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第2章 - 01話 天使の翼が分かつとき

迷宮クレスタの奥底で、ゴーレムと魔族の激闘に変化があった。


ゆっくりと、青白く輝く壁面の文様が陰っていく。


人の姿をした白髪の老人が目を細め、指を鳴らすように手を動かすと、背後に準備していた傷だらけの魔族たちが一斉にとびかかった。


膠着状態の間に、自分たちに降りかかっていた、魔族を弱体化する結界を解いたのである。


本来の力を取り戻した魔族たちは、疲れ果て負傷していても、ゴーレム4体を破壊し、翻弄し、相手に攻撃の隙も許さずに攻めはじめる。


この場所には門番たるゴーレムとそして、魔族弱体化の術式魔術がなされていた。


魔術というのは、例外の防御円をのぞいて多くの場合、いきなり飛び地に出現することはない。


術の行使者に隣接する形で放たれる。


例えば、風の切り裂き魔術だとしても、それは術者の身体付近、魔力の流れから放たれる。いきなり、攻撃対象の付近で、切り裂く風が出現するわけではないのだ。


それは効率の問題だ。攻撃対象の近くにいきなり発現できたとしても、効率が悪く、威力が悪く、精度も悪い。だから、基本的に、魔術は術者の魔術的身体に隣接して放たれる。


さて、今回の魔族弱体化はどうかというと強力だった。飛び地ではなしえないほどに。


術式魔術であれば、魔方陣をかけば、簡単で効率が良いのは、魔方陣の中で発動し、終始する奇跡である。


つまり、魔族たちはこの部屋自体が魔方陣だと考えたのである。


そして、それは正しかった。


刻印された術式を破壊してしまえばよかったのである。


魔族達にも、目的があった、だから、闇雲に破壊できたわけでもないが、かなった。


ゴーレムは次々と撃破され、残り一体も無残な姿となり膝をつく。


「福音の門まで、あともう少しです」


開かれてはいけない門まで、もう、残り、あとわずかだった。


---


バリスタードはセナがやっぱり帰る、と言いはじめてからセナをわりと自由にして監視してはいなかった。


さっきの外での出来事もそうだ。


彼がいたら、きっと「バリスタード様ー」と、別のところで人だかりができていたであろうから。


バリスタードは超人であるが、なんでもできるわけではない。騎士や戦士、傭兵としてとびぬけた力を持っていても、監視などの任務は不得手である、というのは彼に変身してみて理解した事である。


今は、セナの部屋で二人で、入れ替わり、通称『天使の翼』作戦について相談中である。


二人っきり、それも俺が変身せずにと言うのは初である。ちょっとドキドキする。よこしまな思いがよぎるくらいには。


天使の翼、などという名前をどうして付けるかって、まぁ、外で会話するときに、暗号めいた表現ができると、よいんじゃないかと言うスパイごっこてきなものだ。


ほら、なんだろう、二人だけでわかる言葉、暗号文、なんてなんかそれっぽくって面白そうじゃないか。


これだけでもワクワクする。


相談していろいろとやらないといけないことや、気を付けないといけないことを詰めていく。


まず、セナ側のことである。


どうしてバリスタードが追いかけられたのか、発見できてしまったのか、ここをそのままにしていてはいられない。


また再発見されて、あれ、セナが二人いる? みたいになっても困る。


服装は、途中で見繕ったものらしく、それが原因ではなさそうだった。だが、また変えなければならないだろう。


服装でないとすると、と言うことで、俺はバリスタードに変身して、どういうふうにセナを探したのかを読み取った。


すると、一番の目印は、大きな杖、真理の杖とよばれるこのセナの愛用品が、目印になってしまっているのがわかった。


まぁ、俺がセナの実家に行くのであれば、いくら変身で一時的に俺は杖を再現できるとしても、実はそれを人には渡せなかったりする。


だから、俺が入れ替わりをするとしても、杖については俺が受け取らざるおえなかったし、その他、服だっていっそそうしたほうがいいんじゃないかとなった。


「パンツも?」などと言うと、「すけべ」と調子よく返してくれたりもした。


髪の色も変えられるのかどうかとセナに尋ねたところ、そういう魔導具があるらしい。魔法店にどうもあったらしい。お金は全然ないけど、手に入れることにする。ん? どうやってって、猫になってだな、あははは。


身体の変身や顔を変えるような魔導具はないらしい、それだけ、変身というのはすごい力なのだそうだ。


そういう点では俺はすごい能力を授かっているのかもしれないな。


いったん、セナは髪の色をかえて、服も変えて宿の別室を、サーラという名前でとった。


セナことサーラが、次の町までいけるかどうかについては問題なさそうだった。乗合の馬車も出ているらしい。


ただ、サーラとしては冒険者登録はしていないので0からのスタートになってしまう。そういう点では信用0である。


その点は、しかたがないと諦める。


サーラとしてこの街で冒険者登録して活躍したとしても、顔の造形、身体つきなのでパーブル達やそのほかの人達にバレかねない。


天使の翼については、俺とセナ二人だけの秘密で行くこととした。


パーブルやそれについていくジョニーには悪いが、秘密は知る者が少ないほど、隠すことができる。


そう、パーブルには本当に悪いけどね。はははは。すまん、ぜんぜん悪いと思ってない。いや、俺って本当にひどい人間だ。


セナにはサーラとして別室で過ごす予定にして、ほどなくしたら、次の街に向かってもらう。


ほどなく、というのは俺にとっての準備期間だ。だからここからは俺の問題だ。


まず、俺はいったんセナとしてこの街で過ごすことを開始する。依頼を受けたりもしてみるつもりだし、パーブルとも会話する。


いきなり、セナの実家にもどって、演技もできませんでした、すぐばれましたとはしたくないので、じょじょに慣らしていきたい、実験と訓練をしたい。


といっても数日だ。そんなに時間はかけられない。なるべく、はやくセナはここを発っておいた方が、もしバレた時に、セナが逃げ切れる可能性があがる。


やることは沢山ある。


というわけで、今、髪色が変わって、髪型を変えたセナことサーラと、俺ことセナがセナの部屋にいる。


変身がどこまでそっくりにできるかは、手鏡を使って事前に確認済みである。


ずいぶんとまぁ、見分けがつかなくなるのでびっくりだ。


二人並ぶと、顔がそっくりなのが今この場でもわかるくらいに。


俺はもう、変身での服ではなく、ちゃんとセナの服を着ている。これから、しばらくは、セナとして生きていくのだ。


「それじゃ、天使の翼、開始しますか!」


「うん」


---


俺はセナ、俺はセナ、いや違う、私はセナ。そう、思って、冒険者ギルドにおもむいて、張り紙を見る。


あれ?


読めるぞ。


うーん、うーん、あれ?


読み書きはできなかったはずなのになんでだろう。


あ、そうか!?


セナに変身してるからか。へー、ほー、はーーー、それはすごいことに気がついた。なるほどね、文字の読み書きとか、魔法でもそうだったけど、そういう技能や知識も、なるほど、変身は一時的に体得できるんだ。それが、当人の100%の力かどうかはさておいて。


いやぁ便利便利、文字なんて久しぶりに読んだな、ふむふむ、ランク1の張り紙はこれとこれと、うわぁすごく読みやすい。


変身してなくてもだいたいわかるようになっていたけど、ここまでの解像度はなかったから、すごくありがたい。


今回は、手始めに、いつもの薬草採取の依頼をやりましょう。


というわけで受付に張り紙をもって行く。


「すいません、これを受けたいんです」


「あ、セナさん、おはようございます。なるほど、わかりました」


と、冒険者ランク2の冒険者証を見せて手続きを済ませる。


ふむふむ。ひとまずは大丈夫らしい。いやぁー緊張する、そしてなんだこのソワソワした、やばいクセになりそう、嘘ついているこの心地よさ。


やばいわー、背徳感じゃないな、なんだろう、まぁいいか。


「では、よろしくお願いしますね」


「はい」


よし、第一関門突破!


そうして、俺じゃない私は、いつもの薬草採取の森へと向かう。


街の風景は猫の時とは異なって、それでも元の姿とはまた違う空気感である。というのも、魔力を感じられることが大きい。


見る景色って、ほんと人によって違うんだなと思う。


そう言えば、元の世界でも、意外に違う景色を見ていた、なんてことはあるらしい。


赤と緑の区別がつかない人もいるよ、と言う話だったり。


もっと簡単に言えば、視力でもそうかな。


ふと、振り返ってみても、誰かがついてきてるということはない。


バリスタードは、本当に諦めたらしいし、また別のと言うのも今のところなさそうだ。


セルディアはかなりの重要人物で、実は失踪しているなどと周辺が知れば、誘拐やらなんやら、画策されかねないほどだったりする。


バリスタードが心配していたように、別勢力が失踪を知って、先んじて、などと言うことは今のところなさそうであるなと思う。たぶん。


とりあえず、向き直って、進んで街の門を出る。


魔力を感じると世界の見え方はまた違う。石にすらうっすらと独特の魔力があり、色が違って見えるし、人や動物であればほんのりオーラが漂うように体から魔力がでている。それも、個々人でほんの少し違っている。


冒険者の登録のときに、水晶に手をかざしたけれど、水晶はそうした魔力に反応する魔導具だったのだろうなと思う。


ふと、手を見てみると、魔力を感じられる。


草原の草にも、あー植物だったらこうだよねと言う魔力が漂っている。


ほとほと歩いて行くと、懐かしい場所に来た。


アスマと出会った場所だ。ん? ちがう、正しいけど違う。セナとあった場所である。


うん、少し混同しているな。


最初は妙な格好をした人が何でこんなところでのんきに寝転がっているんだろうと思ったのだった……うん、もう突っ込むのはやめよう。今の私はセナです。


ふと、上半身を起こしたと思ったら、ジロジロ見てくるものだから、近づいた時に「何よ?」なんて言ったのだったか。


その後、本当に死んだかなと思った。


もう、殺される、あーもうだめだ、そんなふうに思ったんだった。


だって魔族だと思ったんだから。


私の人生はこんな形で終わってしまうんだ、なんて思ったのよ。


あれからいろいろあったなと思う。


優しいところもあるし……あ、うん、ちょっとこっちの思考は止めよう、なんかのぞくのは良くないから、呼吸を整えて、そうそう、セナが俺をどう思っているかは、ちょっと見ないようにしてだな、危ない危ない。


さて、気を取り直して、森に向かいましょうか。


---


私は部屋でまどろんでいた、新しく買った服をきて、これまでと違い、魔法使いだぞ、とは違ってそういう帽子もなく、旅人と言う雰囲気で。


また名前を変えて、今度はサーラとして生きていく。


髪型も、後ろで一つ結んでかえてある。


のだけれど、ここ数日はなるべく部屋で大人しくしておく予定である。食事など、最低限のことだけ。


三日後、何も問題なければ、行商人さんが次の町まで向かう馬車があるので一緒にさせてもらえる予定である。


それまで自由にいられるかと言うと、そうはいかない。


ここで、この姿をあまり目撃されるわけにはいかないのである。


私ことセルディアことセナことサーラ。それがつながるような情報は、なるべく残さないほうがいい、というのがアスマの考えだった。正しいと思う。


髪の色は魔導具で、髪型は少し、服装は変わっているとはいえ、背丈も顔の造形も変えられない。


もし、ふとサーラとセナがばったり出会ってしまったり、顔だちの似た二人を見かけられるというのは良くないとのこと。


それに、私の顔は、ずいぶんと街の人に覚えられているようなので、食事も買い込んで、出歩く必要はもう皆無になっている。


ちょっともどかしい。


それでも、これからの未来に希望が見えた今、心は晴れやかだった。アスマには感謝してもしきれない。


パーブルさんには悪いことをしたなと思う。本当にごめんなさい。


本当はちゃんと伝えておきたいけれど、アスマに絶対にダメだと口止めされてしまった。


二人だけの秘密というのも、悪くわないけれど、さすがにパーブルさんやジョニーさんには申し訳ない思いである。


なんでもは上手くできず、自分を守るには悪い子にならなければいけないのかもしれない。


そっか、そう言うことができていなかったのだろうか。


悪い子になってもいいのかな。


といって、実家を飛び出してなどと言うことをしているのだから、あれだが、それはそれとして別の悪いことまで許容できるかと言うと難しい。


何もすることがなく、そうすると、ついつい考えてしまう。


やっぱり私が本当にちゃんと帰るべきなんじゃないかとか。


うん、でも、きっとその未来に、絶望が待っていることを私は直感していたし、できることなら、やっぱり自由でいたかった。


冒険者の日々は、怖い思いもあったけれど、とても素敵な日々だった。


アスマとの薬草とりやその他の依頼なども今思えば、いい思い出である。


パーブルさんたち、アルミナの盾の人たちとの冒険もとても楽しかった。


いろいろあった。


パーブルさんって、やっぱり私のこと好きなんだろうか?


積極的に誘ってくるから、そんな気はしているけれど、悪い人じゃないけど、うん、違うなーって感じてる。


そもそも、人を好きになるというのがよく分からなかったりするけれど。


そう、だったらば、もしパーブルさんが私を好きで、だったらば、余計に酷いことを私たちはしようとしているのだと思う。


だって、ごめんなさい、って断るわけでもなく、騙して、実家まで着いてこさせて、あげくに、残念、本物の私はもう遠いところです、なんてことになるのだから。


さてはて、アスマは上手くやっているだろうか。


今日初めて、私になりきっての冒険者の依頼である。


もうすでに私の荷物のほとんどは彼に渡してしまっている。お金のほとんどは、私が持っているが、私のこれからに必要なので……


新しい簡素な馴染みのない杖を手に取って杖の先をビリビリとさせてみる。


そっか、あの杖ともお別れなのはかなり寂しい。


ロハン先生から託された、大事な大事な杖だった。


本当に、0からなんだな、と思う。


お金はあるにしても、杖もなにも最初から。


きっと、あの杖に私はずいぶんと助けられていたのではないかと思う。


そう、この杖では、ブラッドウルフを倒したような雷撃は放てない。


お金がたまったら、ちゃんとした杖を買おう。


今度は自分の力で。


次は、パーブルさんみたいな仲間に出会えるだろうか。

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