第3章 07話 正義の形、分かたれた道
天空の風の騎士マリウスは、デファード国の兵となって、潜入しているが、なんとか連絡役にまでなって、今右往左往とさせられているところだ。
上官になる、などというのは、果たしてどれほどかかるだろうか。
戦でもあれば、戦果を稼ぎ、腕を見せれば、あるいは、とも思わなくはないが、そう簡単にはいかないようだ。
「ご報告いたします。各地での不作の状況、および各領主からの対策案をまとめたものです」
報告する先は、コール大臣だ。
連絡役になったことで、幾人か、重鎮の顔を知ることができたのはよかった。
「ふむ、下がりなさい」
コール大臣は書類を受け取ると、机の上に向かっていった。
可能であれば、その中身の詳細を確認したいが、今は、信用を作らなければならない。
いくら戦での力があるとはいえ、こうしたことには無力である。
だが、あまりのんびりもしていられない。
どうしたものだろうかと焦るも、どうしようもないというのが現状であった。
次の報告へと向かう。
本当に、このままで、魔族を見つけ出し、その企みを阻止することができるのだろうか。
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エンタンクト商業連合国の領土に入り、村々を進んでいく、進むほどに、盗賊、山賊は増えていった、そんな途中の村でのことだ。
村へ入ろうとしたところ。
「な、何もんだお前たち!」
と、村の入り口で二人の門番に懐疑の目で見られてしまった。
「旅の冒険者だ、デファード国にようがあってな」
ジョニーさんが応じる。
「本当に冒険者……なん……だろうな」
冒険者の証明書は、残念ながら、この場合、身分証としては厳しい。
周辺の街に照会できれば違うが、そうではないからだ。名前とランクが刻まれただけでは、盗賊がそれをうまく使って、などということができてしまう。
「盗賊に、あんな女性、ほら双子の女の子とか、いると思うか?」
「まぁ、たしかに……おびえているわけでもなさそうだ」
「あんたらがピリピリしてるのもわかるけどな。デファード国の難民だかが、山賊になってるんだろ。俺たちも被害にあってる」
「しかしだな……村長に確認をとらせてくれ」
「あぁ、かまわない」
私たちは待たされることとなった。
それは無理もないかもしれない。私、セナの姿のアスマ、ゼルさん、パーブルさん、ジョニーさん、ペーターさん、マチルダさん、七人と大所帯である。
とくに、ゼルさんは大柄でどうしても周囲を威圧してしまう。
そのへんは、本人も自覚しているみたいだ。
だが、そんなゼルさんがぼそりと私達だけに聞こえるように言った。
「なんか匂うな……」
しばらくすると、村長のドワーフがやってきた。
「こりゃまた大勢じゃの」
「あぁ、可能なら宿と食料の補給をさせてもらいたい」
「わかった。ただ宿についてだが、七人全員泊れる場所がない、別れてもらってもよいかな。四人と三人じゃ」
「かまわない」
順調に進んでいきそうだ。
村の人も、外から人を迎えるのが怖くなるのは仕方がない。分かれるのも、これまででもあったことだった。
ふと、ゼルさんはなにか、頭を指でとんとんと叩いて、セナを見ていた。なんだろう。
セナは理解した、みたいな感じだけれど。
「では、ご案内しましょう」
そう、村長さんがいったすぐに。
セナが早口でまくし立てるように言う。
「ゼル!村人はもう殺されてる。ここにいる連中は、奴隷にされている人をのぞいて全員盗賊だ!」
嵐のごとく言葉が紡がれ、その衝撃はゼル以外の面々に重くのしかかった。
「ナイス!」
それを予想していたようにゼルは駆け出したかと思えば、村長となのった男の顔面を吹き飛ばしていた。
「このやろう!」
と、周辺から、わらわらと武器をもった村人がでてくる?
え?
どういうこと?
これ、みんな山賊!?
「奴隷はどうするよ」
ゼルさんは、セナを見て言う。
「できるとしても、今助けるところまで、それ以上は面倒見切れないんじゃないか」
「いい判断だ! サーラ、他もしっかりしろ!」
「奴隷は保護、ただし、奴隷のふりをしている場合もありえますから、私が判断するまで警戒してください」
「「おうよ!」」
こうして、唐突に村を舞台に大人数の山賊との大立ち回りがはじまった。
「もう、休めると思ったのに!」
「まったく、やってくれるわね」
「僕がついてます、サーラさん!」
ペーターは必死に槍を構え、山賊の攻撃を防ぐ。しかし、その動きはどこかぎこちなく、まだ人との戦いに慣れていない様子が伺える。マチルダさんは後方から治癒魔法でペーターを援護し、彼の傷を癒していく。
「ペーター、もっと腰を落とせ!」
ジョニーさんが的確な指示を飛ばすが、ペーターは焦りからか、なかなか思うように動けない。
「くそっ、数が多すぎる!」
パーブルさんが叫ぶ。彼の剣は次々と山賊を切り伏せるが、倒しても倒しても、まるで無限に湧いてくるかのように敵が現れる。
ゼルさんはすでに山賊の群れの中央に突っ込み、その巨体と圧倒的な膂力で敵を蹴散らしていく。彼の拳が唸りを上げ、山賊たちはまるで紙切れのように吹き飛んでいく。
「サーラ、援護を頼む!」
ゼルさんの声に、私は杖を構える。私の広範囲雷撃が、山賊の密集地帯に降り注ぎ、一瞬で数人を黒焦げにする。とうぜん、その威力は、手加減してのもの。間違って捕まっている人に当たっても、治療できる程度のものだ。
「セナ、何か手はないの!?」
私は叫ぶ。セナの姿のアスマは、周囲の状況を冷静に分析する。山賊たちは、村の建物を盾に、巧みに身を隠しながら攻撃を仕掛けてくる。隠れられると、厄介だ。
セナが、地面に手をついて、片目をつぶった。ほんの一呼吸。
「サーラ、あっちの壁の後ろに二人、そっち側には敵なし、東の高い建物、あそこから弓で狙っているやつが隠れてる。囚われてる一般人は周辺にいないわ」
指示をうけて、壁越しに私は雷撃を撃ち放ち、矢から狙われないように壁際に身をひそめる。
いったい、アスマがなんでそんなことが分かるのか、ひとまず、そんなことは後でいい。
「くそっ、なんだこいつら!」
山賊たちは混乱し、逃げ惑う者もではじめた。しかし、アスマの的確な敵の補足と、ゼルと私の高軌道でそれを封じつつ。村に残った人たちはパーブルやジョニー、マチルダ達が掃討していく。
しばらくして、村は静寂を取り戻した。
まったくもって、とんでもないことになってしまった。
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街の広い建物に入って、俺たちは、救出した奴隷四人とともに、安全な場所で休憩をとることとした。
奴隷四人は、全員女性、記憶も確認済みである。
戦闘での負傷の治療に、サーラとマチルダが仲間に寄り添っている中、俺は、敵の記憶を除いて確認をとっていく。
偽の村長が盗賊団のリーダーだった。いま、撃ち漏らしがないかどうかの確認だ。
念のため、ゼルが周囲を警戒しているが、空気感としては問題なさそうだとのこと。
俺は立って、建物に手を当てて、感じ取る。
そして、複合変身でもって、建物の記憶を持ってくる。
どうやら、この建物周辺に隠れている存在はいなさそうだ。
どうも、物質への変身も能力が拡張しているようで、その物質周辺の出来事を記憶として読み取れるのである。
物質自体に五感はないので、かなり不思議ではあるが、役に立つ。
さて、一軒一軒回るのもな……無茶かもしれないけど、やってみるか。
俺は、外に出て、しゃがんで、村の中心付近で大地に手を当てる。
複合変身、村全体!
頭の中に村全体での、今日の一連の争いや、さかのぼれば、平和だったころが意識に流れ込んでくる。
今重要なのは、盗賊の撃ち漏らしについてだ、あの争いの中、出入りした盗賊、盗賊、あ、いたいた。
二人、逃げられたか。
外で警戒しているゼルに伝える。
「盗賊二人が、あっちの方向に途中で逃げたみたい」
「なるほど、別動隊を呼んでるってわけじゃねえんだろ?」
「そこまでは、そんな雰囲気ではなかった」
「ならいい」
「中の人たちにも知らせてきます」
そうして、中に戻って、パーブルやサーラたちに知らせる。
「しかし、本当に物騒な雰囲気になっちまったな」
パーブルは明るく勤めて言う。
「デファード国はそれだけ状況が悪いみたいですね。ほとんどがそこからの亡命者でした」
「そこは少し置いておいて、彼女たちはどうするんだ」
ジョニーが言うのは、助けた奴隷たちだ。
「今助けることはできても、それ以上は厳しいんじゃないかと」
「それはそれで、どうにかならないの?」
というのはサーラだ。
ま、どうにかしたくもあるが、戦闘開始時に明示したように、面倒が見れる状況でもない。
そもそも、目的地は楽園の地ではない。むしろ、敵地へ向かうようなものなのだから、連れていくこともできない。
「困ったものですね、方法はないわけではないけど……」
そう言うと、サーラは笑顔になった。いや、できはするが、できはするがな。
「ただ、正直言って、キリがない。次も、とはいかない方法だし、次も同じようになりえる」
「どういう方法なの?」
「私と何人かで、彼女たちを安全な村まで、送り届けることはできるだろう。ただ、今それをやったとして、また同じように村全体が、そして奴隷として、みたいなことはありうる。その時は、見捨てるしかない。どこかであきらめる必要がある。私は、みんなを追いかけられるけど、他の人はそうもいかないでしょ」
「確かに……目的地は分かっているから、セナでなければならないってこともないかもな。セナが目的地にいてくれて、合流を助けてくれてもいい。でも、どのみち、戦力を分散し続けて、とはいかないな」
冷静にパーブルは告げる。
「そっか」
残念そうに、サーラはつぶやく。
「それでも、助けられないかな」
「今回の旅の目的は、ゼルがサーラを天空の風のもとへ連れて行っての合流だ。マチルダさんは、サーラを見守るという契約がある。一番動きやすいのは、私とパーブル、ジョニーの三人かな」
「俺は反対はしねぇがサーラちゃん、これからはまた一段と厳しくなるぜ、それも踏まえて考えた方がいい」
ジョニーが付け加える。
この問題は、デファード国の魔族が関わっているだろう。であるならば、早々にみんなの力でもって問題を解決してしまった方がいいとも言える。
時間を駆ければ、それだけ被害が増える。
目に見える犠牲者を思って行動し、時間を使うか、それとも、なるべく早く解決する道を選ぶかである。
何も思わずに、後者を選択できるのは、およそサイコパス的思考の持ち主と言えるのだろう。
目の前に、助けをこう、弱者がいる状態で、平然とそれがなせる、決断できるかというと、俺もそこまで非常にはなり切れそうにない。
「そっか、ちゃんと考えないとね」
ひとまず、食事を作ることにして、ゼルとジョニーは外での警戒を交代した。
交代したゼルが言う。
「こういうのは、何が正解かってのがむずかしいんだよな。サーラを天空の風の仲間に紹介できるなら、俺としては最優先は問題ないが、セナ、お前のことも紹介はしたいんだ、分かれるとしてもちゃんと合流してくれよ」
そう言って、彼は軽く食べた後、夜の警戒のために仮眠を取りに寝に向かった。
「その、私たちのことでいろいろご迷惑をかけてすいません」
「何、俺たちが勝手に悩んでることですよ」
翌日、村にある食料をかき集め、持っていく資材を確認した。
馬車の馬こそないが車部分など、いろんなものがあった。
ふと、ゼルがこんなことを言った。
「セナ、馬にも変身できるのか?」
「それは当然……なるほど」
ゼルはニヤリと笑う。
ほんの少し、移動を早くできそうだ。
しかしまた、大変な要求をされたものだ。
そして、その日の相談で方針は定まった。
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「ヒヒーン!」
なんて俺は馬になっていななく。
いやぁ、馬になる主人公なんて作品はファンタジーでも珍しいのではなかろうか。いや、主人公ではなくヒロインにもしかしたらそんな物語があったかもしれない。
そう、確か、竜伝説シリーズにそういうものがあったはずだ。
ガタゴトとと他われた女性四人と、パーブル、ジョニーを荷台に乗せて、俺は、粉骨砕身の思いで馬車を引く。
そういえば、元の世界では、昔は馬力なんて単位があったんだっけ。
カンターナの街近くの、ウェンプトン国内までは戻らないといけないだろう。
荷馬車では、まだ助けた女性たちは不安げである。これからの行く末が、土地を離れてどうなるか、何もわからないのだから当然だろう。
この選択が吉と出るか、凶と出るかはわからない。
だが、後悔しないために、最善を尽くしているつもりではある。
このへんは、俺はサーラほど、人情味はあんまりないけどね。
空は青く、風も心地よいのに、のんびりできないというのはなんとももどかしく、もったいない。
そして、なんというか、うん、馬になったせいでついつい、駆けまわりたくなってしまう。
長旅なので、ゆっくり、ゆっくりとね。
まったく、馬の人生も楽じゃねえな。




