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第2章 06話 自由と檻

街フェルディアスにサーラは到着した。


「ありがとう」


と、手をふって行商人さん達とお別れしつつ、荷物を持って、まずは冒険者ギルドを探した。


ここはもうユークララス領ではない、オルヴァイン領だ。


パン屋さんでパンを買って、冒険者ギルドの場所を教えてもらいつつ、食べながら歩く。ハムハム。


焼きたてで美味しい。ふわっとした食感に焼かれたチーズが香ばい匂いと共に、口からお腹へと幸せが広がっていく。


教えてもらった通りに進んで冒険者ギルドに着いた。


さて、こんどこそ0からのスタートである。


そう思って扉をくぐると、幾人かの人たちから怪訝な目で見られた。背が小さいので、杖は持っていても、舐められてるんだろうなと思う。


それは、あの街でも最初は一緒だった。


そう、最初はこんなものだ。


こらえて、怖気ずに、前に進んで、受付まで向かう。


「すいません、冒険者登録をしたいんです」


「はい、わかりました」


手続き自体は順調に進む。


いったん仮の冒険者証が渡されるのも同じだった。


そして、魔力をはかる水晶に手を当てると。


ほわーっと、前以上の輝きでひかった。ほんの少しまぶしい。


「かなりの魔力をお持ち何ですね」


「はい、訓練してきましたから」


「そうですか、それでは後は実践ですね」


そうして手続きは終わる。


そして、依頼の張り紙を見に行こうと歩いて行ったそのとき、


「よう嬢ちゃん、見ない顔だな」


威圧するように、顔を突き出す感じで男が声をかけてきた。装備から軽戦士、ジョニーさんタイプの人だろうか。


「はい、サーラといいます。街にはさっき着いたところです」


「そうかい、サーラちゃん。俺はグレッグって言うんだ。魔法使いみたいだが、杖も棒切れじゃないか、嬢ちゃん、なめてて痛い目見る前に、考え直した方がいいんじゃないかぁ」


うん、怖い。どう対応するのがいいのかもわからない。


前はこんなことはなかった。


どうしたらいいだろう。


しゅんと、心細くなる。1人では、ぜんぜんまだまだ、できないんだな。というのと、そして1人なんだなと。


でも、自由を勝ち取るためにとにかく前を向いた。そして、杖を構えた。


「では、あなたの体で、試してみますか?」


杖の先をビリビリとさせながら。


「はん、小娘が、やれるもんならやってみろ」


と、低いドスの利いた声でグレッグは応える。


でも、ここで引いたらダメな気がする。


そうだ、せっかくアスマが自由をくれたのに、こんなところで負けてなんかいられない!


杖を構える。先端にビシバシと雷撃が走る。


「ほらぁ、撃ってみろよ!」


怖い、けど気に入らない、そんな顔めがけて、雷撃を――あれ?


軽く収束が行き過ぎて過剰になる。


あれ?


でも、もういつものリズムでやっていた動作はとまらない。


雷撃の玉がさらに高速で生成されたかと思うと、もうグレッグの顔に命中していた。


それは、思っていたよりツーテンポ以上早く。


なんでだろう?


投げようと思ったボールがすっこぬけて変な方向へ行くのとは真逆の。


投げようと思ったボールが思っていた以上の剛速球で正確、それも投げるフォームは1.5倍速で放たれた、そんな感じ。


グレッグは雷撃の衝撃で後ろにぶっとびながらあおむけでドタガタとぶつかりながら倒れる。


周囲は唖然となった。


それは、私ですらも予想外である。


不思議といつも以上に、杖は粗末なもので本来ならもっと使いにくくうまくいかないはずなのに、なぜか、力が入ってしまった。


後ろから、


「はっはっはっは、なかなか見どころあるじゃねぇかぁ!」


と、声をかけられ肩を叩かれ、そのまま横切って前にやってくる男が一人。


むしろその人の方が、いかつい顔に傷をもった大柄な獣人がたたずんでいた。


「おら、なめとった、そこののびてるバカをとっとと外へ捨ててこい!」


少し後ろを振り向いて彼がそう言うと、何人かの冒険者が、指示に従ってグレッグを運び出し、彼が今度は私をにらんでくる。


「その杖で威力も速度もピカイチ、気に入ったぜ! どうだ、組まないか?」


え……えーーーーーーー!


いやいやいやいやいや、怖いし、何この誘い。


あわあわするしかない。


「はっは、とって食おうってんじゃねぇ。なんだ、技量の割には小心者かー……なら、なおさら来いよ」


「いや、その」


「予定でもあるのか?」


「いえ、ないです……けど」


「じゃ、決まりだ!」


なんて強引な!


「それじゃあー」


と、彼は依頼の張り紙を見て、


「よし! こいつでいこう」


勝手に依頼を決めてしまい。


「おい、受付の姉ちゃん、これ、うけるから」


「はい」


えぇ、受付さん、なんか平然としてるんですけど。


「じゃあ、いくぞ」


ガッっと腕をつかまれ、連行される。


ちょっと、ちょっと待って、依頼内容も私見てないんですけど。


あ、ああ、あ、私、ど、どうなっちゃうんだろう!?


---


街ノレントにたどり着くと、そこからは早かった。俺を隠すようにローブをまとわせ、そして領主の館まで連れていかれた、そうかと思えば、いきなり女性の家臣の人達に服を脱がされあれれー、と考えている間に、湯網がされていき、そして衣装が着せられていく。


ただ、セナの記憶や感情もわかるから、まぁ、こういうものらしい、と言うのが分かったが。俺としてはとんでもなく新鮮で、なんだか、すごく偉い人になった気分でもありつつ、それくらい自分で、みたいに感じていた。


ひとしきりそれが終わったころ。


メイドの一人から言われる。


「リビングで皆さまがお待ちです」


さぁ、むかえ、と、リビングの方を示される。


皆さま、つまるところ、セナことセルディアの両親と、重要人物だろうか。


さて、俺に上手くセルディアをやれるだろうか。


そうだ、これまではまだ、俺は俺の知っているセナをやっているだけでよかった。


しかし、ここからはそうではない、セルディアをやらなくてはならない。


セナの記憶を引き出して心を引き出しつつ、一歩一歩前へと進む。


扉の前に立つと、メイド達が扉を開ける。


渋い顔の父バルト、嬉しそうに泣いている母テレシア、兄レオナードそして重鎮何名かと魔法の先生ロハンもいた。


テレシアが駆け寄ってきて抱きしめてくるのを、なすがままにされる。


「よかった、生きていてくれて。帰ってきてくれて」


「ごめんなさい、お母さま」


「ううん、少しいまは、このままでいさせて」


テレシアの抱擁にされるがままになりつつ、不思議と安心感を受けないセナの心があった。


どちらかというと、面倒くさい、であり、そして頼りにならないである。


抱擁が終わると、テレシアは後ろに下がりそして、バルトが話はじめた。


「まずは、よく帰ってきてくれた。長旅でつかれているだろう。私も話もしたいことが多いが、一呼吸おえてからとしよう」


「はい」


「あと、ブラッドウルフを雷撃で葬ったそうだな」


「はい」


「今度、その雷撃を見せてくれ」


「わかりました」


そうして、あっさりと、最初の会談は終わったのである。


バルトは、少ししてからいろいろと長い話に付き合わされそうである。


いろいろ言われるのかもしれない。


うん、まぁ、しかたがない。


そうそう、それより問題はバレるかバレないかだ。


部屋を後にして自室に戻った。


俺の知らない、セナの知っている自室。


セナが家を出てから何も変わってない自室である。


やっと一人になれ、肩の力が抜けて、ソファに腰を下ろす。うわぁふっかふかだ。


ふと大きな鏡がみえた。


前に向かって立ってみる。うん、実にセナだ。衣装はさっき着せられたものでまた別の、気品を感じる雰囲気がある。


さて、どれくらいの頻度で、外から呼び出しがかかるか分からないから、夜まではセナの姿のままでいよう。


奇麗でほんのり豪華な部屋にもかかわらず、不思議と、そこから感じるのは檻という閉塞感だ。


嫁ぐまではずっとここの籠で、嫁いでもまた別の籠で。


部屋にある物に、愛着を感じるものは何一つない。


それは、なんとなく、分かる気がする。


俺も似たようなものだった。たぶん今、俺が元の世界の部屋に戻れたとしても、近い気持ちになっているだろう。


周りにあるのは勉強道具ばかり。それだけの部屋。


遊び心もなく、何か好きなアイドルのポスターが貼ってあったりもしない、実に勉強のためのそれだけに特化された部屋が俺の部屋だった。


ほどなくして夕食をテレシアとレオナードとで食べた。


バルトは忙しいらしい。


もともと、バルトは夕食を別にとっていることが多かったからめずらしい事ではない。


テレシアからは、怖いことはなかったか、など、旅での話を聞かれ、もうこんなことはしてはいけないと言われた。


怖いことについては、パーブルやジョニーが助けてくれて心強かったと、ひとまず言っておく。それがどれだけ有効かは分からないが。


どうも、テレシアは、とにかくバルトの言うとおりにしていればいいのだ、という考えの人らしい。


そう、だからこそ頼りがいがない。


相談できるような相手ではない。結局何を言っても、バルトが言ってるから、バルトが、バルトが、なのだ。


といって、バルトに言ってどうこうなることは少ないし、機会も少ない。


できたことは、セナが魔法を覚えたいと、いろいろだだをこねた時だった。本を読んでいて憧れたのである。そして、自由な世界を。


バルトに言ったところ、最初は渋られていたが、どういうわけか魔法の先生、家庭教師がつくことになった。


それは嬉しいことだった。


バルトは、ときに話を聞いてくれることもあるのだ、そう感じたのである。


だから、わがままをときおり言ってみたりしたわけだが、それ以降、うん、叶えてくれたものはあった。


だが、致命的な、あの縁談だけは、変わることがなかったのである。何年もバルトに拒んでも。


兄レオナードも父には逆らえないというタイプだった。テレシアと違って責務を全うするぞ、それが貴族の務めだという気負いのようなものがある。


「僕にも言いたいことはあるが御父上からが先だ。僕はその結果を待つ」


「そう」


レオナードとはそれ以降話すことはなかった。


ほどなく、食事が終わりまた自室に戻って、何度かメイドがやってきて、セナの記憶を頼りにこれ以降は誰も来なさそうという時間帯になり、俺は、服を脱いで、変身を解いた。


脱がないと破けちゃうからね……


夜の一室、ともっているランプは一つ、少し、事前準備をしておく必要もある。


変身の練習もしておきたいが、先んじておきたいことがある。


バルトが、後で話したい、そう言っていた。


きっと何かあるだろう。そのとき、上手く立ち回れるようにしておきたい。


だから、俺はバルトをイメージし、そして彼へと変身した。


鏡の前では帰ったときに会った服を着たバルトが見える。


そっか、この状況がばれても、別に良くない?


変に思われるのはバルトだけ。ま、そんな些事はいい。


バルトがどんな話をしたいのか、記憶を手繰っておくのである。


さぁ、話し合いの準備をひとしきりさせてもらおうか。

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