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第3章 02話 双子の始まり

黒猫としてパーブルの荷物の上で揺られながら、楽ちん楽ちん……とはいかなかった。


楽ではある。そう、歩くことに関しては。


だが一つ、決定的な誤りというか、ミスがあった。


変身すると、心もその変身対象によってしまう。


つまり、どういうことかというと。


自由でいたい! のんびりしたい! 落ち着いてゴロゴロしたい!


うぉーーーーーー!


何という失敗だ!


いいアイデアだと思ったのに。


俺のバカ、いや変身能力のバカ!


ここは、こう猫としての本性はちょっとよけることはできないのか!


うぉーーーーーー辛い。


うん、ダメかも、俺、どれくらい我慢できるかな。


これは、普通に歩いたほうがいいかもしれない。


でも、俺って体力ないしなー。


うぅー。


くそぅ!


---


私たちは、北にゆっくりと進んでいった。


今回はマチルダさんもいるので、ゼルも速度を落としており、ペーターは「助かったー」なんて言っていた。


「また、よろしくな。サーラちゃん」


パーブルさんにサーラと呼ばれるのはなんだか妙な気分だ。


「はい、よろしくお願いします」


そんなやり取りに、ペーターがムスッとしている。


「ジョニーさんもお変わりないようで」


「あぁ、嬢ちゃんはずいぶん変わったな。魔法使いの装いではないぞ」


「はい。ゼルさんについていくのに必死で試行錯誤したらこうなってました」


「ということは、お二人は、サーラちゃんのあの戦い方をご存じないのですね!」


いきなり威勢がよくなるペーター。


そのあと、なんだか私がいかにすごいか、みたいな話がペーターがし始めて、妙にむずがゆくなってしまう。


そんな風に言われると、ねぇ。


「へぇ、防御円を足場にか、それはまた大胆な発想だな」


ジョニーさんは、実感がわいていないようである。


近いうちに、ね。


「だが、アスマのセナ、あーサーラもすごいぜ、剣術に防御円を組み合わせてだな」


対抗するようにパーブルさんが言う。


へー、アスマそんなことやってたんだ。


やや距離を置いているのはマチルダさんだ。


マチルダさんは、エルフの女性で治癒魔法と、詠唱魔法の使い手である。


父のたっての頼みで、治癒魔法にたけた人を同行させたかったとのこと。


マチルダさんとしては腰を落ち着けたかったそうだが、しぶしぶ、私についてくることにしたようである。


父の依頼としては、三十年ほど、私と共にいて欲しいとのこと。そこそこのお金も受け取っているらしいし、何かの受け渡しもあったとか。


三十年、この辺は人間と、エルフの時間間隔の違いであろうか。


そのくらいならば、ということらしい。


昔そんな話を、アルミナの盾のウェルゴーさんもしていた気がする。


そういえば、あれは、私の代わりに、アルミナの盾の人たちが、どうこう、そんな話だった。懐かしい話である。


パーブルさんやペーターの話は、いくつも飛んで、不思議なことがあったという話が出た。


デファード国へ、マズールへ会いに行く道中、絶望的な数の山賊に襲われたのだが、吹き抜ける風が過ぎ去ると、山賊たちは切り伏せられていたのだという。


その後、ほどなくして、マズールが失脚、幽閉されたそうで、縁談は無くなったということだ。


何か知っているんじゃないかとアスマの方を向くと、くねくねと体をよじらせながら変なポーズをしていた。猫の習性?


流石にマズールの失脚とアスマは関係がないと思うけど、山賊の時は何かやったんじゃないかと思う。


そんな形で、それぞれのこれまでや自己紹介も兼ねながら進んでいく。


しばらくして。ずいぶん歩いたが、まだ、村まではしばらくかかるだろう。


この辺で野営かな、と思ったら。


「ここらで、野営にするぜ」


ゼルさんが判断し、新しいメンバーでもたつきもありながらも、テントは張り終わり、食事の準備も進んでいく。


すぐに準備できた猫用の肉をアスマがしゃむしゃむと食べている。


姿は見たことはなかったけれど、アスマって確か、お金を節約するために、猫になって昔はご飯食べてたんだったかな。


ほどなくして、食事が出来上がり、食事をとる。


「ははっ、旅慣れてるな。お前ら、ランクはいくらなんだ」


それにはパーブルが答える。


「セナになったアスマも含め、全員4ですよ」


「おぉ、ずいぶん頑張ってるんだな」


「もともと、パーブルさん達って、ランク4まじか、という話でしたもんね」


「そうだぜ嬢ちゃん」


そんな感じで食べ終わったころ、アスマが元の姿に戻って突然妙なことを言い始めた。


「すまない、サーラ、食事と睡眠は猫でいいが、道中歩くときはサーラの姿でいさせてください」


え?


どういうことでしょうか?


「どういう目的ですか?」


「あのですね――」


ということで、猫の性で、道中じっとしているのが辛いということらしい。


「それだったら、私じゃなくてもよくない?」


「確かに、ゼルでも、パーブルでもいいかもしれない、しかし! ここ数か月と俺は、セルディアとして暮らして馴染んだ体が一番なんだ!」


えー、どうしよう。


「変なことは考えてないのよね」


「まったくもって」


うーん。


アスマはイタズラが好きとのことだから、何か企んでいるのではないだろうか。


じっと彼をにらんでも、答えは出ない。


本当に困っている?


そこに、ペーターが割ってきた。


「でも、それだとどっちが本物のサーラか見分けがつかなくなっちゃうんじゃない!」


おー、いいことを言う。そうだね、ペーター、えらいぞ!


「なら、髪の色を変えよう、薄いピンクだ、どうだ!」


「ははっ、いっそ双子ということにしたらいいじゃねぇか」


ゼルさんが楽しそうに言う。えー。


「ペーターさんはどう思います?」


ペーターに助けを求む。


「なんだかんだ一緒に真面目に冒険してたセナのアスマを俺は知っている。いいんじゃないか」


そんな……


うーん。


マチルダさんが入ってきた。


「アスマさんは役に立たないのでしょう。かつ、猫も役に立たない。であれば、セナ様でいてもらったほうがいいのではないかと」


マチルダさん、笑いをこらえながら言ってる。


うー。


「わかった、許可します、いいです」


他の人たちは笑っていた。


まったく、とんでもない旅になりそうだ。


---


ほどなく、俺たちは村にたどり着いた。


街に近いこともあり、やや大きい。


俺はサーラの姿で、名前はセナのままとした。これは理由がある。冒険者ギルド証の問題である。


まぁ、ランク1からはじめてもいいが、サーラとセナ、姉妹旅をしていながら、実力が拮抗しているのに冒険者ランクに開きがあるのは違和感があるのでは、というのがパーブルの提案だった。


冒険者ギルドも、横のつながりはあれど、そこまで各個人の詳細は把握されていない。


ギルド証は各町や市で確認するといっても、せいぜい名前とランク、種族、年齢で、背格好は移り変わるので判断されないのだそうだ。


というわけで、俺はまた、セナの姿で過ごしている。


「宿をとっておいてくれ、俺は冒険者ギルドに向かう」


ゼルはさっさと行ってしまった。いつもの新人探しだ。いや、もう癖になっているのかもしれない。


なんとなくわからなくはない。


そう、通学の電車に乗ったらつい、勉強用の教材を開いてしまう……あぁ、そんなことはもういい、そう、忘れよう。


さてはて宿屋でのこと、思いもよらぬ問題が起きた。


「はいはい、そこのお二人は姉妹ということは同室の部屋ですかね」


ん?


いやいや、まずいけど、よくないけど、どうすんの?


サーラと顔を合わせる。


お互いどうしようという感じだ。


あー、どうする?


怪しまれてもよければ、こう、分けてくれ、ともいえるが、はたして大丈夫だろうか?


横では、オイオイオイとなっているパーブルとペーター。


まぁ、君たちが拒否反応を示すのもよくわかる。


マチルダは事情を察して笑いをこらえている。こいつめっ! 楽しんでやがる! そういうのは俺のポジションなのだ!


「はい、いいですよ」


サーラは、あきらめて即断しちゃった。


あー、なんだかんだ、昔と比べるとずいぶん判断が早くなったねぇ。ゼルの影響かもね。


「さぁ、いくわよ」


ということで俺は一緒に行きつつ。


妬ましいのか憎らしいのか怒ってるのか、すごい形相で睨んでいる男性陣が二人……すまん、俺もこうなるとは思っていなかった。


二人で部屋に着くと、俺はラフな格好のセナへと変身した。


「ったく、便利でいいよね」


「その分、これしか取り柄がないけどね」


サーラはにらんでくる。


「あっち向いてて」


「はいはい」


こういう時は男心は縮小させてセナの心を上昇するのがよい。色即是空(しきそくぜーくう)うんたらかんたらだ。


「そういえば、変身ってどれくらい持つようになったのよ?」


「あー、今のところ、数日変身しっぱなしでも、問題ないのは確認している。四日くらいだな、それ以降のテストはしてない。バレたら危ないから、なるべく、変身解除して、みたいなことしてたからな」


「そう。そういえば、お礼言ってなかった。今まで、入れ替わっていてくれてありがとうね」


「いやいや、こちらこそ。まさか戻ってくるとは思わなかった」


「そうね。不思議なものね」


「サーラはすごいよ、俺には無理だな。たぶん俺は、敷かれたレールの上にのって、つぶれるまで進んでたんだと思う」


「そうなんだ。アスマがそういうふうに、しっかりというか、うん、なんか似合わないね」


「だろ。無理してた、壊れる前に動けるセナはすごいし、そのうえ、けじめもつけちゃった、よくやってる」


「そうかな。結局、いろんな人のおかげだと思う、アスマも含めて」


「ところでだな、ちょっと話は変わってもいいか?」


「なに?」


「ちょっと耳を貸してくれ、あんまり聞かれるのは」


ということで、サーラに創成魔法についてのことを話しておいた。


そして、紐と指輪を渡してみる。


「これでいいの?」


「そうそう、それじゃ、カードを置くね」


「はい」


「では、星のカードはどっちでしょう」


そんな風にして、サーラもできるか試してみたのである。


すると、似たような確率で成功した。


「なるほど、うん、いろいろ分かったありがとう」


裏の事情、危険性なども伝えておいた。


ひとまず、俺がサーラに伝えておかなければいけないことは以上かな。


「あ、そうだ、そろそろ私のことちゃんとセナってよんでよね」


てへ、なんてポーズをとったら、雷撃でビリッっとやられてしまった。


「まったく、セナはもう」


---


数日後、昼も過ぎて、歩いていると前に一台の馬車が止まっていた。


「匂うな」


とゼルさんが怪しむ。


ゆっくり近づいてみると。


荷馬車から隠れていたであろう盗賊が一斉に襲い掛かってきた!


「おおらぁ!」


狂喜乱舞してとびかかってくる盗賊たちに――

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