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第2章 19話 パンツと魔族と貴族の夜

私とギーツさん、カシムさんは王都方面への街道を走って進んでいた。リーシェを追うためである。


三人になったのは機動力が必要だったからだ。


ギーツさんも、カシムさんも体力があって素早い移動に対応できる。私はゼルさんに鍛えられたこともあって対応できた。


ギーツさんの他のパーティー仲間は、これについては難しかった。


今回は討伐ではない、捜索、それも速さが求められる。


全力ではなくても走って次の街を目指している。


さて、実はこれは賭けでもあった。


逃亡先がどっちか、である。


定番としては最終的には街で落ち着くことを考えたら、私がアスマと出会ったあの街か、それとも王都側の街かに限られる。


もちろん、その辺を考えず、まずは村へということもあるかもしれない。


そんな風に悩んでいたとき、ゼルさんがひょっこりやってきて、軽く話を聞いた彼が「俺は王都側が匂うな」といったのだ。


最終的な判断はギーツさんだったが、私としてはゼルさんの言葉が耳に残っている。


ともかく村まで急ぐ。


無言で、私たちはギーツさんを先頭に、街道を駆け抜けていく。


---


マズールとの破談が決定し、俺は貴族の舞踏会へ出席していた。


セルディアの嫁ぎ先が空白になったことで、いろんな男性から声をかけられるようになった。


まぁ、セナって可愛いからね。もともと、マズールとの件もなければモテてたみたいだし。


イケメンがたくさんアプローチしてくる!


うわ!


金髪のイケメンとダンスを踊り、ステップを踏む、踏む、実に優雅で、リードもしっかりできていて、優秀だなと思う。


だが、セナの猜疑心なのか、結局は自分を、奇麗なトロフィーのようにしか見ていないんではないか、と思ってしまうのである。


本当のセナをはたして見てくれているのだろうか?


そんなふうに。


すこし、その青年と話してみる。


「冒険者ってどう思います?」


「あぁ、あれは街の便利屋、いやゴミ掃除屋だな。なんだい、あんなのに興味があるのかい?」


「はい、ダメですか?」


「ダメだね。そう、君のような可憐な少女には、野蛮な場所は似合わない、さ」


こんなかんじ。


うん、可憐ねぇ、そうだろうけど、どこに咲こうが自由じゃないか。


それに、冒険者を低層の職種のように言われるのは気分が悪いね。


「では、私にはどのような場所が似合うのでしょう?」


ま、期待なんてない。


飾られる花になんて、なりたいとはセナも思っていないのである。


自由、それをもとめて、今セナは、どこで、何をしているのだろうね。


---


私たちが村にたどり着き、捜索を開始したところ。


「リーシェ!」


ギーツが見つけたのである。


そして、となりにはウィリアム様もいた。


「ウィリアム様!」


二人は気まずそうであるが、すぐに駆け寄ってギーツが話はじめる。


「逃げるな、帰ってこいと言うかはあんたを見定めてからとも思ってる」


ギーツはウィリアムを値踏みするように言った。


「俺たちは本気だ」


「そうです」


「すこし、落ち着いた場所で話しませんか?」


私の誘導によって、外の木陰で腰をおろして話すことになった。


「家族のみんなには悪いと思っているわ」


「それはしかたがない。だが、俺は、ウィリアム、あんたに妹を任せていいのか、それくらい確認はとっておきたい」


「俺は本気ですよ。このまま、二人で一緒に幸せになるんです」


「どうやって生活するつもりなんだ。それに、俺たちにだって追いつかれてるんだ。逃げられるとは思えない」


「協力者がいるんです。時期に、来てくれる手はずになっています」


「協力者ぁ?」


なんだかちょっと、胡散臭いように私は感じた。ほんの少し感じた違和感である。


「まぁ、いい、そいつにも合わせろ」


「わかりました」


「兄さん……その、ごめんなさい」


「判断するのはこれからだ」


そうして、協力者、と呼ばれる人が来るのを待った。この村で、落ち合う手はずになっていて、二人は外で待っていたのだという。


ほどなくして、旅商人のような荷物を背負った男がやってきた。


「これはこれは、ウィリアム様、この方たちは?」


「こっちはリーシェの兄だ、あと、仲間らしい」


「俺は、リーシェがちゃんと幸――」


次の瞬間、旅商人の男はドバーンとふっとばされてしまう。


その下手人は……ゼルだ。


「ゼルさん!?」


「いてててて……」


旅商人はふらっと起き上がる。


「なんだてめぇ、匂うな、くせぇぜ」


「なんですかいきなり」


そういう旅商人を、問答無用でゼルは蹴り飛ばした。


えっと、止めた方がいい?


どうなっているのかわからず、困惑しかない。


しかし、奇妙でもあった。


また、旅商人は何事もないように立ち上がったのである。ゼルさんの蹴りを、本気でないにしろくらっておいて。


「意味が分かりませんね!」


いくつもの氷の刃がゼルを襲うそれを、大声一つで霧散させる。さらに、ゼルさんはとびかかった。


行商人に杖などの媒体は見当たらない、私のように隠し持っているのだろうか。


二人の激闘を唖然と見つつ、行商人が逃げようとするのを、ゼルさんは先回りして抑え込んでさらに殴り飛ばした。


「ったく、面倒ですね……しかたありません」


行商人の姿が変質していく。頭に黒い角、肌は白く、そして翼をもった、別の存在……魔族へと。


「なっ!」


私も含めて他のみんなも驚く。


さらに二人の激闘は激しくなるが、本気を出しはじめた魔族は、ゼルさんでさえも決めきれなくなっている。


迷っていられない。


立ち上がって、ゼルさんへの攻撃を防御円でカバーに入りつつ、私は駆け出して風の刃を飛ばしていく。


「ちぃぃ!こしゃくなっ!」


魔族の氷の刃が私に向くも、魔族を中心に反時計回りで駆け抜けて避けていく。


それとは反対に、ゼルが近づいて大振りの一撃を繰り出す。


村へも被害がドンとんと拡大しはじめ、ギーツやカシムが率先して、村人を退避させていた。


なるべく、魔族の氷の槍を防御円で防ぎたいが、そんな余裕はない。


できることを、するしかない。


「ちょこまかちょこまかと!グォオオア!」


魔族は叫ぶと、大きく魔力が急速に収束するのを感じる。


狙われているのは! 私!?


それはとっさの判断だった。


私は魔力を全力で急速に、ふざけるなという心の震えもまじらせて込める。


相手の放つそれにあわせて、私は、雷撃のビームを収束率を上げてはなった!


双方の、魔法がぶつかり合って激しい衝撃が周囲をゆらすなか、ゼルさんの渾身の一撃が魔族の腹を貫いた。


「くっそ……」


魔族は、灰となって消え去った。


いったい、何がどうなっているのやら。


「じゃ、俺は帰るぜ」


と、ゼルさんは満足した表情を見せたかと思えば、帰って行ってしまった。


少しくらい、説明してほしいものである。


---


ここ最近俺は悩んでいた。部屋で寝ころび天井を見上げる。


冒険者として、魔法、武術、そうした方面は順調すぎるくらい伸びている。そう、とてもいい。


しかし、しかしである。


いろいろ試している変身も、結局いろんな人に変身して記憶を除いてみたりしてみる程度で、あと、部分変身が、複雑化で来てからというもの、そう、伸び悩んでいた。


部分変身はもともとは、対象一人を選んで体の一部だったが、対象複数人を選んで、右足、左足、右手、右足などのようなことができるようになっている。


といって、それが何に使えるのかさっぱりであるが、それはある意味で延長、そう、もっと違う何かが欲しい。


変身して即能力を引き出すとかそうしたことも、これまでの延長であって、違う視点というかもっと違う何かができないものかと思っていた。


今でも十分、力を使いこなしていて、ここまでなのだろうか。


なお、変身対象のない変身はかなり難しく苦戦している。イメージに基づいた変身は難しい。対象とは出会っている、見ていることがどうも条件らしい。


例えば、俺が、元の世界のアイドルに変身しようと思っても、この世界に来てからは出会っていないので、なんか微妙に鼻がゆがんだり、目が大きすぎたりとちぐはぐになってしまうのである。


そっちを伸ばす、のも一つの手と思って、がんばってはいる。


そうだね、ブレイクスルーが欲しい。


一つのひらめきで、実はこんなことできるんじゃんみたいな。


そんな悩みを抱えつつ、気分転換にまた屋敷をうろうろ歩くこととした。


ほどなくして、中庭でロハン先生がいたので声をかけた。


「ロハン先生、相談があるのですけれどいいですか?」


「いいとも、もはや私は、相談を聞くくらいしかできなくなっているからね」


「そんな、とてもありがたいです」


「そうかい。もう教えられることは、ほとんどなくなってしまったからね」


なんというか、俺はもうセナとしては実践でも活動できてしまっていて、修練場で独自に訓練もしている。


そういう点では、確かに、もう、ということはあるが、知識面で相談できる人、というのがいるのはありがたいのだ。


「実は、幻術や魔族の変身というのがあるじゃないですか、相手に成り代わるというかなんというか。その辺の見識をひろげたいというか、アイデアを広げたいんです?」


「アイデア、ふむ。ひとまず変身というのを少しとらえなおしてみようか」


「はい」


「魔族の場合、擬態に近いね」


「擬態ですか」


「そう、幻術はイメージしたものだから、もっといろいろ自由だが、魔族は、変身する対象の頭をくらって、そしてくらった人になってしまうことができる、という変身なんだ」


「なるほど、詠唱魔術の幻術だと、そうした手続きはいらないということですね」


「そういうことだね。では、さっき言った擬態も変身ではないにしろ、少し幅を広げるために考えてみようか」


「はい」


「例えば、虫や魔物でも擬態する存在がいる。虫だと、葉っぱに見える虫みたいなものだね。魔物だと、古代の迷宮に潜む宝箱や小物などに擬態して、探索者を罠にかける、そういうのもあるね」


おぉ、なるほど!


「モノへの変身ということですか?」


「うーん、そうでもあるけれど、もっと抽象度を上げるなら、見つからないように環境に溶け込む変身といえるだろう」


「そうでした。擬態とは、見つからないためのものですものね」


「話を戻して、魔族の変身について、実は制限があると考えられているよ」


「制限ですか?」


「そう、まず、対象の捕食が必要。次に、本来の魔族の力を失うのではないか、ということだ」


「力を失うのですか?」


「どうもそうとしか考えられないんだ。魔族は見破られたり、状況が悪くなった時、変身を解くんだ。その後、より強力な行動に出ることが知られている。つまり、変身状態では、本来の能力は制限されていると考えられるね」


「なるほど、ありそうですね」


俺の場合は、本来の能力がないから、制限もへったくりもないわけだな。


「そのかわり、魔族は、幻影の魔法と違って、当人の声、記憶、演技、そうした方面にも秀でていると考えられている」


「見破れないからですか?」


「そうだね」


「それは怖いですね。見破る方法はないのですか?」


「いろいろと研究はされているが、古代の秘宝には、一部そういうものもあるらしい。一般的に知られているのは、サンフラン聖王国の聖王が持つ杖、セイクリッドロッドくらいだね。一般的に知られてしまったものの多くは、魔族に狙われて、奪われてしまうんだよ」


「なるほどです」


しばらく、ロハン先生と会話した後、俺は部屋に戻ってあることを試そうとする。


だが、危険性がある。


これまでの経験上のこと。


それは、変身した対象に、精神、心が引っ張られる、という点である。今から行う変身でその辺がどうなるか、未知数だ。


しかし、やってみなければ始まらない。


さぁ、できるかどうか、鏡の前に裸で立って、イメージする。パンツを!


ドロン!


視界が真っ暗になった。


何も見えない。うん?


何も感じないぞ?


ふむふむ、匂いも感じない。


あれ、いったいどうなっているんだ?


上手くいっているのかどうか、うーん、心は、ふむ、思考で来ているから問題なしとして。


うーむ。


どういう状況だろう、とりあえず、元の姿に戻ろう。


ぽわんと戻ると、ふむ、魅力的なセナちゃんがいる。あれ?


上手くいってる?


もどれるな。


そうか、そういうことか!


パンツに変身したら、パンツには五感がないから、なるほど、目も見えなければ音も聞こえなくなっちゃうのか!


なるほどねー、課題はあれど、また一つ、新しい知見を得た。


五感をもって、物に変身できるかどうか。


そうだね、今後の新しい課題ができたね。

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