第3章 夜市を揺るがす約束
雨が降りしきる夜、楓は黒燈夜市の入り口で立ち止まった。灯りは水滴でぼんやりと揺れ、屋台の呼び声が雨音に溶けていく。昨日の嘘の屋台の騒動から一夜――黒燈には、何か大きな影が差していた。
「楓、来たね」
声の主は、謎めいた占い師――長い髪に夜空のような模様をまとった少女だった。楓は微笑み返す。
「黒燈夜市には、古い約束がある。願い屋台が現れるたび、人の未完成さを試すんだ」
占い師が紙片を指差す。そこには「誰も見ない真実を、選ぶ勇気を」と書かれている。
「真実を選ぶ……?」
楓は考え込む。夜市の屋台は、人々のささいな願いや嘘を映す鏡である。だが、それだけではない。選ばなければ、街の秩序も、人の心も、少しずつ歪む。
「つまり、私が選ばなければ、何かが壊れるってこと?」
占い師はうなずき、静かに言った。
「そう。あなたの決断が、この夜市を守る鍵になる」
楓は深呼吸をひとつ。手には、一年前に選ばなかった「花火」の紙片がまだ握られている。小さな後悔が、今、重大な意味を持つ。
「私は……もう逃げない。選ぶ」
彼女は紙片を夜空にかざす。すると屋台の灯りが一斉に輝き、雨に濡れた路地が光の河のように変わる。蒼もそっと隣に立ち、楓を見守る。
「選んだものが、街を少しだけ変える――そう思うと、少し怖いけど、でも、前に進める」
その瞬間、消えた店主の姿が、薄明かりの向こうに見えた。微笑む彼の手には、さまざまな屋台の紙片が光を帯びて握られている。
「よく来たね、楓。選んだ勇気を、夜市が覚えてくれる」
楓はにっこり笑った。選ぶことで夜市を守る。選ぶことで自分を肯定する。
雨に濡れた夜市の灯りの中で、少女探偵は静かに歩き出した。これからの夜市の物語も、彼女が選ぶ勇気に委ねられている――。




