うっかりじゃねーよ!
その日の夜、ベルが寝入った後、アイクは一人研究室にこもっていた。
レグルスの要望を受け、冒険者用の魔道具を作成するためだった。
(宮廷にいた頃は残業まみれだったな)
クビになってからは残業をすることなどなかったので新鮮な感覚だった。
残業することの懐かしさを感じつつも作業を進めていく。
今作っているのは『ポーション』、『マジックリング』、『マジックネックレス』、『杖』、『強化グローブ』などだ。効果をざっくり言うと『ポーション』は体力回復、『マジックリング』、『マジックネックレス』、『強化グローブ』は能力上昇、『杖』は魔法の威力が上がるみたいな感じだ。
冒険者の間ではこれらの魔道具が人気であり、ほぼ必須となっている。
(これでお客さんが増えてくれるといいんだけどな)
…明日、店がどうなっているかをこの時のアイクはまだ知らなかった。
次の日の開店直後、 なぜかわからないが、店は冒険者でいっぱいだった。
「やべえ! この『ポーション』マジで安い! レグルスさんの言ってた通りだぜ」
「おい、こっちには『マジックリング』まであるぞ! しかも効果が三つ? イカれてやがる…」
ベルを見ると今にも倒れそうな感じだった。目の前の光景に呆然としつつも入り口近くに目をやると、レグルスがこちらを見てにやにやしている。
…あの顔は絶対に何かやらかしている。
レグルスが近づいてきた時を見計らって、アイクは声をかける。
「レグルスさん、何をしたんですか?」
「いや~。実は昨日、あの後酒場で飲んでたんだよ。そしたら酔った勢いで他の奴らに魔法剣のこと話しちまってよ。まあ、うっかりってやつだ。でもここまでとは思わなかったぜ」
うっかりじゃねーよ! と心の中で叫びつつ現実でも叫ぶ。
「うっかりじゃねーよ!」
「いや~すまんすまん。こんなに来るとは思わなかったんだよ」
…「ついうっかり」ですむ話ではないだろう。このうっかりチンピラのせいで店が冒険者まみれになってしまったのだ。まあ利益が増えるという点で見ればいいかもしれないが…。
それにしてもこの報いはしっかりと受けさせる必要があるだろう。仕返しはどうしようかと悩んでいると、冒険者らしきお姉さんから声をかけられた。
「あのー店員さん。この魔法剣に属性が二つ付与されているって本当ですか」
「はい本当です。なんならこっちのやつは三つ付与されていておすすめですよ」
「いやいややばすぎでしょ。属性三つ付与とかどこの伝説の武器よ…」
あまりにオーバーな反応にアイクは首をかしげる。伝説の武器はいくらなんでも言いすぎだろう。この人は『魔法剣』を見るのが初めてなのだろうか。
(これくらい普通だと思うんだけどな)
「やろうと思えば五つくらいまでなら付与できるので、つけてほしかったら言ってくださいね」
「いっいっ五つ?さすがに冗談でしょう…」
「いやいや、冗談じゃなくて本当ですよ。まあただ別料金にはなりますけど」
話しかけていたお姉さんは唖然としていた。
隣を見るとレグルスもドン引きしていた。
「おいおいおい。二つでも珍しいのに三つどころか五つまでできる?兄ちゃん、そりゃやべえよ! 」
「ヤバいんですか? 」
「やばい。間違いなくやばい。国が動くレベルだぞ」
「国が動くレベル? 冗談ですよね? 」
「冗談なわけねえだろ」
隣を見ると冒険者のお姉さんも首を上下にブンブン動かしていた。ということは…
「…マジで? 」
「マジで。大マジだよ」
どうやら本当にヤバいらしかった。しかも国が動くレベル。
つまりこれがバレたら再び宮廷魔道具師として働かされるかもしれないのだ。
それだけはなんとしてでも避けなければならない。
しばらくは属性の付与数を多くても二つくらいにしておくべきだろう。
「そういうことでしたらしばらくは属性付与数二つ以下のものだけ売ることにします」
「二つでも十分やべえけどな。だからこんなに冒険者が集まってるんだよ」
「でもそれは間違いなくレグルスさんのせいですよね? 」
「えーと…? 」
その後なんやかんやあり、この日は一日中レグルスを働かせた。
閉店の頃にはアイク、レグルス、ベルの三人とも死にかけだった。
なおその日、店は過去最高の売り上げを記録した。
短くなってしまい申し訳ありません。
本編で出てきた魔道具のまとめをこの後投稿する予定です。




