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第2章 03話 変化は言葉遣いから

俺たちは、街を出立し、セナの故郷へと向かう馬車に揺られている。


俺はセナに変身して旅をしている。


馬車は貴族の、ではなく、行商人のと言う風体である。というのも公には、ただの行商隊なのだ。


それもそう、セルディアが家出をしたなどと言う事実を公表せず、全てのことを終わらせなければならないのだから。


と言ってもその行商隊のメンバーはユークララス家の家臣でも凄腕の元たちがそろっている。


さてはて、ここらはちょっとした博打が一つある。


はたして変身はどれほどの時間持つのか、休憩が必要なのかと言うことである。


はっきり言って、一人でいられる時間が限られている。


村に立ちよって、寝る前のほんの一時の時間程度である。念のため、人に見られないように隠れて解除して変身の休憩をしているつもりだが、必ずしも1日ですぐ村に着くわけではなく、野営と言うこともある。


そんな時は変身を解除している余裕がない。


むしろ、そうした時間帯の方が長そうだ。


もってくれよ、俺の能力! そんな感じである。


いやぁ、それはそれでスリリングでいいけども。ひやひやする感じが心地いいね。


そうしたことで、朝の変身練習はできなくなっていた。


その変わり、魔法の自主練習はちょっと合間を見てやっていたりする。セナとして不思議がられない程度に。


ふと、パーブルが話しかけてきた。


「セナ様の魔法もずいぶんとまた最近はさえわたっておりますな」


俺はくすっと笑って。


「もう、やっぱりなんだか変ですわ。パーブルがそんな話方をするなんて」


「いやいや、いざ屋敷について、言葉遣いで不敬であるぞなんて追い出されては、たまったものではありませんから」


なかなかにして、このパーブルと言う男、しっかりと家臣としての言葉遣いができるのだ。


いやはや、侮っていた。それもそうか、冒険者ランク4も間近で、貴族からの依頼も受けていたようだし、そうした言葉遣いや、対応、作法も覚えているんだろう。


ゆくゆくは案外本当に、良い騎士になってしまうのではなかろうか。


ふと、パーブルがセナになった俺にひざまずいている姿を想像すると、うん、笑える。


これまでの道中もずいぶん、親切にしてくれたし、なんだかな、いい奴なんだよな。


でも、だからといって情にほだされて、秘密が露見と言うわけにもいかないかな。


そうだな、俺が正体を明かした後、もし彼がセナに会いたい、着いて来たいというのなら、その時は一緒に、くらいのフォローというか謝罪はしてもいいかもしれない。


きっと、彼は本気でセナが好きなんだろうし、イタズラでした、ごめんね、もう会えないよ、残念ではさすがにちょっとね。うん、ま、でも、当分は騙されていてもらおう。


「そうですね。でも、また、以前みたいに、くだけたお話ができる日々か来たらと願っています」


「それは、もったいないお言葉でございます」


この言葉は、俺も、そしてセナの心としても、そう強く思う。


それはそうとさ、馬車って意外にお尻痛いんだね。


いや、現代の車とか電車とかでは考えられないほど揺れる揺れる。ひやぁ、時代の進歩ってすごかったんだなと、改めて感じているよ。


ほんと、今は楽しいけどさ、元の世界のあの便利さとか精度の高さとか、ほんとうに、懐かしく思う。


可能であるならば、そんな世界で、また違う、今度こそ自由な人生を送れたならと思わなくもない。


いやはや、米にお味噌汁、鮭の塩焼きみたいなそんな何気ない日本食を食べたいなとふと思った。


---


パーブルとジョニーに媒体魔法、防御円の練習を手伝ってもらっていた。


二人にゆっくり戦ってもらって、パーブルへのジョニーの攻撃を俺が防御円ではじいていくと言う練習である。


なかなかに難しい。


それにかなりの集中力が必要だ。


これを実践で、高速でやるだなんて、一朝一夕ではできないなと感じている。


なるほどね、魔法使いでも攻撃と防御の担当を分けるわけだ。


これに並行して、さらに攻撃なんてできる気がしない。


防御円、とは、術者とは遠い場所に小さなバリアを発生させて、敵の攻撃を味方に当たらないように防ぐ魔術である。


これは他の魔術と異なり、飛び地、自身と離れた場所に瞬時に作らなければならない点で困難である。そのうえで、それなりの強度が必要なのである。


この練習が終わたら、今度はジョニーさんへ、風の斬撃を緩く飛ばして狙ってあてようとする、なるべく立て続けに連射できるように、精度も高くを目指して。


こちらも、なかなか一朝一夕にはいかないなと感じる。


でも、どちらも手ごたえを感じている。


つまりそれは、変身した対象でありながら、その上達した能力でもって、訓練すれば行動できそうだということだ。


ほどなく、他の練習もおえて、ジョニーさんが手ぬぐいを持って来てくれる。


「お疲れさまですお嬢様」


「ありがとうジョニー」


「それにしても、以前よりもこう、上達に対して積極的と言うか、なんだか一歩前に進まれた感じがしますよ」


「そうですか」


「はい」


ジョニーも、パーブルと同様に言葉遣いをもう改めているのだ。二人とも相当本気のようだ。


「以前は、教えてもらったことを吸収していく、そんなスタンスでした。でも、今はセナ様自身での試行錯誤がおありになる」


「なるほど」


あ、あれれ、そうか……セナってこういうことしてなかったよなぁ。もしかしてマズったか? 怪しまれてる?


ひええ、いやぁ、ちょっと待ってくれ、そんなことで怪しまれるなんて考えてもなかったぞ!?


「いい傾向だと思いますよ。私も、師はいましたけど、最終的には創意工夫して今の形になりましたし、いずれ自分なりに考えては必要ですから」


あははは、あぁ……なんか、良い変化と言う風にとらえてくれているのかな。うん。


「ありがとう。この練習はきっと帰ったら、役に立たないのかもしれないけれど、アルミナの盾のみなさんの強さには憧れてるの」


「負けてしまいましたけどね」


「あれはバリスタードがちょっと別格すぎるからです。皆さんを弱いだなんて言う人がいましたら、雷撃を喰らわせて差し上げますわ」


「そうでしたね。バリスタード様はたいそうお強かった。はっきり言いますけど、私はランク4の冒険者の実力を少し知ってはいます。ですが、バリスタード様のお力はその延長にあるものか不思議なほど別次元でした」


「そうですね。剣も使っていませんでしたし」


「私もあらためて強くなりたいと思わされました」


ジョニーにも、思うところはあるのかもしれない。


あれだけ圧倒的に負けたのだから、それはそうかも。ともすると、ついて来たのも、彼には別の理由があるのかもしれない。


強くなる、そんな理由もあり得そうだ。


勉強の話で言うなら、上達したければより頭のいい人たちと付き合ったほうが良い。


そんなことに似ている。まぁ、もちろん、良すぎると、さっぱり話がついていけないので自分のランクをふまえてだが、少し背伸びするくらいの方が良い時がある。


考え方が全く異なるのである。


おおざっぱに例えるなら、ランク1から5の勉強ランクがあったとしよう。


ランクごとに勉強の仕方は全く変わってくる。


ランク2あたりは、とりあえず机に向かって、闇雲に説明文を読んでみたり、問題を解いてみたりそう言った感じだろうか。


ランク3になれば、コツをつかんでくる。問題を解いて覚えて、間違ったところをチェックしておいて、しばらくたったらと繰り返す。


ランク4などは、それを遊びにして互いにやりあう。問題の出し合い、ひいては、次のテスト問題の予想した仮問題なんてものも作ってしまったり。


ランク5は、次元が違いすぎていてわからない。なんか、いつのまにかできてる。


そう見立てた時に、ランク2にずっといると、つい同じような勉強方法のまま、になってしまう。すると、どうしても伸び悩む。


つまり、ジョニーは、もっと上のランクの人達に触れて、さらなる高みを目指したいんじゃないかな。


そう考えると、セナにとって、ランク3のパーティーに参加させてもらったのはまさに、それに通じている良い機会であった。


「ねぇ、ジョニー、強さって何なんでしょうね」


ふと、そんな言葉がもれた。


それは俺の思考から外れたものだった。セナの思考が混ざっている。


確かに、いろんな強さがあるのかもしれない。


武力的な強さ、政治的な強さ、お金をもっているとか、それとも、人間関係での立ち回りとか。


そして、己の人生をこうと定めて生き抜く強さ。


確かに思う、そんな強さを俺も持っていれば、きっと元の世界でも、全く違う生き方ができていたに違いないだろう。


---


街を一つ越えさらに二つ目の村にたどり着いての昼のこと、少し休めるな、と思ったら、バリスタードたちが騒々しい。


村人たちと何やら話をしている。雰囲気としては、なにか懇願されているようである。


ほどなくして、バリスタードがやってきた。


「セナ様、少しばかりここに滞在します。ワイバーンの群れが確認されており、被害も出ているとのこと、見過ごせません」


「あなたでも時間がかかるのですか?」


休めるなら、別にゆっくりしたいのだが、バリスタードが少しばかりと言ってくるのは気になった。


「はい、さすがに空を飛ぶ相手となると、今ある装備では、時間がかかります」


それは逆に言えば、準備万端なら、余裕ということだろうか。


ちょっと、戦ってみたい気もするし、大人しくしておいた方がいいかもしれないし……セナなら、どうするだろうか。


「私では力不足ですか?」


「そうですね……今ですと、100m程度の対象を素早くねらうことに難儀していらっしゃいます。相手はそら、見上げながら500m先を狙い撃てる力が必要でしょう」


「そうですか、私の力は子供だましなのですね」


「そんなこともありません。杖の力があるとはいえ、ブラッドウルフに風穴を開けたあの威力は、ワイバーンに当てられさえすれば有効です。まだ少し、時期が早かった、ということでしょう」


なんとまぁ、バリスタードも言葉を尽くすことだ。すまないが、別にそんなに励ましてくれなくても大丈夫なんだけど、ははは。


ただ、これでやっぱり確信した。今、セナとしての力で欲しいのは速度と精度、さらにそこに射程が加わる。うーん、すぐにとはいかなさそうではある。


そもそも、セナはまだ若いし、本来は5年、10年かけて一人前へと成長していくのだとすると、むしろ、今でも十分すごいんだよな。


もちろん真理の杖の力のブーストも含まれるが、そうした財産、武器が所持できるというのも一つの力であろう。


「わかりました。私はゆっくり待つことにします」


ワイバーンの群れ、それは冒険者ランクでいえば4以上に相当する。


1体なら、ランク4といえるが、群れとなると。


むしろ、ここにバリスタードがいたことが村人たちにとって奇跡なのである。


放置すれば、どんどん被害が広がるから、ユークララス領を治めるという点では、対処しなければならない存在ではあるから、ここは放置できないし、放置して居場所が分からなくなって次、となるとやっかいな相手であった。


その後、村の小さな宿を使わせてもらって、部屋で1人になる。


ふぅ、やっと一人になれた。


さてさて、部屋の様子をざっと確認したら、水を入れった桶とタオルを持って、扉をあけられても死角になる場所にしゃがみこんで服を脱いで変身を解く。


ふぅー、とりあえず、身体ふいてとちょっとリフレッシュしたい。


結局、まぁセナの裸は服を脱いだりしないと行けなくて見てしまうことになっている。そう、セナの服を着ているから、そのまま戻れないのである。


そのまま戻ると破けてしまうだろうか。それとも、俺の首が閉まるだろうか。まぁ、試してはいないが、もともと変身でできて解いても残っちゃうので、ここは申し訳ないけども、許せ、セナ。


さすがに、セナの姿で体をふく、などと言うことはしていない。


元に戻って、身体を拭いていく。


変身中に汚れたら、その分だけ元の姿に戻っても汚れていてしまうのだ。


なんかこう、身体すっきりリフレッシュみたいな魔法ってないんでしょうかね。


お風呂に入って髪と体を洗ったようなすっきりする魔法、みたいな。


魔法って、主に使ってる範囲だと、そういう概念的に、願いが叶う的なものじゃないんだよね。


水を生成して、変形させて、それを射出してみたいな、生成、変形、射出や一定の自動変化制御みたいなそう言う感じ。


身体をせっせと拭きながら考える。


精霊が見えるような魔導具は、ちょっと願いみたいなのに近い。


これには違いがある。


あれは、まったく別種の、創成魔法とよばれる種類のものを古代の人が刻印して魔導具化したものだ。


今ではほとんど失われている。


セナが昔俺に説明したものにそれが含まれていないのには訳がある。


まず一つ、一般的には知られていない魔法であること。むしろ、知っている者はごく一部であり、めったなことでは他人に見せてはならないとされているからである。


セナ自身には、精霊を見る力はない。しかし、創成魔法を使うことで、奇跡を起こし、精霊を見るということが実は可能であるし、実証済みだ。


なのだが、こうした奇跡の力について、ロハン先生から、厳しく他の人には見せないように、例えそれが親や、親しい恋人ができたとしても、と。


その理由については深く説明をされていない。ロハン先生に会うことができればもしかしたらしることもできるかもしれない。


とは言え、そんな奇跡の魔法も万能ではないというか、そもそも成長させていないのだ。


できるのは精霊を見るだけ。


どうやら、精霊を見たいという願いでもって、媒体魔法を習っている最中にできてしまったらしい。


セナが創成魔法を使えることを知るものはロハン先生くらい……と言いたいが、実はそうでもないがまぁ、それは伏せよう。


つまり、練習していないのでどうもできないっぽい。


というわけで、俺は、それを知って、街にいた時に頑張って宿の部屋で練習してできるようになったのが1つある。


精霊との意思疎通である。せっかく見えるなら、と思ったのだ。


いやさ、詠唱魔法使えたらと思ってたんだよね。うん。そっちを優先してしまっていました。


ふと。トントンとノックされ、


「セナ様」


と、パーブルに呼ばれた。慌てて変身して――


「ごめんなさい、湯網をしているの」


「それは失礼いたしました。お食事ができております」


「ありがとう」


トットットと足音が遠ざかる。


ふぅ……立場上、いきなり扉を開けられることがないので助かっているけれど、はは、心臓に悪いようでいて、ふふふ、いや、このスリルがたまんないね。


いやぁ、きっとビックリするだろうな。実はセナじゃありませんでしたって告げたらさ。


時間をかければかけるほど、そのときのビックリが大きくなるのだ。そう、これは、いわゆるイタズラの反応を最大化するための準備期間なのだ。

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