第2章 14話 兵団に入りませんか?
パーブルになにかイタズラしようとも思ったが、流石に修練場で悪ふざけというのもどうかと思った。
時と場所、そう、PTOを選ばないとね。
街に行ったときに、ちょっと何かやってみようじゃないか。そう、街で、フフフフ、何しようかなーと思うとニヤついてしまう、いけないいけない、顔が崩れている。
そんな今は、社交界、誘われたパーティでのお食事会である。
マナーや礼儀作法、動き、などはセナの記憶と技術から引き出せるとしても。
それゆえに、ここはあまりセナにとって好きな感情がなかった。
嫌味を言われたりなんだの、もしかすると、素敵な同年代の男の子との出会いでもあったらまた違ったのかもしれないが、そうはならず。
今日のは、マズール・ウォズニッグがいるわけではないので気が楽ではある。
ここでイタズラ?
うーん、ありなのか?
「セルディアさん、聞いておりますの?」
と、マリアから、何か言われる。ごめん、上の空だった。
マリア・トレージは、トレージ家の長女で、セナより二つ年上である。
「すいません、悩み事を思い出してしまった」
「まったく、このアクセサリーですわ、コーラル様からいただきましたの。素敵でしょ」
緑の宝石がキラキラと輝く、意匠のこった小さな台座が、うん、まぁいいんじゃないかな、となんか、わりとどうでもいい。
この、どうでもいいというのは、俺自身も、そしてセナの心でさえもそうだ。
セナの場合、宝石は宝石でも、魔道具とか、そういう能力的なものに惹かれるみたいである。デザインや見てくれとは異なる。
よく見ようと目を凝らしてアクセサリーを見ていると……
「セルディアは、ほんと、こういうものの価値が分からないのですね」
「もうしわけありません。不勉強でして」
「勉強するものではないと思いますけど。ときめきませんの? 身に着けてみたいとか、それを着飾る自分を想像したり、ただ奇麗だと感動したり」
「そうですね、何を身に着けても私は私だと思うからかもしれません。ちょっと違いますね、そのアクセサリーではきっと成りたい私にはなれないのです」
「何になりたいんです?」
「自由に世界を旅してまわりたいのです」
「セルディアが逃げ出したいという気持ちもわからなくはありませんけれどね」
「そうでしょう。マリア様がうらやましいです」
「そうよ。私は選ばれたのですから」
マリアの衣装はどれも凝っている。着飾って、自分をよく見せるのが好きなのだろう。それは人それぞれかもしれない。
いや、俺の場合、その辺も無頓着だったしな。
着るもんなんてどうでもよくないって、同じシャツとズボンでってなってた。選ぶのもめんどくさいし。
まぁ、彼女がいてさ、一緒にショッピングで、服選んでとか、そういうのだったら楽しいのかもしれない。
なるほど、そういう点では、マリアにとっては恋人からの贈り物、というのもあるのか。
「幸せそうでなによりです」
セルディアも顔立ちは良く、贈り物などはされたことは多々ある。そう、あるのだ。
最初は嬉しかった、なんとも、認められた、そんな気がして。
でも、結局だ、その贈り物は、ただのトロフィーでしかなく、自由にしてくれることはない。
むしろ、どんどんと自分を束縛する嫌なものに見えてきてしまったのである。それは、奇麗なドレスにしても同じである。
ほどなくして、曲が流れ、パートナーと踊り始めた。
マリアもコーラルに誘われて踊りに向かった。
遠目にダンスを眺める。
こうしたダンスも、結局は、よりよき殿方にめぐり合い、そして射止めるための場所である。
そう、よりよき殿方、でもだ、そうした先で、いったいどんな生活があるのかと言えば、食事には困らず、世話係もいる、ある種贅沢な、それでいて、自由に出歩くことは許されない、街や森、川なども良くて護衛付き、のんびりと一人でとはいかないし、なかなか、そうしたことは許されない。
ただ、これが立場が違ってもし、貧しい農民に生まれていたら、貴族の、衣食住がととのった暮らしに憧れるのかもしれない。
それはよくあることである。
隣の芝生が青く見える、なんて。
大学に何不自由せず行かせてもらえた俺にとって、それは不自由だった。勉強という牢獄だ。
でも、大学に進めない事情があった人たちからすると、もしくは進めても苦労して、アルバイトをしながらという人たちからすれば、俺のことを贅沢に思うのだろう。
どちらにしても、隣の芝生の話をしていても仕方がないのかもしれない。
自分は結局、どうありたいのか。周りと比較せず、自分は自分として、どうしたいのか。
セナにとっての自由であって、俺にとってそれはイタズラである。
冒険者だから、庶民だから、自由ってわけでもきっとないのだろうけどね。
ほどなくして、
「セルディア様、一曲踊っていただけませんか?」
俺に声がかけられた。
「よろこんで」
うむ、セルディアとして、ちゃんと振舞っておくか。不自由ではあるが、これもまた、俺にとっては、ドッキリのための布石だ。
Web小説で、定番の、そつのない、王道展開で人を釣るような、そんな感じだ。
なに、もっとシンプルに考えよう。赤が好きな人に、青をプレゼントしても喜ばれない。きっと、それだけのことなんだ。
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私は市長に呼ばれ、館の一室で今、対面していた。
「呼び出しに応えていただいて感謝する。私は、市長のブレックだ」
「はい、冒険者のサーラと申します」
「うむ」
座ることを促されて、座る。
「君の冒険者としての活躍、それに、神の雷とやらも話に聞いていてね。領主様から、ぜひ誘って欲しいとのことなのだよ」
「魔法兵団とは具体的に何をするのか、教えていただけますか?」
「戦時、または、大型の魔物、または魔族の出現に対しての対処が中心となる。時には、災害での救援で治癒魔法の部隊が派兵されることもある」
「戦ですか」
「そうだ、君の魔法は戦術級といっていい。あの威力なら城塞の壁を壊すなども可能だろう。もちろん敵には結界や防御円に長けた魔法使いがいるだろうけれど、その若さでなら、それを突破する才能がある、そういう風に考えている」
「冒険者をやっていますし、魔物退治での威力の高い魔法が使えるのはそうかもしれません。ですが、争いは好きではありません」
「なに、好んで争うものはごくほんの一部にすぎん。だが、守りたいものがあれば、変わってくるものだ。自分の街を守りたい、そうなれば、その先は人同士も含めて戦うことになるだろう?」
「そうですね。私は、争いが嫌いというのもありますが、世界をもっと見て回りたいとも思っています。一か所に長くとどまるつもりがないのです」
「なるほど、それは残念だ。つまり、金銭やその他の条件より、旅がお望みだと?」
「はい」
「ふむ、一時的というのであればどうかな?」
「そうですね。それなら構わないかもしれませんが、今は街に来て、現状を充実させたいと思っています。一時的というのはどれくらいの期間ですか?」
「一年、とか三年とか、そういうふうに区切ってということだ。具体的な期間については話し合いでとなるだろう」
「なるほど。今しばらくは、自由の身でいたいです」
「残念だ。少し話は変わってもよいかな?」
「どうぞ」
「個人的な話なのだが、息子がぜひ君に会いたいというのだ。会ってやってはくれんかね?」
「はい、都合を合わせていただけましたら」
「そうかそうか、ぜひ、よろしく頼む」
魔法兵団への入隊は断った。
私は、今の生活をもっとよりよくしていきたい。守りたいもの、といわれても、まだピンと来ない、というのもある。
いつか戦わなければいけない日が来るとしても、もう少し、待ってほしい。
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ノレントの街にやってきた俺とパーブル、ジョニー、マチルダの4人は、冒険者ギルドへ向かう道すがら。
大通りは馬車が走っており、本当に大きな町である。いろんな人が行き交い、笑い声と共に、パンの匂いなどが香ってくる。
「パーブルさん、実はお願いがあるんですけどぉ」
ほんの少し、媚びた感じをわずかばかり出して、おどけるように聞いてみる。
そんな素振りに、ビックリしたみたいだ。
「な、なんだいセナちゃん?」
よし!一段階目の、ちょっとしたイタズラ成功。いやぁ、やっぱさ、思い人にこういう仕草をされると男ってコロッっと言っちゃうのか。なるほど、俺は経験ないけどはは、逆の立場で経験してしまった。
そう思うと、なんだがパーブルがかわいく見えてくる。
「その、やってみたいことがあるんですよー」
「なんだい、言ってみなよ」
「実はですねっ。おねだり、パーブルさんにしてみたいんです」
「どういうこと?」
「こういう街で、ほら、男性に、あれ買ってー、これいい、とかおねだりするの、やってみたくって」
「お、俺が相方でいいのかい?」
「もちろんです!」
と、満面の笑みを返す。
それにパーブルはさらにドキッっときたようだ。よし!
「あぁ、なら、どこを見て回りたいんだ?」
「そうですね、まずは簡単なアクセサリーと、お洋服とか、ダメですか?」
「よし! いこうじゃないか!」
ふと、俺はパーブルの手をつないで上目遣いに見上げて言う。
「ありがとうございます。あ、でも、私、おねだりしたいだけなのでぇー、買わなくっていいんですよ。買わなくて、いいんですよー」
手をつないでさらにドギマギするパーブルに、ちょっと俺も、内心、ドキドキしている。
セナの心としても、こういうことには不慣れである、ということが影響しているみたいだ。
だが、そんなことは耐えろ、これはイタズラだ!
そう、パーブルをドギマギさせてちょっと楽しもうという、いけないイタズラである。
言ってしまえばあれだな、その気はないのに、男に急接近して、その気があるように見せかけて、見て楽しむ。うむ、悪い女だ。
セナに変身できたからこそできるイタズラでもある。
露店のアクセサリー売り場をみながら、いろいろやってみる。
「面白い形ですねっ」
だが、だ。うん、俺もそうだが、セナも、こういうアクセサリーにみじんも興味がないせいで、話を膨らませるのが非常に難しい。
くっ、俺のイタズラはここまでなのか。いやいや、ほら、もっと欲しそうにして、実はほしいんじゃないか、買わなくていいよなんて言うのは建前じゃないかとパーブルを悩ませなければっ!
変身能力で、変身した先の当人の心はトレースできるが、俺自身の演技力がへっぽこなので、拡張してそれ以上が難しいのである。
四苦八苦して、ネックレスなどを見つつ。
うん、ダメだ、これ以上は無理だった。セナって、本当にこういうの、興味ないんだな。
今日は、パーブルが驚いてくれたので良しとしよう。
そのご、おねだり遊びが終わった後、冒険者ギルドへ向かって次の依頼へと挑むのだった。
少しだけれど、楽しかった。ははは、人をからかうのは良くないって?
うん、そうだよ。
それが楽しいと思ってしまう、俺は、どうしようもなく、悪い人間なのさ。
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フェルディアス市長ブレックさんが、息子さんとあって欲しいということで、ブレックスさんのお屋敷に招かれた。
小さな貴族の、そんな雰囲気だ。
通された客室で待っていると、タッタッタと駆けてくる軽い足音が近づいてきたと思ったら扉がバーンと開け放たれて、
「わぁ! 本物のサーラだ!」
と、小さな少年が現れ、慌てて追いかけたメイドが遅れてやってくる。
「ハインケル坊っちゃま、お客様の前です、貴族としてっちゃんとご挨拶してください」
「へへ、えっとー、ハインケル・ドーベンです」
私は立ち上がって。
「どうも、サーラと言います。よろしくお願いします」
「うん!」
「ひとまず、サーラ様、お座りください。坊っちゃまも」
と、着席して、
「ねぇねぇ、サーラはすっごい魔法使いなんでしょう、魔法見せてよ!」
キラキラの目で、見てくるそれは街の外で見物に来ている子供たちと変わらない。子供たちと、歳も近いのではないだろうか。
「では、コップかなにかありませんか?」
そうして、何も入っていないコップを持ってきてもらい。手を掲げる。最近は杖を使うことが少なくなった。
そこに、ぽとととんと水を注いだ。
「うわぁ、すごい! でもでも、サーラは神の雷だよね、見してよビリビリ!」
「ここでは危ないですから、ほんの小さいものを」
そういって、私は指先にビリリと電気を走らせる。
「おぉーっ!」
「楽しいですか?」
「うん! ね、僕も魔法使えるようになれるかな?」
「どうでしょう、私は教えたことも、才能を見抜いたこともないのです、分からないとしかお答えできません」
「うーん、そっか。それじゃさ、先生になってよ。僕の、魔法の!」
「お父様に相談させていただいて、都合や条件が合えば、可能ですよ」
「そうなの! 頼んでみる!」
なんとも明るくはきはきした子供だ。でも、昔も、貴族としてでも、こんな時代があったように思う。小さな世界の中で、ちょっとした輝きを見つけて心を躍らせていた。
その後、別の機会にブレックさんと話をして、いくつかの条件のもと魔法の家庭教師をやることとなった。
賃金も発生する。
条件は、私が冒険者として活動しているので、少し不定期になってしまうこと。月に5日を目標とする。魔法を勝手に使った時の責任はとれませんよとか、そういった話である。
ハインケルくんはドーベン家の三男で次男からかなり年が離れている。
ハインケルは九歳で、次男のウィリアムは十六歳だそうだ。その辺はいろいろあるみたいだが、詮索していない。
ともかく、ちょっと思い出してみよう。
ロハン先生が私に、どのように、教えてくれていたのかを。
最初、どうだったかとか。
そうだな、最初は創成魔法を使ってしまって、また、いろいろ言われたんだっけ。
精霊が見たかったんだ。
そのあとで、水の生成からやって、でもキラキラが見たくて、光を、と思ったら雷になっちゃって、そんな日々があった。
こうして、私の日常に、魔法の先生が加わったのである。




