上がりの騎士だが、その剣の腕前を買われて近衛隊に入った事実を。


だから、この程度の言葉でひどく嬉しそうに笑うユーリッヒをエリカは理解できなかった。


「その腕前なら問題ないわね」


エリカは誰にも聞こえないよう呟いた。


「あなたの名前は?」


「ヘデラ・ユーリッヒと申します」


「では、ヘデラ卿。今日からあなたを私の専属騎士として仕えることを許可しましょう」


「へ……?」


ヘデラは予想外の言葉に間抜けな声を出してしまう。


「いやなの?」


エリカは艶やかにほほ笑む。


「いえ、身に余る光栄でございます」


ヘデラは勢いよく頭を下げ、嬉しさを隠しきれずに喜んだ。


自分のような平民上がりの騎士が第二皇女の専属騎士になれるなんて夢のようだった。


「団長はどこにいるのかしら?」


皇族が訓練所にきたら普通は団長が挨拶しに来る。


ここにはエリカを守る第二皇女専属騎士の顔が一人も見当たらない。


ついでに言うなら第一皇女と皇太子の部隊の顔ぶれも見えない。


ここにいる者たちが近衛隊なのは間違いないが、訓練所は広く、もしかしたらこの者たちは結構身分が低い者たちなのかもしれない。


腕さえよければエリカは気にしないが、短い期間でも自分の隣に立たせるのなら、それ相応の振る舞いをしてもらわないといけない。


「団長は会議に参加されていまして、もう少ししたら戻ってくると思います」


「そう。なら、それまでの間、ここで待たせてもらってもいいかしら」


「もちろんです。殿下が我々のところで見学してくださるなんて光栄です」


前世で経験することなかった近衛隊からの歓迎にエリカは内心戸惑うも、顔には出さずに「そう」とだけ返事をした。


昔も今も騎士は剣を振るう。


何度も、何度も、馬鹿に思えるほど剣を振るい続ける。


昔は窓の上からその馬鹿な連中を見下ろしていたが、今は目の前で眺めている。


エリカはあれほど嫌悪したこの行為を、今は何故か穏やかな気持ちで眺めることができた。


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