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第2章 18話 羽ばたく鳥の行方

私はハインケルくんに魔法を教えていた。


なんとか、落ち着いてきたと思う。


ハインケルくんは杖の先から水を出して遊んでいる。楽しそうで可愛い。それに、そう、それに。


「ねーねー、お水もでた、次、火、やってみていい?」


「うん、杖の先端にほんの少し出すイメージでね」


何かあったら、水を魔法で作ってぶっかけないと。


なんだか、分かった気がした。


私は大事に大事にされていた籠の鳥だったのだ。


貴族の社会はともかく、それ以外の部分はほとほと安全に、そう、暗い部分も見ることの無いようにと籠の中だった。


でも、やっぱりそれは、ダメなんだと思う。


辛いけれど、見たくはないけれど、目を背けて生きていくのは違うように思う。


私は自由に生きたかった。仲間と楽しく生きたかった。いろんな世界を見てみたかった。


そしてきっと、そう、あんな悲惨な出来事を、願わくば、世界から、ほんの少しでもなくしたいと思った。


ゼルさんが言っていた。


冒険者ランク6だろうと、王様だって、世界を平和にはできやしないと。


それでも、出会えた人たちを、悲惨な運命から助けられるなら、少しでも何かしたい。


きっと、ハインケルくんも、いつか、そうした嫌なことと向き合う日が来るのかもしれない。


ふと、ハインケルくんは杖から小さな炎を出していた。


順調だった。


まだまだ調整が不安定であぶなっかしいけどね。


「それじゃ、その炎の大きさを一定に保ってみて」


「一定に?」


「うん、こんな感じ」


私は杖の先から実例を示す。


「うん、わかった!」


教えているはずの私だけれども、こうした、おさらいもまた、私にとって大きな糧になっている気がする。


そしてまた、あふれるほど元気な彼から、私は元気を分けてもらっているのだ。


彼の炎は、ぼわわぼわと、不安定だ。そうそう、最初は難しい。


「よし、今度は水でやってみて」


そんなふうに、授業は進んでいく。まるで何事もなかったかのように。


---


俺は後は、繰り返し実践と、その結果を待つのみだった。


あくる日、急ぎ執事が部屋へとやってきた。


「取り急ぎのご報告でございます」


「どうしました?」


「マズール・ウォズニッグ様が失脚、国家転覆の罪で幽閉されたとのことです」


「マズールはいったい何をしたんですか?」


「詳細までは、ひとまず、ことがことですので概要のご報告をさせていただきました」


「ありがとう」


執事は去っていった。


扉が閉まる。


ははっ。はっはっはっはっは!


勝ったね!


なお、戦争の緊張状態を高めていたのもマズールである。これにて、ウェンプトン国とデファード国の緊張関係は緩むだろう。


もちろん、完全とはいかない。ウェンプトンは内側がガタガタだからだ。


さてはて、それでは確認をしておこうよ、紐と指輪の創成魔法でっと。


セルディアはデファード国の領主との結婚が迫られることはありそうかどうか、答えは、七割がた無いとのこと。こんなものかな。


うーん、こうなるとセナが帰ってきてもいい感じになっちゃったけど、どうしようかな?


でも、あれか、セナって自由が好きで、貴族の生活は好きじゃないんだよね。


その辺は、もし、会うことがあったら聞いてみようか。


その後バルトに呼び出され、いったい何をしたのかと詰め寄られたが知らぬ存ぜぬで通した。


---


あの日からずいぶん経って、私が冒険者ギルドに向かったところ――


ギーツさんが、妙に神妙な顔でカウンターの近くに立っていた。


「おう、サーラ……ちょっと時間、もらっていいか?」


「どうぞ」


こんなギーツさんも珍しい。


そして建物内で場所を変えて。


「実はな、妹が家出しちまってよ」


「何かあったんですか?」


「置き手紙はこれだ、ま、不満はなかったって書いてある」


手紙を受け取って、読んでみると。


『ごめんなさい、わがままを許してください。家の生活に不満があったわけではありません。ですが、どうか探さないでください』


そんな風に書かれている。


「不満がないのに飛び出したのですか?」


「理由は今確認中だ、妹、リーシェはサーラに歳も近くてな。しっかりしてる。家事とかいろいろ、弟たちの面倒もよく見てくれてた」


「確認中ということは、推測がついていると?」


「あぁ、だが、見つけたとしても、どう接したらいいかと思ってな。それに、どこへ向かったかも見当もつかない」


そんな時、ギルドに駆け込んできたカシムがギーツに近づいて言う。


「どうやらブレック市長の息子さん、ウィリアムもいなくなっているそうです」


ギーツは顔に手を当てて少しうつむく。


「やっぱりか」


「どういうことでしょう?」


「駆け落ち、だと思う」


「そういうことでしたか」


「なぁ、サーラ、俺はどうしたらいいと思う。連れ帰すのは、できるかもしれない、でも、それで本当に正しいのかって思うんだ。リーシェにとっての幸せって、どうなんだろうって」


「私は、ぼかして言いますけども、それこそ家を勝手に出てきた身です。そして、後悔はしていませんし、今のみなさんとの冒険者などの生活に満足しています。どうしても半分はリーシェさんの肩を持ってしまいますね」


「そうか……」


「ですけれど、私は運がよかったようにも思います。魔法も少し使えましたし、良い人たちにも出会えました。すぐに野盗に襲われたりということもなかったです。生きているからこそ、結果としては良かったといえるんです」


「たしかに。貴族の坊ちゃんと、だと、安全は分からないな」


「ギーツさんが慌てなくても、ドーベン家が動かないということはないでしょう」


「捕まるのを待て、というのか?」


「まるで、逃がしたいみたいですね」


「リーシェはいい妹なんだ、幸せになってくれるならそれでいい。ただ、俺は、ウィリアムって奴を知らない」


「私もハインケル様との授業で、少し顔を見たことがある程度です。つまりギーツさんは、任せるにしてもウィリアム様を見定めたい、ということでしょうか?」


「そうなのかもしれないな」


「ドーベン家より先に見つけないといけませんね」


こうして、リーシェとウィリアムの捜索がはじまった。まさか私が、逃げる側ではなく、追いかける側になるなんて思ってもみなかった。


少しだけ胸が痛む。


---


デファード国の王都の一室で、天空の風の騎士マリウス、魔法使いウォルダム、治癒魔法使いのコニー達が話し合いをしていた。


「やつら、尻尾をつかませないな」


「いただいた天啓では、王都なんじゃがのぅ、ゴッホッホ」


「まったく、もう引退していればいいですのに」


「なに、まだまだ頑張れるわい。じゃが、このきな臭さ、ずいぶんと国の中枢におるのやもしれん」


「そうだな。どこの街も活気が失せていた。各所に潜り込んでいるのか、あるいは」


「十中八九、ワシは国王じゃと睨んでおるがの」


「とすると、手が出しずらいわね」


「俺が、兵として潜り込もう」


「私とウォルダムは、引き続き調査を行うわ。どうも迷宮調査に国の兵士が異常に投入されているのよね」


「こんな時、ゼルの鼻があってくれると助かるのだがな……あいつの勘は当たるんだが……」


---


デファード国の摂政ラザー・ボア・パルバルドは、城のテラスから城下を見下ろしていた。


どんよりとした、影のある街並みは、活力がない。


税の重さよりも不作が続いているというのが大きい。


そう、各地で原因不明の不作つづき、食料の問題が様々なところに波及している。


ともすれば、他国に攻め入って奪おう、などという人や、逃げ出す人々もいる。


ラザーは口元をニヤリとさせる。


そして振り返れば、そこには、年老いたノストリード王が、いる。


彼は、まだ生きてはいるものの、それはまるで生けるしかばねのような危うい雰囲気だ。


「もうしばらくお待ちください。迷宮の攻略はもうあとすぐです。"福音の門"は、もう間近でございます」


「あぁぁ、あう、あぁ」


「えぇ、それがかなえば、祝福が待っておりますとも」


「うあぁ……あ」


「そうです、祝福の時は近いのです」


---


修練場にて、俺もセナとしてずいぶんと成長したものだ。


パーブルとジョニーの戦いに、パーブル側での防御円の支援をしていくのその速度は、もう実践レベルを超えている。


あまりにも的確過ぎるので、今ではジョニーの他に二人の兵にも参加してもらって、それを絶え凌いでいる。


それは、実際に剣や槍での戦い方を覚えてどんな動きになるか、自分でもイメージしやすくなったのが大きいだろう。


そしてまた、高速な防御円の複数展開、さらに、必要十分な展開にすることによる速さと魔力消費の抑制などを加えて、面白いほどに成長していた。


次の練習の雷撃や風の刃は、弱めで放つも高速。ジョニーはよけきれずにあたることが多くなった。それは距離を離してもなお。


マチルダさんの協力もあって、治癒魔法も上手くなってきた。


ここでの練習でケガをする人たちを治しながら練習をしている。


さらに、剣や槍での、パーブルとジョニーとの実践も、本格的な速度にまで上達した。まだまだ、武器だけでは二人に及ばぬとはいえ、魔法を併用すればもう、勝負は分からなくなってきていた。


そんなもんだから、腹筋こそ割れないものの、ずいぶんと筋肉がついて引き締まってきていた。


さて、横では実は兄レオナードも訓練していることが多い。今日もそうである。


そして、今日、とうとう、こんなことをレオナードから言われたのだ。


「ずいぶん腕を上げたようじゃないか、勝負してみないか?」


えっと、なんかまぁ、チラチラと気にしていたのは分かってはいたが……


勝負かー、えー、うーん、ねー、どうする?


いいの、勝負しちゃって?


といって、断ると、また、あれなんだよなー。


「構いませんが、剣ですか、その場合、魔法はありでしょうか?」


「剣でだ、魔法は使って構わない」


ほー、言っちゃったよ、言っちゃったよ、魔法OKって。


いやいや、手加減した方がいい?


華持たせた方がいい?


えー、どうする?


どうせ手加減しても、それはそれでバレるんだよな、だって今までずっと見てたんだから。


「わかりました」


そうして、お互い木剣をもって、俺は魔法ありでの模擬戦をするとなり、みんなが場を整えてくれた。


円状に空間ができ、俺とレオナードが向かい合う。


そして……一人の訓練教官が、合図を出した。


「はじめっ!」


とっさに、レオナードの足元に防御円を発生させると、レオナードは前にすっころび、俺は身体強化も合わせた急接近で彼の頭に木剣を突き付けた。


「勝負あり!」


ふふふふ、防御円はこうしたことにも使えるのだよ。


これに対応してくるのは現状はジョニーくらいでパーブルも引っかかるが、彼の場合はその後の復帰がうまい。


かくして、兄妹対決は、妹(実は偽物)の勝利で終わった。


すまんな!

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