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第3章 11話 炎翼のゴルガヌス

デファード国の玉座の間に魔族の連絡役が駆け込んできた。


「報告です。人間側の小規模集団により西に配備した我が軍は襲撃を受けましてございます」


玉座に座る、巨大な炎をまとう魔族は答える。


「して、結果は?」


「はっ。六割の損耗、敵は撤退、敵の損耗は少ないと。敵は旅団とは言えぬ程度の人数ですが、人間にしてはかなりの強者そろいかと」


それを聞いた炎の魔族は目を細める。


「ガロン、情報はあるか?」


白い線が特徴的な魔族がうやうやしく答える。


「魔族狩りに特化した冒険者集団、でしょうか。他国が動いた、というには早すぎます」


「なるほど、俺が出る」


「ゴルガヌス様が出陣されると!?」


「あぁ。大部隊を集めろ」


ほんの少し、ガロンと呼ばれた魔族は戸惑った。


「わ、わかりました」


ゴルガヌスはニヤリと口元を曲げ、歯をむき出しにした。


「わざわざ四天王の俺が来たというのだ、はは、そう、こうでなくては張り合いがない。はっはっはっはっはっは」


---


私たちは魔族との戦いを途中でやめ撤退し、洞窟へと戻っていた。


負傷した仲間たちの治療が終わり、主だったメンバーが話し合いをはじめる。


「戦果としては、かなり良いと考えていいだろう。コーラス、上空からわかったことはあるか?」


「見えた範囲では、西側の主要な場所には部隊が展開されています。偏りは見えませんでした」


それに対して、ウォルダムさんが言う。


「決まった一つの他国へ、兵を集中して向けるつもりではないということじゃな。一度、守りを固めるつもりか、はたまた、全方位にその兵を向けるつもりかはわからんが……ただ、全体としてそういう傾向だとすると、長期戦になるのぉ。半年ですむかな……」


「そうだな。先の戦いのようにはいかない。俺たちも疲労するし、物資の補給も必要だ」


「なんだ、弱気だなぁ。俺はやるぜ、俺たち人間の領土内の魔族は殲滅、そう、殲滅だ」


「ところで、迷宮付近に防衛力がさかれているなどはあったのか?」


「いえ、むしろ、そこまで魔族が多くいるようには見えませんでした」


「となると、迷宮の遺産、ないし秘宝は持ち出されたのやもしれんな」


「だったら玉座だろ、普通」


「といって、部隊を分けるのは厳しいぞ」


「俺が向かおう」


「ゼル! 敵のど真ん中だぞ」


こうして、次どうするか、という話し合いがしばらく続いた。


そんなあと、白髪のザックが近づいてきた。


「よぅ、新顔、おれはザックだ」


「サーラです、よろしくお願いします」


「最初の雷の一撃や、突撃での防御円など、なかなかなもんだったぜ」


「ありがとうございます」


「サーラがいなかったら、かなり戦力は低下してただろうからな、かなり助かっているはずだ」


「そうだといいんですけど」


「ん? どうした?」


「皆さんあまりにも強いじゃないですか、私なんか、いてもいなくても、関係ないくらいに」


「それは違うぜ、十分、役に立ってるぞ。なんだ、逃げ出したくなったか?」


「そうではありません。ただ」


そう、ただ、この彼らの戦略でことがうまく運ぶのか、不安があるのだ。


カップに湯を注ぎ、ごくっと少し飲む。


そしてなにより、大きな不安の一つは、アスマといつ合流できるのだろうか、という不安が昨日から詰みあがって言っている。


そんなとき、ニルヴァーナが大きくいななく。


ニルヴァーナは見ていた、接近する魔族達を。


動揺に、幾人かのメンバーも魔族の接近を感じ取った。


「場所が知られたか……」


「敵に囲まれかけております!」


「なに、倒せばいいんだっ、よっ!」


と、白髪のザックは立ち上がって武器を構える。


そうは言うが、今度は、こちらが魔族の猛襲を耐えられなければならない番である。


外に出てみれば、遠くからでも見える三メートルほど巨大な人型の炎をまとる黒肌の魔族が悠々とこちらをにらんでいるのが分かる。


「ちっ、こりゃやべえな……」


それは、今まで見た魔族の中でも、大きく、黒く、魔力に満ちあふれ、筋肉質でたけだけしい炎をまとった、強者然としている。


次の手を打つも何も、サーラたちはピンチに陥ってしまったのである。


遅れて洞窟の外を見た私も息をのんだ。


見たこともない数の、空と地上からの魔族達の大部隊だった。


目を見開いて、足がすくむのを感じる。


先ほど攻めた部隊の何倍もあろう戦力に加え、奥には、見たこともない巨大な魔族が見えた。


ブラッドウルフよりも巨大で、そう、きっと、この部隊を統率している魔族なんだろうと思う。


「あれは、四天王が一人、炎翼のゴルガヌスですぞぉ」


ウォルダムさんは驚きのあまり言葉を漏らした。


「どれくらい強いのです?」


コニーさんが不安げに聞くと、ウォルダムはゴルガヌスを見据えて言う。


「北方の魔族領と接する各国家では、様々な形で強き者、勇者を擁立している。しかし、ここ400年、四天王に傷を付けたものは誰一人としておらんのじゃ。そもそも、こんな場所にいきなり現れるというのも奇妙じゃ」


ゴルガヌスの周囲はまるで火山でも噴火したように地面に溶岩があふれ、大地は黒くなり、地形が変貌している。


私も、コニーさんにつられて聞いてしまう。


「その……勝てないんですか?」


「うむ、他の魔族もわんさかおるなかで、ゴルガヌスも相手をせねばならんとすると、考えを改めねばならん。撤退し、逃げ延びるしかあるまい」


「そんな……デファード国はどうなるんですか?」


「もう現時点でも、終わっておるよ。残念じゃが、助けられん」


それを聞いた私は、片膝をついて崩れた。


助けられない、のか。


王都から逃げ出すことにだって、後ろ髪を引かれる思いで悲しかった。無力さを感じて涙がでそうだった。


さらに、今回は、これからさらに蹂躙されるであろうデファード国をほとんどあきらめろ、そういわれたのである。


涙を目にためてうつむく。


無力だ……


あまりにも無力だった。


「おい、落ち込んでる場合じゃないぜサーラ」


と、強がった顔でペーターが励ましてくれる。


そう、まずは生き残らなければならない。


前方でマリウスを中心に戦の組み立てが進んでいっている。


マリウスの目には、輝きは消えない。彼はまだ、勝つつもりでいるのだろうか。


「北西に移動しながら、迎撃を試みる。囲まれたら危険なため、移動しながらとなる。まだ先の戦いの疲れもあると思うがここが正念場だ。行くぞっ、我らが地に魔族はいらない!」


その声に多くの人が呼応して声を上げる。


もしかすると、みんなそれぞれに、魔族に思うことが、何かしらあるのかもしれない。誰も、顔を下に向けている人はいなかった。


私は出陣の準備をはじめる。


「……私も、戦います」


小さく呟いたその声に、ペーターとマチルダさんが振り向いてわずかな微笑みを返した。


こんな恐ろしい状況で、希望を失わない人々を私は奇妙だと思う。


でも、


きっと、


こんな時だからこそ、希望を失ってはいけないのだろう。


---


魔族からの長距離魔法による砲撃を受けての撤退がはじまって三時間。


ゴルガヌスは油断なく敵を見つめていた。


「ほぅ、やるな、これでは損害は与えられんか」


そういうと、彼は、立ち上がり専用の巨大な斧に手を伸ばした。


「ガロン、後は任せる。俺が向かう。方位は進めろ、お前らの力、俺が見定めてやろう」


後方に控えていたガロンが静かに頭を下げるのを確認すると、ゴルガヌスは歯を見せて笑う。彼の身体を覆う炎が激しく大きくなり、周囲の溶岩が噴火のように吹き上がり始めた。


方針を変えた魔族は、ゴルガヌスを筆頭に、天空の風の部隊へ急接近を試みる。


「おぃおい、親玉さんが先陣切ってるんですけど!?」


様子が変わったなぁと、後ろを見たペーターは逃げながら驚愕する。


「当然でしょう、ヤツの役目は圧倒的な武力による状況の変化。戦術や戦略を立てる役割の存在ではないでしょうから」


冷静にマチルダさんが分析する。


魔族は翼があり空も飛べる、移動は敵の方が早い。追いつかれるのは時間の問題だった。


マリウスさんは反転し、


「俺とザック、ウォルダムでゴルガヌスを相手するぞ」


「なんだぁ、俺一人でだってやれるぜ」


「あいかわらずザック殿は調子が良いのぅ」


「俺たちが囲まれるのもまずい、他のメンバーは俺たちの背中を頼む」


「わかった!」「了解!」「おうさ!」


そうして、三人は反転しゴルガヌスのもとへと向かった。


「聖竜ハイルドと天使アドイアの子、セリオンに託されし神器が一つ、父母のように力強く空駆ける恩恵をわれにも与えたまえ」


マリウスが唱えると、彼の着ていた鎧は一新され、神々しい白、そして、天使と竜を混ぜたような翼状の光が見える。彼全身にも、その光で覆われ、持っている剣はさらに強く光っていた。


変身した彼は、全速力でもって空を飛び、ゴルガヌスのもとへと向かう。


「こっちも負けてられねぇなぁ!」


と、ザックも身体強化を限界まで引き上げ、肉体が傷つきはじめるのをいとわず、駆けだしていく。


そうして、数刻ののち、マリウスの剣とゴルガヌスの斧が激突した。


マリウスは激突の衝撃で後方に吹き飛びつつ、翼でもって空で体制を立て直す。神器の力で傷は瞬時に再生していくが、その表情は険しい。


「それが本気の一撃か? 少々、期待外れであるな」


こともなしと受け止めたゴルガヌスは、歯を見せて笑っていた。


周囲はどんどんと、黒い岩石溶岩地帯へと変貌し、暑苦しい場所へとなっていく。暑さだけでも、体力が奪われる。


そこに、駆けつけてきたザックと合わせる形で、マリウスとの連携攻撃が繰り出されるのを、ゴルガヌスは斧で、溶岩で、岩石でと様々な方法で対応していく。


氷を散らした風が、周囲の熱気を拭い去った。ウォルダムの魔法だ。


さらに、ウォルダムも攻撃へと加わる。


突如、ゴルガヌスの顔に氷が出現し大きくなっていく。


「ふん!」


その氷を、炎で何ともないと溶かしつつ、マリウスとザックとの戦いも継続する。


ゴルガヌスは魔術師の力量が常人の域を超えていることを悟った。他のメンバーも強いが、魔術師にはまた一味違う強さを感じたのである。


遠隔の場所を狙って凍結させるなど、そうそう簡単にできることではない。


魔法とは、自身の魔力を伝って放つのが原則、それを逸脱したものだった。そして、逸脱したものは、無理をしている分、威力も弱いというのが定番だが、まったくもってそんなことはなかった。


なるほど、部下がいいように負けてしまったわけである。


だが、そんな遠隔魔法も、読みにくい移動をすれば、狙いはつけにくくなる。そう、対処法などすでに手の内のだ。


ゴルガヌスが変則的な動きに映ったことに、ウォルダムは顔をしかめる。


ウォルダムは時に、ザックのための足場の土や氷を作ったり、後方からの魔法攻撃を開始する。


三人の果敢な攻撃も、ゴルガヌスはもろともしていなかった。


そしてさらに両サイドから、三人が残してきた部隊と魔族の部隊の戦闘が開始される。


後方ではガロンが冷静に指揮を執り、天空の風の連携を的確に阻んでいく。


「第二部隊、第三部隊は左翼に集中! 敵の竜化を止めろ!」


ガロンの指示で、魔族の精鋭が竜と化した狂戦士に襲い掛かる。魔力の槍がその翼を貫き、巨体はバランスを崩して地上へと落下していく。


圧倒的な魔族の数に押されながら、それでも引くことは許されない。三人の背中を守らなくてはいけないからだ。


ゼルは戦場を縦横無尽に駆け回り、敵の攻撃を流していく。


しかし、実際はそうではない。彼の拳は確かに強い、だが、残念なことに魔族を一撃で葬る強さを持っていないのである。


だからこそ、彼は被害を減らすよう、敵の攻撃を次々といなしていく。


精霊と合体した弓兵も、無数の光の矢を放ち続けるが、魔力を使い果たし、ついに膝をついた。


サーラも例外ではない。


出し惜しみせず、ため込んだ雷撃砲でもって、一体ずつ着実に倒しているが、それでどうこうなる敵の数ではないのである。


魔族の果敢な攻撃をよけ、あいたすきをぬっての雷撃砲。


ペーターやマチルダさんの援護でもって、雷撃砲の時間を作っていた。


三人とも、傷を負っているが、マチルダさんが回復に回っている余裕はない。


戦況は膠着なんてしていなかった。魔族優勢、徐々に、天空の風は人員こそ欠けないものの、傷を深めていく。


そんな中で、パーンと、炎が爆ぜてマリウスとザックがはじけ飛ばされた。


四天王、炎翼のゴルガヌスは二人のとんだ先を見据えてゆっくり言う。


「人間にしては強い。だが、それだけだ」


マリウスは、剣を立てて立ち上がろうとする。


「立つか……ならば、絶望するがいい」


すると、黒い岩石や溶岩の領域がどっと広がり、大地深くから溶岩が雨のように噴出した。


「くっ」


ウォルダムの小型の結界によって、彼を含む三人は凌いでいる。


「はっはっはっはっは、勝てると思ったか? 勝算があると思ったか? 甘い、甘いなぁ人間!」


その溶岩の雨は、背中を守っていた仲間たちにも降りかかり、甚大な被害を出していく。


サーラはこの溶岩の雨によって、防御に手いいっぱいになってしまった。


「だがな、そんな甘い希望も、抱くからこそ時として牙となることを俺は知っている。だからだ。ここでお前たちを倒させてもらおう」

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