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愛の代償  作者: 若狭巴


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15/19

片思い


「痛かったら言ってください」


男の言葉にマルベリーは頷くが、治療が終わるまでの間、顔を歪めることもなく淡々と終わるまで静かに待った。


「……これで、終わりです。本当に痛くありませんか?」


男は一度も呻き声も顔をしかめることをしなかったマルベリーを「本当にこの男は人間か」という目で見ながら尋ねた。


「はい。大丈夫です」


治療が終わり、ようやくマルベリーを見ることができたロベリアは、包帯だらけの婚約者を見て涙が零れ落ちた。


安心したせいか、涙は止まらなかった。


「当分の間はこの薬を毎日塗ってください」


男はマルベリーに薬を渡す。


「わかりました。ありがとうございます」


いくら皇女の頼みだからと言って、なぜここまでよくしてくれるのだろうかと疑問に思いながらも、薬を受け取った。


「もし、なにかっ……!」


男は突然驚いて固まった。


視線は自分の後ろを見ている。


マルベリーは男の視線を辿るように後ろを振り返ると、ロベリアが大粒の涙を流して泣いていた。


「殿下。どうしましたか」


マルベリーは慌てることなく尋ね、常備していたハンカチを差し出す」


「ごめんなさい。急に安心してしまって」


男は状況を察し、静かに部屋から出た。


「迷惑かけて、本当にごめんなさい」


ロベリアは足の力が抜けて、その場に座り込んでしまう。


マルベリーはロベリアを抱え、自分が座っていた椅子に座らせた。


「気にしていません」


自分の迷惑など対したことではないと、誰かと比べられているかのような口調にロベリアは心の中で叫んだ。



その子と私を比べないで!私だけをみて!



マルベリーの傷を見た瞬間、全身から血の気が引いた。


怖くなった。


もし、あのまま拷問が続いていたらマルベリーは死んでいたかもしれない。


そう思っただけで、怖かった。


マルベリーがいない世界などロベリアにとっては生きる意味がなくなる。


母が死んでも、父親を奪われても、婚約者を異母妹に奪われたと陰で馬鹿にされても耐えてこられたのはマルベリーがいたからだ。


彼と結婚できる未来が確定しているから、この地獄を耐えることができていた。


失いたくない。


この人はまで失ったら自分はもうこの世界で生きていけなくなる。


「結婚しよう」


ロベリアは気づけばそう口にしていた。


ずっと、何をしても何をされても表情を変えることがなかった男が目を見開き驚きを隠せないでいた。


ロベリアはそれだけで十分だと思った。


その表情が返事を聞かなくても全てを語っていた。


「ごめん。忘れて」


ロベリアは早口で言った。


恥ずかしくて、この場から今すぐ消えたくなった。


マルベリーが何か言ってくれるか期待したが、彼は何も言わなかった。


自分の頼みを聞いてくれているのだと頭では分かったが、今はそれを無視して嘘でも喜ぶ言葉を言ってほしかった。


この男がそんなことするはずがないとわかっているのに、毎回淡い期待をして落胆する。


「もう。行くわ」


マルベリーは急いで服を着てエスコートしようとするが、今はどうしても一緒にいたくなくなかった。


七年間、マルベリーと二人きりになれる日を何度も夢見たのに、自分からその夢を手放すことになるとは思ってもみなかった。


「怪我をしている人にエスコートなんてさせられないわ。体が治るまで休んで。エリカには私から数日、あなたに休みを与えるように言っておくから」


せめて、それくらいはあなたの婚約者としてさせて欲しい。


そんな想いから言った言葉だったが、「殿下からは傷が治るまで来るな、と命じられていますので、その必要はありません」とマルベリーは淡々と事実だけを述べ、婚約者に対して配慮のかけらもなかった。


「そう、です、か。……それならよかったです」


ロベリアは恥ずかしさや怒りで声が震えた。


「では、私はこれで失礼します。お体を大事にしてくださいね」


ロベリアは早口でそう言うと、逃げ出すようには部屋から出て行った。


扉を閉め、マルベリーの視線から逃れられると、情けない姿を誰にも見られたくなくて、ロベリアは自分の部屋まで急いで走った。


幸い誰にも会うこともなく戻れられたので、使用人たちの間で変な噂を流されることはないだろう。


部屋に戻るなり、ロベリアは布団にくるまり、顔を枕に押し付けて、声を押し殺して泣いた。


時間も気にせず泣き続けた。


枕がぬれようが、気にせず泣き続けた。


結婚を拒まれたことよりも、マルベリーを支え守る唯一の立場を奪われたことが悔しかった。


自分の思いやりも全て狡猾な異母妹に踏みにじられた気がして許せなかった。


そんな私の想いに全く気付いていない、一方通行の愛が恥ずかしくて仕方なかった。


ロベリアは侍女たちが心配するのを無視いて一日中泣き続けた。


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