第2章 09話 冒険者、装いを新たに
俺は屋敷を歩いているとレオナードと遭遇した。
「こんにちわお兄様」
「あぁ、こんにちわセルディア。珍しいな」
「そうですか?」
「用事があって歩いているようには見えない。最近は用事がなければ部屋にこもっているだろう」
「なるほど。はい、ちょっと悩んでおりまして」
「悩み、なんだ?」
「はい、悪いことをしている人がいるのに、人間でも、エルフでも、獣人さん達でもない、そんなことがあるのかなと」
「なんだそれは、本かなにかの謎かけか?」
「そのようなものですね」
「それは悪いことなのか?」
「はい、悪いことです」
「であれば、根本的にまず先に考えるべき先があるではないか」
「といいますと」
「お前は、ちょっとぬけているよな、魔族だよ」
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私は、いつもの街の外での魔法の練習に、防御円を使って階段を上るような、足場としての利用を組み込んだ。
何度かやってはふと落下してしりもちをついたり、足で踏ん張ってみてもじんじん痛んだり、手をついても擦り傷がと、なかなか大変である。
大変だ。
それに最近思う。このローブの装束は、現状にはちょっと不適当だ。あの街でとりあえず買った安物の服で、いかにも魔法使いの見習いにはもってこいの装いであるが、動き回る今のスタイルには不向きである。
というわけで、ズドーンと今日もどでかい雷撃ビームを一発放って、練習を終えて、服を考えに防具屋さんへと向かった。
防具屋さんでは、いろんな防具が売っている。戦士用の胸当てや鎧から、軽戦士用の軽めのもの、魔法使い向けのローブなどなどである。
どれにしたものか、見ていてもわからない。
流石に戦士向けのものは重いし、防御力が上がっても、違う気がする。そう、動きやすさが欲しい。
ローブそのものがまず動きにくいのだ。
というわけで、店主のおじさんに相談してみた。
「動きやすい服だって? 魔法使いの嬢ちゃんにかい?」
「はい、ゼルさんと依頼を受けると、このローブではつらくって」
そういうと、店主がたいそう驚いた。
「なんだって! 嬢ちゃんが、あの、サーラなのか!」
あの? と思いつつも
「は、はい」
「はーこりゃたまげた。なるほど、ちょっと考えさせてくれ」
と、店主は顎に当てて考えて言う。
「動きやすさも欲しいが、そうだな、見てると手とか怪我してるじゃないか、となると……」
私の体をじろじろと見ながら、ちょっと恥ずかしい。胸を腕で隠してしまう。
「そうだな、うーん、サーラ、普段どんなふうに依頼をこなしているか、戦っているか教えてくれるか」
「わかりました」
そうして、ここ最近のことを話した。
「なるほど、なかなか凄いな。しかしだ、そうするとっ」
店主は、お店の中からいくつもの防具をとって、カウンターに並べていく。
「まずはたたき台としてはここからだな」
そこには、革手袋、包帯、膝あて、短めのズボン、小さなバック、インナー上下などが並んでいる。
どうみても、魔法使いの防具ではない。
「いま、サーラに必要なのは、格闘家ベースの動き安さと、なるべく肌の露出を減らすこと、そのうえで、ここから魔法使い向けのものや、何か好みの方向で調整していくのがいいだろう」
「肌の露出ですか?」
「そうだ。手袋も、それ。森の中を走るときとか、枝に肌が引っかかって切り傷になったりする。だから、なるべく肌は出さない方がいい」
手袋は指先が出るようになっている。これは、媒体魔法のために、杖の媒体に接触する必要があるからか。
「なるほど」
「俺の考えでは、今は鎧みたいな、防御力が欲しいわけでもないんだろう?」
「そうですね。鎧を着ていても、当たってしまったらアウトな気がします」
店主は苦笑いする。
「だから、動きやすい格闘スタイルに、露出する部分は包帯で補って隠す。あと、高くから落ちた時などに膝あて、肘もだな。防御円だかなんかで、高く上ってって時の保険だ」
「いいですね」
「あと、魔法使いだったら、こんなベルトはどうだ?」
見せてきたベルトは、内側に宝石がはめ込めるようになっている。
「これは、媒体魔法の宝石を内側につけてだな、肌に直接こう縛る感じで使う。これなら、手に空きができるんだよ」
「いいですね」
「あとは、ここにはないが、魔法の腕輪を探してみるといい。身体強化や、早く動けるやつ、他にもいろいろ補強できるのがあるはずだ」
「なるほど、ありがとうございます」
そうして、並べられた装備をたたき台に、近しい別のものとを見比べて交換していきながら、防具のセットが決まり、試着して調整してもらう。
ほんのしばらく調整してもらったら、ローブ姿だった私から全く違う姿へと変わっていた。
「ありがとうございます。とても動きやすいですし、やっていけそうです」
「いやいや。また、お金たまったり、気になる点があったら言ってくれ、知り合いの鍛冶屋に依頼を出してオーダーメイドもできる」
「わかりました」
そうして、次は、魔道具のお店へと向かった。腕輪をもとめて。
お金については、ここ最近うなぎ上りに貯まっていった上、グランドドラゴンの報酬ですごくたくさんある。
腕輪はいろいろあった。
今、欲しいのは体力、持久力、身体能力的なところだなと思う。俊敏に動けるような腕輪はないのかと尋ねてみると。
「それだと、腕輪よりも靴でいいのがあるけどね」
さっき靴を買ったばかりだが――
「これだね。体が軽く動きがよくなる、軽戦士には人気の品かな。戦士だと、防御力がないから選択肢からは外れるようだがね。あんただと、こちらの方がいいんじゃないかい?」
それは、靴に魔法の腕輪のような輪っかのようなものが着いた、ブーツだ。
「よさそうです、履いてみてもいいですか?」
「あぁ、どうぞ」
履いてみて、とんとんと軽くジャンプすると、うん、なんかいい感じだ。
「これにします。そのうえで腕輪も探します」
「あいよ」
腕輪は、左右で一つずつ購入した。
一つは、体力の腕輪。スタミナ維持になるというものであり、その中でも、上位ランクのものを選んだ。
もう一つは、身体強化の腕輪で、こちらは魔力を込める必要がある。人によってはそれが苦手で会わないが、私にはぴったりだ。込める魔力に応じて強化される具合も変わってくるらしい。
しかし、本来の身体能力に応じて限界があるのだとか。たとえば、元が50だと、限界はその二倍の100のような感じ。それを超えて強化すると身体が傷つくという。多くの場合、そこまで魔力を込められる戦士はいないが、魔法使いがこれを使うとなると、簡単に限界を超えてしまいやすいらしい。注意しないと。
購入して装着したあと、魔法店へと向かう。
アスマと別れてから、媒体の宝石を持っていないのだ。それを購入し、インナーより内側にしめてるベルトの一つにはめ込む。
よし。
まずはここまでとして、調子を確かめよう。
魔法店をでて、私は街を駆け巡っていく。
動きやすく、まるで新しい体を手に入れたみたいだ。
ただ、違和感もある。手袋で覆っていたり、包帯やインナーで肌を全く出していないので、肌での空気を感じない。
ほんの少し、感覚が鈍くなる、そんな感じもある。
これが吉と出るか、凶と出るか、とにかくやってみよう。試してみたらわかることはさっさと試したらいいのだから。
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俺は、街での冒険を許可してもらったこともあり、その延長というかまずは事前準備のような形で、修練場の利用許可が下りた。
少し館から距離がある場所だが、一時間とかからない場所に、壁で囲われたそれがあった。
木剣や鉄の交錯する音とともに、訓練の掛け声が聞こえる。
俺は、セルディアとして訓練用に身軽な服装でここに来た。
パーブルが出迎えてくれる。
「お久しぶりですセルディア様」
「お久しぶり、パーブルも元気そうですね」
「はい」
こうして、パーブルとジョニーと再会を果たし、二人とであれば、ここでの練習、稽古の先生や相手となってもらってよい、と許可が下りたのである。
つまり、それはどういうことかというと。
一つは、以前のように、ここへ来る道中にやっていた魔法の練習ができるということ。
もう一つは、彼らから、剣などの武術を教わってもよい、ということである。
ん?
剣術を習ってどうするのかだって?
あまいな、俺は俺の目的がある。
そう、せっかく中世ファンタジーに来たのだから、剣を振り回して戦ってみたいとは思わないか?
いや、思う! そう、男の子だったら誰しもが思い憧れるはずだ!
というわけで、街への準備、もう一人の付き添いの人が決まるまでは、日課としてここでの訓練内容が決まっていく。
まず、魔法は、二人に戦ってもらって、パーブル側に防御円をうまく出していく防御円の訓練。
防御円自体の強度も高めたいので、パーブルに防御円を攻撃してもらっての強度上げの訓練。
ジョニーに雷撃や風を飛ばしての速射と、命中についての訓練。
さらには、ジョニーに遠くで動いてもらっての、狙撃の訓練。
ウェルゴーがやっていたツタで、パーブルを狙って捕まえ拘束する訓練。こちらはかなりゆっくりからスタート。
その後、パーブルと木剣での、素振りから、軽く打ち合いの練習。
さらに、ジョニーが短い木剣をつかって、短剣二刀流との模擬の打ち合い練習。
を行っていく。
意外に、セナはタフで、後半の剣の練習も長いこと行うことができた。
よしよし。なんだか、異世界を満喫している感じがしていいね。
できることなら、遊馬慧として、本来の姿で経験を積みたかったが、そこは仕方がない。
いや、むしろ異世界転移したら姿が変わったり、転生して新しい姿でというのも定番だ。
そう思えば、うん、案外悪くないのかもしれない。
最近は元の姿でいる時間が本当に少なくなってきた。
そのうち、俺が男であることを忘れてしまうんじゃないかと思う。
セルディアとして生きていくのは悪くないんじゃないかって?
結婚の話がなければな、そうだな、正直言って、あの男はない。俺としても、セナとしても。
だから、いつかネタ晴らしをするのだろうけど、それまで、セナ、セルディアとして、楽しませてもらおうじゃないか!
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私は新しい装いで、相変わらずの杖をもって、冒険者ギルドへと向かった。
「いいじゃねぇか」
ニヤリとゼルが笑う。
周囲の冒険者たちも驚いているようである。
ちょっと恥ずかしい。
そんなに見ないでほしい。自分でも、ほら、なんか、いつもと違うのが違和感があるのだから、その、変じゃないかとか。
でも、ゼルがいいじゃないかと、そう言ってくれたのは、嬉しかった。
そして確かめに行こう、この選択が、間違いだったのかどうかを。




