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第2章 13話 撃てなかった魔法

フェルディアスでの冒険者パーティーに参加させてもらって、護衛の依頼を引き受けたところ。


馬車に揺られていると、不意に矢の雨が降ってきた。


とっさに対応できず、私は腕に傷を負ってしまう。


脱兎のごとく他の冒険者たちは応戦の構えをして、戦士は前へ治癒魔法が使える人はいったん私の傷を癒した。


商人さんたちもケガをしているけれど、最優先は私でいいのだろうか?


依頼主が先ではないかと気になりつつも、それは置いといて、向き直って、防御円の準備をする。


二回目の矢の雨が大量に繰るも、ことごとく防御円で防ぎきる。


前に出た戦士たちが切り込み、それによって、盗賊はそっちに人数を割かれる。


次の矢の攻撃は少なく難なくはじきつつもためらいがあった。


目前に盗賊が見えている。敵だ、敵である。しかし、人間族、獣人族など、そう、人なのだ。


人に魔術を放つ、それだけならまだやったことはある。


ふざけたアスマにお仕置きで軽い雷撃だったり、フェルディアスの初日の冒険者に死なない程度で、という範囲においては。


でも、人間に、殺意を向ける、ということが、怖い。


だから、防御円のに加えて、風の刃での支援攻撃だってできる余裕があるにもかかわらず、それが、できない。


今できることは、その余裕でもって、さらに前で戦っている人に防御円での支援をすることだけだった。


隣でさっき治療をしてくれた魔法使いは、攻撃に転じている。


ほどなくして、盗賊は何人か倒れたのを捕縛し、多くが逃げ去った。


「よぅ、防御の支援助かったぜ」


「そうそう、矢をあれだけ防ぎきるのもすごかったよ」


と言ってくれるも……


そこは、そう、できていたのかもしれない。


ケガをした商人にも、治療が施されていく。


上手くやれたといえるだろうか。


確かに、盗賊を追い払うことはできた。


けれど……私は、もっとできたはずだった。


もし、そのためらいで、誰かが死んでしまっていたらと思うとぞっとする。


心に反して、太陽が温かく差し込んでくる。


けれど、心に重しがのしかかるようだった。


いつもの調子で依頼を受けた。参加した。けれど、これからは、人を傷つけることも、しなければならない……


はたして、私は冒険者として一人前になれるのだろうかと、暗闇の中に落ちるような思いだった。


---


バルトの執務室にて。


「実はな、世間を騒がせている怪盗がいる。我が領土でも被害はあってな。特に、貴族、裕福な商人が狙われている」


「怪盗というと、予告状などがあったり、何か残っていたりとかするのでしょうか?」


「あぁ、『今宵、あなたの大切などれそれをいただきます。 by 怪盗パンドラ』と書かれた挑戦状が送られてきている」


「ということは、事前に警備や準備はできるわけですよね。そのうえで、どのように奪われてるのでしょうか?」


「不思議なことに、気が付けば奪われているらしい。パンドラの影をみたりもしていない」


「奪われたもののサイズはどうなのですか?」


「大き目の絵画などもある。宝石、絵画、魔道具、とはいえ箪笥ほどの大きさではないから、一人で持ち運べはするだろう」


「といって、気づかれずには難しそうなのもあるということですよね」


「そうだ。警戒も厳重だったらしい」


「分かりました、また、資料をまとめていただけますか」


「うむ、よろしく頼む」


「ところで、街での冒険はどうだった?」


「上手くはいきましたよ」


というわけで、俺はバルトに活躍した話や、護衛の大変さを実感したなど、そんな話をした。


「活躍したという割には、どうも落ち着いているようだな」


「そうですね、スリルに欠けてしまったからかもしれません」


「命を粗末にするものではないぞ」


「それは分かっております。生きていてこその自由ですもの」


「本当に冒険者というありかたが自由だと思うか?」


「まだ、わかりません。ですが、経験して見なければわからないことは多くあります」


「先達の知恵には耳を傾けるものだ。己で体験してしまっては遅いことも多いぞ」


「お父様は何か失敗談でもおありですか?」


「あるとも、差配、判断のミスで、多くの部下や領民を死なせたりな」


「完璧であろうとするのは、辛いのではないですか?」


「貴族というのは、辛いと投げ出していい立場ではない」


「私には難しいことでした。お許しください」


「いや、貴族と言ったが、正確には領主が背負うもの、お前は、お前のできる範囲で責務を果たせ」


どこか思ってしまう。


ずっと周囲の期待に応えようと、それが正しいと、敷かれたレールにずっと頑張って乗って勉強していた俺と、バルトの在り方はどれくらい違うのだろうかと。


ならば、聞かねばならない。


「ではお父様が、嬉しい時、楽しい時とはどういうときなのでしょう?」


「そうだな……」


バルトは考え込んだ。


「わからん」


きっと、見失ってしまったのかもしれない。


ともすれば、俺だってそうなりえたということだ。それが正しいとやって、進んで、就職した先でも正しさを、完璧を求め、いつしか、イタズラなどということも忘れてしまう、そんなときがありえたのかもしれない。


「私とのお話は退屈ですか?」


ふと、意地悪なことを言ってみる。


「そんなことはない。許してくれ、思い浮かばなかったのだ。はは、そうだな、楽しいとも」


ほんの少し、バルトの顔が緩んだ。


---


「人を傷つけるのが怖い?」


私は、ナディアに、先の件での失敗というか恐怖について相談した。


「はい」


「無理に、そういう依頼を受ける必要はないんじゃないかい。対人が苦手って冒険者もいるし、魔物退治専門でも、私は悪くないと思うけどねぇ」


「俺は、セナちゃんが今後どうしたいかによると思うぜ。ほら、いろいろ世界を見て回りたいって言ってただろ。それって、最終的には一人旅もありえるんじゃないか。その時、盗賊に襲われることは、いずれ来るんじゃないか」


「そう……ですね」


「でも、逃げればよくないかい?」


「はっきり言うが、ああいうのはな、逃げ回るより、賊を殺しちまった方がすぐに安全にできるってもんだ。もちろん、怖いってのも分かったうえでの話だぜ」


「サーラは優しいもんね」


「難しいですね」


「だいたい、まだサーラは十五なんでしょ? そんな、うん、まだまだ先ってことにしていいんじゃないかねぇ。人によっては、そういうのは一生後悔するっていうし」


「そーだそーだ、後悔してからじゃ遅いよね」


「なるほど。ありがとうございます。レッツさんのご意見も大変勉強になりました」


「うん、ま、慌てなさんな」


慌てなさんな……焦っているのだろうか。


どうなんだろう。とんとん拍子で来てしまったから、思いのほか早くぶち当たってしまった問題なのかもしれない。


そもそも、えっと誰だっけ、この街に来て最初にケンカを吹っ掛けられて、というのでさえ怖くて、そういう荒事にすらまだ慣れていないのである。


そういえば、最初はグネムという小さな魔物を倒すことですら怖かったのだった。


あれから、そう月日がたっているかというと、どうだろう、ずいぶん経った気はする。


いろんなことがあった。


今の成長でも、十分なのだろうか。


「よくよく考えて行動しないと、後悔してからでは遅いこともあるわよ。ゼルは即断即決なんでしょうけど」


「そうですね。自分のペースというのも少し考えてみます」


そんなとき、一人の衛兵が入ってきた。


そして、私に向かってきた。


「サーラというのは君か?」


「はい」


「これを君に、少し、市長に会ってもらいたい」


市長さん?


どういうことだろう。


「要件は、会ってみてということですか?」


「概要はお伝え出来ます。ぜひ、ドーベン領の魔法兵団に入って欲しいとのことで、一度お話をと」


兵士、また、思ってもいないところからお誘いが来た。


ひとまずは、問答無用で断るのは気が引けた。


「わかりました、まずは会ってお話だけでも、お聞きしましょう」


---


俺は、部屋で怪盗パンドラの資料を読んだあと、物思いにふけりながら館の中を散策していた。


歩きながら考える、というやつである。


事前に確認していることもある。紐と指輪の創成魔法で、一人のエルフの犯行であることが分かっている。


そのトリックには魔法が関わってもいるらしい。その詳細はわからないものの。


実際に現場を見ずに調べるというか考えるというのも難しいなと思う。


建物の見取り図、盗まれたものの位置、盗まれたもの、そのサイズなども資料に書かれているものもあった。


いつの間にか盗まれているというのが奇妙だ。


よくある、探偵と怪盗ものの物語なら、こういざ盗みに入るときのドタバタが盛り上がったりするものだ。


陽動、手品のようにちょっとしたひっかけで注意をそらして、そのすきに、や、あとは、実は盗んだと思わせておいて後日、なんてのも王道だ。


そう、予告状が出されていて警備員がひしめき合う中、煙幕がたかれる。気が付いてみれば、金庫の表に『いただきました』なんて貼られていて、いざ金庫を開けてみると、あるじゃない、と安心したところをさらにドタバタして盗まれるのだ。金庫を開けさせて、というやつ。


そういう系統とはずいぶん違う趣だった。


なんだろうな。


思いながら適当に階段を下りる。


まったく、どの事件でも、いつの間にかなのだ。


テレポート、ワープ、転移、そういった魔法でも使ったのだろうか?


魔法も万能ではない。魔力は人によっては感じとれ、見えるのと同じくらいわかってしまうもので、そういう専門家もいくつかの現場ではいたが、おかしい点はなかったとのこと。


目の前では、メイドさんが掃除をしているの。


それを横切りながら考える。


『今宵、あなたの大切などれそれをいただきます。 by 怪盗パンドラ』という犯行声明は挑戦的でありつつも、犯人はいったい何がしたいのかということでもある。


名誉、愉悦、イタズラ、驚かせたい、金銭欲、愉快犯、仕事、取引、うーん、なんだろうね、何かの証明なのかな。


盗んでくださいと依頼されていてちゃんと私が盗みましたよ、みたいなこともあり得そう。


つまり、依頼者がいるのか?


盗みに入って挑戦心があって、リスクやスリルが好きなタイプだとすると、盗みに入るときのドタバタが全くないのが奇妙だ。


潜入して、見つかって、でも盗んで、追われながらも逃げきって、そういうことではないらしい。


いったい何がしたいのだ?


そういえば、漫画で偽物を作る特殊能力なるものがあったような気がする。


オークションが開かれるのだが、そこで出品されて出ているのはすべて偽物で、実は怪盗団によって本物は別の場所へ、というもの。


あれは、怪盗団とは厳密には言わなかったはずだけど。その漫画は、絶賛まだ連載中というか、休刊が多く、いつ終わるのかわからないくらいのものだ。こっそりスマートフォンで読んでいたりするのだが、先が気になりつつ、結局最後どうなるのかは闇の中になってしまったな。


もう、元の世界の漫画や小説は読めないのだろうか。


それは、残念である。注目していたWeb小説とかそのほかもろもろ、続きが気になるものは多い。


一通り歩き終わらせて、部屋に戻ってきた。


目的を確認しておくとしよう。犯人の目的である。


まずは、名誉、イタズラ、驚かせたい、金銭欲、愉快犯、仕事、その他とならべてやってみる。


結果は、金銭欲、イタズラ、愉快犯、驚かせたい、名誉とばらついた。うん、そもそも盗んでる当人の思惑がいろいろあるのかもしれない。


とはいえ、っこれでわかることもある。仕事ではどうもないらしい。依頼を受けてではないということだ。


では、使った魔法について調べよう。


これは、魔法の本をぺらぺらめくりながら、反応があるところを探す。


うーん、この本はダメだ、次。


ん? 反応があった。幻影の魔法である。詠唱魔法で精霊によって幻影を作る魔法だ。


でもそれだとおかしい。魔力を感じ取れる専門家の目をかいくぐったというのだろうか。


ずいぶんと絞り込めたとは思うけれど、うーん、何か勘違いだったり、思い込みでもしているのかもしれない。


幻影ってことなら、盗まれました、と盗まれた様子を幻影で映して、それでもってあたふたしているところを盗むみたいなのもまぁ、王道の変化球だがわかる。


でも、魔力の専門家や、それに、詠唱魔法は呪文を唱える必要がある。警備の中でそんなことができるのか?


バルトとしては、ユークララス家にも、盗まれてはいけない物、というがたくさんあるそうで、早く捕まえられるなら、そうした心配もなくなるということらしい。


だからと言って、現場はどこもかしこも遠方で、流石に底を調べさせてはくれそうにないし、現場に行ってまでの協力をするのはまた嫌だったりもする。


それはそうと、俺は俺で、ちょっとしたイタズラをやらないと、爆発しそうである。


誰か驚かして、反応を見て楽しんでみたいものだ。


うん?


なんというか、そういう意味では、怪盗パンドラもそうなのではないだろうか?


いや、俺はお金はどうでもいいし、名誉のように称賛されたいわけでもない。


俺の場合、もっと純度の高いイタズラなのだ。お金がもうからなかろうが、名誉にならなかろうが関係ない。


いっそ、パーブルにその気がるようにふるまって、ちょっと期待させるとかしちゃおうかな。


あ、それくらいだったら許されるかな。


本気になったパーブルが、って、のは、危ういけれど、いざというときは魔法で電撃を浴びせればいい。


そうそう、怪盗パンドラの件はこの辺にして、ちょっと気分転換でもしようじゃないか。

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