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第11話 自由をもとめて

俺も参加して、セナ、アルミナの盾も含めた合同パーティーで、依頼を受けることとなった。


もう、今後の方針は固まっていた。


セナは帰る。俺とパーブル、ジョニーはそれに着いていく。シーラとウェルゴーは街に残るという方針である。


バリスタードは今回の依頼は遠目で眺める、と言う予定になっている。


依頼内容は、ナッドウルフの群れが見つかり、その討伐である。


少し離れた森の奥で、見つかったとのことで森の中を歩いている。


言ってしまえば、セナにとってのお別れ会、最後の冒険者としての依頼、といったところだろうか。


俺はオマケみたいなもので、いくつか荷物を持ち歩いているが、そもそも、筋力も体力もない俺には荷が重く、そこまで荷物は持てなかった。


とは言っても、俺も結構成長したものだと思う。


以前は1時間も歩き回っていればへとへとだったが、今は歩き続けることができる。体力じたいはついてきている。


とはいえ、それは元が残念な俺が、ほんの少し成長した、と言うだけの話である。


森の中での散策にも慣れてきたし、今回は役立たずであるだろうけれど、セナにとって最後になるかもしれない冒険のにぎやかしになってやろうではないか!


こちらの世界に着てから思うが、森の中というのは案外いいものである。


木や土の匂い、木々が揺れてのささやかな音、木の葉で軽減されたほど良い日光と、なんでそんなものをこれまで知らなかったのかと改めて認識した。


俺は都会っ子であった。


木登りとかもしたことがない。


釣りもない。


釣竿を振って、魚が釣れるのを待つ、それの一体何が楽しいのだろうか、などと思っていたが、何事も体験してみないと分からないのかもしれないな。


「こっちだ」


ジョニーの案内に従って進んでいく。


ほどなくして、ガルルルとうなり声が聞こえてくる。


かなりの数、いるみたいだ。


「よし、セナちゃんたのむ」


と、パーブルの指示の元、セナの広範囲雷撃が目の前の100m先ほどを中心に大きな円状に雷撃円が走ったと思ったらそれ、さらにカッっと光る。


「見えたらウェルゴー頼む」


と言って、パーブルはじりじりと前に進んでいく。ジョニーは周囲を警戒だ。


俺って変身できないと本当に役立たずだなと思う。


遠距離でもパーブルをしっかり避けて、ウェルゴーが唐突にあらわれた、ナッドウルフを撃墜していく。


ふと、側面から駆けてくる音に、ジョニーが動きつつ、彼が前に出るよりも早く、セナが目視せずに先ほどより小さい雷撃を放つ。


それでも、仕留めきれないのか飛び出てくるそれらに対してジョニーが片づけていきつつ、シーラが防御円を的確に展開して彼の支援をする。


側面はジョニーとシーラが、前方はパーブルとウェルゴーが中心になって対応していきつつ、いったん全体は後方へと下がっていく。


もしかすると挟みこまれるのが嫌だからだろうか、などとなんとなく思う。


そうしていけば、また、ジョニーが警戒し、パーブルが前方という形に戻っていく。


そんなさなか、


「なんかヤバイ匂いがするぜ!」


とジョニーが叫ぶ。


すると、何かに追い立てられるかのように、一斉にナッドウルフがこちらに駆けて来る。


ウェルゴーの迎撃もパーブルの対応もすり抜け、ジョニーが対応するも、そんなのを無視して駆けて来る。


なんだ!?


急接近する群れにのまれてはたまらないと、シーラが後衛のために結界の魔法を発動させる。


ナッドウルフ達はそんな結界を、というか俺達を無視してさらに、後方へと全力でかけていく。


「ナッドウルフは何かから逃げてるみたいです、大物、来ますよ!」


と言ったのは、ウェルゴーだ。


ナッドウルフの群れの波がほんの少し途切れたころ、それは現れた。


5mの高さのありそうな黒いめらめらな炎のような妖気をまとった巨大な四つ足の獣だ!


その突進をシーラの防御円と、ウェルゴーの樹木のツタで防ぎつつ、パーブルとジョニーはそれをかいくぐって敵の足を中心に狙って攻撃をしつつ、相手の爪を武器で受け流しての激しい攻防がはじまる。


「セナさんも援護攻撃を、ゆっくりでいいです、最悪、シーラが防御円で誤射はカバーできます」


と、ウェルゴーの指示で、セナは杖を構えなおした。


さらに、ウェルゴーは、太いツタでの拘束を狙い、黒い魔物の動きを縛っていく。


グルォオォォオオオ!と言う雄たけびを耳にしながら、俺は見て祈ることしかできない。


ひぇ、この黒いの、倒せる敵ですよね、いざというときは、後ろできっと見ているバリスタードがなんとかしてくれるよね!?


攻防のさなか、セナが叫ぶ。


「撃ちます!」


それに合わせて、パーブルとジョニーが敵から距離をとった。


次の瞬間、セナの収束した雷撃ビームがゴワッっと黒い魔物に風穴を開けて貫いていく。


それによって、どっと黒い魔物は血を吹き出すも、まだ動こうとするが、ウェルゴーのツタと、これまでさんざん足を刻んだことで身動きが取れない。


「もう一発、撃ちます!」


セナの二度目の雷撃が、さらに魔物に風穴を開け、そして、動かなくなった。


さっきまでの喧騒から、一気に静かになった。


黒い魔物が動かないことを確認し、しばらくして、


「よし、どうする、こりゃ持ち帰れないし、本命がまだだぞ」


というのは、ジョニーだ。


「首だけとるしかないかな。にしても、ブラッドウルフとは、また脅威度の高い魔物がでたもんだ」


「そうですね。というよりも、ナッドウルフの数だって、依頼で明示された数の10倍はいましたよ」


そんな話をしつつ、シーラが傷ついたパーブルとジョニーを魔法で癒しながら、ジョニーは周囲を警戒しているようだった。


「ナッドウルフの群れの原因は倒したし、ちょっとあの群れの数を討伐するには人数が足りない。今回はいったん引き上げよう」


こうして、ブラッドウルフの頭をジョニーが切り取り、俺がそれを持って帰る役となった。


重い。ひえぇ、頭部だけでこの大きさと重さですか。


人間一人を担いでる以上に重そうだ。


「それにしても、セナさんの魔法は威力面は一級品ですね」


と言うのは、ウェルゴーである。


「そうだぜ、やっぱセナちゃんは天才だ!」


と、パーブルは調子がいい。


こうして、このメンバーでの、最後かもしれない冒険は幕を閉じたのである。


---


夢を見た。


なんで夢だってすぐわかるのか不思議だった。


だって、現実の、いや、元の世界で高校生の時のような感じで授業を受けていた。


周囲の生徒の顔はまばらで、高校時代の仲の良かった連中だったり、大学時代のだったりしてちぐはぐで、教壇に立っている先生はゼミの教授じゃないか。


なんとも辺鄙なその空間に、俺は一番後ろの窓側の席で、教材もノートも出さずに見渡しているのである。それも異常だった。


なんだそれ?


いやいや、ノート出さずに授業受けてるとか、ほんと、現実感がない。


まぁ、確信はしていたよ。もう異世界転移をしたのだろうって。


俺はきっと刺されて死んで、なんか不思議なことが起って、現在の、セナのいる、世界に来て、変身能力なんて持って、冒険者の仕事をしたり、猫になって街をさ迷ったりしているのが現実だと。


ふと、


この頃って、死にたかったんだよな。


今と違って。


別に、友達が嫌いだったとか、いじめられてたとか、楽しく話せなかったとかそう言うことではなかった。


こういうふうに生きても結局は幸せになれないよな、なんて言う絶望感にさいなまれて、それでも、何が悪いのかわからなくて、ただ、しっかりしよう、そうしていたんだった。


ほんの少しの抵抗なのか、俺はWeb小説を書いていた。


ほどほど、読んでもらえていたと思う。ただ、人数はさして問題でもなかった。


驚いてくれた人、いや、こんな展開はちょっとないよ、酷いよ、裏切られた、そう、そう言った反応、とくに、裏切ってやったぜと、上手くはまったときはなんだか心地よかったのだ。


ずっとそんな裏切りばかりしていると読んでくれないので、俺は早いうちに、案外面白そうかも、と思わせることを覚えた。


そう、なんか最初のほうは、のめりこむようについ読んでしまうようにして、その流れでドーンと最後、え、何でこんな展開なんだ、みたいな絶望を味わってもらったり、ときにハッピーにしたり、そういう感じ。


裏切るばかりだと、こういう作者だからダメだぞ、なんてなるから、何シリーズかは、そつなく終わらせたりした。それは、俺が裏切る、イタズラをするための、結局は大きな釣り針なのだけども。


そ、今思えば、つまり俺はそこで、俺にとって大事な、イタズラをして楽しむということを、自由にやれていたのかもしれない。


だから、釣りを実際にやったことは無いし、楽しいかどうかわからない。


でも、罠にかけてやった、みたいなのを人間に対してやっているのが俺なのだろうとしたら、案外、俺も釣りは好きなのかもしれない。


こっちに来て、そう、しっかりしなくてよくなって、他人に振り回されるより、猫になってちょっと悪ふざけで盗み聞きしたり、セナにちょっとイタズラしてみたり、そう、楽しかった。


そして、生きててもいいなと思えていた。


それは生きるのに必死だったからだろうか。


ちょっと、違う気がする。


最初はひもじかった。今でもパンを買うと1日1食になってしまうわけだが、猫になれれば小さな肉の塊で満足できる。


そうして少しずつ満足できるようになって、変身の試行錯誤も面白くて、別に誰かの目も気にせず、まぁ、死んだら死んだ時だとなかば自暴自棄ながら、そう、肩の力を抜いて生きていて、うん、楽しい。


自由だからなのかな。なんだろうね。


勉強はさ、できないこともなかったんだ。やればできたし、家での勉強も、塾も、別にできたよ。しんどかったけど、できた。


それできっと親は喜んでくれるんだろうなと思って、まぁ、それなりに喜んでくれるわけだ。しっかりやれてえらいだの、父さんにとっての誇りだの、なんだの。


でも、そうだな、イタズラをしたときは本当に怒られて、あ、こりゃダメだ、みたいになって、そう、しなくなったんだよな。


それはまた、友達同士でもそうだったかもしれない。


上手く生きよう、なんて思ってた。


でもそれは、間違いだったのかもしれない。


なぜなら、あの時は死にたくて、いま、死にたいなんて考えていないのだから。


ふと、目が覚めると、あれ?


サイズ感がおかしい。超絶巨大な異次元の大きさの馬が……って、あぁ、そうだ、実験してたんだ、猫になって寝てみるって。


「ニャーン」


うん、そうだよな。俺は今猫だった。


あれ?


変身とけてないのか。ふむふむ、寝てても維持ができることもある、だな。サンプル数1、まだ安定してできる、というわけではないかも。


この辺は何がどうなって、どう影響してとか、さっぱりノートの記録もとれない感覚的なものだから、すごく難しい。そもそもノートがないけれど。


ここでは紙やペンは高いから、いちいち買ってられないし。


ふぅ、そしてふと思う。


俺が不幸せだったように、セナにとっては、また、不幸せな場所に帰ることになってしまうんじゃないかと。


俺にとっては、今よりいい暮らしができそうというなら、それで十分な気がするが、ふと、別にしっかりしなくてもいいんじゃないかと夢を見ていた時に思ったんだった。


そっか、しっかりしようとしすぎていたんだ。


義務感?


であるならば、なんだろうな、セナってどう思っているんだろう。セナにとって、実家に帰るということはどうなんだろう。


義務感で行動することは、きっと良くないんじゃないだろうか。


そうそう、義務感じゃなくてほんとに無心で勉強ができてしまう、え、それ楽しいでしょとか、集中が自然とできてしまう人間もいる。


また、結果に楽しみを見出せている人もいるらしい。


でもそうじゃないんだとしたら。セナにとって、元の生活に、何ら彩がない空虚なものなのだとしたら、それは間違いなんだろうなと思う。


だからと言って、俺ができることなんて……


話を聞くくらいしかできそうにない。


あのバリスタードを振り切って、二人で逃亡なんて、きっと無理だ。


ふと、猫の姿のままうーんとストレッチをして、置いておいた食事をむしゃむしゃと食べ始める。うむ、肉美味し。


ちょっと、セナのところにでも行ってみるかと、俺は向かう。


今日は別に約束もしていない。そう、あれで冒険者は最後のつもりだったんじゃないかと思う。


さて、どこにいるだろうか。


---


街のちょっと高いところで、街全部がではないが、見晴らしの良いそんな場所。猫ならもっといい場所もあるが、そんなところにセナがいた。


それは青く、ところどころの木々の音や小鳥のさえずりが聞こえてくる。


パタパタパタと、鳥の羽ばたく音が聞こえた。ふと見上げれば、自由に飛んでいる黒い鳥がいた。カラスか? 今の俺にとっては敵である。


まぁ、それはそうと、物陰で変身を解く。


こうした事は危ないのかもしれないけれど、慣れておかないとその方が危険などというのは、科学の実験でもあったかな。そう、実験だ。


特に何も言うわけでもなく、セナの横までやって来た。


「ねぇ、なんで着いてきてくれるの?」


俺を見るでもなく、わかったんだろうな、セナはそんなことを言う。


「俺としては、貴族としての生活が、そしてなにより、ドレスに身を包んだセナが見たいからかな」


「そうなんだ……あんまりいいもんじゃないよ」


と、寂しそうに言う。


「セナってさ、人に迷惑はかけちゃいけない、なんて考えてる?」


「それはそうでしょ」


「真面目すぎるんじゃないか」


俺も、まじめだった。


「全部、不真面目がいいっていうわけじゃないけど、でも、全部まじめにやったらさ、何も楽しくないじゃん」


「そうね」


「それが窮屈で、しんどくて、飛び出したんじゃなかったのか」


「そうよ」


「じゃあ、やっぱり帰りたくはないんだよな」


「うん、帰りたくない。けど、しかたないじゃない」


ふと、見あげている青空のどこにも、羽ばたく鳥が見あたらない。


セナがこちらに振り向いて言う。


「それとも、アスマが、私を遠くへ連れて行ってくれるの?」


その表情は、悲しそうで、諦めたようで、つまり、そんなことできないでしょ、とでも言わんかのようであった。


それはそうだ、俺にそんな力は無いよ。変身しか取り柄のない、それも、知られたら魔族だなんて思われる危なっかしいものだ。


むしろ、俺といるのはセナの方が危険かもしれない。


「悪いけど無理だな。俺は、セナを守って生きていくような力もないし、1人でだって生きていく力もあるかどうか怪しいし」


とくに残念そうな表情にもならず、またセナは街の方を見た。


「そうよね、アスマって変身以外は何もできないもの」


読み書きができれば、また、違う仕事もつけそうだが、まだまだ文字は難しそうだった。


「ね、アスマってどれくらい変身し続けていられるの?」


「不明、今朝は変身したまま寝てたんだけど維持できてた、継続最大時間は一日とほんの少しが確認されている」


「最初と大違いね」


「そうだな、最初は、ほんのすぐに解けちゃってたし」


「他人に迷惑ももし迷惑をかけてもいい、そうアスマが言うのなら……アスマ、私の身代わりになってくれない?」


身代わりか。俺に、セナ、いやセルディアをやれ、と言うのか。


それも、大勢の人をだますようでなんだか楽しそうではある。


ふむ、だが、少し問題がありそうだが……


「できるとして、問題は、この街に残ったシーラさんがセナを見かけたら怪しく思うことかな」


「いいの?」


「まずは問題点を考えているだけだ」


「そ……それなら、私は次の南側の街を目指すわ」


「なるほど……」


どうする?


どうしようか?


俺にとっては、どうなんだろう。


俺がセナを助けるのは義務感だろうか。


少し違うか、うん、最初に手を引いてくれた、感謝への恩返し、そんな気もする。


でも、それだけじゃない。


なんだかそれって、とっても、すごく、人をだますだなんて悪いことをしているような、イタズラではないか。


俺が大好きな、好きで好きでたまらない、そんな、イタズラじゃないだろうか。


「ずっとってわけじゃなくてもいいか?」


「どういうこと?」


「俺が飽きたらやめる。だから、俺としては一生じゃない。途中で投げ出すというか、じゃじゃーん、実はセナではありませんでしたーってやってもいい?」


「正体をばらすってこと?」


「そう」


「うーん、じゃあ、私はそれまでに、うーんと遠くにいって、もうセナって分からないようにしてないといけないわね」


心地よいそよ風が俺をなでると、ふと、セナの匂いがとんできた。


「本気で皆をだまそう」


「うん、でも、いいの?」


「俺が好きなことって何だと思う?」


「うーん、なんだろう」


じろじろとセナに見つめられる。なんとも可愛い女の子にそうされるのはいい気分だ。


「ごめん、わからない。私って、アスマのことそんなに知らないのね」


「いいよ。今の質問も好きなことの一つだから」


「どういうこと」


「イジワルとか、イタズラとか、そう言うのが、俺の好きなこと」


「あー、なるほど」


セナは納得したように言う。


「もしかして、私にさ、変身したのを見せて、胸をこうやろうとしてたのって」


「そう、イタズラ」


「ふーん、ひどい人だね」


「あぁ、俺はいい人じゃないよ」


「そうかな。私にとっては優しいいい人だよ」


「たまたまだ」


そうして、壮大な替え玉作戦の計画を練るため、二人でセナの部屋へと向かった。


内緒話をするには、ここはちょっと、広すぎる。

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