第2章 08話 奇病と竜とダウジング
パーブルとの合流や、街のでの活動は手続きや準備があると執事から言われて、執事に集めさせた、ウェンプトン国に蔓延する問題の病に関する情報と、部屋でにらめっこしていた。
こういう思考をするときはなるべく心を本来の俺、遊馬慧に寄せるように意識して考える。
どうも、変身には試行トレースみたいなのがあるっぽいので、なりきると志向が変身した対象の当人によってしまうのだ。
それは以前、猫になった時もそういうのがあった。人間の女性に欲情しなくなる代わりに、メス猫に欲情するというあれだ。
そのコントロールも少し慣れてきたようだ。
さてはて、資料を読み解いていこう。
まず、同じ病とは断定されていないが、ニジアン病と呼ばれている。これは最初と思われる発生地点の村の名前がニジアンだからである。
ニジアン病は、初期の症状としては咳や鼻水、のどのかゆみ、頭痛がある。そして高熱や関節痛の末に、肺炎などがあり重篤化する場合は死に至るという。
雰囲気としてはインフルエンザに似ている。
厄介なのは、一般の風邪薬はもちろん、魔法薬による治癒が利かないことである。
病気に対する魔法薬でも、風邪やそれに類似するものはわりと、汎用性が高く効果が出るが、今回はそうではないらしい。
感染経路については、人伝いのように見えて奇妙な状況だ。
そのため、症状を抑える薬も今はないのだという。
ニジアンから伝って広がったと思われる経路とは別に、飛び地で複数地点からも発生しているようなのだ。
つまり、ニジアンで発生した何らかの病気が広がっているわけではない。
作為的に病気がまかれている?
何のために?
どうやって?
何を使って?
病人が点々とワープでもした?
ワープ、転移の魔法なんてものはあるのだろうか。セナの知識では知らないみたいだ。
また、難儀な問題をウェンプトン国は抱えてしまっているように思う。
可能であれば、他国の状況も知りたいところではある。
もし、ウェンプトンだけで発生しているとなると、どこかの国の暗躍、とも考えられるからだ。
とはいえ、周辺国の情報まではさすがに入手できないだろうなと思う。
特定のだれかのニジアン病を治すことはできる可能性がある。
願いをかなえる奇跡の魔法、創成魔法、それならば、ともするとできるのかもしれない。
されど、ロハンからセナに強く、他の人に知られるな、使うなと言われているのだった。
魔法薬を作って飲んでもらって癒せたとしても、数にも限度があるかもしれない。
いや、そもそもだ。
ばらまいている黒幕がいるのだとすれば、いたちごっこになる可能性が高い。
これが、ニジアンから発生した何かが、であれば、根絶すれば終わる。
しかし、どうもそうではないらしい。
となると、危険を冒して、治療薬を作って配布できたとして、きっと問題は解決しない。
まず確認するべきは、ワープなどの魔法、魔道具があるかどうかの確認である。
もしあるなら、黒幕なんていない可能性もある。
その後、転移なる魔法がないことが、中庭でロハンから教えてもらった。
「古代の、特殊な遺跡にはそういう迷宮はあります。されど、その技術は失われています。術式魔術でしょうが、解析して運用されているという話は聞いたことはありませんね」
「魔族が使えたりは?」
「どうでしょうね。詳しくは知りませんが、もしそうであれば、北側で魔族の領土と相対している国はもっと苦戦しているでしょう。何せ、魔族は突然、大群で王の首を取りに押し寄せることができますから。潜入やかく乱が中心ですから、転移については、あったとしても、そこまで自由ではないかと」
「つまり、自由に転移先を選んで移動して、ということはなく、魔族であれ誰であれ、陸路または空路などで移動しているはずだと?」
「そうです。もしできるとすれば、奇跡ですよ」
ロハン、彼が奇跡などという言い方をするとき、それは創成魔法を指す隠語である。
「そうですか、ありがとうございます」
こうして分かったことを自室で、紙とペンで情報をまとめていく。いやあ、紙に文字が書ける、なんてすばらしいんだ。ちなみに日本語で書いているので、この世界の誰かに読まれる心配はない。俺のための俺のメモである。
ふむふむ、つまり可能性は二つある。
一つは、病原菌をばらまいている何者かが存在するという可能性。
もう一つは、ニジアンで病気にかかった創成魔法使いが、転移してばらまいちゃってる可能性である。
どちらであるか、どちらでもないか、実は知る方法はすでにイメージできている。
ちょっとズルい。
いや、かなりのズルかもしれない。
もしそれがかなうなら、俺は無敵になれるかもしれないのだから。
俺は一本の紐の先端に何でもない指輪を括り付けてプラプラとさせる。
さて、実験を開始しよう。
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グランドドラゴンは大暴れ。
ゼルへとブレスを吐いたかと思えば尻尾で私にと、それを防御円で防ぎつつも、破られそうだからと慌てて走って退避する。
走りながら雷撃の魔法をドガンドガンと、一発一発を重めに放っていくも、しぶとい。
といって、ためる余裕があるほどこっちを自由にしてくれない。尻尾でボディーアタックで、と縦横無尽にドラゴンが暴れまわるので、逃げるのにも必至である。
ゼルの猛攻で頭部を中心に、腕などへ何撃も入れているし、彼こそドラゴンの猛襲を回避や格闘の一撃の相殺でしのいでいる。
ぐるぐるとドラゴンを中心に走りこみながらも、ドラゴンも暴れては正面がころころと変わる。
私の攻撃は手ごたえはある。皮膚の表面だけではなく、確かになかに、しかし大きい図体ではほんのかすり傷でしかない。
ほんの一時、空いた時間にもっと魔力を練りこんで雷撃のビームがドラゴンの左側面に刺さるも、貫通しない。
されど、それに怒ったのか、こんどは私めがけて叫びながらのブレスを放ってきた。
防御円で防ぎきれるか?
逃げる場所は?
後ろに逃げてもブレスは届く。左右にも広くまかれるのはずっと見てきた。
上?
といっても、いったいどうやって。
大きな跳躍ができるゼルと違って、階段でもなければ――
階段、があればいい?
そう思った瞬間、右側の足元に天へと向けた小さな防御円を次々と発生させながら、それを足場にダダダダっと駆け上がる。
しかし、ブレスの風圧にあおられて、途中で吹き飛んで高いところから落下――
それんな私を、ゼルが受け止める。
「面白れぇ、その調子だ!さっきあてた側面を何度も狙え!」
と、言って、彼はまた、反時計回りから駆けてドラゴンへと向かった。
ブレスの直撃は防いだ。
何度も狙え、簡単に言ってくれるなぁ……
でも、やるしかない。
すぐに気持ちを切り替えて、戦線に復帰する。
そんな激しい攻防があってほどなく、グランドドラゴンは雄たけびと共に倒れた。
「おっしゃ!」
少し様子をみたあと、ゼルが近づいて解体しだしたのを見て、私も解体に参加する。もう言葉はいらなかった。
ゼルはほとんど何も教えてはくれない。
できることは、そう、せめて、彼のように、彼を見て、一生懸命やってみる、それだけだった。
にしても、流石ドラゴン、硬い皮膚で、ナイフでの解体は時間がかかりそうだ。
にもかかわらず、ゼルはそれを気にも留めず進めていくのだから、何がどう違うのだろう。
次元が違う、とはまさにこのことである。
でも、確実に、前に進んでいるという手ごたえが心地よかった。
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俺の実験および鍛錬の成果は実を結んだ。
この世界にもタロットカード的なものがあって、それを利用する。
まず、三枚、星、海、太陽のカードをシャッフルして伏せて並べる。
紐を通した指輪ぶら下げて、そして願うのだ、創成魔法で、太陽はどれかと。
すると、指輪は揺れ動き、一枚のカードを指し示す。
裏返すと、見事、太陽のカードである。
これを応用する。
紙に三つの文章を書く。
『ニジアン病は、病原菌をばらまいている何者かがいる』
『ニジアン病は、創成魔法使いが転移してばらまいてしまっている』
『ニジアン病は、そのほかの理由で広がっている』
さて、先ほどの創成魔法を使って指輪を揺らすこと10回。いずれも、一つ目、ばらまいている何者かがいる、となった。
何者か、か……
ニジアン病はまず、もう感染で広まってしまっているのでそれ自体を止めなければならない問題、そして、黒幕がいるという問題があるということだ。
解決を目指すなら、どちらも対処せねばなるまい。
まずは黒幕を探ろうか。薬は創成魔法で作れる可能性が高いし、根本原因をさがそう。
こうして、『ウェンプトン国』『デファード国』『サンフラン聖王国』など、それぞれの国の名前をかいてみて、黒幕はどこの所属か、と指輪をたらしてみた。
すると、まったくもってそっぽを向きやがった。
何度やっても、どの文字もない場所へと指輪が向かう。
ん? どういうことだ?
人為的なものなのに、うまくいかない。
所属という表現が悪いのか、と思って、今いる場所とすると、ウェンプトン国となった。
なるほど、黒幕はウェンプトン国であるが、所属はウェンプトン国ではない、と。
少し視点を変えよう。
王族、貴族、その他、で調べてみる。
その他、であるらしい。
また難しいな、この路線でうまく調べられると思ったが、こうした選択方式での質問を考えて、というのがちょっと難しいのか、それとも見落としでもあるのだろうか。
では、少し別の区分けで考えてみよう。
人間族、エルフ族、獣人族、小人族、その他、だ!
これでどうだ!
え?
その他じゃん!?
他に種族がいるのか、と、セナの記憶をたどって補填して、魚人族、鬼族、キノコ族とやってみても、その他になった。
うむうむ、なんだ、何を見落としている?
人為的なものであるにもかかわらず、でも、あげていった種族には該当しない?
なんで?
こういう時は、気分転換をしよう。散歩だ散歩。
昔、よくやっていたじゃないか。難しい問題にに詰まったら、ちょっと手洗いにいったり、お風呂に使ったり、もっと簡単に、そう外を出歩いたりしていたものだ。
ちょっと頭を休め、志向を散らし、意識を集中モードから分散モードにすると、意外なアイデアが舞い降りてくることがある。
ここでは、歩ける範囲も限られるけれどもね。
屋敷の中を歩いてみることとしよう。
そうして、俺は部屋を出た。
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冒険者ギルドでたむろしていた人たちは驚いていた。
今受付の前には、いくつかに解体されたグランドドラゴンの一部をもって、ゼルとサーラという少女が現れたのである。
「二人でやったのか……」
「よくあの子ついていってるよな」
よく見れば、少女はゼルほどではないにしても、仕事したなぁ、疲れたぜ、くらいのもので、まだ余裕がありそうである。
何というタフさであろうか。
ゼルに付きまとわれて、ひどい目にあった冒険者はたくさんいる。
そう、連日ハードな依頼の達成に付き合わされ、そして、多くのものが数日で脱落していった。
でもあの少女は、ついていっているというのだから驚きでもある。
その上さらに、グランドドラゴン、外にはおそらくさらに残りの部分がドカンと置かれているのだとすると……とんでもない話だ。
受付の人が別の人を複数呼んできて、そしてその人たちが外のドラゴンの部分を持ち運んでくる。
「マジ?」
「あの子、サーラって名前だと思うけど、よく生きてるわね」
「俺なら死んでんじゃないかな」
「いや、あれは誰でも死んでるんじゃないかな」
そんな声が漏れる。
ここ最近、サーラが外で魔法の練習をしているという話も噂で流れている。
なんでも、極大な雷撃魔法を最後に撃ち放っているらしく、その威力は、ドラゴンのブレスをも超えるとの話だ。
見た者いわく、冒険者ギルドの建物ほどの太さのビームが空に向かって伸びているようだったというのである。
さらに恐ろしいのは、そんな威力、さぞすごい魔道具や杖を持ってのことかと思いきや、安物の杖なのである。
一同は運び込まれるドラゴンのパーツを見ながら思った。
彼女はいったい、何者なのだろうか、と。




