第3章 08話 腐る大地
あの日から立ち寄った村は全部、盗賊が占拠していて大変だった。
今は、デファード国内の二つ目の村であるが。ようやく、まともな村である。
セナの姿となっていたアスマがいないことで、敵味方の判断がつきづらく、ゼルさんも怪しみつつも、基本的には刃を向けられてからの反撃という面倒なことをしていたのである。
そう思うと、本当にアスマって、頼りになっていたんだなと思う。
今は、私とゼルさん、ペーター、マチルダさんの四人だ。
マチルダさんは詠唱魔法も治癒もできて幅広い対応力がある頼れる仲間である。
ゼルさんの突破力は言わずもがな。
ペーターは、もうちょっと頑張ってほしい。
見張りとかは頑張ってくれるけれど、まだまだ頼りない。
そもそも、私もペーターも、対人、というのがあまり好きではないところがあるので、うん。
さて、立ち入ったデファード国の村は、ずいぶんと貧しい。
村で食料の補給なんてかなうはずもなく、むしろ分けてくれ、なんて言われる始末だ。
「かなりやべぇな。予想はできなかったが、あれだけ野盗になってるのも納得の惨状だな」
「作物が育たないみたいですね」
「天候に怪しいところはありません。妙ですね」
「根っこをどうにかすれば、いい話だろ」
「そうですね。何とかしたいです」
根っこ、つまるところ、デファード国にすくっている魔族、それを、どうにかできるかどうか、だ。
話を聞いたところ、雨も昨年通り降っているのだという。
そしてこの不作は、この村だけにとどまらず、デファード全体で起こっているとのこと。
意図的なものを感じる。
各領主、それを束ねる王族は機能していないのだろうか。
こんな状況下で、戦果を広げようとしていたのがウォズニッグ領だった。正常な判断ができる人たちはいないのかもしれない。
ともすると、重要な人たちのほとんどが、魔族に入れ替わってしまっているのだろうか。
怖い話だ。
ゼルさんの提案で村の方がかえって危ないかもしれないと、しばらく進んで野宿することになった。
野盗ではないにしろ、困窮した村人が襲ってくるかもしれないと。
それほどまでに、村は疲弊していたのであった。
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「ったく、馬使いが荒いぜー」
といいながら、俺たちは、昼の食事をとっていた。俺は遊馬慧本来の姿だ。
「お疲れ様です。どうぞ」
食事を運んだり、作ってくれているのは、非難させようとしている女性四人である。
「ありがとう」
「まぁ、アスマには悪いが、ここは、頑張ってもらうしかないよな」
「そうだぜアスマ、これができるのはアスマしかいないんだら……ん?」
その一言に、俺、パーブル、ジョニーは一瞬時が止まり、瞬きを二回、行った。
そう、それだ!
俺は真剣な声と表情で言う。
「なぁ、俺である必要、ないよな」
「……確かに、そう……かもしれないな」
「まてまて、まさか、だよな?」
ふふふ、そのまさかだジョニー!
「まて、俺にはほら、警戒、そう、周囲を警戒する任務がある、だろ?」
「俺はジョニーにも、ゼルにもなれる」
「な!?」
こうして、馬役は、三人で今後交代でやることになった。
流石に、女性を馬に変身させて引いてもらうのは、ねぇ。
ある、女性が言った。
「でも、本当にアスマさんは魔族じゃないんですね。そういう変身って、魔族特有のものだと思ってたので」
「ですね」
「俺のは特別みたいだけど、俺もこの世界の全ては知らないし」
「皆さんには感謝してもしきれません」
「ま、こういうのって、一期一会だし」
「そうそう、旅は道連れってね」
その日、残りの移動をジョニーに、複合変身で馬をベースに人語を話せるように、ジョニーの一部を加えて変身してもらった。
「うぉおおお! これが変身か、すごいな!」
「心が、変身元、馬なら走りたい欲求とかに引っ張られるから、注意してくれよ」
これで、ジョニーも変身を体験するに至った。
「それじゃ、移動、再開だ!」
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なんとかデファード国の首都に入り込み、ゼルさんの先導で天空の風の人たち、ウォルダム爺さんとコニーに出会うことができた。
彼らの隠れ家に集まった。マリウスさんという騎士は潜入の任務中で来れないそうだ。
「ともかく、久しぶりだな。まだ現役かよ、爺さん」
「ほっほっほ、これで引退としたいところじゃが、どうじゃね」
というわけで、それぞれ自己紹介を簡単に行う。
「私はサーラ、魔法使いです。冒険者ランクは4。得意なのは雷撃が一番、攻撃なら風の刃、防御円も治癒も使えます」
「サーラはすごいぜ。防御円を足場に、魔術師とは思えない機動力だからな」
そんな風にゼルさんに後押しされつつ、各自、の紹介が終わる。
ここにいる天空の風のメンバーはゼルさんをのぞくと、魔法使いのウォルダム爺さんと、治癒術師のコニーさんである。
「此度の件、協力してもらえる、と考えてよいのかね」
「私は望むところです。これまでひどい道中でした」
「はい、僕も、サーラさんにお供します」
「私は、サーラを見守る、という契約があります」
「なるほどのぅ。ゼルよ、お前さんの見立てとしてはどうなんじゃ?」
「サーラは、今でもすごいが、伸びしろもあると感じる。爺さんの手ほどきもあったらもっと変わってくるだろうから、俺は仲間に推薦したい。マチルダは実力は十分だが、成長に関しては分からん。ただ、エルフという長命ゆえに、一人いてくれると助かる。ペーターはな、冒険者としては一人前といえそうだが、半人前ってかんじだな」
「そんなー」
「あと、追加で三人、そのうち一人が変わり種だから、その時話す」
「それは楽しみですね」
「まずは、この件について、わしからも協力をお願いしたい」
「わかりました」
「状況は芳しくない。マリウスが潜入しておるが、なかなかうまくいっておらんようじゃ。基本、戦闘に重きを置いたタイプじゃしのう。コニーに街での調査をしてもらってはおるが、国全体で不作、という異常な状態が分かるていどじゃの」
「近くの作物を調べてみたのだけれど、土の栄養や魔力も薄くて元気がないのよ」
「規模が大きい、入り込んでいる魔族もかなりの数がいるじゃろうな」
「だろうな、匂うぜ」
「ゼルよ、どう見る?」
「いっそ、国つぶした方が早いんじゃないか?」
「それはまた、短気とも思えるが、そこまでひどいか?」
「あぁ、どこもかしこも、魔族の匂いがする。気味が悪い」
「流石に、天空の風が、証拠もなく、そのように動くわけにもいかぬ」
「にしても、魔族の狙いは何なんだ? こんな飛び地を壊滅させてどうする?」
「周辺国が混乱すれば、また付け込みやすくなる、ということかもしれん」
「回りくどくて気に入らねぇな」
「ただ、王室が迷宮を占拠しておってな。もしかしたら、そちらに本当の狙いがあるのやもしれん」
「迷宮の探索はどこまで進んでいるのかわかりますか?」
確認するマチルダ。
「いや、まったく外部に情報が出ておらん」
こんなとき、アスマがいたら、何か妙案を出してくれたのではないだろうか。
となればあのとき、彼に、彼女たちを任せたのは、私のわがままで、失敗だったのだろうか。
ふと、見る、小屋の中を照らすろうそくの明かりが力なくゆらゆらと揺れている。
「少し、夜、ちょっと周りを見てくる」
ゼルさんはそう言った。
それで、もし、王城に魔族がいると分かったとしても、天空の風の名目で立ち入れるほどの権力は持ち合わせていない。
一体どうすれば、よいのだろうか。
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あくる日、室内で私とウォルダムお爺さんとで話をしていた。
「なるほど、ゼルの無理にずいぶん頑張って付き合ったんじゃのぅ」
「はい、でも、加減はされていたように思います」
「ほっほっほ、ゼルもそういうものを覚えたか。さて、少し魔法を見せてもらってよいかな」
そうして、私はいくつか指示されたとおりに魔法を使った。
水を生成したり、それを一定に出したり、まるで生徒になった気分なのは逆の立場になっていたあの頃を思い出して懐かしい。
炎を一定に、雷撃も、また、魔力を収束させる速度、など、その他室内でできることの確認をしていく。
「属性に偏りはあるが、手段、できることは多彩じゃのぅ。また、安定もしておる。なるほどのぅ」
「どうですか?」
「苦手、というか、そもそも発想がないものも見えてきた。まずは、遠隔発動じゃのぅ」
「遠隔発動ですか?」
「うむ、サーラよ、いつも手元や近くで魔法で生成し、それを解き放つことがほとんど、例外は、防御円じゃのぅ。うむ、他も、そういうふうに応用できるかどうかじゃ」
「なるほど」
「それのコツは、空間そのものが自分であるかのような、領域を支配する、そんな感覚じゃのぅ」
「うーん、途方もないですね」
「まずは、小さい範囲でよいが、魔力を感じる力も何段階も上が必要となる」
「防御円は、比較的、遠隔発動がしやすいんじゃ。しにくいもの、としてあげるなら、治癒が最も難しい」
「確かに、そんな感じはします」
「自分の近くで風の刃を出すより、もう相手の場所に出してしまった方がよけにくいじゃろ?」
「はい」
「もちろん、遠隔発動は万能ではないがな。難しい分、効率もわるく精度、出力も落ちる。その分、強い手札じゃ。何せ、相手に変則的な移動を強いることができるのじゃからな」
ひとまず、何もできないなら、強くなろう。
力が必要になった時、ちゃんと対応できるように。
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「ヒヒーン!」
馬のいななきとともに、俺は爆速で走る!
三人交代制で今、全力で向かっているのだ!
あの四人を送り届けて、俺は今、馬! そして二人には猫に変身してもらって鞄の中だ!
まってろ、みんな、全速力で、追いつくからさ!




