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愛の代償  作者: 若狭巴


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治療


マルベリーは美しい容姿に国一の剣の実力を持つ男だ。


そんな彼を近くで一目みたがる者は昔から大勢いた。


中には憧れ以上の分不相応の感情をもつ者さえいた。


身分が違うものも、婚約者がいる令嬢たちでさえ、彼に熱い視線を送った。


ロベリアはそんな彼女たちを誰一人咎めたりしなかった。


一線を越えなければ許していた。


マルベリーなら他の女性に目もくれないと確信していたからだ。


最後に彼の隣に立つ女性は自分だけだと、その余裕から許せていた。


ロベリア自身もマルベリーからそこら辺の女性と変わらない視線を送られていたが、長い人生を共に歩んでいけば、最後は幸せになれると信じていた。


ロベリアは希望の眼差しで、ずっと婚約者を見つめていた。


あまり期待してはいけないと何度も自分に言い聞かせてきたが、彼を見るとどうしようもなく気持ちが揺らいだ。


誰もが求めるほど美しく完璧な男に成長した彼を求められずにいられようか。


今だって、そうだ。


マルベリーが自分を愛していないし、必要としていないと知っても、怒ることすらできない。


この手を振り払うどころか、必死に掴んでいたくなる。


ロバリアはそっとマルベリーの手を掴み、「ついてきて」と弱弱しい声で情けなく笑った。


そんな自分を見ても、マルベリーの表情は変わることなく「本当に自分に興味がないのだな」と思い知らされた。


マルベリーは丁重に断ろうとしたが、「お願い」と婚約者から人前で懇願されるように頼まれたら、その手を振り払うことはできなかった。


仕えているエリカからも傷が治るまでは顔を見せるなと言われた。


特に急ぎの用事もないので、「わかりました」と返事をし、ロベリアをエスコートした。




状況を察してくれた侍女たちが下がってくれたおかげで、ロベリアは七年ぶりにマルベリーと二人だけの時間を過ごすことができた。


昔はよくエスコートをしてもらえたが、エリカの専属騎士になってからは一度もなかったため、マルベリーの筋肉質な腕に手を添えた瞬間、心臓が張り裂けそうなくらい速く動き出した。


服の上からでもマルベリーの体は逞しく、誰もが彼に抱きしめられたいと願うほど魅力的だった。


子供の時と違うのは当たり前なのに、よくやったことなのに、急に恥ずかしくなり俯いたままエスコートを受けた。


皇宮の無駄に長い廊下を二人で歩いた。


いつもは騒がしく人通りが多いのに、今は誰もいなかった。


窓の外から見える空は明るいが、太陽は反対側にいるせいか光が差し込むことはなく、いつもは眩いほど輝く趣味の悪い装飾品たちがただの置物状態だった。


ここに飾ってある装飾品は全て現皇后が選んだものだ。


ロベリアはこの廊下を歩くたびに、昔の方がよかったと何度も思った。


高貴な生まれで自分たちの母であり皇后だった彼女の方が物を見る目があったと、何度も心の中で叫んだ。


いつもは胃が痛くなるのに、今日はマルベリーが隣にいるからか、趣味の悪い装飾品を目にしても何とも思わなかった。


ずっと二人だけの時間が続けばいいのにとロベリアは皇族専属医師がいる部屋に着くまで願った。


扉の前で止まると、マルベリーは訝しげな表情をした。


だが、すぐに我に返りこの場を離れようとする彼にロベリアはその腕を掴んで離さなかった。


マルベリーは咎めるような目をしたが、その目を見た瞬間、ロベリアは扉を強く叩き返事を聞く前に中へと入って行った。


「殿下」


椅子に座っていた男はロベリアを見るなり、あわてて立ち上がり頭を下げた。


「彼を治療して」


ロベリアは有無を言わせぬ声で言った。


「……わかりました」


男は少し考えた末に、そう返事をした。


男はマルベリーに布で区切られたところへ行くよう言ったが、ロベリアは自分の目の前でやるように命じた。


男が信じられないわけではないが、もしかしたら皇后やエリカの手に落ちているかもしれないと思うと監視しないわけにはいかなかった。


本当は二人の手に落ちている可能性がないものに頼みたかったが、目の前の男以上に腕のいい医師はこの国には存在しないので、彼に頼む以外の選択肢は最初からなかった。


男は「いや、それは……」と慌てたが、マルベリーが「構いません」と言って「わかりました」と渋々納得した。


自分の意思よりもマルベリーの意思を尊重する男の態度をロベリアは不愉快に思ったが、顔には出さずにいた。


「では、服を脱いでください」


医師がマルベリーに言った。


男の目にはマルベリーがどれだけ上手く隠していてもわかっていた。


その服の下にどれだけの酷い傷が隠されているのかを。


それを高貴である第一皇女に見せないために、布で区切った場所で治療しようと思ったが、その気遣いを払いのけられた以上、男にはそれ以上どうすることもできなかった。


マルベリーが服を一枚ずつ脱いでいき、真っ白な肌が露わになったのと同時に、無数の傷と痣も現れた。


ロベリアはあまりの酷さに思わず視線を逸らしてしまった。


(あー、だから見せないようにしようとしたのにな)


男はロベリアの反応をみて、顔には出さなかったが、内心呆れた。


見る覚悟もないのなら外に出てくれたらいいのにと思わずにはいられない。


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