第09話 人生を賭けた決闘
管楽器を中心としたファンファーレと会場の歓声のなか、私は会場をながめていた。
まだ、両者ともに出てきていない。これから、風の魔法を利用した音声拡散を使った司会者がルールを説明するようだ。
この希望に、すがっていいのか、ずっと悩んでいた。
これは私の問題なのである。だから、パーブル達がどうこうしようなんて、しかも、負ければバリスタード、いや私の実家の配下、兵士にされてしまうというのである。
アルミナの盾のメンバーにとっては一生を賭けた戦いである。
そう、4人もの人生の、
たった1人、私の人生のために……
甘えていいのだろうか、そう悩んでいた。
でも、どうやら、彼らは私をほおってはおけないらしいのだ。それはそれで、ありがたいことである。
それに、私はウェルゴーさんは分からないけど他3人の実力をずっと身体で感じてきた。
彼らのおかげで、私は成長できたし、そのうえで、彼らは私よりまだまだ先にいる存在である。
冒険中の判断は油断なく的確で素早く、人が絡むとパーブルさんがやや暴走するところがあるが、ジョニーさんがとりなしつつと、本当に素晴らしい人達だ。
彼らなら勝ってくれるのではないか、そんなふうに思う。
私は、バリスタードの実力をほとんど知らない。信頼されているということだけだ。
剣の稽古はさせてもらえなかったし、バリスタードが戦っている姿は見たことがないのだ。
それもそうだ、私は籠の中の鳥だったのだから。
バリスタードの実力は分からない、けれど、アルミナの盾のみんなには勝って欲しい。
あわよくば、私は自由になりたいし、その希望は、今、この瞬間は、アルミナの盾がそうなのだ。
「それでは、ルールをご説明します。制限時間は3時間、引き分けはありますが、意識が倒れている方が多い側の負けとします。武器防具に基本的に制限はありません。また、止めを刺すことは禁止、行った場合、反則負けとなります。ただし、偶発的なもの、お互い全力を出した結果しかたがない場合、冒険者ギルド側の立ち合い人が審査を行います」
ふと、ルール説明が刻々と告げられていく。
死ぬことはないのかもしれない。だが、負ければ、一生を束縛されるというなら、それは死に等しいのではないだろうか。
いや、ともすると、死よりも残酷かもしれない。
ふとアスマの顔を見ると、彼は周囲の観客と違って難しい顔をしている。
楽しんでいるというより、どういったらいいのだろう、真剣、とでもいうのか、まじめな、といういつもと違った表情だった。
私もそうだ。だから、もしかすると、似たような気持ちなのだとすると、少し嬉しい。
「さらに、追加でルールがあります。今回、バリスタードさんは2振りの剣、この武器の使用を禁止とします。これは、冒険者ギルド側からの提案で、お互い受理されております」
その内容に私は驚愕する。
武器、つまり、剣を使わないというのか。
冒険者ギルド側からということは、ランク5とは、そこまでの実力で、例えパーティー相手でも、ハンデがなければ試合が成立しないくらいのものと言うことなのだろうか。
これは、どうとらえていいか分からなかった。
アルミナの盾が勝ちやすくなったのか、それとも……途方もない存在に彼らは戦いを挑んでしまったのか……
「それでは、まずはアルミナの盾の皆さんお越しください!」
ほんのり輝いていた希望が、しぼんでいくのを感じる。
「リーダーにして騎士、前衛をつとめるのは、パーブル!」
この戦い、止めないといけなかったのではないだろうか。
「獣人族のスピード戦士、ジョニー!」
やっぱりダメなんじゃないだろうか。自分の人生のために他人の人生を賭けるだなんて……
「風と樹木操作を得意とするエルフの魔術師ウェルゴー!」
怖い。私のせいで、彼らの人生が牢獄に閉じ込められる、そんなことを予感して……
「癒しと結界の魔法を得意とする、紅一点のシーラ!」
アルミナの盾の皆は真剣な表情であった。まるで、大型の魔獣でも狩るような、そんな配置で。
本当に、本当に、今からでも止めたほうがいいんじゃないだろうか。
でも、きっと止まるはずもない。
舞台は街と言う大きな祭りとなってしまっている。
私一人が声を上げたところで、もう変わりようがないところまで来てしまった。
「そして、反対側からバリスタードさん、お越しください!」
現れたのは、武器を持たない、徒手空拳の、鎧は薄めの軽装で旅のしやすいそんなよそおいでありながら、堂々と、バリスタードは進んでいく。
その姿に、観衆は声をあげた。
観客の多くは、街の冒険者ということでアルミナの盾を応援している。バリスタードにとってはアウェイ、声援ではなく、どちらかというと、そのあまりの、武器のない軽装にどよめきが走っているのだ。
こんなので勝負になるのかと。
そう、普通は思うだろう。私だってそうだ。
「では、スリーカウント後に決闘を開始します、お互いよろしいですね」
双方がうなずきあう。
始まってしまう。
司会者のカウントダウンに観客の声も混ざり――そして
「はじめっ!」
---
試合開始の合図にあわせて、ウェルゴーがすぐに動いた。
無数の風の刃がバリスタードへと襲い掛かる。たった一人に対して、それはあまりにも多い、集団の魔物を一層せんがごとく放たれた魔法は、会場の空気をぐわりと揺らし、ズバンと大きな音を響かせる。
そんな猛襲を、素早いステップや跳躍でバリスタードが避けていく。一瞬にして風の刃の全てを把握して対応していっているのだ。
さらに、パーブルとジョニーが並んで接近する。
パーブルの振りかぶった最初の一撃は、最小限に避けられ、続けざまのジョニーの短剣二刀流は急接され投げ飛ばされ、そこの先のパーブルにジョニーはぶつけられる。
私はこの時点で混乱していた。
ウェルゴーの開幕の一撃はあまりにも的確だったはずだ。
今の私の使える風魔法の斬撃を、数段階鋭くしたうえで、広範囲にばらまいた。その魔法発動は私の雷撃の範囲攻撃よりもさらに速かった。
ともすると、ゴブリンなどは見えている範囲であればこれで一網打尽で戦闘が終了してもおかしくない殲滅力であったはずだ。
それが、避けられてしまった。
かすり傷一つなく。
つづくパーブルの攻撃だって十分な速さだ。ジョニーほどではないにしろ、その一撃で素早く動き回るやっかいな魔物を何体も倒してきたことを見てきた。
そんな一振りは、ちょっと位置を変えればどうとでもないとばかりに避けられた。
そんな対応をしていながらの、スキマのないはずのジョニーの続いた連撃をあっさり阻止して、そのまま投げ技にもっていってしまった。
次の瞬間には投げた先に植物のツタのクッションが作られて、二人は体勢を立て直そうとするが、バリスタードは軽く意識をウェルゴーに向けたかと思うと、次の瞬間、ウェルゴーとシーラの周囲にシーラが結界を張り、二人に風の豪風が吹き荒れた。
とっさの判断で結界をはったシーラも見事であるが、騎士でありながら、卓越した身体能力がありながら、これほどまでの豪風の魔法を使えるというのが予想外である。
媒体魔法か、術式魔法かは分からないが、たとえ術式魔法で魔力を込めればよいだけだとしても、そう簡単にすぐに込められる魔力ではない。
そんなさなか、樹木のツタが次々とバリスタードを襲うが、かわす。そのツタとパーブルとジョニーの三者による攻撃を、バリスタードはさばきながらも、パーブルに、ジョニーに、格闘の手や足技の一撃が少しずつ入っていくのが見える。
そのツタとの連携だって尋常な技ではないはずだった。
ウェルゴーの魔法であるだろうが、遠距離から、死角もありながらも的確に追撃をリズムを崩しながら行っているのである。
距離が遠いと、魔法の着地場所を制御するのは難しいはずだ。それを繊細でいて素早く、ドドドンドンとこなしているそれが、まったく効果がない。
私だったら、遠隔への精密な雷撃は集中する時間があっても成功するかどうかわからない。
次元の違う戦いが繰り広げられつつ、さらにその上の次元にバリスタードがいる。
発生していたツタが全て、突如、燃え盛りはじめ、バリスタードを閉じ込めんとツタが周囲を囲いはじめる。
パーブルとジョニーは離脱、さらに、その上からバリスタードを中心と思われる結界が張られた。炎の灼熱釜だろうか。
さすがにこれはバリスタードでもつらいのでは――
しかし、ガキンと何かが割れる音が聞こえたかと思ったら、結界が消える。
まだ、ツタは燃えている。
パーブルも立っているが周囲を見回している。
ジョニーも同様――
ちらっと、シーラを見た瞬間、彼女にバリスタードが拳で腹に一撃を喰らわせていた。
あっというまに、二枚の結界を破って急接近したのだろうか。
シーラの結界はそう簡単に壊せるものではないはずだった。
パーブルが大振りで5回切り付けてやっと壊れるほど強力である。それが、二枚抜きされた?
ガッっと次にはウェルゴーが背後から手刀で首に一撃をもらってノックダウン。
あっというまに後衛二人が倒されてしまった。
パーブルとジョニーがバリスタードをとらえそれぞれ別方向から回り込んで走り抜けようとするその瞬間、ドガッ!とジョニーの腹にバリスタードの拳がのめりこんでいた。
速さの次元が違う!
パーブルが叫びながら切りかかるも、剣の腹を手で払われて剣は飛んでいき、続けざまの左足蹴りが頭部にヒットし、パーブルも撃沈する。
あっというまに、勝敗がついてしまった。
こうして私のささやかな希望は打ち砕かれた。
もちろん、私が断固拒否すれば、まだ家に帰るということにはならないが、それでも。アルミナの盾の人達の人生を大きく歪めてしまったことが、決まってしまった。
そう、私なんかのために……
「これは文句のつけようがありません、勝者はバリスタード!やはり、冒険者ランク5の実力は伊達ではなかったー!」
司会者の声や観衆のざわめきもぼやけて聞こえてくる。
私がやっていた冒険なんて、ほんの、おままごとに過ぎなかったのだ……
---
あくる日。
「「きゃーバリスタード様ー!」」
と、いろんな人たちに、あちらこちらでバリスタードは追い掛け回されていた。
くっ、これでは、セルディア様の監視がっ!
あまりにも大活躍だったバリスタードは街で一躍英雄となり、あっちでも見かけられたら人が集まるという自体になった。
このままでは、またセルディア様がこの混乱に乗じて逃げ出してしまう、などと言うことはあるだろうか?
うむ、にしても大衆が邪魔である。
こんなはずではなかった。




