第10話 必ずしも、自分の過ちを自分が対処できるというわけではない
数日後、
セナが話をしたいことがあると、俺、バリスタード、アルミナの盾の一同を、街から少し離れた岩場に集めた。
バリスタードはまっすぐ立っている。俺は岩に座ったりと、各自思い思いに円状になる。
「バリスタードお願いがあります」
「なんでしょう」
「私は帰りますから、どうかアルミナの盾の皆さんが家の配下、家臣にするという件、無しにしてはいただけませんか」
「なるほど……」
それに割り込んだのはパーブルだ。
「まってくれ、これは俺達が勝手にやったことだ、かえってセナちゃんが帰る理由になるんじゃ笑えない冗談だ、俺はそんな話はのめない」
「と、パーブル殿は言っているぞ」
「ですけど!」
そこで、少し俺は話を割って入る。
「ま、ちょっと落ち着け。そもそも、バリスタードは申し出を受けるつもりがあるのか。また、そのうえでパーブルは反対だとしても、たのアルミナの盾のみんなの意見はどうなのか、順に確認をとっていかないか」
「そうだな」
勢い任せだったパーブルも少し落ち着いたようである。
「じゃあ、まずバリスタード、あんたとしてはどうなんだ」
「ふむ、アルミナの盾の皆を傘下におさめない代わりに、セナ様が帰るという条件は了承できる」
「なるほど、そもそもこの条件を飲む飲まないに関して、パーブル達の要求をバリスタード、セナは考えずに強行することはできると思うが、バリスタードはどうだ?」
「あぁ、できるし、それで済むなら簡単だ」
「セナは強行するつもりで皆を集めたんだよな」
「はい、もちろんです」
「じゃぁ、そのうえでバリスタード、セナが帰るとしてもアルミナの盾の連中が着いていきたいと言ったらどうする」
「ふむ……そうだな、決闘ではいい連携だった。良い人材だと考えている。それについては了承する」
「ということで、こんどはパーブル、まずセナは強行するつもりだが、セナが帰ることになっても、着いていくか」
「そうだな……俺はついて行きたい。皆には悪いが、俺は本気だし、そもそもこれは俺達が勝ってに言い出したことだ。他人に尻拭いされてるんじゃ笑えない」
「じゃぁ、ジョニーあんたはどうだ?」
「俺は、パーブルに着いていくぜ。相棒だからな。だが、皆がそうしなきゃいけないとも思わないし、それに、セナが代わりにと言うのは俺も反対だ。俺達が決めたことだからな」
「では、シーラさんは?」
「うーん、私はこの街から離れるのはちょっとね、考えたいっていったらズルかもしれないけど。ただ、セナちゃんが代わりにみたいなのは私としても嫌よ」
「ウェルゴーは?」
「ふむ、契約期間によるかな。かなり勢い任せで、そこを決めていないからな。配下というのが十年程度ならかまわないと即答できる。人生経験の長い私から言わせてもらえば、セナが代わりにどうこう、というのは筋が通るものではないと考えている」
「筋が通らない、という件はアルミナの盾の皆は同意見みたいだが、それについては、バリスタードはどう考えてるんだ?」
「ま、半分は当然、半分はこういうことはややあるものだ。必ずしも自分の過ち、損失を、自分自身で補填できるわけではないとき、代役がたてられることはある。ただ、誤解して欲しくはないが、私にこの状況を予見し、導くような力もなければ、このような形をとるつもりはなかった」
「そうかい。それじゃ、セナ、筋が通らないと皆言ってるがどうだ?」
「それこそ、今回の大元は私なんだから、それなら決闘すること自体が間違いよ」
「なるほど、それも正しいだろうな。ではまず、取り決め漏れから埋めていこう。バリスタード、配下になるのは何年を想定していたんだ」
「うむ、人間として一生ほどと考えていた、三十年としよう」
「よし、状況を整理すると。まず、そもそも、筋違いの決闘だった。そして、セナもバリスタードももう、セナが帰る路線で強行するつもりという話だ。パーブル、あんたが勝手にはじめてどうにかしようとしたわけだが、セナも今回、それと変わらないってことだよ。だから、これはお互い様みたいなもんじゃないか」
「そうは言うけどな!」
「じゃあここで少し視点を変えよう。バリスタード、どのみちセナを実家に帰す方向で別の動きがあったりするんじゃないのか?」
「察しがいいな。ある」
「その内容についてはここで言えるか?」
「いや、口外できるものではない」
「となると、むしろ、これってセナの条件をバリスタードに飲んでもらったほうが、アルミナの盾の人達でも配下に着きたくない人は、いったん辞めることができるし、自主的に着いていくということだったら、三十年縛りはバリスタード、なしにはできないか?」
「その場合はそうしよう」
「ひとまず、俺が整理したかったのはここまでだ。あとは、各自で発言してくれ」
ふぅー、とりあえず、状況は整理したつもりだ。最悪、パーブルが着いていくとしても三十年などの縛りがないなら、いつでも辞められる。そこまで話は持っていけた。
いやいや、まったく、なんでこんなに頭使ってんだろうな俺。
その後、いろいろと話し合いはしたが、今以上に話は進むことはなさそうである。
セナとしては責任を感じているんだと思う。
それは、それだけセナにとってアルミナの盾の人達への思いがある、ということだろうと思う。
ふと、パーブルから俺に質問が飛んできた。
「ところで、アスマよ、おまえさんはどうするんだ?」
「そうだな、俺はセナが実家に戻るなら、バリスタードから、仕事紹介してくれるって話もらってるからそれに乗るつもりだ」
セナを見ていると難しいものだなと思う。
切り捨てたい、捨て去りたいと思っているものほど、ついてくる。
むしろ、手に入れたいものの方がどんどんと遠ざかるのに。
パーブルとしては、かえって自分たちの行動でセナを縛ってしまったようで後悔しているみたいだった。
しばらくして話し合いは解散した。
俺はバリスタードに呼び止められて残った。
めずらしいな、セナをずっと見張っておきたいはずのバリスタードが俺にいったい何の用があるというのだろう?
二人だけになったころ。
「アスマ殿、さっきセナ様を連れ帰す別の手段と言う話をしていたが、君はどこまで知っているのだ?」
「俺は何も。ああいったほうが、話が進むだろ?」
「……そう言うことにしておこう」
そう言うと、バリスタードはゆっくりと街へと向かっていった。
わりとテキトウに言ったことだったんだけど、もしかして俺、知っちゃいけないこと知ってる感じになってる?
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朝の日課、変身の練習と実験に変化があった。
セナに変身すると、俺の知らない記憶が浮かんでくるのだ。
魔法を教えてくれたロハン先生は、家を出るとき、杖を返そうとしたのであるが、持っていけ、そう言ってくれたのだった。
他にも、父バルトや母テレシアのこと、そして嫌いな嫁ぎ先の貴族マズール・ウォズニッグ。
太った二十数歳のマズールは、権力を使って威張り散らしている。隣国デファード国でも辺境伯としても有力なウォズニッグの一人息子で次期党首が確定している。
次期党首というのも、もともと一人っ子だったわけではない。兄や弟もいたが次々と変死している、黒い噂があるとのことである。
そんな記憶がおぼろげながら浮かんできた。
今度は冒険者ギルドの受付さんに変身してみる。
名前はふむふむ、ラティーナと言うのか。おぉ、変身して名前がゲットできるなんてなんかいいな。
あ、でもラティーナさん、彼氏さんいらっしゃるわ。
他にもいろいろな人で試す。なんだか、人のいけない記憶がのぞけるようでなんとも優越感を感じさせられる。
むむ、ということは……と考えて俺はバリスタードに変身してみる。
ふむふむ、なるほど、彼の目線ではわりとセナの父バルトは子供思いのようで悩んでいるようだ。とは言え、そうした姿を娘に見せるわけにもいかなかったのかもしれない。
もしセナが帰らなければ、このウェンプトン国とデファード国でどうやら戦争になりかねない、というか、それをおさえる楔、というのが今回のセナの政略結婚の理由で、父バルトでも、別の判断がしにくいものであるらしい。
さて、そのうえできな臭い話が頭に浮かんだが……あー、そういうことか。
セナを返すというもう別の手段、それは言えるはずもないし、そしてそれの口外は、また別の問題を含む。
バリスタード、彼は隣国サンフラン聖王国のスパイである。
その裏のルートを使った……まぁ、うん、忘れよう。覚えているとたぶん、この件は殺されかねない。
そうだ、俺は何もしらない、見てない、のぞいて無い、そう言うことにしておこう。
変身を解いて、深呼吸をする。
まったく、庶民が知らなくていい闇を垣間見てしまった。危ない危ない。
この変身能力、ほんとうにその相手に成り代われるくらいの能力なのかもしれない。
後は演技力、超えの口調さえマネできれば、うん、今度そっち方面を頑張って真似してみようか。
人生、何が必要になるか分からないし、俺にとって頼れるのはこの力だけだからな。
さぁて、気分を切り替えて今日は冒険者の依頼は一休み。
試したかった、変身持続時間のテストを行う予定だ。さぁ、猫になって街を散策だ!
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3日、セナには顔を出さないと告げているのでそれは大丈夫。
おれは、黒猫に変身して馬小屋からおもむろに抜け出す。
ふぅ、いいねぇ、太陽は明るく暖かく、これから活気づくであろう街から、肉を焼くいい匂いが漂ってくる。
あぁー鶏肉の香り、よき。
「ニャーン」
今日1日、可能ならぶっ続けで3日ほど、変身し続けられるのか、また、寝ているときは?ここら辺を知りたい。
街を歩いていると、なんとも良い光景が目に入ってくる。
女性の短いスカートの下がのぞけるのである。猫得猫得と思いつつ、ただ、妙だ。うん、ぜんぜん興奮しない。
何だろう、人間のはいてる布切れ、そんな感じ。
え? なんでだろう?
ふと、若い女性、人間としては美人の、を見ても、ときめかないのである。お?
なんだろう、こう、お近づきになりたいとか、男の欲求と言うのが本来あるというか、いつもならあるじゃないか。あれ?
ふむふむ……
歩き続け、人間を観察することしばらく。
そして、歩き続け、猫を観察することしばらく。
やばい、この白いメス猫、めっちゃ美人だ!
うわ!
いい!
何だこの感情!?
俺、オス猫になってる!
ふえぇ……これはこれで危険だな。おちつけ俺、俺は心は人間だ、心は人間、そうだろう?
と、人間の女性を見る。
うん、そう人間の女性の方が、方が……うーん、ダメみたいだ。
もしかしたら、訓練しだいかもしれないが、変身する対象に心も引っ張られやすくなってるのかも。
それだけ強い変身と言うことだろうか。
そのうち、猫になると、猫並みの知能になってしまって戻れなくなるとかなるとヤバイな……
この心の制御ができてないとかなり危険な場合がありそうだ。
おぉ、早めに気づけて良かった。
ちょっと落ち着くために高いところに登る。ふぅ、いいねーこいう景色って、この思考がもう猫じゃないか!
その日1日、俺は猫として過ごし、そして眠った。
起きると元に戻っていた。
どうやら眠ると解除されてしまうらしい。
これも訓練でどうにかできるものなのかはわからない。
馬小屋で起きた朝、変身実験と訓練の後に、また、今日も一日猫として生きてみようと思う。
ふと思ったんだ。猫として生きるのもわりとありなんじゃないかな、と。




