第3章 03話 君も猫になりたいの?
勢いよく飛び出してきた盗賊たちに俺は、薄い防御円をお腹の下にトトトンと全く同時に発生させる。
勢いよく飛び出していた彼らはどうなるかって?
防御円の障害物でお腹からちょうどくるっっと、まるで鉄棒で前転でもするようにひっくり返り始める。その光景に、ゼルは獰猛な笑みを浮かべ、サーラは冷徹な眼差しで杖を構え、パーブルとジョニーは得物を抜き放つ。マチルダもまた、静かに詠唱を開始していた。
前転が始まるかどうか否やの時点で急接近したゼルは、まるで嵐のように盗賊の群れに突っ込んだ。一撃殴って、ぶち飛ばしては次へのモーションに入り、瞬く間に数人の盗賊を戦闘不能にする。
その時には容赦ないサーラによって、三人の首が斬撃の魔法で飛んでいた。彼女の魔法は、もはや手加減を知らない。
マチルダの風の刃の支援を受けつつ、パーブルとジョニーも、敵を切り伏せていく。パーブルの剣は重く、ジョニーの短剣は素早い。二人の息の合った連携が、盗賊たちを翻弄する。
まだ、最初に転倒してのこっている連中の頭が、地面を向いた、そんなタイミングで。
ゼルは、近くの二人を連続的な蹴り殴りで、昏倒。
さらに、サーラさんは確実に盗賊の首をまた三人、飛ばしている。
はい、えぐいね。
俺もそれに参加して、パーブル達の外側の隙間を縫うように、二人を風の斬撃でしとめる。
サーラって意外に、容赦なくなったなー。
パーブル達も次々と倒しつつ、ゼルはさらに後ろにた転倒してない連中へともう突進していく。
「おぃ!なんだこいつらっ!」
などと、盗賊たちは悲鳴を上げている。
すまないな、相手が悪すぎる。
ゼルによって地理尻に逃げようとする彼らに、さらに俺は、やっぱり、足元に防御円をつくって転倒を誘って、はい全員ひっかかりました!
盗賊はすべて、完膚なきまで葬られた。
「セナの防御円の使い方もいいなぁ、気に入ったぜ」
ゼルは満足そうだ。
ん、ペーターはね、動きに全くついてこれてないです。
「おい、ペーター、後処理くらいは手伝ってくれよ」
と、ジョニー。
パーブル、ジョニー、ペーターが、盗賊の後始末や、持ち物を取り出したりとし始めた。
「とりあえず、賊の記憶のぞくな」
と、セナの姿のまま、記憶だけ、賊の一人を付与して記憶を手繰る。
「ここにいるのが主力、近場にアジト作ってて、そこに、ほかあわせてあと六人です」
「放置しているのは寝覚めが悪いわ」
というのはサーラ。
「あら、お姉さまって過激ですね」
と、茶目っ気交じりにセナとして言ってみると、ジロジロとサーラに妙な顔で睨まれた。怒こっているわけではない。
「はん、即断即決、場所は分かるんだろ?」
「はい、わかります」
「なら、サーラ、セナ、ついてこい!」
「「はい」」
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吹き飛ばした組の気持ち悪さが心に滲みながら、アスマが先頭に私とゼルさんはそれを追いかける。
凸凹の豊富な、走りにくい道も、セナとなったアスマも不自由なく走っていく。
そう、分かってはいても、怖いし、気持ち悪いし、嫌だなと感じるのだ。
アスマは迷わないのだろうか。悩んだりはしないのだろうか。グネムのとき、彼は平然と蹴りとばして踏んづけていた。
どうなんだろう。
ほどなくして、盗賊のアジトが見えてくる。元は貴族の避暑地、別邸だったのかもしれない大き目である。
「やるじゃねぇか、セナ。さて、一網打尽にしてえな。状況を知りてぇし、可能なら、集めてほしいぜ」
「じゃぁ、俺が行ってくるかな」
と、セナの姿だったアスマは先ほどの盗賊の一人になった。
「俺が、ひとまず中に入ってみてくるよ」
「おう、頼んだぜ」
そういって、盗賊姿のアスマは向かっていった。
しばらくして、黒猫が一匹こちらへやってきたかと思ったら、その姿がセナになった。
半分は分かるけど、アスマ、元の姿に戻る気はないの?
いや、今は非常時だし、この方が都合がいいけれどね。
「盗賊の連中には、全滅した、ここもしばらくしたらやってくるかもしれないから、荷物まとめて逃げようって打診したら、そうなった」
「言っちゃったの?」
「そうそう、ほら、家探しするのも面倒でしょ、やらせたらいい」
「いいな、てことは、逃げ出すところを襲ったらいいってことか!」
「そういうこと」
「なんだか、今度は私たちが賊になっちゃったみたい」
「違う違う、賊じゃないよ、賊を退治に来た、金品集めの良い方法がソレだったってだけだから」
ほどなくして、盗賊たちは六人そろって出てきた。
「おい、あいつはどこ行ったよ!?」
「知るか、急いで逃げるぞ!」
と、混乱しているようだ。
東側へと逃げようと進むも、そこにはゼルさんが待ち構えていた。
「よぉ、景気はいいかい?」
「な、なんだぁ、獣人一人が調子に乗りやがって!」
「おい、こいつがさっき言ってたヤバイ獣人なんじゃっ!」
そんな彼らに、横合いから出てきた私とセナは、一団、全員めがけて風の刃で首を飛ばしていく。
やっぱり気持ち悪い。
それは、あっという間に終わった。
雷撃だと、せっかくの持ち物が焦げちゃう、とアスマが言っていたのである。
「せっかくだ、今日はここに泊まろうぜ」
というのが、ゼルさんの提案。
「それじゃ、他のみんな呼んでくるわ」
と、セナが駆けだしていった。
あっけらかんと、したその表情を見て、アスマを凄いようでいて、ちょっと怖くも思った。
いや、私が臆病すぎるだけなのかな。
ひとまず、倒した盗賊の荷物をはぎとろう。
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俺は盗賊の元アジトで猫になって晩御飯を食べていた。
しゃむしゃむしゃむ、うむ、よき肉である。
「ニャオーン!」
ついつい、尻尾を立ててしまう。美味い。
部屋割りも決まり、掃除も少しして、今は食事をとっているところだ。
マチルダがじっと見ている。
「ほんとに猫なのね……いいのそれで」
そんなことを言われたので、首をかしげて見せる。
「まあいいわ」
と、俺をなで始めた。おぉ、頭の上、額、よきよき、うむ、くるしゅうないぞぅ。
のどをつい、ゴロゴロといわせて、目が穏やかになってしまう。
「ほんと、こうしていると可愛いわよね。セナも可愛いけどさ」
おぉ、顎の下とな、こっちもよろしくたのむ。うむうむ。
そんなやり取りに近づいてきたサーラが。
「猫とはいっても、アスマよマチルダさん」
「いいじゃない、今は猫なんだし」
おぉ、よい、よいぞぉ、なんだ、サーラが俺を見ている気がするが、うむ、そんなことよりも、おぉ、気持ち良い。
ふと、別の手が背中をなでなで触り始めた、サーラだ。
ふむふむ、まだ不慣れだが許してしんぜよう。今、俺は気分がよいからな。ふわわわぁー。
「本当に猫になっちゃってる」
「そうそう、今は猫なのよ」
「ニャオーン」
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パーブルは思う、猫になって、二人の女性から撫でられ可愛がられているその姿が、羨ましいと!
ずるい、ずるいぞアスマ。
と言って、サーラもマチルダも知っていてやっている。うん、そう、知っていてなお、である。
猫の魔力、というやつだろうか。
あー、羨ましい、羨ましいと思うと同時に、ふつふつと湧き上がる気持ちは!
俺も撫でてみたい!
だがこらえる。
だってさ、あれ、アスマだぞ?
アスマなんだぞ!
どっちも羨ましい。
俺も猫になりたいぜ。
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ほどなくして、みんなの食事も終わって俺がセナに戻った後。
パーブルからこんなことを言われたのだ。
「なぁ、変身ってのは、アスマ自身だけなのか?」
む……
そういえば、考えてもみなかった。
「わからないわ、試したことがないもの」
「そうなのか」
少しパーブルは残念そうである。
でも、ちょっと挑戦してみたいとは思う。
「実験台になってくれるというなら、試してみるけど」
「よし、なら、やってみようぜ」
というわけで、客間みたいな食事をとった広めの場所で、お互い座って、パーブルの後ろから肩に手を当てて、うん、いろいろ念じてみた。
ムムムムムムム……
イメージは、そう、俺の心、魂にあるスイッチではなく、パーブルにあるスイッチ、それを押すようなそんな感じをさがす。
ムムムムムムム……
パーブルよ、サーラになれー!
と、サーラのイメージの中のポーズもあれこれ変えながら、アイドルポーズだったり、万歳したり、ウィンクしたりさせながら、パーブルの魂にあるかもしれないスイッチ的なものを押す、そんなことを繰り返ししていると。
「おわっ」
と、パーブルが光に包まれ、そして!
サーラになっていた。
「どうなったんだ?」
「まごうことなく、サーラになっている」
「いや、俺は、サーラちゃんじゃなく、どちらかというとだ――」
と言った瞬間、元に戻った。
「どうやら、他者変身は慣れていないから、短時間になっちまうようだな」
「そうなのか。慣れると、のばせるのか?」
「いつもの感じだと、練習次第だ。で、何になりたいんだ」
「うん、まぁ、そう、俺も、猫になってほら、肉くってみたかったんだよ」
「なるほど、そうか、食事も浮いていいよな」
「あはははは」
そうか、パーブルは、食料のことを気にしていたのか。なるほどな。
それにしても、他者変身をこれまで思いつかなかったのは、なんとも不覚である。
自分に対して他者、アイデアとしては反対をイメージすればできたはずだ。個人に対して集団、同世代なら、年上と年下、そんなふうに。
だが、これでさらに、俺の能力は進化する、その道が開けた。
ありがとうパーブル、感謝しているぜ!
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そんなやり取りが終わって、アスマは猫となって、もう少しで寝ようかと思っていたころ。
「アスマ、ちょっといい?」
と、サーラが声をかけてきた。
俺は、元の姿の声だけ使えるようにして、猫のまま答えた。
「どうしたんだ?」
「うん、ちょっと悩み事」
「いいぞ」
そして、サーラと一緒にバルコニーに出た。
俺は、柵の上に飛び乗る。
「ねぇ、アスマはさ、昔っからグネムとかでも、ためらいがなかったじゃない」
「あぁ、懐かしいな」
「人を殺すのもそうなの」
「うんにゃ、別物だな。気持ち悪いよ」
「そうなんだ」
「俺の元居た故郷。こことは、ずいぶん違う世界なんだが。わりと治安は良い場所だったんだよ。万引きとかはあるみたいだけど、自分の目の前で、強盗とか、まして盗賊、ナイフもって、そんなことはないし、いざそうなっても、自分がどうする、なんて考えるような場所じゃなかった」
「ふーん、平和だったんだ」
「いや、殺人とか、事件のニュースってのはひっきりなしだったよ。きっと見えないところじゃ、苦しい暮らしをしている人も、危ないことをしている人もいたんだと思う。ただ、自分が対処しないといけない、なんてことはなかった」
「そっか。アスマも気持ち悪いんだ」
「当然だろ。俺の場合はほら、イタズラが好きだから、いくらイタズラでも、相手が死んでしまったら、リアクションしてくれる奴がいなくなるじゃん」
「ははは、そうだね。そっか」
涼しい夜風に、月が昇っていた。
「アスマはさ、今は私についてきてくれてるけど、今後どうするつもりなの?」
「決めてないよ。天空の風にどうかと、ゼルにいわれたけど、俺は正義のヒーローになる気はないし」
「そうよね。アスマだもの」
「そうだ。でも、サーラをずっとからかう人生も悪くはないかもしれないけれど」
「変なことしたらビリビリだからね」
「そうそれ、サーラは知らないと思うけれど、そういうのがいいんだよ」
「どういうことよ」
「ビリビリであれ、リアクションしてくれるから面白いのさ」
「やっかいな人ね」
「あー、やっかいだよ、俺みたいな人間は」
そうだな、ひとまずはサーラについていくとしても、俺はどうしたいんだろうな。




