第3章 04話 カンターナ迷宮
旅も順調に進み、もうじき大きな街につけそうというころ、夜の食事準備に俺はとってきた葉っぱをまな板に換えて、そこに野菜を並べる。
さらに、別の葉っぱを包丁に換えてトトトンと切っていく。それを鍋に放り込む、鍋までは他者変身ではない。
料理も当番というかできる人がやる形で、俺も参加している。
サーラがこれまで、料理も経験しているので、そうした点でも今の俺でも対応できるというわけだ。
ぐつぐつぐつ。
火は魔法で、水も魔法で、ほんと、サーラなど、魔法使いの能力は便利だ。
他者変身もずいぶん慣れてきて、他者三つくらいなら、10分程度持つようになってきた。
この調子で慣れて時間を増やして、個数を増やしていけばいい。
最初は、葉っぱなどを包丁に変身させても、全く切れ味がなかったのが今ではこの通り。
これは、能力をどこまで引き出して使うか、というやつと同じだろう。
最近は食事事情に変化ができた。
パーブルとペーターも、俺の他者変身で猫になって食べ始めたのである。
なんでも、満腹に食べられるのが非常によく、次点で、肉がおいしいとのこと。
サーラは、何変なことしてるのよ、といった感じだったが、なってみると分かるぞ、猫の良さは。
ちょっと興味があるようだったが、遠慮しておくとのことだった。
ということで、料理も終わり、俺、パーブル、ペーターは、猫の食事をとっている。
うむうむ、うまいうまい。
「ははっ、アスマのおかげで面白い旅になっちまったな!」
ゼルはご機嫌だ。
一応、猫の区別がつくよう、俺は黒猫、パーブルは白、ペーターは茶と白である。
サーラは、パーブルとペーターの恋心や下心を少し感じ取っているので、二人、というか二匹からは距離をとっている。
俺にはどうやらそういうのはないらしい。
マチルダは、その辺分け隔てない。
サーラの警戒は八割がた過剰だったりする。猫になると、猫の心に引っ張られるからね。
食べ終わって伸びをする。うーん、食べた食べたー。
次の街では、食料やら、いろいろ買いこんだり、そしてまた、少しみんなの連携を試してみるために冒険者の依頼を受けてみる予定である。
さてはて、どうなるだろうか。
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街へ着いたら、ゼルさんはさっそく冒険者ギルドへ向かった。さては、いつものことである。
私たちは、宿をひとまず手配して、その後、この街カンターナの冒険者ギルドへと向かい、張り紙を見上げていたところ。
「迷宮での遭難者の捜索、及び救助、がありますね」
ペーターがぼそっと言った。
「ここの迷宮は、地下何十階層の推定、最深部不明じゃなかったかしら、死霊、骸骨、そうしたのが多く、珍しいお宝もでるそうよ。うーん、十三階層か……遺品発見でも報酬あり、悪くわないかしら。土地勘がないのが不安だけど」
マチルダさんが説明してくれる。
「迷宮ってのは、仕掛けや罠とかもあるのか?」
セナになっているアスマが質問する。
「そうよ。迷宮にもよるけど、生きた洞窟みたいなものなの。作動した罠が復活したり、場所が変わったり、魔物が湧き出たり、そんな感じ」
私も本で読んで知っているけれど、潜ったことはない。
そんな横で、ジョニーが近くの冒険者に尋ねていた。
「よぅ兄ちゃん、あの迷宮の遭難者の依頼、なんで残ってんだ?」
「その人か、ここの有力な冒険者は、三組ある。そのうち二組は今いない。そして残り一組、そこからの依頼なんだよ」
「手に負えないってことか……冒険者ランクと編成は?」
「冒険者ランクは4の四人組。戦士のドワーフと獣人、索敵役の小人族、魔法使いのエルフ、で帰ってこれたのは魔法使いのエルフだけだ。詳しくは、そこの女性がそのエルフだ。聞いたらいい」
ジョニーは、そのエルフに近づくのを私は眺めてみている。
「よぅ、あの依頼に興味があってな、俺はジョニー、あんたの依頼かい?」
すがるような眼で、女性は顔をむけた。
「ターニャです。受けてくれるんですか!?」
「話を詳しく聞かせてくれ。状況が分からなきゃ判断できない」
少し女性は落ち込んだかと思うと、顔を上げなおして話はじめた。
「もともと八階層を歩いていたはずなんです。ところが、急に床が抜けて、雰囲気的には十三階層のところまで落ちてしまっていました。そこで、大きな巨大なゴーレムに強襲されて半壊して、私だけ逃がされたんです」
ターニャは、服や防具、杖がボロボロで血の跡も残っている。肉体の治療は終わっているようだが。
「サーラ、どうする?」
「受けたいけど、ターニャさんは来れるの?」
ジョニーが一瞥すると。
「すぐには無理だろうな。体力がない」
といって、時間をかけると、間に合わなくなるかもしれない。
「わかった、仲間の詳細を教えて、ターニャさん」
そう声をかけると、パーブルが、
「俺は迷宮の地図や情報、集めてくるよ」
と出かけて行った。
ターニャさんから、情報をひとしきり聞いて、受付で依頼を受けることを申請した。
迷宮は刻々と変化する。早く対処した方が助けられる可能性は高くなる。
ほんの少し気持ちが焦る。
どうせなら、助けたい。
遺品を持って帰りたくはない。
「できることを、しっかりやりましょう」
マチルダさんが声をかけてくれる。
「はい」
セナの姿のアスマはずっと考えているようだ。
「セナ、何かあるの?」
「今、記憶を手繰ってる、最短でいけるかも」
普段、なんでもふざけがちなアスマには珍しく、真剣な表情だった。
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戻ってきたパーブルを加えて急ぎ迷宮へと入った。
パーブルが手に入れられた情報は、迷宮の各階層ごとの主な魔物や罠についてである。構造に関しては、刻々と変わるので地図はない。
俺は現在、サーラをベースにして、ターニャの一部である記憶という構成にしている、どこまでこれが維持できるかは不明だが、複合変身でも片側の出力が低いのでかなりの時間は持つだろう。
ターニャの記憶から、助け出す対象について顔、姿、特徴、得意、不得意、などは他のメンバーよりも把握している。
「ターニャさんの記憶を読み取ったから、進む方向は私の指示に従って」
ということで、方向は俺が、探索役をジョニーに任せて、ジョニー、俺、ペーター、マチルダ、サーラ、パーブル、という隊列で進んでいく。
一階層目は何とか突破、罠も復活していなかった。調子が良ければ、と思っていたら、二階層目の少し先で、動く骸骨に遭遇する。
それらを遠距離で、マチルダの詠唱魔法での浄化と、サーラが雷撃で粉々にしていく。
「次、進もう!」
慎重ではあれど、急ぎながら。
階層を下りるごとに、敵は強くなる。パーブルの提案で五階層目で少し休憩をとった。
水分を補給しつつ、武器の確認をしたら、腰を落ち着ける。
「ターニャの記憶通りに進めている、上手くいけば、落とし穴のところに出られるはずだ」
「なるほど、その後は?」
冷静なマチルダが返す。
「ツタの魔法をらせん状にして足場にして、十三階層から戻れたらと思ってるんだが」
「降りるのもそれでね」
「そうだな」
いったん複合変身から単体変身にもどして、休息する。休めば、その分また、長時間使えるはずだ。
「ねぇ、間に合うかな」
サーラは、間に合わせたいようだ。そりゃ、そうだな。
「やれるだけやってみる。迷うのは後、でしょ?」
「そうね」
そう、ゼルがよく示していたことである。迷うよりもやる、もちろん、時と場合によるのだろうけれど、今は目の前のことに集中しよう。
休憩ののち、探索を開始した。
厄介になってきた。
罠が復活し始めている。
「ちっ、ちょっと待っててくれよ。絶対に俺より前には出るなよな」
「もちろんです」
罠をよけながら、最悪、発動させて壊しながら、早め早めにすすみつつ、出会った骸骨やゾンビを倒して進んでいく。
ほどなくして、例の落とし穴までたどり着いた。
「それじゃ、やるよ!」
セナの力だけだと不足なので、いったん複合変身をセナをベースに、ウェルゴーとした。彼の力も借りる。
ツタの螺旋階段を作り、みんなでゆっくりと降りていく。
「これは、深いですね」
ペーターは怖いみたいだ。ははっ、俺も怖いよ。と思っていたところ、マチルダが、詠唱魔術出先を照らしてくれる。助かる。
十三階層にたどり着き、俺はまた複合変身を戻して、進路を告げる。
「あっちだ!」
「確認する!」
ジョニーが罠を確認しながら、ゆっくりと進んでいく。
「もうすぐ、ゴーレムの部屋です」
扉を開けると大きな広場に出た。
そして。
中央に鎮座していたゴーレムが再稼働しはじめた。
「行くぜみんな!」
威勢よく声を上げるのはパーブルだ。
「まった、まずは部屋の罠を探させてくれ、それまで防御に」
「「了解」」
マチルダが詠唱魔術を唱える中、大振りに振りかぶってジャンプしてとびかかってくるゴーレムの前面に俺とサーラで、防御円を何重にも重ねていく。
ガガガガドン!っと防御円で何とかはじき切って、ゴーレムは後方に少しはじかれる。
その後に、マチルダの詠唱が完了し、氷の槍が吹き荒れて、さらにゴーレムは後ろへと下がっていくも、傷は深くない。
さらにもう一度、同じやり取りが続く。
「罠はない、動いていいぞ!」
ジョニーの発言を契機に、ペーターとジョニーは突撃、パーブルは後衛を守るように俺たちを含めて時計回りに迂回していく。
サーラは反時計回りに、回り込んで雷撃を放っていく。
対するゴーレムは接近したペーターとジョニーを狙うために腕を振るったその時に、一番腕が高い位置の先端に合わせて、俺は強固な防御円を発動、すると、腕がつっかえって、ゴーレムはよろめく。
そのすきに接近した、ペーターが一足早く、槍の一撃を加えるも相手は鉄、ピクリともしない。
反対側に回り込んでいるサーラは引き続き雷撃を放っていくも、こちらも決定打になりそうにない。削れてはいるが、かなりの長期戦になりそうだ
サーラの力なら、威力をためた、極大の雷撃ビームで、ゴーレム自体は対処できる可能性が高い。迷宮は壊れても復活する。ただし、今、付近には救助すべき対象がいるかもしれず、不用意に撃てない。
ゴーレムの核となる宝石も、どうやら、奥深くに隠してある。当然だがな。低層ならともかく、ここで、弱点むき出しの安い魔物は出てこない。
ジョニーが攻撃を加えるもびくともしない。
「くそっ……このままじゃ、ジリ貧だ……!」
俺は唇を噛みしめる。脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックした。賊を切り伏せた時の、手に残る生々しい感触。人を殺める、その冷たい感覚が蘇る。
(この力は……俺の悪趣味なイタズラとは違う……。人を殺めるための力だ。あの時の、嫌な感触が……!)
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。仲間たちが、目の前で傷ついていく。このゴーレムを倒さなければ、助け出すべき人たちも危ない。
「作戦Dを使う!」
俺は宣言し、意識を切り替え、覚悟を決める。イメージするは――
バリスタードだ!
その瞬間、周囲の空気が震え、魔力が渦巻く。俺の身体が光に包まれ、一瞬で屈強な騎士の姿へと変貌する。その姿は、まさにユークララス家の筆頭騎士、バリスタードそのものだった。
「なっ……なんだ、あの姿は!?」
ペーターが驚愕の声を上げる。しかし、ジョニーは目を見開き、パーブルはニヤリと笑う。彼らは知っていた。この姿こそが、絶対的な勝利を約束する切り札であることを。
バサザサっと、瞬時にゴーレムに肉薄する。ゴーレムが振り下ろした巨腕が俺を叩き潰そうとするが、その光景はスローモーションのように見えた。巨腕が届く寸前、俺の剣閃が光線を切り裂きながら懐に潜り込み、一呼吸もはさむことのないわずかな時間でそれを切り裂いた。
幾重にもゴーレムの装甲を切り裂いていくと、ガリンと確かな手ごたえがあった。
核を、壊せた!
油断なくゴーレムから距離をとると、それは崩れ落ち、動かなくなった。
そして俺は、サーラの姿へと戻る。変身の反動で、わずかに息が上がる。
「おっしゃ!」
「やったー!」
パーブルと、ペーターが声を上げる。
「ふぅ、なんとかなったわね」
マチルダさんもお疲れ様です。
「さ、まだ終わってないぜ」
と、ジョニーが促す。
ほどなくして、壊された扉から逃げ出していた三人を見つけだすことに成功した。
三人とも、大けがで動くに動けなくなっていたのである。なんとか、部屋から脱出はできたものの、どうしたものか、となっていたとか。
マチルダさんが治療をはじめる。
「それじゃ、油断せず、しっかり帰りましょう」
サーラの言葉に、みんなうなずく。
さぁ、帰るまでが遠足だ。
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冒険者ギルドへ戻ると、私たちを見つけたターニャは恐る恐る後ろを見た。
その後、仲間の無事がわかり、手を振られると、彼女は泣きだして仲間の一人に抱き着いた。
助けてよかった。




